究極のJKドリフト   作:肉ぶっかけわかめうどん

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キリキリ吐かせる

 暗い顔をして施設から出てきた池谷を見て、拓海は確信した。やはり二人は上手くいかないらしい。

 

 はっきり言って、自分が知っているのは池谷と真子は結ばれなかったという最終的な結果だけであり、何がどうしてそうなったのかは何も知らない。当人は何も語らなかったし、周囲もわざわざ古傷を抉ってまで話を求めるような事はしなかった。

 べた惚れしていた池谷の側に彼女を振る理由などない以上、真子の側から振ったものだと思っていたが、プールから上がった後もご機嫌なまま、彼と何を話していたのかと沙雪に揶揄われていた真子がそんな事をするとはとても思えなかった。

 

(何かすれ違いがおきてる?)

 

 いくら池谷が彼女を想っていたとしても、真子の側にその気がないのでは関係は成立しえない。だから拓海はこの後池谷がどうなるか知っていても口を挟む気は無かった。バトルに関してだけは自分の問題だが、その先は二人しか入れない領域だった。

 しかしその前提が間違っているのであれば話は違う。ただ単に双方に誤解があるだけなら、誰かがそれを解いてあげれば上手くいくのかもしれない。

 

(……上手くいくかは分からないけど、まあやるだけやってみようか)

 

 破局に終わった池谷はこの後何年もこの後悔を引き擦り続けるのだ。

 『藤原拓海』が日本を離れイギリスに移って以後の事は分からないが、何年どころか何十年も抱えたままでいたかもしれない。さすがに一生ではないと信じたいが。

 

(まずは、何があったのか聞きださないと)

 

 話を聞きに行こうと足を向けた矢先、健二が池谷の背に近寄っていくのが見えた。

 不自然に暗い池谷の様子に気付いたらしき健二が声をかけるも、彼の返事は素っ気ない。

 

「どうしたんだよ池谷、さっきからなんかブルーだぞ?」

「……ちょっと騒ぎすぎて疲れてるだけだよ。気にしないでくれ」

「そうか……?」

「池谷先輩、健二先輩、お待たせしましたー!」

 

 さすがに引っかかりを覚えるのか健二は怪訝そうな顔つきになるも、帰り支度を終えて戻ってきたイツキに声を掛けられ意識がそちらに向いてしまう。

 そしてその間に池谷はさっさと車に乗り込んでしまった。

 

(……駄目だなこれ)

 

 耳を澄ませてそのやり取りを聞き取った拓海は足を止める。

 同性にして一番の親友と言える健二相手でこれなら、年下の異性の立場で聞き出せるとは思えない。気持ちが落ち着くまである程度時間が必要だろうが、それを待っていたらタイムアップだ。

 

(ならあっちに聞くしかないか)

 

 拓海は足先を真子達の方へ向ける。逆にあちらであれば同性の仲、事情を話せば話を聞かせてもらえるかもしれない。

 

 

 

 

 沙雪は今、非常にご機嫌だった。真子と池谷の進展が順調に進んでいる事は真子の様子を見れば明らかで、峠以外の夜遊びなどまるで知らぬ彼女のために、デートに使えそうな付近の夜景スポットやホテルのリストアップ、施設の利用方法を軽くレクチャーするなどせっせと世話を焼いてやった甲斐もあるというものだ。

 男性側が何かプランを用意してくれているのならそちらに任せるべき、とは言ったが、池谷浩一郎という男を今日一日観察してみた限り、紳士的で情熱的で蠱惑的なエスコートを要求するのは酷に感じる。おそらく、自分の用意したサンプルプランほぼそのままで推移するだろう。

 もっとも、仮に池谷がその方面に心配の無い遊び慣れてそうな男だったとして、相棒を預ける気になれたかどうかは別の問題である。

 

 これまで何をするにも自分頼りだった真子が離れていってしまうのは少し寂しくもあるが、これが成長なのだとジュース片手に太陽に向かう。そんな黄昏れごっこに水を差したのは真子の成長に大きく寄与した恩義のある相手、藤原拓海であった。

 

「池谷先輩の様子が変ですよ」

「変?」

 

 少し離れたところにいたはずの男連中に目を向けようとするが、既にそこに車はない。

 

「なんであんなに暗い顔をしてるのか気になるので、何を話してたのか聞いてみたいんです」

「暗い顔ねぇ……」

 

 真子のお誘いが上手くいかなかったのなら、真子がもっと暗い顔をしているハズだ。上手くいったならばその逆である。結果がどちらであったにせよ二人の間に温度差があるのはおかしい。

 実は池谷は真子と結ばれるのが嫌だった、という大穴が思い浮かぶが、すぐに打ち消す。嫌い、あるいは遊び相手以上には見ていない相手と本心を隠してにこやかに談笑できる器用な男とはとても思えない。

 相手にどこまで気があるか、それなりに遊んできた経験が告げている。少なくともプールサイドにいた時点まではその気があった。だが、その後に何かあったのだ。

 

「うーん」

 

 他人に想い人との会話を根掘り葉掘り聞かれて愉快になれる人物などそうはいないだろう。沙雪としても真子が自分から話すというなら聞くが、嫌がる相手に無理強いして不興など買いたくないし、他人がそれをしようとしているのならもちろん止めに入る。

 しかし沙雪から見て、拓海が嘘をついていたり、興味本位で踏み込もうとしているようには見えない。自分に真子、そして池谷の三人からの信用を損ねて得るものが他人の惚気話だけでは割に合わない。実際に彼女から見た池谷の様子はおかしかったのだろう。

 沙雪としても、真子の気持ちが届いて幸せになってくれるならそれは大変喜ばしいことだ。そのために一苦労背負ってくれと言う頼みなら断る理由はない。

 

「……分かった。聞いてみよっか」

 

 言うが早いか、車を取りに行こうとしていた真子を沙雪は捕まえ、どこでそんなノウハウを覚えたのか手早く彼女を物陰まで連れ込むのであった。

 

「真子、ちょっと話があるんだけど」

 

 

 

「……うんうん、だいたい話は分かった」

 

 困惑する真子を急かし吐き出させた沙雪は、聞いている間胸の前で組んでいた両腕を解くと、そのまま 

真子の頭頂部にチョップとして叩き付けた。

 

「いたっ!」

「まったく、とんでもないことするわ真子は。男と会ってるときは他の男の話をしないなんて男遊びの常識じゃない。それに何よこれ」

 

 沙雪は真子のバックに入っていたパスケースを開き、そこに収められていた高橋涼介の写真を突き付ける。

 

「捨てろとは言わないけど、せめて家に置きっぱにしなさいよ。誤解を招くようなものを持ち歩かない!」

「……ごめん」

「それは私じゃなくて向こうに言う」

 

 パスケースをたたんでバックに入れ直した沙雪は、一歩離れた位置で聞いていた拓海に尋ねる。

 

「それで、この後どうする?」

「そうですね……」

 

 拓海もこの後どうすべきか考えてみる。

 プールの後二人がどう動くつもりだったのか知れたのは大きい。このまま何も知らなければ真子は予定通り八時に峠の釜めし屋とやらに行って池谷を待っていただろう。二人が会えてさえいれば誤解もおのずと解けたに違いない。

 

(つまり、池谷先輩は待ち合わせには現れなかったって事か……)

 

 そう推測できるのなら、待ち合わせを継続する意味はない。来ない相手をいつまでも待っていても仕方ないのでこちらから行く必要がある。

 

「今晩会うのは難しいかもしれませんね。明日なら仕事中のところを捕まえられるから明日にしますか?」

「それが一番確実そうかな。日をずらしてもう一回待ち合わせか。まず君に行ってもらって、もう一回話し合う場が欲しいって真子が言ってるって伝えてもらおうかな」

「あの……」

 

 それまで静かにしていた真子が手を挙げた。

 

「私が池谷さんに電話かけます。私が悪いんですから、藤原さんじゃなくて私が直接行かないと……電話でまず謝って、それから改めて会いに行きたい」

 

「あ、そういや真子って向こうの電話番号知ってたよね。じゃあ直接掛けてみて、出てくれればそれでよし、出なければ真子が直接行って捕まえるって方向で。渋川のガソスタだったよね?」

「それでいいです。場所は大丈夫ですか?」

「大丈夫。地図ぐらい読めるって」

 

 その後互いの連絡先を交換し、真子の方でうまく池谷を捕まえられなければ拓海が動くという事で決定しその日は解散となった。

 

 

 

 

 午後七時半。

 ガソリンスタンドの来客も一段落し、片付けもそこそこに椅子に座り込んだ店長の祐一の耳に聞き慣れたエンジン音が響いてきた。

給油スペースでなく店の隅に停まったシルビアから降りてきた池谷に、祐一は疲れ混じりの気さくな声をかけた。

 

「池谷じゃないか。どうしたこんな時間に」

「どうもっす、店長。すんませんでした、今日は無理言って」

 

池谷、イツキ、拓海は三人ともここで働いている。従業員三人が同時に休みを求めるというのは店を運営する立場としてはあまり歓迎できる話ではない。しかし、難色は示しつつもそれでも祐一はそれを許可した。

 

「まあ良いって事よ。たまにならな」

 

 結果として、人手が足りない分は店長自らの働きで埋め合わせる事になった。

 明日か明後日の筋肉痛に怯えながらクタクタの体を椅子に沈める己が容易に想像できていたが、若い衆なんだからたまには仕事よりプライベート優先もよかろう、と。

 

「それで、どうなんだ。あの真子ちゃんって娘とは上手くいきそうか?」

 

 これで彼の恋路に光が見えたなら、肥え衰えた中年ボディを酷使した甲斐もあるというものである。

 

「それが……」

 

 しかし、池谷の声にはどうにも嬉しそうな色が無い。

明らかに無理して作ったものとわかる笑みを顔に張り付けながら、今日の出来事をぼそぼそと語り始める声に、祐一はしばし聞きに徹した。

 

 

 

そして聞き終えた祐一は、いつしか作り笑いを浮かべる事も忘れて俯く池谷に、聞いている間ずっと胸中で温めていた言葉を贈った。

 

「バッカ野郎!」

 

 突然の大声に驚いて固まる池谷に、堰を切られて溢れ出す言いたかった言葉の数々を叩き付ける。

 

「お前何にも分かってねーな。真子ちゃんは今でも高橋涼介が好きだとか、前に付き合ってたとかはっきり言ったのか?」

「い、いや……」

「お前だって、テレビや雑誌の中のタレントに憧れた事ぐらい一度くらいあるだろう。それと同じだよ」

「は、はあ……」

「頭冷やして考えてみろ池谷。真子ちゃんは高橋涼介じゃなくて、お前を選んだからこそそんな話だって打ち明けてくれたんじゃないのか。彼女に信用されていながら、そこでお前が包容力の一つも見せられんでどうするんだ、わかんねーのか!」

「……!」

「わかったなら急いで待ち合わせに行け。時間は何時だ?」

「それが……八時なんです」

 

祐一は腕時計を覗き込んだ。

 

「八時って……今がその八時じゃねーか!」

 

 時計の針はもうすぐで8の字を指すところまで来ている。

 

「もう無理っすよ、ここからじゃ飛ばしたって一時間はかかりますし……」

「んな事行ってみなきゃ分かんないだろうが、いいから行け、ぶっ飛ばせ!」

「……っ!」

 

何も言わずシートに飛び乗り、夜の街中には相応しくない爆音を奏でて飛び出していった池谷のシルビアのランプの明かりを見ながら、祐一はため息を一つつく。

 

「偉そうに言ったものの、多分無理だろうな……」

 

それもまた青春か、と祐一は呟き、店じまいの続きをすべく道路に背を向けた。

 

 

 その後池谷は警察に睨まれない範囲で精一杯急ぎ、道中で事故の様子を見かけて、もう少し出るのが遅かったらここで渋滞に捕まっていたなと胸をなでおろしたりしながら釜めし屋にたどり着くも、当然そこに真子はおらず。

 失意のまま無人の駐車場に小一時間座り込んだ後深夜に帰宅、不在時に彼女から電話があったことを家族に告げられるのである。

 

 

 

 

「……はい、こちら藤原とうふ店。ああ、沙雪さんですか」

「真子、ダメだったって。かけたけど居ないみたい」

「そうですか。じゃあ明日、四時以降に来てもらえれば」

「四時ね、了解……ありがとね、君がいなかったら真子、今頃悲しんでたかも」

「いえ、私は」

「いいって、どんなつもりでも。大事なのは結果だからね。じゃあ、お休み」

 

 

 

 

 

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