究極のJKドリフト   作:肉ぶっかけわかめうどん

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交流戦開幕直前

 煌々と蛍光灯が灯る夜中のガソリンスタンドの事務所で、店長を務める立花祐一は今日一日の収支を帳簿にまとめていた。

 

「あの、店長……」

「おお、池谷。お疲れさん。施錠はしとくから上がっていいぞ」

 

 店の前に続々とスピードスターズの車両が集まってきている。自身が元走り屋ということもあり、祐一は車好きの若者には特に優しい。こうして店をたまり場に使うことも、営業の邪魔にならない範囲であれば許しているぐらいには。

 これから走りに行くのかと思い先に帰らせてやろうとしたが、池谷はそこを動かない。

 

「店長、お疲れのところすいませんが、ちょっと話を聞いてもらえませんか」

 

 何やら険しい顔をした池谷に切り出され、祐一は手を停めて池谷と向かい合う形でソファーに座る。

 内容については祐一には何となく予想はついていた。この店の前の道路を秋名山の方角へぞろぞろと走り抜ける車の群れを祐一も目撃しており、彼らと何かひと悶着あったのだろうと。

 

 池谷は昨日の事を語った。赤城レッドサンズの襲来、一週間後の交流戦、イツキが友達といって呼び寄せたハチロクに乗る女の子、そして彼女の速さ。

 

 話を聞き終えた祐一は、煙草に火をつけると窓の向こうに見える山々に目をやる。

 

「なるほどな……昔から、赤城には上手いやつがたくさんいたよ。秋名とは何がそんなに違うんだろうな」

 

 吐き出された紫煙が輪を描いて天井へ上る。

 

「それにしても……あいつの口ぶりからして相当ハイレベルなんだと予想してたが、赤城の連中が相手にならないほどとは。拓海ちゃん、スゲぇもんだな」

「店長、知ってるんですか?」

「知ってるさ。前にも話したことあるだろ、昔の走り屋仲間の文太の事は。あいつの娘だよ。3年くらい前だったかな、ここに来たこともあるんだぜ」

 

 3年前のとある日、祐一が一人で閉店の為の片付けをしていた時、見慣れたハチロクがのこのことやってきた。

 いつもいつも閉店時間になってから来やがって、とたまには嫌味の一つも言ってやろうかと車に近づいたら、そこに乗っていたのは見慣れた細目の中年オヤジではなく、どう見ても免許持ってる年齢ではない少女だった。

 

「その場で文太に電話かけたよ。中学生に何やらせてんだ事故ったらどうする、って言ったら文太のやつ、事故るわけねーだろお前よりは上手いわ、とかぬかしやがったよ」

 

 明日のガソリン無かったの今頃思い出したから行かせただけだ、今忙しいから切るぞと通話を打ち切られた文太に代わり本人に話を聞けば、もうずいぶん前から乗ってるとの事。

 

「中学一年からずっと、豆腐の配達の為に毎日欠かさず、とはいかんがそれでも数えきれないぐらい秋名山を往復してるんだとよ。つまり池谷たちよりキャリアはずっと長いし、速いのもそれが一番の理由だろうな」

 

 オレが知ってるのはこれぐらいだ、と言い煙草をもう一息吸うと、残りを灰皿に押し付け火を消す。

 

「その高橋兄弟とやらの実力は知らんが、秋名であの親子の右に出れる走り屋は知らんぞ……文太は人に頼まれて走るようなヤツじゃないし、拓海ちゃんに代表を頼むのがいいと思うぞ」

 

 池谷は一度強く奥歯をかみしめる。

 

「……長年走りこんでる上に、その親父さんにも色々教えてもらってるんでしょう。それならあの速さにも説明はつきます」

 

 池谷はソファーから立ち上がると、後ろで話を聞いていたメンバー達へと振り返る。

 

「なあ皆、やっぱり……下りの代表、頼むべきだと思うか」

 

 メンバー達は無言のまま顔を見合わせる。その反応だけでも答えとしては十分だった。

 

「わかった。下りをやってもらえるよう、頼んでみる。上りはオレがやる。いいな、健二」

「ちょ、ちょっと待てよ。チームの車で一番パワーあるのはオレの180SXだぜ。上りはてっきりオレでもう確定かと……」

 

 健二が異を唱える。別に立候補したいわけではないが、ただでさえ勝ち目が薄いにも関わらず、なぜパワーの劣る車で挑むのかは気になるところだった。

 

「別に健二じゃ駄目だというつもりじゃなくて、ただオレがやりたいだけだ。下りを他人にやってもらうんだ、せめて登りはリーダーのオレがやらなきゃダメだろ……当日も登りを先にしてもらって、まずオレが死ぬ気で攻める。いざって時に先頭きってみせる度胸もないんじゃ、リーダー失格だぜ」

「池谷……」

 

 健二が池谷の肩に手を置いた。

 

「気持ちはわかるけど、無茶はすんなよ。走らないオレが言うのもなんだけどさ」

 

 健二は他のチームメンバーをひとりづつ見回す。

 

「年下の女の子にぜんぶ丸投げして、大の男どもは指くわえて見てるだけ。地元のくせに情けねえって思う気持ちは俺達にだってあるんだぜ」

 

 かといって戦ったところで勝ち目はない。僅差ならば格好も付くだろうが結果はどう考えても惨敗。

 地元が逃げるのは論外である。

 

「でも、どうせ情けない結果にしかならないなら、もういっそ開き直るしかねぇよ。フリー走行でオレ達は下手な走りで笑われて、池谷も登りで惨敗して笑われて……今回はぐっとこらえて、次こんな機会があった時のために、これからレベルアップしていくしかないよ」

「健二……そうだな、その通りだ。誰だって、最初からスゲー走りができるわけじゃない。これから上達すればいいんだ」

 

 池谷の顔から険しさがやや消えた。

 その彼の手に、破られたメモ帳のページが祐一から手渡される。

 

「ほれ、これが伝説の豆腐屋への道のりだ。くれぐれもオレの名前は出すなよ。オレが教えたと知られたら、また飲み代たかられちまうからな」

 

 

 

 月曜日。この日は拓海たちの高校の期末試験初日の日でもあった。

 拓海としてはまあまあの手ごたえであった。上位に入れる程ではない、が平均点を上回れるぐらいにはあるだろう。

 何か言いたげにするものの、結局話しかけてこないイツキを放置し、さっさと下校しようと靴を履き替えていた時、拓海の肩を何者かが叩いた。

 

「やっほー、拓海ちゃん」

「藤原さん、今帰り?」

 

 振り返れば、別のクラスに属する茂木なつきが眩しいばかりの笑顔で立っていた。彼女の友人の白石も一緒にいる。

 茶髪にやや細められた眉に短めのスカート……今どきの若い子、遊んでそうといった表現をよくされる茂木と、真っ黒のおさげ髪に眼鏡、規定通りの制服と真面目を絵に描いたような白石。二人は見た目こそ両極端だが意外とウマは合うらしくよく行動を共にしている。

 

「私は今日はあんまりだったなー。たくちゃんは今日のテストどうだった?」

「まあまあかな。白石は?」

「今日は割と自信あるかな。藤原さん英語得意だったよね。今日いまいち自信無かった問題があるんだけど……」

 

 ちなみに拓海は己ではそこまで英語が得意だとは思っていない。いくら約三年間の英国暮らしの記憶があるとはいえ、日常会話としての英語と教科書的な英語では細かい部分が色々と違う。基本的な部分は問題ないが、ひねった問題を持ってこられると苦労する程度である。

 

「そうだ、拓海ちゃん。テスト終わったら皆で遊びに行こうよ」

 

 正面を向いていた茂木がくるりと拓海の側を向き、短めのスカートが動きに合わせてふわりと浮かぶ。周囲の男子の目線がいくつか向いたが、そんな事は気にも留めない。

 

「拓海ちゃん車の免許持ってたよね。じゃあ海にしようよ。拓海ちゃん水着持ってる?」

「いや、そういうとこ行く予定もないし……」

「じゃあ買いに行こ。拓海ちゃん身長高くてスタイル良いから水着きっと似合うよ。なつきもおニューの欲しかったし。あんまり予算無いけど……」

 

 勝手にどんどん話を進めている茂木の言葉に、引っかかる部分を感じた拓海が白石に小声で尋ねる。

 

「茂木ってカネ持ってるの?」

「……いえ、最近は金欠みたいよ」

 

 一言だけで聞きたい内容を察してくれたらしい白石が、素朴に微笑みをうかべる。

 

「バイトしたり、家事を手伝ったり、ダメオヤジとの付き合いやめたり。藤原さんのおかげよ」

「なんで私が出てくる」

「去年の今頃、なつきの“彼氏”を殴ったことあるでしょう。あのあたりからよ。なつきが良い方向に少しずつ変わりだしたの」

「……茂木の為じゃない」

「それでもよ」

 

 こっちは関わらないようにしてたのに、向こうから近寄ってくる勘違い野郎に思わず手が出てしまっただけ。この一件に茂木は関係ない。

 

「土曜日授業終わったら、三人で買い物行こうね。そして日曜は海だよ……二人とも聞いてる?」

「聞いてる。土曜日ね」

「約束だよ。なつき約束破る人は嫌いだからね!」

 

 

 

 帰宅した拓海が玄関を開けると、カウンター奥の椅子に腰かけた文太が麦茶をちびちび啜っているところだった。

 

「おい拓海、お前に客が来てたぞ」

「客?」

「池谷とかいうやつが、週末にやるバトルに助っ人として来てくれ、と頼みに来た。行くのか?」 

「……うん、行く」

「そうか。赤城最速だか何だか知らんが、まあ軽くひねってこい」

 

 文太は空になった湯飲みを置くと、煙草を取り出して火をつけた。

 

 

 

「そうそう、父さん。日曜、車借りてもいい?」

「日曜……まあ、いいぞ。乗ってけ」

「ありがとう」

 

 拓海が二階に去るのを待って、文太はため込んだ煙を一斉に吐き出す。

 

(日曜か……まあ、祐一を足にすればいいか。オレの店教えたのあいつしか考えられんしな)

 

 

 

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