有り得ざる世界の有り得ざる恋   作:ゆくゆく

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有り得ざる世界の有り得た恋

 

 「……っ……くぁっ……っしゃあ!!……え?」

 

 画面の中では彼の操るアロワナがボスを倒し……第3形態に変化したボスにやられていた。でも、私の目に映るのはコロコロと表情を変える彼の姿。私の心を埋め尽くし、でも私の気持ちに全く気づいてくれない彼……陽務楽郎。

 

 

 最初はなんとも思ってなかった。いや、むしろ迷惑にすら思っていた。サンラクの名を使ってるとシャンフロの中でめっちゃ絡まれるんだよ……

 

 でも、初めて彼と出会って、話して、人柄を知って、そんなありふれたプロセスの中で私はどんどん彼に惹かれていった。噂じゃあ、情報を秘匿していて全然口を割らない偏屈野郎だの、連れ歩いているNPCにバニーガールの格好をさせて自分も半裸で過ごしている変態だとか言われてたけど実際はそんなこともなかった。……半裸は半裸だったけど。気さくで話しやすく、趣味も合う。まさかシャンフロみたいな神ゲーで危牧やら幕末やらフェアクソやらをやってる人に出会うとは思わなかった。

 

 いつからだっけか、彼に恋をしているって気づいたのは。授業を受けている時も、ゲームをしている時も、いつも頭の片隅で彼のことを考えていた。もっと彼に会いたい、話したい。そんな思いが後から後から溢れて自分じゃどうしようもなくなって…………ああ、そうだ。友人に言われたんだっけ。フェアカスやラブクロックじゃあ相手の機嫌を読んで最適な行動をとるのなんて必須技能だったのにリアルじゃ自分の気持ち一つ分からないなんてね。

 

 一度自分の気持ちに気づいてしまったらあとはもう早かった。クソゲーをネタにリアルで会う約束を取り付け、あとは告白するだけ!そう思っていた。……ただなぁ……こんなにも好きって伝えるのが難しいなんて思わなかった。ゲームの中じゃあロールプレイの一環で何度も囁いてきた愛の言葉。それが陽務楽郎(ホントに好きな人)を前にしただけで口も動かせなくなるんだから。

 

 でももうそんなこと言ってられない。クソゲーをネタに今まで会っていたのだ。それ(アロワナ)がクリアされてしまえば会わなくなる可能性は十分にある。そんなの嫌だ!

 

 

 

  …………だから私は今日、彼に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 楽羽氏と初めてリアルで会った時から何回かの集まりを経ていよいよ本日、俺たちはアロワナをクリア寸前というところまで来ていた。

 

 「……っ……くぁっ……っしゃあ!!……え?」

 

 見事俺の操るアロワナがラスボスたる兄弟アロワナを打倒したかと思ったら変身して画面全体攻撃を仕掛けてきやがった。何言ってるんだって?俺が言いてぇわ、クソが!!

 

 「っ……はぁああああああああぁぁぁ…………」

 

 「うわぁ……何今の初見殺し。いや、でもすごいよ、楽郎くん!私第2形態クリア出来なかったもん!」

 

 楽羽氏が慰めてくれるが……違うんだよ、俺が今求めてるのは慰めの言葉ではない。この燃え上がる怒りを落ち着かせるにはあのクソアロワナをぶっ殺す以外の方法はねぇ!

 

 「ちくしょう、楽羽氏!もう一回だぁ!!」

 

 「はいはーい、あ……ここ(第1形態)からなのか……頑張ってね、楽郎くん」

 

 第3形態まであるならラスボス戦中にセーブさせろや!

 

 

   〜挑戦中〜

 

 「…………オラァ!……よしよしよし……もう来るな、もう来るなよ……?…………しゃオラァ!()より優れたアロワナ()なんていねえんだよォ!」

 

 第3形態でついに魚型であることを捨てた兄弟アロワナ。一度の攻撃で画面の半分を覆う弾幕をしかけてきたアイツのことは忘れることは無いだろう……

 

 無数の初見殺し、覚えゲーのくせに何故かランダム配置になる即死トラップ、変態機動のボス達……そんな理不尽ゲーはもう終わった。俺はついにこの苦節の日々に終止符を打ったのだ……!

 

 「やったぞ、楽羽氏ィ!!」

 

 「うん、すごいよ楽郎くん!!」

 

 楽羽氏とハイタッチを交わす……うん、今までのクソゲーを一人でクリアした時の快感もたまらないがこうして誰かと一緒にクリアの喜びを分かち合うっていうのも乙なもんだな。

 

 「……あ」

 

 ……?楽羽氏がなんかフリズったな。そんなにアロワナをクリアしたのが嬉しいのだろうか。

 

 「おーい、楽羽氏ー?」

 

 「……っは!だ、大丈夫です!」

 

 ……なんで敬語?まあいいや。楽羽氏の門限的にもちょうどいいし今日はこの辺で解散かな。くくく、今日はいい夢が見れそうだ。

 

 「んじゃそろそろ帰るか。楽羽氏も門限あるだろ?」

 

 「あ、うん……」

 

 何かを名残惜しむように、手を上げかけては下ろしを繰り返す楽羽氏。ホントに今日はどうしたんだ?やたらと様子がおかしいけど。

 

 「楽羽氏?大丈夫か?どこか調子でも悪いんじゃ……」

 

 「あ、ううん!そんなことないない!全然大丈夫!」

 

 大丈夫に見えないんだよなぁ……なんか俺したか?外道共相手ならともかく楽羽氏相手にそんな嫌われるようなことをした覚えはないんだが……?

 

 「ら、楽郎くん!!」

 

 うお、急になんだなんだ。

 

 「なんだ、楽羽氏。どうしたんだ?」

 

 「あ、えと、その……わ、私……ら、楽郎くんのことが……す、すす、すすすすす……」

 

 「す?」

 

 す……酢?ひょっとして今朝食った寿司の酢飯の香りが残ってたか?気づかなかったな、それは。

 

 「……す、好き!です!!私と付き合ってください!!」

 

 ……へ?楽羽氏が俺のことが好き?え、クソゲーフレンドとしてということ?…………そう聞こうとしたがやめた。俺を見つめる楽羽氏の顔は真剣そのもので下手にからかえないような顔をしていたからだ。

 

 楽羽氏のことをどう思うか、か。正直に言えば嫌いではない。むしろ好ましいとも言えるだろう。クソゲーにも深い理解を持ち、話していて非常に楽しく、一緒にいても次に会うことのことを考えてしまうくらいには…………なんだ、俺楽羽氏のこと好きじゃん。

 

 「あー、楽羽氏。その、なんだ、俺はクソゲーばっかやってるし性格だってそんな褒められたもんじゃない。ただそれでもいいってんなら……」

 

 俺と付き合って欲しい。

 

 ゲームの中では散々言えた歯の浮くようなセリフの一つも思い浮かばずにただただ自分の感情を素直に伝える言葉。そんな俺の言葉に対する楽羽氏の返答は……

 

 ……満開の笑顔と嬉し涙だった。




楽羽ちゃんはもちろん楽郎がベースにあるので友人の前とかだともっと砕けた話し方をするんでしょうが、想い人の前では一人の恋する乙女になるのかなぁって思いました。
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