ありふれない防人の剣客旅 作:大和万歳
明日の投稿は現在未定です。間に合えば、投稿出来ると思いますが、もしかすれば明後日になるかもしれません。
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五日。
既に『オルクス大迷宮』で起きた死闘と喪失より五日が経っていた。
あの後、一行は一度ホルアドにて一泊し早朝には高速馬車に乗って王国へと帰還していた。クラスメイトが目の前で死んだという光景を見た以上到底そのまま迷宮で実戦訓練などしていられるものではなく、そして如何に『無能』というレッテルが貼られている人間だとしても勇者の仲間が死んだ以上、国王や教会に報告しないわけにもいかなかった。
そして、厳しい話であるが王国としてもこんな所で折れては困るのだ。戦えなくなるといった致命的な障害が生まれる前に勇者一行の心のケアが必要であると判断したメルド団長を責めることは誰もできないだろう。
王国に帰還してから、生徒らはおおよそ三種類に分かれていた。
一つは天之河や坂上龍太郎の様なこれ以上仲間を失う訳にはいかない、あんな無様を二度と晒してなるものかと訓練に一層身を入れる者ら。
一つはやる事が無くてだがしかし、ずっと動かないというのも嫌で惰性に訓練に参加する者ら。
そして、クラスメイトの死より立ち直れない者ら。
空はその中で一つ目の天之河らのように訓練へと身を入れていた側だった。いや、その様は決して訓練などとは言えなかった。天之河らなどどうでもいいと言わんばかりに騎士団員などといった戦闘のプロや王都外の魔物などを相手に貪欲に自らをより強く、強くする為に戦い戦って、しかし同時に訓練を終えればしっかりと休息の時間を入れる、武の一辺倒ではいけないと言わんばかりに王都の図書館へと足を向けるなど様々な知識を溜め込むように動いていた。
正しく、あればあるほどいい、と言うように。
空がハジメと親友とはいかずともそれなりに友人の様な関係であった、と知っている八重樫も空をオーバーワークだ、と止めることは出来なかった。
どれほど、厳しい訓練を行おうとも空はしっかりと止め際を理解し休息も取っていた以上、オーバーワークと言う事は出来なかったからだ。そんな友人の様を八重樫はなんとも言えぬ表情で見て、そしてあの日からずっと眠り続けている親友が目を覚ますのを待つばかりであった。
そんな中で、誰しもが決してハジメの事を話題に出すことはなかった。当たり前の話だろう。
だって、南雲ハジメを死に追いやったのがクラスメイトの誰かが放ってしまった流れ弾なのだから。クラスメイトらは皆自分がどの魔法を放ったのかは覚えていた、覚えていたがしかしあの嵐が如く魔法が飛び交っている最中でましてや集中している中、どうしてハジメに誤爆した魔法がどんな魔法だったかが分かるものか。分かる人間はもしかしたら、というモノが脳裏を過ぎり分からない振りをするばかり。
誰しもがもしかしたら、自分の魔法だったかもしれない、と思うと話題になど出せるはずがない。だって、自分が人殺しになってしまうかもしれないから。その結果、現実逃避の様にアレはハジメが自分から何かをしようとしてドジったせいだ、と思う様にしていた。無闇矢鱈に犯人探しをして大きな不和が生まれ、自分たちの心が壊れてしまうよりもハジメの自業自得という事にしておけば誰も悩まない、誰も不幸にならない、そんな風に数名を除いてクラスの意見は誰も話し合うこと無く一致していた。
そんな中、メルド団長は責任者としてあの時の経緯を明らかにする為に事情聴取をするべきと考えていた。彼は経験からアレが単なる誤爆であるとは考えられなかった。
過失であるならば、なおさら白黒つけるべきであるしそうする事で不安を少しでも取り除き、心のケアをよりよくすべきだと、その方が生徒らの為になると確信していたし、何よりもハジメに対して助けると言っておきながら救えなかった。その事実がメルド団長の心を痛めていた。だがしかし、それを差し止めた人間が現れてしまった。
イシュタルと国王だ。要するに勇者の仲間が仲間を陥れた、手にかけたというのは外聞が悪いのだろう。さしものメルド団長も国王より止められればどうしようもなかった。
「と、まぁ、香織ちゃんの為とか言って自己弁護してたよ」
「だろうな。明確に自分が悪いと考えずに誰かに責任転嫁する辺り小悪党極まりない」
王都外にある魔物が住まう森の中、幹を両断されてちょうど良い椅子代わりになった木に腰掛けながらサンドイッチに舌鼓を打つ中村恵里と丸太を削って作った木刀と言うにはあまりに太く大きな木刀で素振りをする風鳴空の姿があった。
彼らが話題にしているのは今クラスメイトの誰もが話題にしない南雲ハジメ殺しの犯人について。
五日前の時点で犯人に目星を付けていた空は、同じくなんとなく犯人を察していた恵里がしっかりと耳にして且つ録音した事で証拠を手に入れた恵里から聞かされて目星が正解であった、とため息をつく。
「それで、どうするの?南雲くんと友達だったんでしょ?」
「友達、か。さてな、周りからすれば友人という括りではあったんだろうが俺や南雲が互いを友人と見ていたか、は分からない」
「自分の事じゃないの?」
「だからこそ、だ。そもそも俺の家庭事情を考えろ……世間一般の友人というものがいまいち俺には分からない」
虐待を受けていた過去がある中村も中村だが、明確な友達を作れるような環境ではなかった───空自身の性格上の問題も大いにある───為に世間一般の友人が分からない、運命もいらないボッチはそう言いながら、犯人に対する考えを話していく。
こうして王都に戻り状況を見て、より一層目的は固まっている。
「当たり前だが。糾弾したところで天之河が口を出してなあなあになるのは間違いない。ましてやアレは自分にとっての御都合主義を持ち出す……なら、小悪党は真っ先に天之河を味方につけるだろうな」
「あー、うん。なんとなくわかるかも」
頭の中で、わざとじゃなかった、偶然そうなったんだ、と叫ぶ犯人を信じて擁護し始める天之河の姿が思い浮かび、恵里は空の言葉に納得する。
そして、何よりも人一人殺したという罪に問うたとしても教会は決して裁きはしないだろう。したとしても軽い罰で終わる。
そう今回の一件に対する王国と教会の反応から考える空はどのような報いを与えるかを考えていく。
せいぜいボロボロに利用し尽くした後に魔物の餌とするぐらいしか考えつかないが……
「それはまだ後でいい」
どうせ、まだまだ先だ。報復の案は一度置いておき、素振りを終えて近くの丸太に腰掛け木刀を隣に立てかける。
そうすれば、恵里はサンドイッチが詰められた籠を空へと差し出して、空はその中から一つ無造作にとってかぶりつく。かぶりついた際に反対側から軽く溢れた卵の黄身を指で拭ってそれを舐め取るというなんとも行儀の悪い事をしているがそれを咎める者はいない。
むしろ、それを見て恵里は微笑みながら、水筒に口をつける。
「とにもかくにも、今必要なのは強くなることだけだ。で、それはそうとまだ目が覚めないのか?」
「うん。まあ、ショックだよね……目の前であんなことがあったら」
「そうか」
そうして話題に挙げたのはあの日からずっと眠り続けているクラスメイトの話。
白崎香織はあの日、目の前で南雲ハジメが奈落へと消えた時、普段の穏やかさなど見る影も無いと言わんばかりに必死の形相でハジメを追いかける為なのか飛び出そうとして八重樫や天之河に止められ、その後それでもなお奈落へ行こうと暴れ最終的にメルド団長にその意識を刈られたらしい。らしいというのは、そもそもその時間違いなく空は心が折れかけ、エンリルとの話し合いがあった為、気をしっかりと保ち周囲を見れる頃には既に白崎香織は気絶していた後だったからだ。
そして、王都に戻ってからというもの白崎香織はずっと彼女に宛てがわれた部屋で眠り続けている。
医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。
時が経てば、と言いはしたがその時とは果たしてあと幾許だろうか。
「一日、一週間、十日、いやそれとも一ヶ月、一年……もしかすればもう目を覚まさないかもしれんな」
「そうだね……」
「心配か?」
「……それは、勿論。友達、だし」
そう呟く恵里の顔は何処と無くぎこちなく、気恥ずかしそうに薄く頬を染めていた。
そんな彼女の表情を見て、空はフッと笑う。よくもまあ、猫被りな少女が絆されたものだ、と。そういう空の考えを察したのかまるで拗ねた様に籠を抱えてサンドイッチをパクつく恵里。その反応にやはり笑いそうになり、そして立ち上がり真剣な表情を向ける。
「それで、一応確認したい。出来るか?」
「んん、駄目。多分、僕の降霊をやるなら彼処に、オルクス大迷宮に行かなきゃいけないと思う。流石にここらじゃあ距離がありすぎるよ」
「そうか。……しかし、オルクス大迷宮へと赴けばいけるとは、なんともはや」
「ふふ、もしも帰った後でも使えたら役立つでしょ?」
そう言いながら妖しい笑みを浮かべる彼女に空は肩を竦めながら答える。
「確かに『縛魂』しかり、お前の術は役立つだろうよ。だが流石に俺としては……」
普通の人生を歩む方が幸福だろう。
そんな言葉が空の喉までせり上がったがしかし、空はその言葉を呑み込んだ。
人の幸せなどその人次第でしかない。自分が彼女の幸せに口を出す事はしてはいけない、と。言葉を呑み込んだ空は代わりにため息を漏らしてから、そろそろ切り上げるか、と恵里に告げて脱いでいた上着を羽織り、丸太の横に寝かせていた長剣を拾い上げて、そしてついでにサンドイッチが入っていた籠の蓋を閉じて恵里の腕から拐い取る。
「あ」
「そろそろ、ここらの魔物も駄目だ。もっと遠くへ……いや、まずはオルクス大迷宮か」
「流石にすぐには無理だと思うけど……それに他の子達がまだ立ち直れないでしょ?」
森の出口へと歩いていく空を追い越しながら恵里は空の目的に水を差す。
歩く速度を恵里に合わせながら、それもそうか、と空は呟きながら、ではどうするか、と代替案を考えるべく思考を巡らしていく。
既に自由に動ける範囲───王都周辺───に潜む魔物は粗方相手にし、尽くを斬り捨ててきた。
では、魔物以外に何と戦えばいいのか。真っ先に浮かび上がり実際に既に取りかかっているものとして挙げられるのは騎士団員たちだ。メルド・ロギンス率いるハイリヒ王国騎士団。彼らは正しく戦場で経験を積んできた、魔物と人間どちらともの戦闘経験を持つ者たち。彼ら相手に戦うのは間違いなく経験になる。ましてや酸いも甘いも分かっているだろう。一時の師であった緒川家の当主より紹介された八重樫の道場で忍術を習得した門下生や師範代らとの鍛錬を思えば、小綺麗な剣よりもなんでもありのが好ましい。
だがしかし、残念かな、元々の下地とこちら側に来た際の上乗せが相まって既に上位の騎士団員でなければ相手にならない。弱者だから興味が無い、などとは空は死んだとしても考える事はなく、そしてそんな弱者は強者を打ち倒す事があるのだ、と知っている。故に彼らの強者に勝つための術を手に入れるべく何度か戦うがしかし物足りない。
ならば、相手は自ずと絞られていく。
自分と同等かそれ以上の実力者。
ステータスの面で言うなら、メルド団長か天之河。少し型落ちするが坂上龍太郎や八重樫が挙げられるがしかし、空の中で天之河との戦いは避けたいものだった。
仲間だから?違う。
そもそも天之河には空は卑怯者という認識がある。
八重樫道場で剣道をしていた際に付けられたレッテルであるがそれも下段という周りとは違うスタイルを取っているのがフェアではない、という理由からだ。
そんな相手と実戦形式の訓練などしてみたら、どうなるかわかったものではない。
例えば、鍔迫り合っている最中に脚を出す。
例えば、大仰な動きで意識を逸らしてすぐ様無駄を削いだ速度で懐に入り込む。
例えば、相手の弱点を突く。
そんな行為に天之河が噛みつかない筈がない。他者にフェアを求める癖に自分はフェアにならない相手をわざわざ構うほど空は暇ではないし、何よりそんな事で他のクラスメイトに悪影響を与えるのは望ましくなかった。
だから、一番求めるのは騎士団長との実戦形式の訓練。だが、ハジメの死により彼も忙しいのだろう中々機会は訪れない。
故に早く早く、と風鳴空はオルクス大迷宮を望むのだ。
その日、王都へと戻った二人は白崎香織が意識を取り戻したという報告を聞き、大迷宮へと再び足を運ぶ日は近い、と確信した。
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