ありふれない防人の剣客旅 作:大和万歳
何とか、執筆出来ました。
オリジナル部分ですとやはり執筆に時間がかかってしまいますね。
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白崎香織が目を覚ました。
その報告は心が沈んでいたクラスメイト全体に一時の安堵をもたらし、ついでにハイリヒ王国の王子もそれに歓喜した。
それも思い返せば二日前の話。
安静をとって訓練に参加が出来なかった白崎香織は訓練施設へと足を運び訓練施設の端で五日間眠っていたせいで凝り固まった身体を解すために白崎香織、八重樫と同じく天之河のパーティーに参加している『結界師』の天職を持つ少女・谷口鈴と恵里に柔軟体操などを手伝ってもらっていた。
そんな彼女の復活は嬉しいものであったのかもしれないが同時に第二の起爆剤でもあった。不安の要因の一つであった白崎香織が目を覚まし次第に落ち着きを取り戻した事で、ふと誰かから再燃したのだ。あの日の原因を。
つまりはオルクス大迷宮で起きたあの大事件、そもそもそうなってしまったことについての言及だ。
ハジメを殺した犯人についての話題を挙げることは出来ないが、どうしてあんな事が起きてしまったのかについてはとっくのとうに犯人が割れていた。
クラスメイトの一人が言ったのだ、あんな事が起きたのはそもそもトラップを発動させた奴が悪い、と。それを皮切りに始まるのは不用意に罠であるグランツ鉱石へと触れた馬鹿、つまりは檜山大介へと罵詈雑言非難が雨霰のように降り注いだ。だがしかし、どうやら小悪党檜山大介はそれをしっかりと予想していたのか、唯ひたすら土下座で謝罪する事に徹した。
こういう時に反論する事が下策以外のなにものでもないと知っていたからだ。そして、その謝罪のタイミングと場所を選ぶのも檜山は心得ていた。天之河の目の前での土下座だ。
天之河の性格上、目の前で土下座までされれば許さざるを得ないと知っていた為に檜山は土下座という恥辱を選び、結果としてそれを赦した天之河の取り成しと白崎香織も涙ながらの謝罪に特段責めるような事はしなかった。そういった理由から非難は止むこととなった。正しく檜山の計算ずくであるがその魂胆を理解していた八重樫と空からすれば嫌悪感しか感じられなかった。
だがしかし、この状況下で何を言っても無駄であると両名はしっかりとわかっていたということもあり、面倒を避けるために二人は何も言うことはなかった────
が、ストレスは溜まるものだ。
「ハアァァァッ!!」
何とも百合百合しい光景の眼福極まる白崎らとは真逆、施設の中央で激しく剣戟が響き渡る。
八重樫と空の模擬戦は、果敢に攻めつつも的確に空の隙を作らせ狙おうとするしっかりと考えられた八重樫、そして放たれる斬撃を長剣の腹や刃で確実に防ぎつつ僅かな隙へと致命な一撃を放ち確実に八重樫を削っていく空。
片や意気軒昂に剣を振るい、片や黙々と着実に剣を振るう。
「ここッ!」
「いや、こうだ」
鍔迫り合いから、空が距離を取るために一度下がると同時に前へと踏み込むことで鍔迫り合いより構え直す瞬間の僅かな隙を狙っての突きを八重樫は放つがしかし、空は素早く片手を離し持ち替えてから突きを長剣で防ぎ、そのままもう一度片手を離して八重樫の剣の峰を掴み引き寄せる。
八重樫の持つ剣が片刃のそれであるから出来るその行動に八重樫は一瞬、目を見開くがすぐにそのまま空との距離を詰める。武器を取られることも無くそのまま空の懐へと潜り込んだ八重樫は空の鳩尾へと蹴りを放つ。
「疾ッ!」
それを空は八重樫の剣を手放しながら寸での所でその場から跳び退く事で回避し、すぐさま長剣を構え直す。空から視線を外さずに八重樫は手放し残された自分の剣を拾い上げて構え警戒する。
そうして、しばし睨み合い、周囲の見学しているクラスメイトらも緊張で唾を飲み込む。そして───先に動いたのは空だった。
長剣というリーチを活かした大振りの一撃。右側からの袈裟斬りを八重樫は素早く剣で受け止め、弾き空の左肩へ剣を振るう。それを空は素早く長剣を動かし逆に空が八重樫の剣を弾く。
男女の筋力差は間違いなく八重樫の手から剣を弾き飛ばしかねないものであるが、ステータス上の筋力の差はそこまでのものでは無い。八重樫はその勢いを利用して剣を下げつつ、軽やかに鋭く速い連続斬りを放ち空へと切り込んでいく。他のクラスメイトであれば、手が回らなくなるその幾多の剣撃を空は確実に最低限の動きで防いでいき、最後の一撃を僅かに下がる事でちょうどいい距離を確保した空はその一撃に合わせるように長剣を振るって真っ向からぶつけて────
「あ」
そのまま八重樫の手から抜け、斜め後方へと弾かれ飛んだ剣。
それを認識して八重樫は真剣な表情から一点、緊張が切れたように息を吐いて力を抜いた。そして、空もまた息を吐きつつ長剣の木刀を下げる。
「はぁ、私の負けね」
「八重樫は速いが、やはり筋力がな」
「そうね。もう少し鍛えようかしら……」
弾かれた木刀を回収しながら、話す二人に白崎が水筒を手渡しながら話に入ってくる。
「もう、雫ちゃんも女の子なんだよ?筋力筋力って」
「いや、でも、強くなるのは悪いことじゃないし」
「いざとなれば殴ってでも止めないといけない手のかかる弟がいるからな、仕方ないだろう」
「そうね」
と、白崎の言葉をバッサリと切り捨てて話に挙げた、何人かの騎士団員たちや坂上龍太郎と共に王都外の魔物との訓練へと出ている誰かさんを三人は脳裏に思い浮かばせ、白崎はあははとぎこちなく笑い、八重樫は額に手を当て軽くため息をつき、空は八重樫の苦労に同情の視線を向ける。
白崎から受け取った水筒に口をつけながら、この後どうするかを空は考えていく。
このまま、もう一戦を八重樫と行うという選択もある。
しかし、それはあくまで八重樫が了承すればという前提があり、何よりも。
「そろそろ、光輝たちも帰ってくる頃ね」
「ああ」
もう少しもすれば天之河らが訓練施設に帰ってくる頃合いであるからだ。本来の王都外の魔物相手の訓練は半日ほどなのだが、先の件もあり午前中に出て六時間もすれば帰ってくるというものになった。
この時間制限もあくまで騎士団員達とともに行う訓練故の制限であるため、空の様に自主的に外で魔物相手にやる分には制限などない。
さて、天之河が帰還する以上、八重樫との模擬戦は間違いなく水を差されることとなるのはお互い、目に見えていた。
と、なれば。
「では、俺はこれからメルド団長に会いに行く」
「そう、それじゃあ私はこのままここで鍛錬を続けてるわ」
そう軽く話してから、空は自分が使用した木刀を片付けてからメルド団長に会うために訓練施設を後にした。
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既に夜も更け、いつも通り一人部屋で空は思考を回していく。
白崎が目を覚まし、二日。
あの日からもう一週間ほどが経ち、少しずつクラスメイトらの落ち込んでいた士気も少しずつ戻ってきた。しかし、士気を取り戻したからといってまたすぐに大迷宮へと挑戦できるわけではない。
むしろ、落ち着きを取り戻したが故の弊害も存在していた。落ち着きを取り戻したために改めてクラスメイトの死が多くのクラスメイトの心に深く重い影を落としたのだ。戦いの果ての死、それを強く実感した彼らは一部を除いてまともに戦闘などできなくなった。いわゆる、トラウマというやつである。
そんな状況に教会は良い顔などするわけもなく、いずれ慣れるだろうと戦線への復帰を促してくる。現状はメルド団長が矢面に立つことでそれらを生徒らに直接いかないようにしているが、それも時間の問題だろう。
ちなみにだが、生徒らのメンタルに問題が生じている中、真っ先にそれをケアすべき立場の教師である畑山先生はいったいなにをしているのかと言えば、白崎よろしく寝込んでいる。
というのも、畑山先生はハジメの死亡を伝えられあまりのショックで寝込んでしまった。自分が天職上の理由で安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったという事実に、全員を日本に、地球に連れ帰ることが出来なかったということに、責任感の強い彼女はショックを受けてしまったのだ。白崎同様、すぐに目を覚ますと診断され少なくとも彼女が目覚めるまで生徒の心のケアをしっかりと行える人間はいない。
『と、なれば。大迷宮挑戦はまだまだ先になるだろうな』
「仕方ない話でしょう。ところでここ数日、黙っていたようでしたが……」
そんな中、自分の内からエンリルの声が響いた。
久しぶりのエンリルの声だ。王都へと戻ってからというもの、エンリルは一言も喋ることなく空からの呼びかけにも応えることなく沈黙を保っていた。
故にこうして話すのはやはり、一週間ぶりとなるが……。
『ん、ああ。少しな、集中していた』
「集中ですか」
『そうだ。この世界で俺がどの程度干渉出来るのか、聖遺物がどの程度動くのか、とまあ、要するにこの世界のルールを把握する為にな』
「……それで、何か分かりましたか」
干渉だの聖遺物だの、と決して流す事の出来ない文言が出てきたがそれに対して詳しく聞くことはせず、ただ成果だけを空は聞くことにした。
そもそも聖遺物など、妹のような歌女でもない空にとっては励起させることも出来ない。
一応、空も聖遺物を所有している。だが、あくまで所有しているだけであり、なにより首から下げている十字、いや剣のペンダントは確かに聖遺物という分類であっても所詮はFG式回天特機装束としてアメノハバキリを加工した際に生じた余分な部分。聖遺物として反応すらしないようなガラクタゴミクズ同然の破片を譲り受けてそれを技術主任にペンダント状に繋ぎ合わせてもらっただけ。
アメノハバキリに適合していた妹の歌ですらうんともすんとも言わない聖遺物とは言えないモノに何も期待していない。空がペンダントに期待しているのは剣として防人る妹と同じアメノハバキリに妹の無事を祈る程度のモノでしかない。
『まあ、聖遺物など歌女がいない以上どうしようもない。そもそもこの世界に聖遺物などないから特に意味もない徒労だった。それで俺の干渉だがお前という器を支配しているわけではないからな、せいぜい出来ることなどお前と会話するか、お前に何か物事を教える程度だろう』
「左様ですか」
ならば、何も無い。
エンリルの意味が無いという事がわかった。という旨の成果に空は納得する。何か隠しているのだろうとは察したが少なくともそれが悪意故の隠し立てでは無い事は空も理解出来た。
だからこそ、何も言わない。
『それで、何かそっちはあったか?白崎香織が目覚めたのは耳にしたが』
「現状、やはりまだ大迷宮遠征再開は先かと」
『そうか……と、なれば……やはり、ふむ。バラルの呪詛の対象外である点を利用して…………オリハルコンの完全起動による……シェム・ハを弑逆する為の稼働実験の必要性を考えれば。プロトタイプ同様に錬金術による底上げも図るべき……いや、空の性質を鑑みれば』
何やら考察を始め独り言を漏らしていくエンリルに空は目を瞑り、自分も思考に耽っていく。
それは八重樫との模擬戦後に会ったメルド団長との会話。
より、経験を求めた空はメルド団長との模擬戦などを望んでいたが流石にこの状況下ではメルド団長の時間を無闇矢鱈に取るのも無理だと判断した空へメルド団長が薦めたのは『冒険者』。
大迷宮遠征再開の目処が立たない中、より良い経験を積むためならば魔物と戦う先達などから技術などを盗むのが良いだろう、と考えたメルド団長による提案。
間違いなく天之河が求めても提案しなかっただろう冒険者を空に提案したのは偏にしっかりと退くべきモノを見極められ特段、問題を起こさないだろうと考えた為だ。
確かに冒険者という職業、未知のそれに対する好奇心、そしてそれに伴うであろう経験、それらを踏まえた上で空はどうするかを考えていた。
その提案を受けるのも何も問題はない。
「純粋に受けるかどうか、慎重になっているわけか」
恐らくはそのまま受けるのだろう、と考え思考をエンリルへと向けるがしかし考察に耽っているのだろう、こちら側に戻らないエンリルにため息をつきながら空は眠りについた。
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感想でありましたが、月もとい観測ベース『マルドゥーク』が存在しないトータスにはバラルの呪詛がなく、そんな場所にシンフォギア世界の人類が20人近くいる事でシェム・ハさんが甦るかもしれない状況ですが。
一先ず、前提として、
・月によるジャマーの有無
・肉体側の呪詛の有無
の二点を前提として、後はそもそもシェム・ハの腕輪がないという状況から、基本的に召喚された彼らは原罪を除去された訳ではない為、ジャマーの影響は以前としてある(そもそも上位世界の呪詛を下位世界に移動した程度で逃れれるとは思えない)、つまりシェム・ハさんの依代が無い。
今のところシェム・ハさんは降臨しない。
穴しかありませんが、そう思っていただければ.......そもそも約1名シェム・ハさんの断章すらないのですが