ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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第十三刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 先手となったのは天之河だった。

 

 

「万翔羽ばたき 天へと至れ 『天翔閃』!」

 

 

 曲線状の光の斬撃が、轟音を響かせながらベヒモスへと直撃する。嘗ては『天翔閃』の上位技である『神威』ですら掠り傷さえ付けることが出来なかった。だがしかし、今はどうだ。

 悲鳴を上げ、地面を削りながら後退するベヒモスの胸にはくっきりと斜めの剣線が走り、赤黒い血を滴らせていた。

 ならば────刹那、後方より焔が走る。

 指示を飛ばしていく天之河へと仕返しとばかりに突撃しようとしていたベヒモスの眼前に現れるのは両刃剣に焔を纏わせながら突貫する真剣。

 ベヒモスの左前脚を足場に頭上へと躍り出て、真剣は焔を纏わせた両刃剣による一閃を放つ。先の天之河の『天翔閃』と違い超至近距離から直接叩き込まれたソレはベヒモスの背中を深々と切り裂き抉る。そうして、すぐさま空はベヒモスの頭上より離脱して、天之河の指示通り重吾らと合流する。

 

 騎士団員を引き連れたメルド団長が右サイドへと陣取り、檜山ら小悪党四人組がベヒモスの背後へ、そして空や重吾らは左サイドへと陣取る事でベヒモスを包囲する。

 暴れるベヒモスを前衛組が押さえ込み、後衛組の魔法準備を邪魔させない。

 

 

「グルゥアアア!!」

 

「させるかっ!」

 

「行かせん!」

 

 

 ベヒモスが苛立ちながら踏み込み、地面を次々と粉砕しながら突進を始めるがしかし、クラスの二大巨漢である坂上龍太郎と重吾がスクラムを組むようにベヒモスへと組み付き、

 

 

「「猛り地を割る力をここに! 『剛力』!」」

 

 

 身体能力、とりわけ膂力を強化する魔法を用いて地を滑りながらもベヒモスの突進を受け止めていく。三者三様の雄叫びが迸り力を振り絞っていく。

 しかし、まだ完全には止まらない。ならば、と動くのは遠藤。

 『暗殺者』の天職による敏捷の高さを利用しながら素早く移動し数本の短剣をベヒモスの影へと投げ放つ。それによりベヒモスの動きが僅かに停止した。

 その隙を逃すわけがない。

 既に双刃を地面に突き立て長剣の鞘と柄に手をかけた空と八重樫が跳び出し────

 

 

「「全てを切り裂く至上の一閃 『絶断』!」」

 

 

 二人の抜刀術がベヒモスの双角へと叩き込まれる。魔法によるブーストをかけた斬撃。八重樫の瑠璃色の魔力を纏ったソレはベヒモスの角に半ばまで食い込むものの切断するには至らない。

 しかし、空の放った斬撃は容易く角を切り落とし、そのまま返しの刃で八重樫が切断出来なかった角も切り裂く。

 

 

「っ!空!」

 

「一度離れるぞ」

 

 

 八重樫が手を貸した空に声をかけようとするが、すぐさま空が八重樫を抱えてベヒモスの近くから離れる。そして、その判断が間違っていなかったことを教えるように次の瞬間、ベヒモスは角を二本も切り落とされた衝撃で影縫いも解けたのか渾身の力を込めて大暴れしベヒモスを押さえ込んでいた坂上龍太郎と重吾を吹き飛ばした。

 二人は地面に叩きつけられそうになるが、それよりも先に

 

 

「優しき光は全てを抱く 『光輪』!」

 

 

 白崎が行使した、光の魔法によって発生した光の輪が無数に合わさって出来た網が二人を優しく包みこんで衝撃を殺した。そして、間髪入れずに白崎は自らのアーティファクトである白い長杖に自身の魔力である白菫の魔力光を灯しながら回復系呪文を唱える。

 

 

「天恵よ 遍く子らに癒しを 〝回天〟」

 

 

 中級光系回復魔法によって、坂上龍太郎と重吾の身体が同時に癒されていく。それを余所に着地した空は八重樫を降ろして[剣質強化]を刀身に施していく。

 その間に天之河が未だ暴れるベヒモスへと突進し、最初の『天翔閃』によって付けられた傷口に聖剣の切っ先を叩き込んで魔法を発動する。

 

 

「『光爆』!」

 

 

 聖剣に蓄えられた魔力が炸裂し、大爆発を起こす。傷口を抉られて大量の出血をしながらもベヒモスは目の前にいる技後硬直中の天之河へと鋭い爪を振るう。

 

 

「ぐぅうう!!」

 

 

 呻き声を上げて吹き飛ばされる天之河。それとすれ違う様に空が鋼の魔力光を斬撃としてベヒモスの傷口へと更なる追撃を放ち、ベヒモスを大きく仰け反らせ既にアイコンタクトを飛ばしていた重吾が双刃を空へと投げ渡す。

 素早く長剣を鞘に納め、双刃を受け取り焔を纏わせる。

 その様は正しく、先の焔輪の一閃であるがしかし、その刀身に纏った焔は赤ではなく青い焔。青い焔を纏った双刃を使い翼のように飛翔した空が、勢いそのままベヒモスの双角が切り落とされた兜へと刃を叩き込み、破壊する。

 

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

 

 

 双角だけでなく、兜すら破壊されたベヒモスは今まで以上の悲鳴を上げる。まさかの事態にベヒモスは激痛に身を悶えさせその場で頭を振り回し暴れ回る。

 そして悲鳴と何ら変わらないような咆哮を上げながらベヒモスはその場より跳躍する。

 嘗ての戦いでそれを見た事がある面々はそれがベヒモスの固有魔法を行使する時の動きであると理解し、身構え、次の瞬間ベヒモスの頭部は激しい爆発を起こしてそのまま地面へと落下した。

 それに皆、一瞬目を見開く。

 固有魔法と思ったのに何故か爆発してただ落下したのだから。爆発はベヒモスも予期していなかったのか断続的に悲鳴が聴こえ、痛みに悶えているようだ。

 すぐにその理由が理解出来た。当たり前だろう、そもそもベヒモスの固有魔法はその双角を赤熱化するというもの。その熱量は当たり前だが膨大で、そんな熱を集める場所が兜諸共破壊されていれば.......どうなるかなど火を見るよりも明らかだろう。

 

 

「今だ!行くぞ!」

 

 

 そんな隙を逃すはずも無く、前衛組が次々とベヒモスへと殺到していき叩き込んでいく。

 痛みを紛らわせるようにベヒモスは時折暴れるが、その動きは今までのモノに比べればあまりに緩慢であり、前衛組はヒットアンドアウェイで翻弄していき、遂に後衛の詠唱が完了した。

 

 

「下がって!」

 

 

 後衛の恵里から合図が出る。それに反応し、天之河らは渾身の一撃をベヒモスへと放ちながらその反動を利用してその場から一気に距離をとる。

 直後、炎系上級攻撃魔法が放たれた。

 

 

「「「「「『炎天』」」」」」

 

 

 術者五人による上級魔法。

 超高音の炎が球体となって、太陽が如く周囲一帯を焼き尽くした。ベヒモスの直上で発生した『炎天』は一瞬で直径八メートルに膨らんでベヒモスへと落下する。

 それにより絶大な熱量がベヒモスを襲うが、あまりの威力に味方にまでダメージが迫りそうになり、慌てて谷口が結界を張っていく。

 ベヒモスは結界を張れるわけでもなく、そのまま『炎天』によってその堅固な外殻が融解していき、再び絶叫が響き渡る。

 

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

 

 

 断末魔に鼓膜が破れそうになるが段々と叫びが少しずつ細くなり、やがてその叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていき、後には黒ずんだ広間の壁とベヒモスだったであろう僅かな残骸ばかりがのこった。

 

 

「か、勝ったのか?」

 

「勝ったんだろ……」

 

「勝っちまったよ……」

 

「マジか?」

 

「マジで?」

 

 

 皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く中、空は長剣を鞘に戻して双刃を腰にしまい直す。

 聖剣を掲げ勝鬨を上げている天之河らへと視線を向ければ、男子らは互いに肩を叩き合い、女子らはお互いに抱き合って喜びを露わにしており、メルド団長らも感慨深そうにしていて、空はその光景に肩を竦めてから一人混ざれていなかった遠藤の肩を軽く叩いておく。気づいてもらえたことに遠藤は光射すように段々と喜びを広げ感極まり抱きつこうとするが空はそれを避け、遠藤はそのまま顔面から地面に飛び込み沈んだ。その様をやはり、誰にも見られないという哀れな遠藤。

 

 

「…………」

 

 

 視線を遠藤からベヒモスだったものへと移す。

 “炎天”でただの炭の塊の様なモノとなったベヒモス、嘗ての戦いの際に空はベヒモスの相手をメルド団長へと任せ、パニックになっていたクラスメイトを優先しトラウムソルジャーの群れへと向かった。

 あの時はベヒモス相手に何もしなかった。

 そして、気がつけば南雲ハジメは奈落へ消えた。

 

 

「………不甲斐ないな」

 

 

 それらを思い返しながら、空はため息を着く。

 

 

 

「これで、南雲も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

 

 

 と、そんな声が空の耳に入ってきた。

 声の元へ視線を向ければそこにいるのは案の定、天之河。

 心に影がさしたような曖昧な表情を見せる八重樫と白崎、そしてそれに気付かずに感慨にふけった表情の天之河に気がつけば手が鞘へと伸びていた。

 どうやら、天之河の中ではハジメを奈落へと落としたのはベヒモスだけらしい。確かに間違いというわけではない、橋を壊したのはベヒモスなのだから。

 だが正確には撤退中のハジメへと檜山が魔法を撃ち込んだ事が原因だ。無論、それを知っているのは檜山本人とそれを盗み聞いた恵里と伝えられた空だけであり、誰もその時の話をしないようにしているが事実は無くなることは無い。

 既に天之河の中ではその事実が消えているのか、考えないようにしているのかベヒモスを倒せばハジメが浮かばれると考えているようだ。白崎は気にしないようにしているだけで忘れることは出来ない。犯人が分からないから耐えられているだけで、もしも犯人が分かってしまえば耐えれず責め立ててしまうのは間違いない。だからこそ、その事実を無かったことにしている天之河に対してショックを受けていた。

 八重樫も思わず文句を言おうとしたが、天之河には悪意がなかった。ハジメの事も白崎の事も思っての発言であるから、そして周囲には喜びに沸くクラスメイトらがいるのもあって何も言えない。この状況であの時の話をするほど八重樫は空気が読めないわけじゃない。

 

 

「カッオリ〜ン!」

 

 

 と、二人に微妙な空気が漂い始めて、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。

 その様子を見て、空は鞘にかけていた手を戻しながら完全に未知の領域である六十六層以降について思考を回して、一行は過去の悪夢を振り払い先へと進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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