ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 今回はやや短めなのと、もう一話更新予定です。





第十六刃

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 風鳴空。

 それは三百年前に逃してしまった器に代わる新たな器であった。

 人間族と魔人族を争わせ楽しんでいた折に今までとは違った変化を齎す為に、そして何よりまったくもって期待していなかったがもしかしたら、いるかもしれないと考えて地球より召喚した勇者たち。その中で目覚めた希少な存在。

 嬉しい意味でのイレギュラー。

 ソレは自分の手元にいる三百年振りの身体を想い笑っていた。魔法への才が三百年前に失った器に比べれば凡才の域を出ないがしかし、それでも器を手に入れた後に時間をかければ何も問題は無い。

 そう、神界にて一人クツクツと嗤うソレ───魂魄のみの存在として在り続けている神エヒトルジュエはどこまでもどこまでも嬉しげに。だって、そうだろう、三百年前に手に入る筈だった自分の器を失って、辛く哀しい時を過ごし人間族と魔人族という玩具でそこまで楽しくもない遊びを繰り返し、ちょっとしたスパイスを入れようと天秤を傾かせ、より一層の信仰心を集めようと思いつつ、もしかしたら器があるかもしれないと、砂漠の中から一つの小さな宝石を掬い上げるように、異世界から勇者たちを召喚してみたら自分の器が見つかったのだから。

 三百年前の器に比べれば確かに自分の得意分野への才は劣っている、劣っているがしかしそんなモノは自分という至高の存在が昇華魔法や変成魔法を用いればどうにでもなる。いや、むしろ、少し弱い所から育ててみるのも一興、と新しい楽しみが芽生えた。

 

 

 だから、忠実なる下僕である、勇者たちとは違う『真なる神の使徒』の一人を器の回収に向かわせた。

 周りに邪魔な者らがいて、誘いを断られはしたがしかし、夕食後に来るように約束させ怪しむ様子もなかった。

 何よりも、我、エヒトルジュエは寛大である。

 三百年に比べれば瞬きの間でしかない時間で、風鳴空としての最後の晩餐程度赦すのは当然だ。三百年振りの器にやや気が逸ったものの誤差でしかない、とエヒトルジュエは伺いを立てた使徒に許可した。

 もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ我の身体が手に入る────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『誰が渡すか』

 

 

 ハイリヒ王国王都より南西。

 既に夜空で月が笑っている時分、旅人も最寄りの街で休んでいるであろう中、夜道を駆け抜ける人影が一つ。

 その速度はおおよそ、人間が走っているものとは思えないモノだ。馬もかくやという速度で夜道を駆け抜けているのは風鳴空。

 忍者の健脚と技能の[加速]、そしてステータスの敏捷が高いのを利用してのソレはぐんぐんと王都より距離を引き離していく。

 いったいどうして、空が王都から一人走って離れていくのか、それには理由がある。

 

 簡潔に言えば、「身の危険と周囲の被害」という至極簡単なそれらが理由だ。

 それだけでは分からない者もいるだろう。詳しく説明するならば、数時間前の事だ。

 夕食を前に、エンリル曰く「神の人形」らしい女性に、大事な話があると言われながらも夕食後にその話を聞くと約束した空は夕食を終えて、言われた通りに聖堂へと赴いた───わけがなく、一人早々に部屋へと戻って冒険者業をして溜め込んだ金銭と武装、そして王宮の宝物庫より黙って持ってきたいくつかのアーティファクトを革袋へと詰め込んで窓から誰にも見つかることなく抜け出して王都を脱出した。

 昨晩の時点で王都を離れる準備自体は終えていた為、予想以上に時間をかけずに抜け出せた為に、呼び人である「神の人形」が逃げられた事に気がつく頃には既に王都にはおらず、ましてや何の遠慮もなく走っている以上追いつくのも困難だろう。

 

 

『だが、相手は神の人形だ。長距離移動手段があってもおかしくはない』

 

「空間転移、ですか」

 

『そうだ。どうせ、神と繋がっているならリソースは充分だろう。後は時間だがまあそれもリソースのゴリ押しでなんとかなる。と、なれば一番時間をかけるなら捕捉にか』

 

「つまり、暫くはこのまま、と」

 

 

 内のエンリルと会話しながら、空は駆けていく。

 さて、「神の人形」とその主が求めているのは[神の依代]である空の身体。もちろん、空もエンリルもそれに対して渡すわけもなく、ならば空の身体を手に入れる為に「神の人形」が強行手段に出るのは火を見るより明らか。そうなれば間違いなく周囲、クラスメイトへの被害は出るだろう。

 そうなるのは空も望むところではなく、そもそも戦うにしても「神の人形」の方が現段階では強い。アヌンナキ・エンリルが顕現するならば「神の人形」を殺してそのままエヒトを蹂躙するという手もあるがそれはエンリル、空共に避けるべきであると考えていた。

 勝ち目が無いなら逃げる、当たり前の結論に至り一先ず空は南西、グリューエン大砂漠にあるアンカジ公国を目指していた。

 

 

『いや、このまま走りっぱなしは問題だろう。そろそろ一度休息をとった方がいい。此方で偽装する』

 

「了解」

 

 

 しかし、流石に数時間走りっぱなしというのは問題であり、相手が何時追いついてもおかしくない状況であったとしてもスタミナが尽きた状態で対峙する危険性を鑑みれば、ここらで一度休息するのが最善であるとエンリルは判断し、空もその指示に従い少しずつ速度を落としていく。

 それに伴いエンリルによる偽装が行われていき、速度を落として軽く歩きながら心拍等を整え近場にあった木にもたれかかって腰を下ろす。

 そうして、外套の下から取り出すのは荷物袋───ハジメが後に使うアーティファクト“宝物庫”と同系統の代物である。形状は一般的な荷物袋であるし、しまうことの出来るモノの合計重量は五十キロ、耐久性はもちろんあるがそれでも多少の鎧より柔い、などと下位互換もいい所なアーティファクトであるが、“宝物庫”がおかしいだけで充分価値あるアーティファクトである───その口を開けて中から皮水筒を取り出し中の水を含んでいく。

 やはり、数時間走りっぱなしだった為か、水を飲むペースは速くもう既に皮水筒の半分程は飲み干していた。

 そうしながら、空は胸中で黙って王都を出た為に何も知らず明日の朝には騒ぎとなるだろうことを考えて、重吾らパーティーの面々と恵里や八重樫へと謝罪する。そして、余計な心配を畑山先生にかけるだろうことを思う。

 

 

「だが、あちらにあのままいたところで余計な面倒事が増えるのは間違いなかった」

 

『だろうな。人質にしてくる可能性もあった』

 

「流石にまだ、人質ごと敵を斬るつもりは無いので」

 

『……相も変わらず、覚悟が決まりすぎてて怖いが……いや、まあ、躊躇して掌で踊らされるよりかはマシか』

 

 

 暗に必要ならば例えクラスメイトを人質に取られたとしても、その人質ごと敵を斬り殺す。そう呟く空にエンリルは自分の末裔の覚悟の決まり具合に軽く頭痛を覚えながらも相手の思う壷にならないだけマシだと思って諦める。

 とにもかくにも、そういった不測の事態を無視して戦うにはまだ、実力が足りなかった。だからこそ、ある意味今回の一件は空にとってもエンリルにとっても渡りに船と言えた。

 これから、エンリルが居るとはいえ空は一人で戦っていかねばならないのだ。そうなれば、間違いなくより多くの経験が積めるはずだ。周囲に歩を合わせなくても良いのだと、空は心の片隅が湧きたっていた。

 だが、それに気づかずに空は皮水筒の蓋を閉じて、荷物袋へとしまいこみ何時でも抜刀出来るように長剣を肩に寄りかからせてから目を瞑る。

 

 

 

 

 

 もはや、目的は定まった。

 邪神と神の使徒を斬滅すべし。祖神が神命を下賜し、まずはその為の戦準備を─────目指すはグリューエン大火山、そこにある神代魔法。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 帝国から使者が訪問した翌日、本来ならばしばらく滞在し歓待されるのが常であるが、用事は済んだからさっさと帰国する、というフットワークの軽すぎる皇帝の判断により皇帝一行はハイリヒ王国を後にする事となった。

 それに対して天之河ら勇者一行はそんな皇帝一行を見送る事になり、昼頃に王都正門まで赴いたのだが、その中に風鳴空の姿はなかった。いなかったから、と言って特に何か起きた訳ではななく、早々に皇帝一行の見送りは終わったが、問題が起きたのはその後だ。

 解散といった頃合にふと、八重樫が友人の一人である辻に「空はどうしたの?」と聞き、それに対して辻は勿論、吉野や重吾らパーティーのメンバーにも誰一人昨晩の夕食から一度たりとも空の姿を見た者がいなかった。

 では、ずっとこの時間まで部屋で寝ているのか?と考えてもそれは無い、と全員が一蹴した。何せ、普段から誰よりも早くに起きているのだ。こういう日に限って寝坊などするわけがない。そんな中、遠藤がふと昨晩の夕食前の出来事を思い出すがしかし、それとこれが関係あるとは思えなかった為に口に出さず、他の面々も無意識に関係ないと思っているのだろう、やはり誰も話題に挙げず、いつの間にやら首を突っ込んできた天之河がサボったのだろうと決めつけ、檜山らがそうだろうと続いたが為に空が何処にいるのか、と言った話は一時終わった。

 

 

「どういう事?」

 

 

 しかし、それもその日の夕食の時間まで誰一人とて空の姿を見なかったのなら別だろう。

 部屋を覗いてみれば、武装は何処にもなく、空の専属であったメイドに聴いてみても、朝掃除に来た時から何も変わっていない、いや、それどころか昨晩寝ていたという痕跡もなかったという。

 八重樫や恵里、重吾らは訓練も兼ねて空が冒険者をやっているのを知っていた事もあり、何らかの依頼で居ないのかと考えて冒険者ギルドへと訪ねに行ったがしかし、返ってきたのはオルクス大迷宮へ行ってから一度も依頼は受けていない、という旨。そして、王都の守衛からも一度も空が王都の外へ出たのを見ていないという証言を得た。

 

 唐突な空の失踪。

 それは八重樫、恵里、パーティーメンバーだけでなく天之河ですら驚きを隠せなかった。

 天之河にとって風鳴空は卑怯な人間という印象が大前提であるがしかし、それでも風紀委員として悪事を取り締まるそのあり方には一定の信頼はあった。

 だから、天之河には空が逃げ出した、という考えに至ることは出来なかった。フェアな人間ではないが逃げるような人間ではない、と信じていた為に。

 探せども探せども最後の目撃情報は昨晩の夕食時まで。ならば、と、天之河は教会や国王へとメルド団長らを通して空の捜索を頼み、両方とも天之河の願いを聞き届けたが…………いったいどういう事か、空の捜索はものの数日で打ち切られ、勇者一行における二人目の脱落者として片付けられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────




エヒト「え」

エンリル・空「「勝てないのに戦う必要はないだろう」」

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