ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

17 / 41


 今回は二話更新です。
 今話は2話目ですので16話を読んでいない方は前の話を読んでから今話を読んでください。




第十七刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 教会及び王国によって形だけの捜索がされている頃、既に王国の国境を越えた所にまで移動していた空は悠々と荷台の中で休んでいた。

 何度かの短い休憩時間を挟んで早々にハイリヒ王国と目的地であるグリューエン大火山が存在するグリューエン大砂漠、それを領土としているアンカジ公国の国境付近まで進んだ空はエンリルの指示という名目の気遣いに甘え、国境付近の都市で休息を取っていたアンカジ公国へと向かうという商隊に相乗り───無論、乗車賃は前払いしてある。もちろんしっかり冒険者業で得た真っ当な路銀である───させて貰う形で今までの短い休憩では取れなかった疲れを回復していた。

 

 

「…………」

 

 

 駱駝が引っ張っている荷台、そこに張られた陽射しを遮る為の天幕の下から空は外をチラリと覗く。

 既に外に広がっているのは赤銅色に染まった大地と空、赤銅色一色の世界がだった。

 どうやら、砂自体がきめ細かいようで、常に吹いている軽い風に易々と舞い上げられた砂が大気を砂の色である赤銅色に染め上げているのだろう。外套のフードをやや深めに被りつつ砂が目に入らないようにしながら、視線を動かしていけば外には大小様々な砂丘が無数に存在しているのが見え、そして砂丘の表面は常に風で煽られては波打つように模様や形が変化していく。

 ここは『グリューエン大砂漠』。太陽が照りつけ、強烈な熱気を砂の大地が吐き出し続けており、如何に天幕で直射日光を避けているとはいえ、定期的に水を飲まねば熱中症に陥る事は目に見えている。

 その為、空は皮水筒に口をつけて水分を補給していく。

 旅の道としてはまごう事無く最悪の環境であるがしかし、商人たちのたゆまぬ努力が行路を作り上げ、少しでも少しでもその旅路を楽にしようとし、多少の苦難はあるもののこうして商隊が行き来する程に道は開拓されていた。

 

 

『それにしても鳥取砂丘と比べるとやはり、違うな』

 

「(先史文明は中東だったのでは)」

 

『いや、別にあれだぞ。砂漠がずっと昔から砂漠と思うなよ。というよりもだな空、大和に流れ着いて彼此数千年だぞ、砂漠よりも鳥取砂丘の方が見たことがあるに決まっているだろう』

 

 

 エンリルのなんともアレな血筋を感じる言葉を空は明確に否定せず、そのまま受け止めながら再び皮水筒に口をつける。

 既にキャラバンがグリューエン大砂漠へと入って三日目。現状、神の人形による襲撃といった事態は起きていない。

 聞けばこのままのペースで行けばもう二日もすればアンカジ公国へと到着するらしい。このまま、何事もなくこの行路を終わるのを待つ─────

 

 

「サンドワームだぁ!!」

 

「……わけにもいかない、か」

 

 

 外より響いた悲鳴混じりの叫びに空は荷台より飛び出し、素早く天幕の支柱を掴みながら荷台の側面から叫び声の方向へと視線を向ける。

 キャラバンの先頭側、その近くにある砂丘より何体もの巨大なミミズとしか言い表せぬ魔物が鎌首をもたげていた。名称はサンドワームという、このグリューエン大砂漠にのみ存在しているという魔物。

 察知が難しく奇襲に優れているそうで、このグリューエン大砂漠を横断する者には蛇蝎の如く嫌われている魔物らしい。ただ、魔物本人も察知能力が低い為、偶然サンドワームがいる近くを通らなければ襲われる事はないらしい。

 そんなサンドワームが四体、内三体は平均的な二十メートル程のモノだが明らかに一体だけ一回りほど胴回りが太いサンドワームが混じっている。恐らくあのサンドワームのリーダー格だろう。

 

 さて、もちろんこの商隊にはグリューエン大砂漠を横断する以上、冒険者の護衛はいる。いるがしかし、どうやら報酬をケチったのか、それとも純粋に人数が集まらなかったのか、護衛の冒険者は1パーティーしかいない。これでは、サンドワームに対処するのは難しい。

 

 

「仕方ない」

 

 

 後衛二人に前衛二人というよくある組み合わせのパーティーがサンドワームと対峙するが、サンドワームという魔物相手には数が少ない。当たり前だろう、相手は平均的でも二十メートルはあるのだ。それが三体、そして一体はそれらよりも巨大。

 故に空は一度、掴まっていた支柱の先端へと飛び乗りそれを足場にしてサンドワームへと軽々と跳躍する。

 

 空中で身を翻しながら、長剣を抜刀。

 サンドワームの中でもとりわけ大きいモノへと迫り、[加速]によって空中の砂を足場にするように加速したまま抜刀術の要領で長剣を振るう。

 刹那、あまりに太ましいサンドワームの胴を両断する。無論、斬り裂いた際に土に半ば埋まっていた方の部分を蹴り付けることで断面がキャラバン側へと向かないようにし、断面より吹き出た血で荷台や荷物が汚れないようにする。

 あまりに鮮やかな一撃に護衛の冒険者たちは惚けた様な視線を向けるが、彼らの傍らに着地した空が叫ぶ。

 

 

「魔物はまだいるぞ!」

 

「ッ!そ、そうだ!おい!」

 

「あ、ああ!!」

 

 

 空の言葉に我に返った前衛二人は剣とメイスを構え目の前のサンドワームへと走る。それを見て、すぐさま後衛の一人、恐らく魔術師だろう少女が詠唱を始め、弓術士がつがえた矢をサンドワームへと放ち始める。

 動きは決して初心者ではないが、どこかぎこちなさを感じるのは恐らく足場が原因だろう。

 きめ細やかな砂が広がるこの砂漠に慣れていないのか、前衛の剣士と神官戦士だろう二人はやや足元がおぼつかずサンドワームへと撃つ一撃一撃が本来の力を発揮出来ていない。そんな様子を見ながらも、空を脅威と感じた別のサンドワームが襲ってくるのを回避しすれ違いざまに胴へと長剣を刺し込みサンドワームの勢いを利用して斬り裂いていく。

 

 

「…………」

 

 

 そうして、二体目のサンドワームが裂かれた横腹から臓物を零しながら頭を砂に埋め死んだのを確認した空が視線をやれば、冒険者らが相手にしているサンドワームとは別の四体目は既に仲間の半分が死に、しかも片方が自分たちのリーダー格であったとなれば本能に従い逃げるのを優先したのか砂丘の向こう側へとその姿を消していた。

 視線を戻し、冒険者らへと向ければ魔術師が炎系の魔法を放ち、喰らいつこうとして大きく開けたサンドワームの口内へと叩き込んで大きく仰け反った隙に前衛が全力でメイスと剣を頭に叩き込んだ事で殺せたようだ。

 照りつける太陽と熱気を放つ砂、如何に外套などで対策していようともそんな中で戦闘などすれば息も上がり、疲労も常のそれではない。

 空は自分が乗っていた荷台の上に戻り荷物を手にして、ぐったりとしている四人の方へと足を運ぶ。

 

 

「はぁぁ……暑い……」

 

「心頭滅却……うぅ、神よ……これも試練ですか」

 

「確かに……きつい」

 

「アンタたちもだけど、私なんて魔法の近くだったから余計に熱かったんだけど」

 

 

 キャラバンはサンドワームに襲われた事で何か、被害が出ていないかの確認を行っているためこの場に留まっている。

 また、襲われない為に確認自体は急いで行われているが、彼らと話す時間はある。

 

 

「大変だったな」

 

 

 そう、声をかければ彼らのリーダーと思わしき、軽装の上に陽射し避けの外套を羽織った黒い髪のどこか気の弱そうな剣士の青年が真っ先に反応を返した。

 

 

「あ、そ、その、手を貸していただきありがとうございました!」

 

「気にする事はない。元より万が一の時に戦うという契約で乗せてもらっていた身だ。……それよりも、そちらは大丈夫か」

 

 

 青年の言葉にそう返して、空は荷物袋より取り出した器に皮水筒の水を注いで彼らに手渡すのを四度行う。水が並々と注がれた器を手にした四人は互いに見合って目を見開き、最後に青年が空へと視線を向けて

 

 

「飲むといい。こんな慣れない場所で戦えば、疲労は凄まじいだろう。しっかりと水分を取らんと意識が飛ぶ事になる」

 

「え、あ、でも」

 

「……ああ。気にする事はない、コレはアーティファクトだ。一定の魔力を注いで中の魔法陣を起動するモノでな、飲水を安全に確保出来る」

 

 

 だから、気にせず飲め。

 そう言う空に四人は礼を言ってから器に口をつけて水を飲む。普通の皮水筒の水のような若干温くなった水ではなく、冷えた水は汗をかいた身体と喉によく沁みる様で飲み干した四人は皆感嘆の息を漏らす。

 その様を空に見られている事に気づいたのか、四人はハッとして気恥しげに頬をうっすらと染めて俯く中、その内の一人である弓術士の少女は俯きながらもその器を持っている両手は空へと差し出されており、それは無言の厚かましいお代わりを求めるソレであり、空はそれに一瞬、眉を動かしたが軽く笑みを浮かべて差し出された器にもう一度水を注ぐ。

 その音に他の三人は何か、仲間の行動に気がついたのか顔を上げて「嘘だろコイツ」という視線を弓術士へと向ける。

 そして、すぐに青年が慌てて頭を下げた。

 

 

「す、すいません!仲間が!」

 

「何、水分補給は大事だ。冒険者というものはこれぐらい厚かましい方がいい」

 

「待ちなさい、流石にダメでしょうそれは」

「そうよ、ねぇ……私も引くわよそれ」

「大丈夫、リックが頭下げてるから」

「「いや、ダメでしょうが!?」」

 

 

 思考の端に王都の冒険者ギルド本部で見た冒険者の先達らを思い出しながらそう言う空に青年はとても申し訳なさそうな表情で顔を上げる。

 そうして、ふと一つ肝心な事を忘れていた事を青年は思い出して、また慌てたように自己紹介をしていく。

 どうやら彼らは空のランクである紫の一つ下のランク・黄の冒険者チームであるらしく、今回はギルドの方から勧められた依頼であったらしい。グリューエン大砂漠を横断するキャラバンの護衛という新天地へ移動する依頼に意気揚々と参加してみれば、冒険者たちが集まっておらず結果として自分たちだけが護衛という事態に不安だった。そう吐露する青年の表情はなんとも苦労したモノだ。

 

 

「そうか……それは大変だったな」

 

 

 青年の苦労を察した空が二重の意味で労いの言葉をかけたタイミングでキャラバンの人が声をかけに来た為、四人より器を回収した空は自分が乗っていた荷台へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。