ありふれない防人の剣客旅 作:大和万歳
空のちょきはかっこいいちょき(なお、前世からそれである)
ハジメが障害をぶち壊して突き進むに対して、主人公は基本的に片付けれるかどうかなので、戦闘を避けるべきと判断すれば普通に逃げますし回り道します(今の段階では)
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天に輝く太陽の下、焼けるように揺蕩う大気と熱砂を駆ける影が複数。
砂丘の彼方より標的へと狙いを定め、砂を蹴り踏みながら、唸りながら、獲物へと迫るのは四足獣。
赤銅色の大気と砂漠に僅かに紛れるような銅色の獣毛を生やすのはオオカミと変わらぬ体躯の──カラカル。グリューエンデザートキャットと呼ばれる、獰猛な肉食獣の魔物である彼らは十を越えるほどの群れのまま自分たちの縄張りを通ろうとしている怖いもの知らずな人間共を食い千切る為に砂丘を乗り越えて───
「ヒィゥンッ!?」
先頭を駆けていたグリューエンデザートキャットの額を矢が貫き、脚がもつれそのまま後方から走ってきた仲間とぶつかり転げていく。他のグリューエンデザートキャットらは一瞬、転がっていく仲間に気をとられるがすぐに目の前の獲物へと意識を戻す。
それでも一向に構わない。
「私の矢は……外さない」
荷台の縁に足を乗せ、カッコつけながらも弓術士の少女は矢を弓に番えて次々と放っていく。弓術士としての技能によって放たれた矢は的確にグリューエンデザートキャットを射抜いていく。
額を撃たれたモノ、その脚を射抜かれたモノ、胴へと突き刺さったモノ、当たった箇所は様々であるが一矢も無駄にせずに当てていく様は正しく彼女の実力が確かなモノであると証明していた。
だが、全ての魔物を射抜いたわけではなく、また射抜いたからといってそれで終わりというわけでもなく、当たりどころが問題なかった魔物は痛みに怒りを抱きながら速度を上げてキャラバンを追いかける。そして、絶命した仲間に巻き込まれて転がっていった魔物も戻ってきている。
これでは、矢で全部を殺す前にキャラバンへと魔物は追いつき被害が出る事となるのは目に見えている。
「迸る雷鳴 駆け抜ける稲妻 畏敬せよ福音の輝き、破邪の雷光──“迅雷”!」
準備を終えた剣士が剣より雷の魔法を放つ。
本職の魔法には劣るものの彼の持つ才能によってマトモな威力を持って放たれた文字通り激しい雷鳴をもって近づいていた数体の魔物の身体を貫き吹き飛ばしていく。
それでもなお、逃れた魔物はまだいる。
弓と違い、魔法は準備に時間がかかる。そして、弓で狙うには近い───ならば、どうする?
「斬ればいい」
キャラバンのすぐ横を並走する影が一つ。
そして、銀閃が走り近くまで迫っていた魔物が血を吹き出して転がり後方へ消える。
一度、二度、三度、と銀閃が閃く度に血が飛び散り、グリューエンデザートキャットの死骸が生まれていく。ならば、と魔物はキャラバンではなく目の前の危険な敵へと襲いかかろうとする。
だとしても───標的を変えた、その瞬間には胴と首が別れ、胴が輪切りにされ、顔面ごと縦に両断される。
急ぎ駱駝の速度を上げて移動するキャラバンに並走しながら、グリューエンデザートキャットの予備動作に反応して長剣が閃き死骸を築く。
「ニィィアアァ!!」
「遅い」
オルクス大迷宮の魔物に比べれば弱い。
弓術士の矢、神官戦士の投石がグリューエンデザートキャットを仕留めていき、逃れたとしても空の剣閃でその生命を軽々と刈り取られていく。
そうして、グリューエンデザートキャットの群れは全滅する。
だがしかし、気を抜くことは無い。
手隙だった、魔法を放った後の剣士の青年がキャラバンの後方へと視線を向ける。そこにいるのは魔物、魔物、魔物!
先のグリューエンデザートキャットと違い、先頭を駆けていくのはエリマキを広げながら何処か赤ん坊が呻くように喉を震わせて鳴き声を上げる、後ろ足二足で走る蜥蜴──デザートリザードの群れ。そしてデザートリザードとキャラバンを喰らわんとその後ろを追いかけるのは鋼の嘴と健脚を持つグリューエンオストリッチ。そしてそして、そんな二種の魔物の群れとキャラバンを狙って迫るのはデザートワーム。
サンドワームの内二体は先の全滅したグリューエンデザートキャットの死体を選んで離脱したがそれでもなお、数はまだいる。
「───カザナリさん!」
「心得た」
ならば、次の手だ。
荷台より飛び降りた青年を受け止めながら、空は速度を弛め最後尾の荷台近くまで移動しそのまま飛び乗る。
「ここに焼撃を望む、“火球”!」
荷台へと飛び乗ったと同時に青年が手を掲げて魔法を放ち、足元へと着弾させることでその衝撃でデザートリザードを吹き飛ばす。
その際に吹き飛んだデザートリザードへとグリューエンオストリッチが首を伸ばして食らいつき、一瞬微かに増えた重量で遅くなったソレにサンドワームが襲いかかり、ズラリと牙が三重に並んでいる大口がグリューエンオストリッチを丸呑みにする。
下手をすれば自分たちがああなるのでは、と魔術師と青年は顔を引き攣らせるが、空が長剣を納刀し、抜刀の構えを取り始めたのを見てハッとして魔法の準備を開始する。
空は腰だめに構え、しばしの溜めをもって腰の捻りと腕の振りを利用して抜刀────
「…………」
八重樫流刀術による抜刀術。
常人離れした身体能力と技量をもって放たれた斬撃は数体の魔物を巻き込みながらサンドワームの一体の胴体を両断し殺す。
「呑み込め、紅き母よ──“炎浪”」
死体がばらまかれ、サンドワームがそれに反応し動きが停滞する。更にダメ押しと言わんばかりに準備を終えた魔術師が炎系中級魔法を放つ。
放たれたのは範囲魔法に分類される文字通り炎の津波。それは最前線を走っているデザートリザードを燃やしながら押し退け、火達磨となり転がってきたソレに巻き込まれてグリューエンオストリッチが焼き尽くされていく。サンドワームにはそこまでの影響を与えていない、だがまだだ。
「迸る雷鳴 駆け抜ける稲妻 畏敬せよ福音の輝き、破邪の雷光──“迅雷”!」
やや無理くりながらも青年はもう一度、雷の魔法を放つ。しっかりとした準備も行わずに放たれたそれはやや乱雑ながらもサンドワームらへと殺到し、大きく仰け反らせる。
仰け反ったサンドワーム。火達磨となったデザートリザードやグリューエンオストリッチ。肉が焼けた臭いに反応して仰け反りから戻ったサンドワームは目の前に転がっている肉へと次々と喰らい付いていき、その間にぐんぐんとキャラバンは距離を開けていく。しばらくして、追跡が無くなったのを察して青年と魔術師は長い息を吐き、キャラバンの人々も戦闘終了の空気を感じ取りつつそれでもすぐには止まれぬと暫くはこのスピードを保ち駱駝を走らせる。
「はぁぁぁぁ……ありがとうございます、カザナリさん。僕たちだけじゃあ多分、守りきれなかった」
「本っ当にありがとうございます」
「ああ、素直に受け取っておこう」
そう言いながら、空は労うように器と皮水筒を腰に下げていた荷物袋から取り出して、いつものように水を注いで二人へ手渡す。
器を受け取った二人が冷たい水で喉を潤し、身に染みるのを感じている中、空も水を飲みつつ荷台から前方へと視線を送る。
視線の先、赤銅色の砂が舞う中にうっすらとみえる乳白色。
外壁で囲まれた都、アンカジ公国の外壁だ。
『もうすぐ、か』
「(ええ)」
第一の目的地、そこへ向かう為に立ち寄るべき都がもうすぐそこまで迫っていた。
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ついに辿り着いたアンカジは、高い乳白色の外壁に囲まれ、中まで軒並乳白色の建築物が広がっている美しい都であった。
そんな都で目を引くのはやはり乳白色の建物───ではなく、不規則にこの都を囲んでいる外壁の各所より立ち上っている光の柱だろう。柱は空へと伸びながら、途中で別の場所から伸びている柱とぶつかり、このアンカジ全体を覆うようなドームを形成している。
キャラバンの商人にアンカジへ来るのが初めてであった青年が聞けば、都内へとグリューエン大砂漠の赤銅色の砂が侵入しないようにする為の魔法によるバリアのようだ。また、アンカジの門も光り輝く巨大な門であり、これも砂の侵入を防ぐ為にバリア式であった。このバリアは存外強力なようで月に何度かグリューエン大砂漠で起きる大規模な砂嵐に見舞われたとしてもドーム状に都を覆っているために砂が侵入することも無く、せいぜい曇りのような天候になる程度で済むという。
「すごいわね……私たちも砂嵐に遭わなくてよかった……というか、平時でも風で砂が飛んでて髪が大変なのに……砂嵐とか考えるだけで嫌だわ」
「ん、確かに」
「そうですね。それに何より、先程のこの街へ入った時に見た風景も素晴らしいものでした」
魔術師と弓術士は女の子らしく砂で髪が汚れ痛む事を気にして、神官戦士はアンカジへと入った時の事を思い出しながら、感嘆の息を漏らす。
アンカジの入場門は高台にあり、訪れた人間が真っ先にアンカジの美しい光景を一望出来るようにという心遣いが反映された形のようで、その自信の通り、アンカジの光景は空もまた感嘆の息を漏らすものだった。
太陽の光が反射して煌めくオアシスとその周辺の緑豊かな区画が東側に設けられ、また、オアシスより流れている川が幾筋も町中に流れており、このアンカジがグリューエン大砂漠のど真ん中にあるというのにも関わらずまるで水の都のように小舟があちこちに停泊しているのが見て取れる。そして、町のいたるところにオアシスの周辺のように緑豊かな広場がある。
北側へと視線を動かしてみれば、農業地帯のようで果物を育てているのか遠目に果樹とそれを世話する人が微かに覗ける。このアンカジは果物の産出量が豊富らしく農業地帯はとても広く見える。
そして西側には、オアシスや農業地帯同様に目を引く、この都にある乳白色の建物と違い、純白、そう言っても何も問題ない程に白い、一際大きい宮殿のような建物があるのが見える。周囲の建物とは一線を画すほどの規模と美しさからして恐らくその建物がこのアンカジ公国を治める領主の住む場所なのだろう。
正しく美しさを自負するだけはある光景、そしてバリアのドームと、そんじょそこらの都市や町では決して横に並ぶ事は出来やしないだろう。
そんな都の西側、純白宮殿がある区画はどうやら行政区であるらしく、冒険者ギルド支部もそこにあった。
依頼の件でギルドへと向かう四人と共に歩いていくさなか、改めて空は彼ら四人へと視線を向ける。
魔術師の少女。魔女のような典型的な格好ではなく、学生服にも見えるラフな服装の上からマントのようなモノを羽織り、身の丈程の魔術師らしい杖を持った彼女は聞けば炎の魔法が得意であるらしく、そしてリーダーである青年とは幼馴染みの関係のようだ。
次に魔術師より一つ歳下であるという弓術士の少女。正確には『狩人』が彼女の天職らしく、元々は青年のチームではなく空同様ソロの冒険者であったのだが、美少女と言えるその容姿故に粗野な冒険者に絡まれ罠に嵌められてしまい絶体絶命という所を青年に助けてもらい、その礼も兼ねて青年の仲間となったらしい。
そして、神官戦士。チームの中で最年長である彼は嘗て青年の兄の同僚で教会にいたそうなのだが、その兄と一悶着を起こし、教会の神殿騎士の任を外された事に恨みを抱き青年へとその矛先を向けた様だが、とある事件の際に身を呈して自分を守った青年に強い感銘と憧れを抱いて彼に頭を下げて彼のチームに冒険者として加わったらしい。
三人を見て、旅の道中で聞いた事をそこまで思い出した空は最後に地図を見ながらうーん、と唸っているリーダーである青年へと視線を向ける。
気弱そうな優しげな顔立ちの青年は兄に憧れて強くなろうと奮起し冒険者の道を選んだ、となんとも苦い表情で神官戦士が語っていたのを空は思い出す。
兄の鎧に似せたという黒い鎧を見下ろしながら、未熟な自分を恥ずかしく思いながらも兄の弟として恥ずかしくないように努力しているその人間性は、この僅か数日間の付き合いしかない空にも戦闘者に向いていない優しいものだ、と感じ取れた。
と、気がつけばギルド前へと辿り着き五人は足を止める。
「それでは、な。俺はこのまま宿を探させてもらう」
「あ、はい!えっと、本当にありがとうございました!カザナリさん!」
「お世話になりました。カザナリ殿」
「ん、ありがとう」
「色々とありがとうございました」
空と四人はここで別れる。空は次々とお礼を言っていく彼らに気にするな、と軽く手を挙げてそのままこの場を去ろうとしたが、それよりも先に青年が口を開いた。
「あ、あの!」
「……なんだろうか」
「そ、その……も、もしよろしければ……!」
遠慮しがちに言葉を選んでいるその様に空は彼が何を言おうとしているのかを察する。
「ぼ、僕たちのパーティーに───」
「すまない」
加わりませんか。そう続くはずだった言葉がすっぱりと切り捨てられた。
その返答に後ろで様子を見ていた三人はだろうな、という表情を見せ、青年は口を開けたまま石像のように固まった。そんな様子がなんともおかしくて、空は軽く目を瞑りながら笑って話す。
「そう、気落ちするな。今は一人の旅を続けているが、もしも……そうだな、この旅が終わって何もならなかった時は…………考えてみてもいい」
「カザナリさん……!」
空の言葉に途端に表情を明るくする青年に空は苦笑し、そんな空へと青年は話し始めた。
「そ、そうだ!王都に、ハイリヒ王国の王都に来た時は是非我が家を訪ねてきてください!兄さんに会わせたいんです!」
「そうか。なら、もしも王国の王都に訪れた時は探させてもらおう」
そう言って、空は青年に背を向けてその場を後にする。そんな空の背に青年は手を振りながら、絶対ですよ!と声を上げ、それを見ていた仲間たち三人は相変わらずなリーダーに苦笑しつつ、さっさと依頼の報告をして宿を探そう、と青年をギルドへと押していく。
そんな様を遠目で見ていた空は訪れるかも分からない未来を想い、自分と内のエンリルにのみ聴こえる声音で謝辞を告げた。
「すまない」
この身は防人。
君たちと歩む未来はどこにもないのだ、と空は宿を探す為にその場から離れていった。
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