ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 前話の感想がアマツ揃いで笑うしかなかった.......




第二十刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 ロクな用意もしていないのに活火山を登るというのは危険な行為であるがしかし、常人離れした身体能力等を利用して空はすいすいとグリューエン大火山を登っていく。

 火山らしくゴロゴロと岩場が続いていくが、疲労はなく重さも感じず、せいぜい障害となるとしたら岩の隙間から吹き出る蒸気や火山そのものの熱、そして天に輝く太陽の暑さといったものであり、その暑さに空は薄らと出た汗を布で拭い、皮水筒でしっかりと水分補給を行いながらどんどんと登る。

 道中、魔物が出るわけでもなく一時間ほどかけて登っていき、山頂へと辿り着いた。

 

 

「ここが山頂」

 

 

 辿り着いた山頂には、大小様々な岩が無造作に突き出しており、尖った岩肌やらつるりと光沢のある滑らかな岩やらなんやら、大きさだけでなく形状も様々だ。足場という足場が岩石で埋め尽くされており、まかり間違って滑ってしまったらその時点で岩に頭をぶつけるか、尖った岩に身体を貫かれてしまうなりして、悲惨な事になってしまうだろう。

 そんな場所を空は滑らないように慎重に足を運んでいき、進んでいく。

 そうして、標高三千メートルからの景色を見たり、グリューエン大火山を覆う巨大砂嵐の頂上を見上げたりして、壮大な光景をカメラがあれば写真に収めたいと思いながら空は歩いていき、しばらくしてその足は止まった。

 奇怪極まる多種多様な岩々が所狭しと存在する頂上に、とりわけ群を抜いて奇怪な形とサイズの岩があった。十メートル近くはあるだろうその岩へと空の視線は向けられた。

 歪なアーチのような不可思議な形状の、まさしく目印と言うべきその岩へと近づいていけば、その岩の下に大きな階段があるのが見える。恐らくは七大迷宮としての『グリューエン大火山』内部への入口なのだろう。

 もう一度水を呷り、改めて空はその視線を階段の先、迷宮内部へと向ける。

 

 

「…………」

 

『緊張しているのか?』

 

「いえ、問題ありません」

 

 

 軽く息を飲み、今から始まるたった一人の迷宮攻略に空は改めて覚悟を決めながら階段へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

『グリューエン大火山』、その内部は同じ大迷宮の『オルクス大迷宮』と比べれば間違いなく過酷としか言えなかった。

 魔物が強い、という訳では無い。いや、それ以前にそもそもまだ空は魔物とは接敵していない為に魔物の強さは未知数だ。では、何が過酷なのか、それはこの火山の内部構造だ。

 まず、普通ならば有り得ない話だが、マグマが空中を流れている。マグマが宙に浮かんでそのまま川のように流れを作っていて、空中をうねるように流れている。赤熱化したマグマがそのように動き流れていく様子はさながら巨大な龍が何頭もこの火山内部を飛び交っているようにも感じられる。

 そして、当たり前の話であるがこの内部は通路、広間、至る所にマグマが流れている。

 つまりはこの迷宮に挑む人間は地面のマグマと空中にあるマグマの両方を注意せねばならなくて、いや、それだけでなく────

 

 

『空』

 

「ッ、ありがとうございます」

 

 

 エンリルの声と共にその場から跳び退けば、つい先程までいた場所に面していた壁から唐突にマグマが噴き出していた。

 そう、頭上地上だけでなく壁面からのマグマという三方向を注意しなければならない。しかもこの壁面のマグマ、本当に突然噴き出して来る上に、事前の兆候というものが無く、また気配感知の技能に引っかかるわけでもないので噴き出すのが事前に分からない。

 エンリルからの指示が無ければ間違いなく、先のマグマから逃れるのが遅れただろう。

 しかし、そんな壁面のマグマという障害も、如何にこの世界に干渉するのは難しいとはいえ、マグマなどの現象への察しが早いエンリルがいることで、少なくともずっと警戒しながら慎重に進み攻略スピードが落ちるということはない。

 

 

『分かっていると思うが水分補給は忘れるなよ』

 

「はい……もちろんです」

 

 

 周囲を流れるマグマによる茹だるような熱が絶え間なく空へと襲いかかる。

 心頭を滅却すれば火もまた涼し、と言うがしかし、いずれ到るやもしれぬがそれでも未だ無念無想の境地にいるわけではない空にはこの全方面にあるマグマによる熱は決して無視できるものでは無い。現に熱でフツフツと汗が滲み始めており、頭から水を被ればさっぱりするだろうが下手に被ってそのまま茹だってしまえば元も子もない。

 汗を拭いながら、空は着実に歩を進めていく。今はまだ魔物が現れていないから問題は無いが、もしも魔物が出てくる階層まで降りれば攻略スピードはより遅くなるだろう。

 もしもこれがオルクス大迷宮であるならば、加速によるゴリ押しも問題なかったかもしれないがここはマグマ流れるグリューエン大火山。ゴリ押して進んだ先で噴き出したマグマに巻き込まれてそのままお陀仏になるのは火を見るより明らかで、その為に正攻法で攻略せねばならなかった。

 

 

 そうして、どれほど進んだろうか。

 内のエンリルが八階層だ、と伝えてきたのにまだそんなものか、と呟きながら階段を降りきって変わり映えのしない光景へ視線を巡らせて───

 

 刹那、抜刀した。

 そのまま居合いで長剣を振るえば、放たれた斬撃が空間を走り迫っていた火炎を両断した。火炎は両断された事で解けるように空気に消えていき、開けた視界で空の視線は真っ直ぐ火炎を放った犯人へと向けられている。

 空から見て左斜め側にいる魔物。

 マグマの中ではないがしかし、その全身にマグマを纏った雄々しい牛。雄牛らしく頭には曲線を描いた鋭い双角がある。呼気には炎が混じっており、その表情は怒りを抱いているのだろう。

 それも仕方がない話だ。恐らく先程の火炎はあの雄牛の固有魔法だったのだろう。その不意を突いたはずの自慢の固有魔法をあろうことか反応し両断するなど怒りを抱かずしてなんというのか。雄牛らしく地面を蹄で掻きながら頭部をやや下げて、突進の構えをとるがしかし。

 

 

「悪いが、近づくつもりも近づかせるつもりもない」

 

「ブモォ!?」

 

 

 長剣を振るう。それによって放たれた斬撃は正確に雄牛へと向かって飛んでいき、頭を低くし突進の構えをとっていた雄牛の頭ごとその身体を一刀両断し魔石を切り裂いた。

 マグマの鎧?なるほど確かに、触れれば武器は壊れる事は間違いない。

 ならば、近づかれる前に斬撃を飛ばして殺せばいい。

 そうして崩れ落ちた雄牛を無視して、空はこの第八階層を進んでいく。

 恐らくはこの階層からが本番なのだろう。

 進んでいけば、横合いのマグマ溜まりから唐突に雄牛がその姿を現したり、後方からマグマなどお構い無しに群れが追いかけてくるなどと、並の冒険者ならばそのまま生命を落としかねない様な状況が幾度かあったものの、空は自分の立ち位置、マグマの位置、壁の位置を意識した動きで何度も斬撃を放ち、回避しながら雄牛を切り刻んで進み、早々に第八階層を降りていく。

 そこからのグリューエン大火山の戦いはより苛烈となった。

 

 

『如何に火山の迷宮とはいえ、流石にこれは』

 

「ですが、斬撃の修練には充分かと」

 

 

 そう言いながら、何度目になるかも分からない斬撃を放ち、魔物を切り飛ばす。

 もはや、今いる階層が第何階層なのかもエンリルと空は分かっていない。

 階層を下がって行けば行く程に現れる魔物のバリエーションは増えていっている。

 例えば、翼からマグマを撒き散らしながら飛んでくるコウモリに近い魔物や、壁をマグマで溶かしてマグマ諸共飛び出てくる赤熱化したウツボのような魔物。その背から炎が灯った針を無数にこちらへと飛ばしてくるハリネズミに似た魔物やら、マグマから顔だけ覗かせマグマを纏った舌をムチのように振るってくるカエルなのかカメレオンなのかよく分からない魔物。他にも頭上のマグマの川を泳ぎながら襲ってくる赤熱化した蛇。

 どこをどう見てもマグマ、マグマ、マグマな炎系の魔物ばかり。加えて、時折魔物が別の魔物とまったく同じ能力を持って現れることもあり、さしものエンリルも空も近づけばより一層暑くなる魔物には嫌気がさし、こちらを認識していなければ早々に移動して逃げ、逃げるのが難しければ斬撃を放ち、岩ごと切り飛ばしてマグマを吹き飛ばしながら魔物を倒してきた。

 斬撃の修練などと空は言っているがその内心では既に妹が未来で歌う曲を熱唱して気を紛らわせ始めており、それを聴いているエンリルはそろそろ休憩しないとヤバいのでは?と心配し始めていた。

 

 

『本当に大丈夫か?』

 

「……まだ、問題はありません」

 

 

 あくまでまだ、なのか……!

 その空の返答にエンリルは軽く目尻を抑えながら、どうするかと思考を回していく。

 休憩しようにも一部の魔物はマグマではなく岩の中にも潜んでいる。

 気配感知を用いれば、問題ないがしかしそれでは本当の意味では休憩出来ず、厳しい。では、どうすればいいのか……そこまでエンリルが考えていると次の階層へ繋がる階段へと辿り着きそこを少し降りた程度で空はその足を止めた。

 

 

『空?』

 

「………ここで休憩しましょう」

 

『…………あ、ああ、そうだな』

 

 

 さしもの空も休憩無しにこの迷宮を攻略することは無理なのか、階段に腰掛ける。既に階段は比較的に熱を発していないのが分かっていた為に、荷物袋より布を取り出しそれを折り畳み敷いて座る事で熱を少しでも遮断しつつ、塩漬けされた肉へとかぶりつきながら皮水筒の水で喉を潤していく。

 吐息を漏らしながら、眼を細めてまだ数十層はあるだろう下層を睨みつける。

 魔物を倒す分には何も、問題は無い。せいぜい『オルクス大迷宮』の四十層程度の質しか無い魔物であるならば、例えこの火山という地形であったとしても近づかれる前に仕留められる空にとって問題は何も無いがしかし、やはりこの迷宮全土に広がる熱が確実に体力を削っていた。

 今こうして、休憩している間も出来うる限りの熱を遮断しているというのに少なからず熱は残って襲ってきている。

 水分と塩分の補給をせねば、魔物ではなく環境に殺されるだろう。

 

 

「ああ、何故、こんな所に迷宮を作ったのか理解出来た。魔物と環境、どちらにも適応した上で熱による疲労の集中力阻害を乗り越えろ、か」

 

 

 もう一度水を呷り、空は目を見開く。

 『光』ならばここらで炎耐性でも手に入れるのだろうが、残念ながら空にはそんな御都合主義の覚醒は訪れる事はなく───引き抜いた短剣を右側の壁へと投げつける。

 刃が壁へ突き刺さる寸前に壁が融解し、中より飛び出そうとしたウツボの魔物へと勢いのまま突き刺さり、殺した頃にはもう空は布をしまって階段を降り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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