ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 気がつけば二十話を超えていましたね。
 そして、評価バーも赤くなっています。
 本当にありがとうございます。これからも『ありふれない防人の剣客旅』をよろしくお願いします。


第二十一刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 駆ける。駆ける。駆け抜ける。

 

 

 一切、容赦なく目の前の魔物を斬撃で切り刻みながら駆け抜ける。

 流れる地面のマグマなど容易く飛び越えて、マグマからの奇襲が行われようとも気配感知がそれを察知して成される前に斬撃で切り殺し、壁面より吹き出るマグマは内のエンリルの指示で空中を蹴りつけて姿勢を変えながら避ける。

 慎重など、いったいどこへ投げ飛ばしてしまったのか、という動きで空は次々と階層を更新していく。

 どうして、走っているのか。

 それにはしっかりとした理由がある。

 

 既に階層は三十をとうに越えており、定期的に休憩を挟んでいた空であるが深くなれば深くなるほど魔物が多く、強くなり消耗が激しくなってきた───魔物が強くなり多くなりといってもやはり消耗の原因は熱による消耗であるが───為に休憩を挟む頻度の増加は食料の消費を激しくする、故にエンリルがマグマの位置などの感知に専念し、空は加速していきより深くより深く階層を降っていく事を選んだ。

 斬撃を放てば、遠距離の魔物を断てる、思いっきり飛べばマグマも飛び越えられる。ならば、こうするのもある種の選択と言えた。

 

 

『右だ、来るぞ』

 

『次は左だ……前方から来るぞ』

 

 

 エンリルから飛ばされる指示に黙々と空は反応し、吹き出るマグマを避けて、次の階層への階段を探していく。

 駆けろ、駆けろ、駆け抜けろ。

 

 

「キキッ!!」

 

「邪魔だ」

 

 

 頭上よりマグマを滴らせながら襲撃してきたコウモリに対してその場から跳び退いて斬撃を頭上へと放ち、コウモリごと天井の岩を切り崩して他のコウモリたちへと岩を降り注がせる。多少の岩はコウモリの翼に纏っているマグマで温度が上がり赤熱化していくが、だからといって急速に全てが溶解するわけもなく、溶けきらなかった岩がマグマ以外の部分へと当たっていき、群れは乱れそのまま互いに互いを巻き込みながら落ちていく。

 そうして出来た隙に空は止めをさす───ではなく、さっさと階段へと向かう。

 少なくとも無事では無いだろうし、再びの飛行は難しいだろう。ならば、わざわざ止めをささずとも勝手に腹を空かした別の魔物が負傷したコウモリへ食らいつくだろう。そう判断したのが正解であるかのように、後方で魔物の断末魔と肉を貪る音が響いていた。

 

 階段を降りては駆け抜けて、マグマを飛び越え、マグマを回避して、マグマを切り裂いて、時折無視出来ぬ魔物へと斬撃を放つことで切り裂いて、ただただひたすらなまでに、パスタが有名な国出身な配管工が主人公なゲームの様にこのグリューエン大火山を、迷宮を駆け抜けていく。

 残念ながらゲームの様にマグマに落ちても最初から、などという優しいものは何も無い。マグマに触れれば間違いなく空は死ぬ。当たり前だろう、彼はエンリルによってある程度の調整を受けているとはいえそれでも人間なのだ。

 マグマに落ちれば死ぬ。これは覆しようのない事実だ。

 

 

「…………ハァ」

 

 

 階層を幾つか降りていき、空は階段でその足を止める。

 そのまま崩れ落ちるように階段へと腰を落とし、空は息を吐く。重い、重い息だ。

 その身に積もった疲労は未だ限界値ではない、それでも疲労は溜まっている。そもそもが話、無理だ。

 ここに至るまで空は確かに休憩はしたが、そのどれもがこうして階段で出来る限り熱を遮断しての気配感知を行っての休憩。

 誰がどう考えたって、それで疲労がしっかりと取れるはずがない。そんな中で疲労を度外視するように駆け抜ければどうなるのかは分かりきっていた。

 

 

『休め。焦っているわけではないのは分かっている。体力の消費を考えての強行軍地味た判断なのは理解している。光狂いでもないのに、限界を超えようとするな』

 

「…………はい」

 

 

 故にエンリルは有無を言わせぬ声色で休息を命じる。それに空は目を瞑り了承し、布を取り出して尻に敷いて座りなおし、水を呷る。こうして、何度目になるか分からない皮水筒の水を飲む行為に、空はこのアーティファクトを無断だが持ってきて良かったと痛感する。

 ただの皮水筒であれば、絶対にここまで水分補給が出来なかったろう。

 もうそろそろ半分を切りそうな塩漬けされた肉を噛みちぎりながら、空は考える。

 それは迷宮から王都へと戻った日にエンリルより聞かされた話だ。

 

 

 南雲ハジメが生きている。

 迷宮遠征を行うと言われた日、檜山らによってズタボロにされたハジメにエンリルは自らの目となるモノを忍び込ませていた。目的としては純粋に空への気遣いだ。

 また問題が起きればすぐに行けるように、と。後はハジメの錬成師という天職に興味を抱いていたのもある。

 そんなエンリルの判断は結果として功を奏した。ハジメが奈落の底に落ちて尚生きていたという事実、『オルクス大迷宮』の真なる迷宮部分について、そして神代魔法という存在とこの世界の真実の歴史。色々な事がその目を通してエンリルから空へと伝わった。

 そして、何よりも空がハジメに抱いたのは羨望だった。今まで一度たりとも抱いたはずのないハジメへ向けた感情に、空はあの夜困惑した。

 羨望?理解が出来ない。何故、安堵の息を漏らすべきなのに、生存している事に喜ぶべきなのに、一体どうして俺は───羨んでいるのか。

 

 

 ユエ、そう名付けられた吸血姫と並び立つ南雲ハジメが羨ましいのだ、風鳴空は。

 なるほど確かにユエは美しい、その見た目の年齢にそぐわぬ妖艶さすら感じられるし、そんな美少女を侍らせるハジメはこの世の男どもにとって妬ましい存在だろう。…………違う。

 美しい女を侍らせている?

 そんなくだらない事を羨むはずが無いだろう。

 

 

 では、どうして羨んでいるのか。

 いったい、何に対して羨んでいるのか。

 分からない。エンリルはその理由を理解しているようであるが、風鳴空には何も分からないのだ。どうして、羨んでいるのか、自分ですら。

 王都を脱出した日からずっと駆けていた。昨晩の宿とて疲労をとるためにさっさと眠りについていた。だが、この迷宮内で眠るのは馬鹿故にこうして休んでいても思考は回る回る。こうして、改めて考える時間などなかった為に空の頭の中ではその疑問についてが渦巻いていた。

 この迷宮を越えれば、その答えは分かるのだろうか。

 そこまで思考を回して────

 

 

『───さて、どうだろうな』

 

 

 思考に割り込むように響いたエンリルの声に空は思考の渦から意識を帰還させた。

 

 

『取らぬ狸の皮算用、と言う奴だ。はなから期待するだけ無駄だろう。徒労に終わるかもしれない。だから、今はやめておけ』

 

 

 諭す様なその言葉に空は、一切反論することなく御意、と目を瞑り応える。

 既に意識は迷宮攻略へと向けられている。迷いも疑問も何もかも、抱えて戦うなどどうして出来ようか。故にいちど放り投げて、空はここから先の戦いを思う。

 全てはこのグリューエン大火山を攻略してからこそだろう、と一振りの真剣はそう決めて、休みは終えたと出していたものを片付けて階段を降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───グリューエン大火山・四十五層最奥

 

 

 そこは外縁を縁取るようにマグマが流れている大きな島の広間であり、珍しく空中を流れるマグマは何処にもない。全て、この広間へ向かう途中に軒並み大穴を通って壁の中へと消えている。

 そんな広間へと空は足を踏み入れた。

 既にあれから十階層近くは降りてきた中で、一度たりとも見たことがない構造のこの広間に警戒しながら足を踏み入れ、そして広間の奥にある下層への階段を見つけ同時にその手前にあるモノを睨む。

 それは巨大な毛が生えたなにかだった。

 完全に広間へと入ってきたのを感じ取ったのか、そのなにかは動き出し立ち上がる。そうすることで漸くその全貌が明らかになった。

 焼け焦げた身体から生やした黒く焼けた獣毛。皮膚は爛れ落ちたのか筋肉が剥き出しになっている頭部。口元は限界まで開かれており、時折マグマや炎を唾液のように垂らしている。そして焼け焦げた炭のような四肢。

 今までグリューエン大火山で出会った魔物と比べても巨大な魔物は、その炭のような身体の内側から強く強く炎を滾らせる。空いた眼窩より覗く炎が自分を睨みつけているのが空には理解できて、故に空は長剣を引き抜いた。まるでベヒモスを思い出させる空気、しかし相手はベヒモスに比べれば一回りほど小さい。だからといって油断など出来はしないが。

 

 

「ルゥオオオォン!!」

 

 

 先に動いたのは魔物だった。

 その狗にも似た体格らしく、地面を踏みしめて空へと猛進する。力を入れただけで砕け散りそうな炭を思わせる四肢でよくもまあ、そんな速度が出せるものだ。

 魔物、焔狗が猛進するのを前に空は加速し、斜めに横切るように駆けて焔狗とすれ違い、そしてその際に左後ろ脚の膝へと長剣を叩き込み切り裂く。

 

 

「……浅い……どうやら、見た目ほど軟らかいわけではないようだ」

 

「ルゥゥウ」

 

 

 互いに互いを振り返り、焔狗は軽く頭を下げその四肢に力を込める。それを見て、空は経験から次の行動を予測し素早く納刀する。

 空の納刀と共に焔狗は唸り声を上げて地面を蹴りその体躯で飛びかかる。その大顎は大きく開かれており、間違いなくそのまま空を噛みちぎろうとしているのが理解出来る。だがしかし、

 

 

「全てを切り裂く至上の一閃──“絶断”」

 

 

 鋼色の魔力を纏った居合いの一撃が跳躍噛みつきを回避しその下顎を大きく削り斬る。

 

 

「ルゥアアァン!?」

 

 

 大きく削られた為か、下顎から大量のマグマを撒き散らしながら焔狗は絶叫をあげる。そして空は焔狗の後方へと抜けてすぐに転身、再び左後ろ脚へと素早く袈裟斬りを叩き込み、後方へ跳び退きながら空気を切り裂き、そしていつの間にか取り出したのか皮水筒の水を長剣へとぶちまけ着地する。

 未だ焔狗は下顎の激痛からその場で身悶え暴れている。その間に、空は皮水筒をしまい構える。

 それは今までの剣とは違うソレ。まるで長剣を担ぐ様な体勢を取り、右腕の袖の下で縄めいた筋肉が浮かび上がる。右腕の筋肉が一回りほど膨張しているのか、おおよそ人体から鳴るはずのない筋肉が軋み膨らみ荒れ狂う音が響き、そして左手は長剣の剣先を指先で掴んでいて、鋼色の魔力が荒れ狂い始める。

 

 

「ルゥオオォォン!!」

 

 

 痛みより戻ったか、それとも本能が訴えたか、焔狗は反転し咆哮を上げながら空へと向き直る。

 殺す、必ず殺すと、殺意を剥き出しにして身体から炎を吹き出し、下顎からマグマを撒き散らしながら焔狗は駆け抜けて───

 

 

「散華しろ」

 

 

 二度縮地した。

 一度目の縮地でマグマを掻い潜る様に焔狗の懐へと潜り込み、そこから二度目の縮地をもって加速する。

 左手の指先で刃先を掴むことで鞘代わりの様に扱い刀身を加速する。片手斬りであるがしかし膨張した筋肉による一撃は、加速した事でその破壊力を増していく。

 刀身が焔狗の腹に食い込み、その臓腑を切り裂き、纏う鋼の魔力が焔狗の体内のマグマなど何するものか、と切り刻みながら加速して焔狗の胴を縦に両断せしめた。

 

 

「ルォォオオオンンン!!??」

 

 

 背後で崩れ落ち、魔石が砕けた影響かどうかは分からないが、垂れ流れたマグマと炎が反応して小規模な爆発を起こしながら死んでいく焔狗を振り返らずに、その爆発に巻き込まれないように空は早々に次の階層への階段を降りていく。エンリルも空も正確な階層は既に分かっていないが降りてきた深さからして麓辺りの所だろうと当たりをつけ、そろそろだろう、と考えながら第四十六階層を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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