ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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第二十三刃

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 そも、シェム・ハの様な改造執刀医がルル・アメルの遺伝子情報に自身の断章を紛れ込ませるのは理解出来るが、いったいどうやってエンリルは自身の意思を末裔の遺伝子情報に組み込んだのか。

 まず、それを話さねばならない。

 エンリルの仲間の三柱にシェム・ハの様なアヌンナキがいた、というわけではなく、そもそもが話エンリルが自身の末裔、防人を作ろうと考えたのは既に同胞の二人が消えた後の事だった。

 何時かの弟の様に愛しい人を見つけた腐れ縁のニンギルスが他の二人と違い、人として生きて死ぬつもりだと伝えられた時にエンリルは自分が消えた後のことを考え始めた。

 エンリルはニンギルスの様に他の二柱以上に大和の子らに対して愛着、いや愛情を抱いていた。同時にその愛が決して子離れ出来ぬ親の愛では無い事も理解していた。だからこそ、彼は自分が消えた後、彼らがしっかりと歩いて行ける事を信じていたが同時に不安でもあった。

 いずれ、国外から、大陸から文明は来て戦争も起きるだろう、とだからこその防人。

 

 

 巫女と子を成して祝福した、自分の血筋がこの國を護ってくれると信じて────

 

 

『だが、無責任は駄目だろう』

 

 

 子を作って、はい終わり?違うだろう。この國の大和の子らを護る為の自らの末裔が子らを害そうとしたら?國を滅ぼそうとしたら?その時は誰が止める?

 己だろう。親としてそれだけはやらねばならぬ。

 だが、何時か摩耗して塵となるだろう己では孫の代、更にその孫の孫ならともかくそれ以降は見ていられるか分からない。では、どうすればいい。

 それに答えたのは他でもない大国主命……ニンギルス。彼が差し出したのは嘗て創り出したエネルギー生成ユニット……現代でいう所の完全聖遺物だった。

 オリハルコン、そう呼ばれているソレならば神の意思を定着させることが可能であり、同時に形状変化する流体金属の側面を持つが故に上手く神の力と組み合わせればシェム・ハの断章を押し退けて遺伝子情報に定着する事も難しくない、と。

 渡りに船だった。流浪し大和に行き着き根を下ろしてからの数千年間。決して、遊んでいたわけではない。その数千年間の経験値は漸く専門家の影を踏んだのだから。故にエンリルはニンギルスの手により風鳴の血筋に己の意思を組み込んだ完全聖遺物を紛れ込ませた。

 

 

 そして、十八年前。次代を創る為に八紘の身体に軽く働きかけてエンリルは風鳴空をこの世に産まれさせた。

 当初は興味はなかった。ただの風鳴の子供でしかなくて、だが、風鳴訃堂のやった事があまりにもあまりにも認められなくて、エンリルはオリハルコンごと風鳴訃堂から未だ二歳だった風鳴空へと移った。そして、見た、見てしまった知ってしまった。

 風鳴空の中にあった所謂前世の記憶というものを即座にエンリルはその記憶をオリハルコンの一部に記録保存を行った。決して見過ごせなかった、フィーネや米国、シェム・ハ、いったいこの大和を、子らをなんだと思っているのだ、と。

 必ず野望を挫いてやろう、と奮起して十五年。

 

 

 エンリルにとって、空は愛すべき大和が子であると同時に弟の様なものだった。だからこそ、こうして異世界トータスでエンリルは空を導いていき…………死ぬなど認められない。これが我儘、独善であると認識している。

 で?邪神の所業だろうがなんだろうが、見捨てられるのか?

 否だ。だが、望まないかもしれない。そんな考えがエンリルにはあって……

 

 

『手を伸ばせ、我が天羽々斬よ。お前の意思が必要だ』

 

───神命拝領、この身は一振りの真剣となりて

 

 

 どうするかはお前が決めろ、と告げた神素戔嗚尊に彼は応えた。

 此処に契約は結ばれた。ならば、もはや神は彼の魂を手放しはしないだろう。

 故に始まるのは新生の儀式。

 謳いあげるのは起動の祝詞。

 

 

『夜久毛多都、伊豆毛夜弊賀岐、都麻碁微爾、

 夜弊賀岐都久流、曾能夜弊賀岐袁』

 

 

 紡がれる祝詞(ランゲージ)に従い、オリハルコンは励起していく。あくまで神の意思を肉体に刻み込んでいるだけだったオリハルコンが、風鳴空の脊髄と心臓の一部に偽装していたモノが融合していく。それにより、オリハルコンがエネルギーの粒子体を吐き出していく。

 既に完全聖遺物は風鳴空という人間の生体情報の全てを網羅していて、あとは一言祝詞(ランゲージ)を締めくくるだけ。

 

 

『────大和万歳(コンプリート)

 

 

 空の記録から見つけた自分の琴線に触れたワードをもって締めくくる。

 それにより、此処に完全聖遺物オリハルコンはその真価を発揮した。

 

 

 

 

 

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 空を襲ったマグマの津波。

 如何に常人離れしていようとも、所詮は人間。

 膨大な熱を受ければ容易く焼けるのは当たり前だ。だがしかし、それは只人であればこそ。

 津波が消えた後に、そこには人間大の翡翠の結晶体が鎮座する。マグマなど知らぬ知らぬと鎮座する結晶体は次々と罅を生じさせ、砕けていく。

 破片は粒子化して空気へ消えていき、結晶体の内部よりソレは姿を現す。

 五体満足。

 

 焼き飛ばされた右腕も、噛みちぎられた左足も一切の欠損無く風鳴空はそこにいる。ただし、その装いは大きく変化していた。

 動きやすい軽装の上に纏っていた灰色の外套、それらはどこぞへと消え失せ代わりに纏うのは黒い鎧とその上に白いコート。

 その手には当たり前だが武器は握られていない。

 

 そんな自分の身体を見下ろして、空は自嘲するように軽く笑い、全てを理解した。

 

 

「これが……完全聖遺物」

 

 

 つまるところ、神の使徒ということだろう。

 如何なる欠損もオリハルコンが記録したデータの通りにオリハルコンのエネルギーが結晶化して完全に復元させる。そして、当たり前のように復元は削れたスタミナすらも回復させて───

 

 

「是非もなし」

 

 

 これが俺に示された道ならば歩いていこう。その果てに俺は見つけるのだ。

 

 

『─────神託を授けよう』

 

「俺は見つけねばならない」

 

『運命こそが、お前の分岐点だ』

 

「俺の運命を─────」

 

 

 どうして、南雲を羨んでいたのか、理解が出来た。

 どうして、その理由が分からないのか理解出来た。

 

 

「当たり前だ。斬空真剣(ティルフィング)を目指す以上、はなから俺の中にはそれを求めようという考えがなかった。だが、剣の才能がベルグシュラインと同じであるわけもない俺がベルグシュラインと同じような方法で至れるものか」

 

 

 あればあるだけいい。ならば、ベルグシュラインにないものを得ることで俺は超えねばならないから───

 そうあやふやに霧がかって見えていなかった道を今ここで、一度死んだことで風鳴空は自覚した。この心の中の空を埋める為に俺は運命を掴み取るのだ、と。

 そして、当たり前のように空は祝詞を紡ぐ。

 

 

「『創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星』」

 

 

 統一言語で紡がれる祝詞(ランゲージ)はオリハルコンに干渉し身体から無数の粒子体を吐き出させ、首からペンダントを引きちぎった右手へと収束していく。

 もはや、お前と俺は一心同体一振りの真剣(つるぎ)だ、と。オリハルコンのエネルギーがガラクタ同然、ゴミ屑同然のソレへと殴りつける。

 お前の主君が戦えと呼んでいる、歌女の歌でも動かないというのなら、主君の声が必要だろう。

 

 

『お前という刃が必要だ』

 

 

 ならば、と。

 励起して、オリハルコンのエネルギーを貪りながら、ソレは新たな己を獲得する。

 

 

「『絶刀・天羽々斬(Imyuteus amenohabakiri tron)』」

 

 

 そうして、空の右手に握られるのは完全聖遺物のエネルギーを糧に新生したアメノハバキリ。その柄を両手で握り締め構え、空はマグマ蛇へと視線を向ける。

 準備はいいか?こちらは出来ている。

 そんな風に口ずさみながら、返答など聴く理由は無い、とその絶刀を振るう。

 一度、二度、三度、振るえば至極当然マグマを切り裂きながら魔石を断ち切る。

 

 

「馴染む。とても、馴染む……アメノハバキリ、俺に力を貸してくれ」

 

 

 皆まで言うな、お前が必要だ。

 そう閃き応える絶刀に微笑み、自由自在に斬撃を放っていき範囲内のマグマ蛇を次々と切り殺していく。そうしていればさしものマグマ蛇も斬撃が届く範囲というものを学ぶのか一定の距離から近づいてこなくなった。

 そうして、選ばれるのは先程と同じような炎弾による雨霰。

 もはや、全損でなければ何も被弾は気にするべくもないがしかし冷静に空は別の足場へと跳び移り視線を巡らせる。

 

 

「近づくには流石に弾幕も激しくなる、か」

 

『ならば、斬ればいい』

 

 

 然もありなん。

 足場を跳び変えて、マグマ蛇らへと接近していく。無論、当たり前のように炎弾は降り注ぐがしかし、だからどうした、と空は絶刀を振るい斬撃を放って必要最低限の位置を切り開き飛び込む。

 身体能力は既に先程までとは比べるべくもない。細胞一つ一つにオリハルコンが影響しているのだ。

 その勢いまま、マグマ蛇正面の足場を踏みつけ加速、マグマ蛇らの隙間をそのまま通り抜け一閃。

 魔石を断ち切り、空はそのまま壁へ着地し壁を駆け抜けて反応し放たれる炎弾を回避していきながら跳躍、斬撃を放ち足場へと降りてから再び別の足場へと飛びながら斬撃を放つ。一度、二度、三度、何度も、何度でも。

 

 そこからは作業だ。

 オリハルコンという凡そ、人間が手にしてはいけない代物によってブーストされた身体能力による蹂躙。

 

 

 

 

 マグマ蛇を百体倒し、中央の小島にあったマグマのドームが消え漆黒の直方体の建造物が姿を現し、階段へと置いてきていた荷物を持って建造物のある小島へ飛び移った空はふと背後のマグマの海を見た。

 思い返すのは先程までの蹂躙。もしかすれば、いや普通に考えれば自分は此処で死んでいたというのに神から完全聖遺物という力を与えられればその後は蹂躙。

 どう考えても碌でもないだろう。

 脳裏を過ぎるのは奈落へ落ちたハジメの事。彼は魔物の肉という毒物を回復しながら喰らうという拷問と言うべき方法で力を得た。

 それに対して、こちらはどうだ。オリハルコンと融合したから力を得た?あまりに対価が見合わないだろう。そんな強さでいったい何を誇るのか────

 

 

『違うな。南雲ハジメは死にかけながら力を得た、お前は死んで力を得た。そこに差異があると?自分で得た力ではない、と言うのならば俺はこう答えよう。鍛えて鍛えて、借り物だというこの力を自分のモノにして見せろ。立花響の様に』

 

「……それ、は」

 

 

 素戔嗚尊が告げた言葉に、空は息を飲む。確かに彼女の得た力は最初は彼女が努力や鍛えて得たわけではない。

 だが、彼女は強くなって護りたいが為に鍛えてガングニールを自分の力に変えてみせた。

 

 

『なにより、逆上せるな。南雲ハジメならばこの程度容易く越えただろう。お前が弱かった、違うか?』

 

「……ハッ、浅慮でした」

 

 

 手に入れた力に負い目を負う必要などどこにもない。勝手に負い目をおうなど傲慢にも程がある。

 それを認識し、与えられたこの力を十全に自分の力へと変えることを心に誓いながら、一度目を瞑ってから息を吐き目を開く。

 もはやそこに迷いは無い。

 

 

『……さて、この建物だが……恐らくこれが解放者の住居というやつだろう』

 

「この中に、神代魔法が」

 

 

 既に話題は目の前の建造物へと移り、空が建造物の前へと進めば恐らく魔法が施されていたのか、スっと音もなく壁の一部が横にスライドした。

 部屋の中への入れ、と言わんばかりのそれに意を決して空は足を踏み入れる。

 空が中へ入ると同時にすぐに扉は先程のようにスっと音もなく閉まり、空は部屋内に視線を巡らす。

 解放者の住居と言っても中には特にこれといっためぼしいものなど何も無く、いやめぼしいものどころか部屋の中にある神代魔法の魔法陣以外に何も無い殺風景極まりない内装だ。

 ならば仕方なし、と空は精緻で複雑な魔法陣の上へと足を運ぶと魔法陣は輝き、空の脳裏にまるで走馬灯か何かのようにグリューエン大火山での出来事が過ぎっていき────

 

 

「……ズグッ」

 

『どうやら、脳に直接刷り込むらしいから痛いぞ』

 

 

 言うのが遅い。

 あまりにも唐突な頭痛に変な声が漏れた空はズキズキとする痛みに耐えると光は止み、神代魔法が与えられた事を理解する。

 

 

「空間魔法……」

 

 

 手に入れた神代魔法がどんなものなのかを呟いていると、唐突にガコンっと音を立てながら壁の一部が動き、そして正面の壁に光り輝く文字が浮かび上がった。

 

 

「〝人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う〟

 〝ナイズ・グリューエン〟…………ああ、了解した。あの邪神は俺が討滅しよう」

 

 

 シンプル。そう言うしかない言葉に褒められた意思を空は理解し、左手を胸に添えながら目を瞑って空はそう告げる。どちらにせよ、エヒトルジュエは日本の為にも滅ぼさねばならない敵なのだから。

 そう誓い、目を開いて先程の音がした壁へと視線を向ければ、そこにはサークル状のペンダントがあり、どうやら迷宮攻略の証らしい。

 それを手にして一先ず首にかけた空はそのまま外へ出る。

 

 

『さて、どう出るか』

 

「ショートカットがあると思うのですが…………これでは?」

 

 

 用も済み、あとは迷宮から出るだけ。

 また、迷宮を逆走するのか?と考えていたが空はふと、建造物の傍らで地面から数センチほど浮かんでいる円盤があるのを見つけた。転移によるものか?と空は思ったがそこまでのものではなく、ではなんだ?と思考を回していれば素戔嗚尊が口を挟んだ。

 

 

『…………ペンダントをかざすと何かあるんじゃないか?よくある話だろ?』

 

「なるほど」

 

 

 一理ある、と空は先程手に入れたペンダントを指で持ち上げて───

 それが正解であったかのように天井から物々しい音が生じ、すわ何事かと見上げれば天井に円形の穴が開かれており微かだが青空が見えた。

 そして、空は円盤を見下ろして使い方を理解し円盤へと乗る。それにより、円盤は動き始めて徐々にそれなりのスピードで浮かび上がっていく。

 空の記憶ではここは大火山の麓ら辺、そして入口は頂上。最悪、三千メートルは円盤の上である。

 それなりのスピードではあるもののやはり三千メートルというのはどう考えたって時間はかかる、ならば仕方ないと空は荷物袋から皮水筒を取り出して水を飲んでいく。

 如何に疲労が積もりにくいとはいえ、飲まなければろくな事にならないと分かっているから。

 そして、ついでに空間魔法とやらについて見識を深めるべく、空は思考に耽り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよ、我が主の依代。

───フュンフト、これより主命を実行します」

 

 

 まだ、終わることは無い。

 純銀の戦乙女が天より大火山を見下ろした。

 

 

 

 

 

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