ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 感想を見て、シンフォギアの装者たちとの相性とかを考えてみました。
・翼……兄妹防人。コミュを重ねればデュエット出来るぞ
・響……妙に信頼信用が高いぞ。だけど運命にはなれないね
・クリス……コミュを間違えると空がズバリと心の中のモヤモヤに切り込んでくるから友人以上にはなれないね
・マリア……多分、距離が保たれて一番何もないところ
・調……忍術学ぼう
・切歌……イガリマの魂切りを模倣しそうで怖い
・未来……多分関わらない




第二十九刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

「…………」

 

「………えっと、これは…………」

 

『…………なんだ、これは』

 

 

 空、睦月、エンリルの二人と一柱は困惑に包まれていた。

 相変わらず仏頂面だが、直視するつもりがないのか目を瞑り口を閉ざしている空。本当に困惑した様な表情でチラチラと隣に立つ空を伺う睦月。そして、内であまりの光景に思わず天を仰ぐエンリル。

 彼らの目の前にある光景があまりにも予想外過ぎたのである。

 これといった問題もなく、順調に道中の魔物を蹂躙しながら目的地へと進んで行った一行は巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれかかっていて一見ではそこに何かがあるとは分からないような場所に隙間があり、その先に目的地があるのを理解していた為、迷うことなくその隙間へと入ってみれば壁面側は奥へと窪んだ形となっており、外からでは分からぬような広い空間がそこには広がっていて……。

 

 その、空間の中ほどまで進んだ辺りにある壁面の一部に壁を直接削って作ったらしい見事な装飾の長方形型の看板が存在していてそこに刻まれている文字が一行を困惑させていた。

 

 ──おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪

 エクスクラメーションマークや、音符など妙に凝っていて、女の子らしい丸っこい字。『オルクス大迷宮』や『グリューエン大火山』を知っているとあまりに出鼻が挫かれる始まり。

 ここは地獄の谷底ではなかったのか?

 そんな思いがエンリルの心中を過ぎり、ここは本当に迷宮の入り口なのか?と不安になり始める睦月、そして無言の空の態度が此処こそがそうなのだ、と告げていた。

 

 

「ど、どうして……こう……軟派なんですか」

 

『解放者、とは……』

 

「……こういう場合もあるでしょう。人間性と在り方は違う場合もあります」

 

 

 困惑する睦月とエンリルを諭しながら、空は前へ出て何処に入り口があるか手の甲でノックするように窪み奥の壁を叩きながら移動し始めて───

 

 

「風鳴様!?」

 

 

 ガコンッ!そんな音が響くと同時に空が叩いた壁が唐突にグルリと勢いよく回転して、巻き込まれた空の姿が壁の向こう側へと消えた。

 唐突なそれに睦月は手を伸ばして空が消えた壁へと触れれば回転扉の仕掛けが作動し、睦月もまた壁の向こう側へと送り込まれた。

 

 壁の向こう側は暗闇。

 しかし、肉体が肉体であるが故に即座に暗闇に慣れた睦月は自分がこちら側へと入ったと同時に凡そ二十の風切り音が響いたのを耳にし、即座に大剣を手にして自分の前にかざし、盾のようにする。

 そのすぐ後に大剣とぶつかり金属音が幾つも鳴り、全て防いた所で大剣をどかしてみれば床にはこの暗闇に溶け込むような漆黒の矢が二十本転がっていた。

 と、周囲の壁がぼんやりと光り出して辺りを照らし出す。

 どうやら、回転扉の先に広がっていたのは十メートル四方の部屋のようで、奥へと続く真っ直ぐな通路が伸びている。視線を動かせば先に入っていた空はその通路横の壁に立っており、彼の元へ行こうとした睦月はふと部屋の中央に石版があるのに気づいてそれへと視線を向ければ───

 

ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして。ニヤニヤ

それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ

 

 

「…………」

 

 

 そう石版に刻まれているのを見て、思わず睦月は俯き気味になった。

 その心中はこんな風にねじ曲がって育ってしまったのだろう、この迷宮の解放者への憐れみである。本気で可哀想に、と睦月は思っている。

 そんな彼女に空は声をかけ、奥へと続く通路を歩き始める。

 こんなモノはただの警告。ここからが恐ろしき七大迷宮が一つ『ライセン大迷宮』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一言で言えば『ライセン大迷宮』は『グリューエン大火山』とはまた別ベクトルで厄介な場所であった。

 容赦なく水分と体力を削るマグマという環境や、奇襲等を仕掛けてくるマトモに戦えば致命傷などいくらでも作ってくるような魔物といった『グリューエン大火山』に対して、『ライセン大迷宮』の厄介な部分とは何か。

 まず真っ先に挙げるならば魔法が使えない。大峡谷と違い、十数倍程度の消耗では碌に使えない。恐らく、大峡谷以上に強力な魔力の分解作用があるのだろう。故に放出系の魔法は使えない、だが身体強化など自分の身体内で済むような魔法は問題ないようだった。

 つまるところ、それは空の視界内の空間把握に関しては何ら制限が無いという事だった。

 そして、もう一つの厄介な点。それはこの迷宮の至る所に設置されている作った人間の精神性を疑う様なトラップの数々や煽るような言葉の彫刻の数々。

 絶妙にウザいそれらに最初はその人間性を憐れんでいた睦月も無言となっていた。エンリルもこれには先日の様な黙りとした空気をどうにかする、という気にもなれず口を閉じて一行は進んでいく。

 

 そんな黙りとし、底意地の悪いトラップの有無を警戒しながら通路を進んでいくと、複雑怪奇としか表せぬ空間へと出た。

 階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃに繋がりあっており、まるで子供が何の考えもなく無造作に様々なパーツを組み合わせて作ったような空間だった。どれほどごちゃごちゃかと言えば、一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁、と言ったような本当にごちゃごちゃなものである。

 そんな今まで出てこなかったような空間に思わずエンリルと睦月は言葉を零した。

 

 

『迷宮……いや、まあ、…………確かに迷宮チックではあるな』

 

「迷いそうですね……これは」

 

『それで?本当にマッピングしないのか?空』

 

 

 そんな感想を零す中、ふとエンリルは空へとそう問いかける。こんな迷いそうな場所を前にマッピングする気が無く入口に一番近い通路へ行こうとする空はその言葉にもちろん、と呟き続ける。

 

 

「この手の迷宮は恐らく、空間自体が組み変わるものでしょう。ならば、端からマッピングなどしたところでというものです」

 

『……ん、まあ……言わんとしてることは分かる。なら、仕方ない』

 

 

 空の言い分に納得し、エンリルは口を閉じる。

 進んでいく空を睦月が追いかけていき、通路へと入る。入ったのは右側から回り込むようなかたちのスロープ通路でスタスタと二人は通路を進んでいけば、特にこれといった罠もなく二つ奥へと続く道がある空間へと出た。

 罠がないか、と警戒していたというのに何も無く拍子抜け───などするわけはない。二人の警戒はより強くなっていき、次の通路をどちらにするか、と視線を交わして一先ず選んだのは階下へ続く階段がある右の通路。

 先程のスロープとは打って変わって石造りの階段が続いていく。何かトラップがないか、ありきたりであるが踏み込んだ石がスイッチとなってトラップが作動するなどという事がないか慎重に進んでいく。

 

 順調に十数メートル程降りた頃合に刹那、段差が倒れるように動いて階段が真逆の下り坂へと変化した。

 

 

「これは……!」

 

「典型的だな」

 

 

 同時に後方、既に通ってきた階段いや坂の上側へ何かが落下した音が聞こえた。とても重く硬い何か。

 既にこの時点で空はこのトラップが一体どういう罠なのかを理解し、下り坂でしっかりと立てない中振り返り、睦月も空に続いて振り返ればそこには凄い勢いで回転しながら転げ落ちてくる大岩が────

 

 

「風鳴様」

 

「任せろ」

 

 

 瞬間、絶刀が抜刀された。それに伴い振り抜かれ放たれる一閃。

 斬撃は当たり前のように下り坂を切り裂きながら転がり落ちてくる大岩を真っ二つにする。迷宮のトラップなど付き合うつもりなど何処にもないと言わんばかりに大岩からの逃走劇というお約束を無視しての両断。無論、通路にちょうどよく転がり落ちてくる大岩だ、真っ二つにしたところで余計な面倒事が起きるだけ。

 ならば、こうだ、と更に追加に二度、三度と斬撃を振るえば容易く真っ二つになった大岩は更に分断されていって…………。

 ドパァッ!そんな音を立てながら切り刻まれた大岩の中から大量の水がぶちまけられた。

 

 

「……なるほど、合理的だ」

 

「いえ、確かに合理的ですが風鳴様!?」

 

『この坂では流石に対応するのはな』

 

 

 大岩という器より開放された水は勢いよく二人へと襲いかかる。エンリルの言ったように常人ならば対応する事は不可能でこのまま飲み込まれるがしかし、ここにいるのは常人ではない。

 感心したように呟いた空はすぐさま、隣の睦月を俵持って、空間把握により水が来ないだろう位置へ飛び上がり絶刀を壁へと突き刺し水より逃げる。男女の体重が絶刀一振りにかかるが、折れるわけもなくそのまま二人を水と切り刻まれた大岩だったものが階下へと消えていくまで支えて見せた。

 

 

「ありがとうございます、風鳴様」

 

「気にすることは無い。むしろ、俺の一手が余計なことを引き起こした事を謝罪しよう」

 

「いえ、このまま大岩に追われて降りていけばより悪い事が起きた可能性を考えれば風鳴様の選択は文句の付けようなどございません」

 

「……そうか」

 

 

 そんな会話を壁に刺した絶刀に掴まったまま行うのはなんともシュールで内のエンリルが少し笑いそうになっているが、それに二人は気づく様子は無い。が、話している内に段々と自分の状況を客観視出来たのか、どうかは分からないが少し気恥ずかしげに睦月が口を開いた。

 

 

「それで……風鳴様……そろそろ降ろして頂ける、と」

 

「ああ、すまない。どうやら、そこまで気が回らなかったようだ」

 

「い、いえ……私も反応が遅れてしまい申し訳ございません」

 

 

 そんな互いに謝罪をしつつ、絶刀を引き抜いて空は床へと降り立ち、睦月を解放する。床は先程の水のせいで濡れており、二人は滑らないように先の分岐点へと慎重に歩いていく。

 どうやら、このルートのトラップは先程の大岩が最初であり、それを回避して戻るというのは想定されていなかったのかこれといった障害もなく後戻りすることが出来た。

 そんな中、内のエンリルはこの坂を登りきった辺りで油でも垂れ流して滑り落とせば良いのでは?などと考えていたがそれは置いておこう。

 

 

「次は左か」

 

「こちらは上りですが…………いえ、必ずしも降りていくだけではありませんね」

 

 

 そんな会話を挟んで左の上り階段へと進んでいく。

 だが、その階段も二メートル程上へあがったところで終わり、あとは真っ直ぐな通路が続いているばかり。

 先程の大岩だののトラップを味わった以上、二人の中に特に何も無い、という考えはなく警戒しながら進んでいく。

 そして、案の定それは見つかった。

 あからさまに、とは言わないものの僅かに違う石畳。間違いなく踏み込めばトラップが作動するだろうそれをわざわざ踏み込む理由はあるだろうか?

 そんなものはない。だから、踏むことなく避けて進むのを選ぶ────

 

 

「俺ならば確かにそうするだろう」

 

「いえ、あの、風鳴様!?」

 

 

 瞬間、けたたましい金属音を響かせながら背後の通路より現れるのは回転ノコギリ。通路の壁が僅かにスライドしノコギリの通り道が作られ。回転ノコギリのさらに後方つまりはこの通路の入口はガコンっと音を立て閉じられている。

 踏み石を踏んでいないのに作動したトラップに空は二段構えに納得し、それを睦月が何を言ってるのか!?と声をあげる。

 普通ならば、先程のように絶刀を振るい回転ノコギリも閉じた入口もどちらとも当たり前のようにたたっ斬るのが一番であるがしかし、斬ったところでという奴だ。

 

 なら、お望み通りに空は通路の奥へと向かう。困惑しつつも睦月はそれを追っていく。軽い走りであるが、容易く二人は回転ノコギリを突き放していくが……その前方にあるのはまさかまさかの袋小路。

 如何にノコギリより早かろうと袋小路では逃げ場なく死ぬだろう───すぐに復元するだろうが。

 

 

「ッ!風鳴様、前が!」

 

「どうやら、確殺のようだが────」

 

『いや、違うな。床をぶち抜け道返玉(ちかえしのたま)

 

「────御意」

 

 

 刹那、睦月がその手に一振りの大剣を取り出すと同時に指示通り一切躊躇無く床へと叩き付けた。

 粉砕する床、その下には空間が広がっており重力に従って睦月と空は落下していく。

 そんな彼らを狙う様に四方の壁より風切り音が響き矢が放たれていく。空中落下という隙において、致命的であるが、だからどうした。

 視線を交わす事もなく、声を交わす事もなく、睦月は動かず、空は抜刀する。そして振るわれるのは四方への斬撃による檻。

 無数の斬撃は放たれた矢を切り裂き、そのまま四方の壁に深い傷跡を残していく。そんな中、睦月は眼下に迫る別の広間の存在を確認し、自分たちが落下する先におびただしい数のワーム型の魔物が詰められ蠢いているのが見えた。

 ならば、と取り出すのはもう一振りの大剣。

 

 

「はァッ!」

 

 

 魔物へ着地すると同時に双大剣を振り下ろし、落下の威力を殺すと同時に魔物を破壊する。威力が威力だからか、魔物は吹き飛びその勢いままに他の魔物すらも壁へと押しやり壁の染みに変える。

 だが、まだ魔物は残っている。

 故に着地した空が絶刀を振るい、即瞬殺。

 その際に体液がぶちまけられたがすぐさま、睦月が空を抱きかかえその場より跳躍し先程までいた天井の空間へと逃げ込み、体液を回避する。

 再び、広間へと戻った二人は武器をしまい、グルリと視線を巡らせる。広間には次の通路へと続く道は一つしかない。

 無言のまま、二人は次の通路へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────





 誤字脱字報告ありがとうございます。


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