ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 感想、ありがとうございます。
 ブラックアートの部分をロストテクノジーと書いていた点の御指摘、改めてありがとうございます。
 これからも誤字などに注意していくのはもちろんですが、もしも指摘があればお願いいたします。




第三刃

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 天蓋付きのベッドというなんとも言えぬ西洋的と言えばいいのか、ファンタジー的といえばいいのか、そんな代物に嘆息しながら、空はベッドに腰掛けて今日あった出来事を反芻する。

 

 

「……今日はあまりにも、状況が変わるものだ」

 

 

 まず、真っ先に思い返すのは学校でのこと。

 当たり前のようにいつも通り───前日にツヴァイウィングが行うライブのチケットを手に入れた事もあり地味に機嫌も気分も好調であった。特に珍しく休暇が取れた為、共に当の本人には何も伝えず連絡もいかせないように徹底した上で父と共にライブにいく約束があったのも理由の一つだろう。───の一日を過ごしていたというのに気が付けば、こんなトータスだのという異世界。

 あまり気分がいいはずがなかった。

 

 

「既に騒ぎになっているだろうな。鎌倉も、翼程ではないが俺が消えた事で慌ただしくなる……いや、アレの事だ。すぐに切り捨てるだろう」

 

 

 白昼堂々行われたクラス単位───数人の漏れはあるが二十人も越えればクラス単位でも問題は無いだろう。───の人間が唐突な集団神隠し。

 事件になるのは間違いなく、そして真っ先に考えられる特異災害による可能性も恐らく現場の状況ですぐに否定されることだろう。

 と、なれば父や叔父といったそういうモノの情報を知っている人間がまず思いつくのはブラックアートによるモノ。だが、哀しきかな、日本政府はそこまでブラックアートについて詳しくはない。深淵の竜宮に確かにブラックアートに関する代物を保管してはいるがどれも危険物極まりなく、それらについての情報もいまだなく────そこまで思考を回して、空はその思考を切り上げた。

 今必要なのはそういったことではない、と。

 空の記憶に保存されている情報にはこの状況をどうにかする方法などそれこそ、とある完全聖遺物しかないだろうがそれは並行世界云々であり、恐らくどうしようもない。

 故に思考は次のものへと切り替わる。

 思い返すのはこのトータスに召喚され、イシュタルの口から放たれた事実によってパニックを起こした同級生らの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 収まらないパニックの中で天之河が立ち上がりテーブルを叩く事でパニックは一瞬止まり注目が集まる中

 

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人たちが滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくことなんて俺にはできない。それに、人間を救うためならに召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」

 

「俺たちには大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、みんなが家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 

 ギュッと握り拳を作り、そう宣言する天之河。

 そんな姿と宣言を聴き、絶望の表情だった生徒らが活気と冷静さを取り戻した挙句、希望を見つけたかのような表情を見せていく。

 それを見て、ハジメは何を言っているのか理解できないとでも言いたげな表情を見せ、空は胸中で舌打ちしながら目を瞑る。

 いつものメンバーが賛同していき、それに続くように他の生徒らが賛同していく。その様子を見て畑山先生がそれを止めようと声を挙げるがしかし、無駄なカリスマを発揮した天之河を止めるのはもう遅い。

 自慰行為だ。

 こんなもの、天之河の欲を満たすための自慰行為といったい何の違いがあるというのか。せいぜい意識しているか無意識かの違いしかないだろう。

 

 

 そうして、空達の異世界での戦争参加が決まってしまった。

 といっても、如何に規格外の力を宿しているとはいえ、基本的に一般人でしかなかった彼らが戦う術を知っているわけもなく、そんな状態で戦場に出向いたところで案山子や肉壁以外の何物でもない。

 流石にイシュタルらもその辺りの事情を予想していたようで、その辺りの受け入れ態勢を麓にある王国、『ハイリヒ王国』にて整えているらしく、イシュタルによって空達は王国へと移動していった。

 移動の際に雲海よりも高所である教会から王国の王城へと魔法を用いるといった演出じみたものを見せ、より一層生徒らをその気にさせていたがやはり、空からすれば露骨でしかなくその表情はより顰めたものになっていた。

 

 王国へと着いて早々に一行はイシュタルの後に続いて所謂玉座の間へと導かれ国王を始めとする王族の紹介を受けた後、晩餐会へと参加した。

 洋食と変わらぬ見た目であったが、ときおり桃色のソースであったり、虹色に輝く飲料が出るなど未知がそこにあった。さしもの、空もさすがに夕食を抜くのもどうか、と考えたのか自身の感覚を頼りに警戒しつつある程度は口にした。

 晩餐会の最中、衣食住を保障されている旨と訓練における教官らの紹介を受けた。その後は解散し、各々に与えられた個室に案内されたわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そうして今日の出来事を反芻し終えた空は一度眼を瞑って────

 

 

「何時まで沈黙しているつもりだ」

 

 

 自分一人しか居ないはずの部屋で誰かに声をかけるようにそう口にした。

 いったい誰に声をかけたというのだろうか。確かに空は知己に隠密を得手とする人間がおり、そういった隠密を索敵する技術を身につけている。

 ならば、監視か何かでも見つけそれに声をかけたのだろうか。

 

 

 

 

────否である。

 

 刹那、空の左側の視界がまったく異なる光景を映した。あまりにも唐突なそれに空は思わず瞬きをするがしかし光景は途切れることは無かった。

 その情報から空はすぐにその光景は左眼で見ているのではなく視神経に直接送られているものだと理解し警戒を強めた。

 

 

『そう、警戒することは無い』

 

 

 だが、その警戒もそんなどこからともなく響いた声に霧散した。

 左の視界に広がるのは何処かの屋敷、いや酷く見覚えのある屋敷。鎌倉の風鳴本家の屋敷がそこには広がっていた。そして、その奥。

 記憶にある限りでは祖父であり風鳴の長である男、風鳴訃堂が座していた上座に風鳴訃堂の代わりに座している人影。

 曖昧な影であるがその姿が読み取れた。

 健康的に焼けた小麦色の肌、その上から纏ったまるでアーマースーツか何かの様な硬質的な深い蒼と黒の服と、更にその上に着物のようにも衣褌のようにも思える衣服を崩して着ている。そして、何よりもその顔が問題だ。

 風鳴訃堂、風鳴八紘、風鳴弦十郎、そして自分や妹といった風鳴の一族に酷く似通った顔立ちの偉丈夫。

 いったい誰だ、と口にするよりも早く空はどうしようもないほどにこの誰かは上位者であると理解した。まるで遺伝子に刻み込まれているかのように、当たり前のように理解した。

 そんな彼の意思を察したのだろう、男は話し始めた。

 

 

『はじめましてだな。我が末、我らが大和が子よ』

 

 

────アヌンナキが一柱、エンリル。大和が名を素戔嗚、神素戔嗚尊である。

 

 そう言い放った男、エンリルを前に空はいつの間にか無意識に薄く笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翌日、風鳴空はその心中をどこまでも清々しい正しく名前の通り美しい青空のようなものにしていた。

 それもこれも昨晩の会合が齎したものだ。

 アヌンナキ。

 その単語の意味を知る人間など、この時代においては空を含め一握りの者だけだろう。

 アヌンナキ・エンリル。またの名を国津神・神素戔嗚尊。

 すべてを聞かされた空にとってもはや、悩むことなど何もなかった。故に清々しく空は今日から始まる訓練と座学へと臨んだ。

 

 集められた生徒らと畑山先生にまず、一枚の銀色のプレートが配られた。縦7センチ、横12センチほどのプレートを不思議そうに見る生徒らに訓練の教官を務めるらしい騎士団長メルド・ロギンスが説明を始めていく。

 

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 

 メルド団長が非常に気楽な喋り方をするが、曰く「これから戦友になろうってのに何時までも他人行儀に話せるか!」という豪放磊落な性格から導かれた考えで接すると決めたからのようで、数人の生徒の緊張に強張った肩も柔らかくなっている。

 年上に慇懃な態度を取られるのも居心地が悪くて仕方ないのだろう。

 

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 『ステータスオープン』と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 

 聞きなれない単語に疑問を口にした天之河にそうメルド団長が返し、付け加えられた簡易な説明に生徒らは一様に納得し、摘まんだ針を顰めながら見る。

 必要であり最低限でいいとはいえ、針を自分の指に指すというモノはなかなか勇気がいるものだ。そんな中、思い切りのいい数人が刺していくのを見てだんだんと同じように軽く刺していく。

 そうして浮き上がった血を魔法陣に擦り付けると魔法陣が一瞬淡く輝いて、途端にステータスプレートの色が変化していく。

 その現象に瞠目する彼らにメルド団長が説明を始めた。

 曰く、魔力というモノは人それぞれ違う色であり、プレートに自己情報を登録することで所持者の魔力色に合わせて染まっていくらしい。プレートの色と魔力色の一致で身分証明とするようだ。

 空は視線を動かし、周りのプレートの色を見ていく。

 

 一番近くにいたハジメは空色に染まり、天之河は純白、八重樫は瑠璃色と、皆それぞれ特徴的な色合いに変わっていき、空は自身のプレートへと視線を落とす。

 プレートは確かに銀色から変化していた。だが、青だの赤だの緑だのといった豊かな色合いには変化していない。では、何色か────

 

 

『鋼、色とは。ガワに引きずられたのか。まあ、気にする事はないだろう。これも立派にお前の色だよ』

 

「はい」

 

 

 自身の内から響いた声に空は周囲に聞こえぬ程度の声音で返事を返す。響いた声が周囲に聞こえているかもしれないという不安など微塵もなく、空はこの声はあくまで自分の脳に直接送り込まれているものだと理解していた。

 そして、色合いばかり見ている周囲より先にプレートに記された自らのステータスへと視線を走らせる。

 

 

===========

 風鳴空 17歳 男 レベル:1

 天職:防人

 筋力:150

 体力:100

 耐性:90

 敏捷:130

 魔力:55

 魔耐:100

 技能:国津遺伝子・状態異常耐性・剣術・見切・縮地・先読・気配感知・言語理解

===========

 

 

 なんだ、これは。

 一瞬、そう口に出そうになったが空はいつも通りこれといった表情の変化を見せず、胸中で呟いた。

 なんだ、これは。

 

 

「(筋力等々の数値は理解できるがしかし、技能。そう技能、なんだこれは?恐らく、妹成分が足らずに幻覚でも見ているのだろう……ふぅ)」

 

『そんなわけがないだろう。現実を見ろ』

 

「(ほとんどの技能についてもまあ、納得がいこう。だが、一番最初のこれはなんだ。いや、昨晩の事があるから理解は.......)」

 

『そう、嘆くことはない。我が末、十中八九、天職と技能は俺に原因があるのは間違いない。まず、天職だが……言わずもがな、風鳴であるのだからな。『国津遺伝子』、俺の血筋で調整してきた結果が見事に出てきたわけだ。しかし、なるほどこの辺りまで出てくるのか、おもしろい』

 

 

 胸中で戸惑う空に声、エンリルは呵々大笑しながらステータスプレートについて考察をし始めるが空はそれを止めて説明を求めていく。

 

 

「(できれば、説明の続きを伺いたいのですが)」

 

『ああ、すまない。それでだが、間違いなく俺による遺伝情報の操作が由来したものだろう。そして、シェム・ハの断章の代わりに俺の意識が存在している証拠だな。恐らくだが、お前の妹や父親、叔父も訃堂も同じ技能が出るはずだ。だが、別に身体能力自体は常人の中でもそれなりになるだけでだな』

 

「(そうですか。なら、俺が気にする事はなにもない、と)」

 

『然り。そういう事だ』

 

 

 説明を受け、納得したように空は一度ため息をついて、すぐ近くで騒ぎ始めた馬鹿たちへとその視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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空「老が…祖父と叔父のアレも国津遺伝子で」

エンリル『え、なぁにそれぇ……怖っ』

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