ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 遂に本作も30話になりました。応援ありがとうございます。


 ギャラルホルンやシンフォギア時間軸を考えたりするとマザー・ヨルムンガンドとか明らかにたたっ斬られそうなんだよなぁ。
 みんなのドクター・ウェルこと『英雄志向(ドン・キホーテ)』に殺意ある護国魔星群とか……うーん




第三十刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

「……………………」

 

『……………………』

 

 

 『ライセン大迷宮』攻略開始から早四日目。

 最初の部屋で睦月と内のエンリルは黙りこくっていた。

 睦月は横座りしながら眉も下がり気味で目を瞑り沈痛そうな表情で、内のエンリルはやる気が無くなったかのようななんとも言えぬ空気を漂わせている。

 そんな二人に対して、空は中央の石版に背を預けながら塩漬けの肉を食べていた。

 その表情はこれといって辛そうな表情でも何か投げやり気味な空気を醸し出している訳でもない。ただただ我関せずとでも言えばいいのか、余裕があった。

 

 

 さて、一体どうしてこのような空気が漂っていて且つ、一番最初の部屋にいるのか。その理由を明かすには一日目へと巻きもどる必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワーム型の魔物がいた広間を抜けた二人は一本道へと足を踏み込む。

 通路は先程までとはまた打って変わって砂ばかりが広がっており軽く足が埋まる。恐らくは移動速度を鈍くさせる目的なのだろう。

 そんな砂の通路を二人は進んでいき、百メートルは優に歩いたであろうタイミングで、ガコンッとトラップが作動した音が響き、今度は何かと睦月が視線を巡らせて────

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 瞬間、その肩を掴まれ空に引き寄せられた。

 少女らしい小さな悲鳴をあげながら、空へといったい何をという視線を向けてすぐに先程まで自分がいた場所へと視線を向ければ、そこには通路の幅と同じくらいの幅の大きなギロチンが砂へとその刃を埋めていた。

 下手をすれば間違いなく両断されていたろう事に睦月は軽く頬を引き攣らせた。例え両断されたとしても復元はできるが痛いものは痛いのだ。流石に睦月も両断されるなどごめんこうむる。

 そして、睦月は不意に視線を天井へと向けて…………。

 

 

「これ、は」

 

「見ての通りだ。走るぞ」

 

 

 驚愕に一瞬停止したが、空の言葉にすぐさま正気に戻り共にこの砂の通路を走り始めた。

 それを追うように一拍遅れで背後からドスン、ドスンと天井に仕込まれていたギロチンが次から次へと落下していく。

 砂に足が取られ僅かに速度が落ちるのが普通だろうがしかし、二人は身体能力を活かして足が砂に沈むよりも先に次の足を出して走っていく。

 睦月がチラリと視線を後ろへ向けてみれば、肩越しにギロチンが恐ろしい速度と勢いで砂へと埋まっていく様はさながらミンチを作っているようである。

 そうして駆け抜けていき、砂の通路から新たな大部屋へと出ればそこにあるのは巨大なプール。

 

 そのまま落下しプールへと飛び込む事となるが、空はすぐさま睦月を抱き上げ、寸でのところで壁際へと跳躍した。

 

 

「風ッ鳴様ぁ……!?」

 

「すまない」

 

 

 抱き上げた際に彼女の勢いもあって腕がラリアットの様に入ったのか、痛みに呼気を漏らした彼女に空は謝罪しながら、壁を軽く走りながら先程入ってきた通路出口の向かい側にある新たな通路へと飛び込む。

 いったいどうして、そんな選択をしたのか。

 それは二人が部屋へと入る際に、蹴り上げられ先に部屋へと入っていった砂がプールに触れた途端、白い湯気を立たせたからに他ならない。現に壁を蹴った際に出た石粒が音を立ててプールに消える様は誰が見ても溶解液の類でしかない。

 だから、睦月も空の判断に文句など口にするつもりはない。ないが、それでも流石にラリアットの様に鳩尾に決まったのは文句が言いたくなるのは仕方ないだろう。

 

 

 そうして、飛び込んだ先には短い通路がありすぐに新たな部屋へと辿り着いた。

 その部屋は長方形型で、奥行きもあるいままでとはまた違った部屋であった。とりわけ、両サイドの壁に二メートル近い武装した騎士甲冑が並んでいる。

 それだけでもこの部屋がいままでのものとは大きく違う雰囲気を感じさせており、そして何よりも目を引くのは最奥にある大きな階段と祭壇、そして荘厳な扉だろう。よく見れば、祭壇には菱形の黄色い水晶らしいものが置かれている。

 この時点で空も睦月も内のエンリルもこの部屋のトラップが何なのかを察しつつ、早々に事を終わらせようと祭壇へと走っていく。

 

 予定調和の様に、部屋の中央辺りを過ぎたタイミングでガコンッと音が響けば、両サイドの壁からガシャガシャと鎧の音が響いていく。だが、そんなものなど知らぬ存ぜぬと二人は走っていき、睦月を祭壇へと向かわせて空は階段の手前で絶刀の柄に手を添え、振り返る。そこにいるのはだいたい五十体程の盾と大剣を携えた騎士甲冑。それを前にして、空は相変わらずの仏頂面ながら抜刀した────。

 

 

 

「これは……封印ですか。強引に破れなくもないですが…………」

 

 

 空と騎士甲冑らの戦いが始まろうとする中、任された睦月は扉を前に思考を回す。どうやら、扉は封印が施されているようで何らかの条件を満たさねば開かぬようになっている。一瞬、騎士甲冑の討伐が条件か?と睦月は考えたがすぐ、扉には何やら三つほどの窪みがある事を見つけた。

 その窪みには何らかの意味があるのは間違いないと睦月は考え───もしかしたら、実は何も意味がなくてただの無駄に時間を浪費させるというこの迷宮の解放者の悪ふざけの可能性が脳裏を過ったが───、背後の祭壇へ振り返る。

 祭壇の上に置かれていた黄色い水晶は正双四角錐の形状で扉の窪みの形と数は合わないが、よくよく見てみれば水晶は幾つものブロックで構成されているようで睦月はそれを次々と分解しながら、扉の窪みへと視線を向けて組み合わせ始める。

 

 

『…………ふむ、こちらでも組み合わせ方を試行してみよう』

 

「ありがとうございます」

 

 

 内のエンリルがそう言って、睦月と共に水晶の組み合わせ方を試行し始める中、やはりと言うべきか空はひたすらなまでに騎士甲冑らを圧倒していた。

 盾も大剣も関係無く、騎士甲冑の厚さなど知らぬ存ぜぬと言わんばかりに絶刀を振るう度に騎士甲冑らを切り裂いていく。

 だが、すぐに全滅などということにはならない。流石は大迷宮と言うべきか、切り裂かれ沈んでいく騎士甲冑はその兜のスリットに灯した光と同じ色の光を全身に宿せば瞬く間に再生して再び空へと向かっていくのだ。

 その様子を見ながら、空はその表情を欠片も変えずしかしその視線を僅かに絶刀へと落としたと思えば、微かに笑って見せた。

 

 

「いくら切っても壊れない、か。型の確認に丁度いい」

 

 

 そう呟きながら、空はすぐに表情を戻して絶刀を振るい始める。鞘を用いながら、時折自分の身体を使いながら、八重樫流の技を練習するかのように空は騎士甲冑らへと試していく。

 何度でも何度でも再生していく騎士甲冑らを相手に空は自らの技を放っていき、そして───

 

 

『空』

 

「御意」

 

 

 後方へと跳び退くと共に斬撃を放ち、騎士甲冑らを切り刻んで空は離脱する。

 そのまま空は開いた扉前に着地し、睦月と共に扉の先へと入ればそこは何も無い四角い部屋だった。

 騎士甲冑らが入ってこないように扉を閉める。

 

 

「何もありませんね」

 

「やはり、トラップだったか」

 

『性根が腐ってるな』

 

 

 あんな封印をしておいて、何も無い事にエンリルが辛辣な評価を下し、睦月はそれに頷き空は何も語らない。実際、嫌がらせだったと考えるのが一番わかりやすい事柄であるのだから。

 では、ここから出るか、と空が扉へと手を伸ばした瞬間、何度目になるか分からないガコンッという音が聞こえたと思えば、部屋全体が揺れ動き横向きに動き出したのを感じた。

 あまりに唐突な動きだが、二人はよろめくこと無くその場でしっかりと立ったまま揺れが収まるのを待つ。そして、次に真上からの圧を感じてこの部屋がどこかへ向かってるのを理解し、何度も何度も移動する方向が変わっていく。その度に身体がGで振り回されそうになるが、二人はやはりそんなものは意にも介さず、気がつけば急停止した。

 もはや、動く様子もなく睦月と空は視線を交わして一度頷き、睦月が扉を開く。ああも移動したのだ、扉の先は変わっているのは当たり前であり、きっとこの先が大迷宮の最深部なのだろう、と。

 

 

 扉を開けた先は中央に石版があり、左側に通路があるというどこかで見たことがあるような部屋で睦月は目を丸くし、空は目を瞑ってそのまま部屋へと入っていく。そんな空の背を追いかけようとして、ふと睦月は自分がいる側の部屋の床に文字が浮き出てきたのを見つけて────

 

 

ねぇ、今、どんな気持ち?

苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?

ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ

 

 

「…………」

 

『…………』

 

 

 睦月と内のエンリルは言葉が出なかった。

 そして、そんな一人と一柱へと追い打ちをかけるように別の文字が浮かび上がり…………。

 

 

あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します

いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです

嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!

ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です

ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー

 

 

「…………」

 

『…………』

 

 

 睦月は嘗てフュンフトであった時には一度たりとも感じなかった何か、妙な感情を胸に抱き、エンリルはふつふつと湧き上がるものを感じた。

 睦月はその何かを抱きながら、部屋を出て空へと視線を向けて何も言うことはなく通路へと歩いていく。無言の圧に空は言葉も何も返す事はなく、睦月の後を着いていく。

 

 

 かくして、一行による『ライセン大迷宮』攻略は再スタートしたわけであるが…………なんというべきか、スタート地点に戻されるのが十回、致死性トラップが襲いかかってくるのが六十を超え、致死性があるわけでもなくただただひたすらなまでに嫌がらせの為だけのモノに巻き込まれて二百ほど。

 一度目のそれと違い、次々と床や壁に現れていくミレディ・ライセンによるウザったい文章。女の子らしい丸っこい字がより一層ウザさを誘い、それに心が乱され嫌がらせに引っかかる睦月。身体能力などを武器に回転数は上げれているが一向に最奥に辿り着かず、四日目になり冒頭へと至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや睦月の心は折れてはいないが、諦めかけている。フュンフトであった時ならば、作業的にこなし、ミレディ・ライセンによる煽り文も無視していたのだろうが睦月となってから、ある程度感情などへの調整もありこのざまだ。

 エンリルはエンリルで段々とこの大迷宮が面倒臭くなり始めており、このまま眠ってしまいたいと思い始めていた。

 そんな一人と一柱に対して、空は特にこれといって何か言うまでもなく、煽り文も気にしていない為、余裕があった。だからだろう、エンリルはそんな空に疲れたようなため息をつく。

 

 

『…………お前、何かないのか言うことは』

 

「特には。ですが強いて言うのならば、次に行きましょうか」

 

「風鳴様……泣きそうです私」

 

 

 もう一度煽られて来いとでも言うように言葉の鞭を振るった空に睦月は思わず手で顔を覆う。

 別に空とて意地悪目的でそう言っているわけではない。何を言ったところでどちらにせよこの大迷宮を攻略せねばならぬし、後回しにしたところでまたここに来るのだ。

 つまるところは嫌な事を後でぐだぐだとやるのか、今さっさと終わらせるかの違いでしかない。

 睦月としてもそれは分かっている分かっているが、多感となって早々にこんな煽り地獄などやってられないだろう。だから彼女は動かず

 

 

『…………もういい』

 

 

 エンリルは決めた。

 

 

『付き合うのは辞めだ。斬れ、天羽々斬』

 

「御意───」

 

 

 何でわざわざこんな煽り地獄に付き合わなければならないのか、と。

 その意思を受け取り、神命を受けた空は速やかにそれを実行する。

 抜き放たれるのは絶刀。吹き出すのは翡翠の粒子体とそれに纏われる鋼の魔力光。魔力を分解する大迷宮であるがしかし、粒子体に付与されている魔力はある種の身体強化の様なもの故に分解されることはなく溢れていく。

 その光景を見た睦月の表情はもしかして、と頬を引き攣らせている。

 その想像は正解だ、と言わんばかりに鋼の魔力光を纏い星と化した天羽々斬は即座にその絶刀を振るう。

 

 

 壁を、床を、何もかも触れるもの一切斬滅していくその様、まさしく神威の絶刀そのもの。

 無論、適当に斬ったわけではない。視線による空間把握を行っていた空は一日目でも見た騎士甲冑やそれ以外の仕掛けなどが微かに魔力で遠隔操作されているのを把握し、そしてその魔力がこの大迷宮のどの辺りから来ているのかをこの一日目で把握し終え、後はそこまでの道を文字通り斬り開けと言われればいつでも行動に移せた。

 その結果がコレだ。

 

 

「行くぞ」

 

「……はい」

 

 

 たった一振りで目的地までの道を斬り開いた空に続いて睦月が道へと入っていく。

 少し長めの空中落下を経て、二人はとある空間へと辿り着いた。

 直径二キロ以上はあるだろう球状の空間、そこには様々な形状、サイズの鉱石か何かで出来たブロックが浮遊しては不規則に動いており、明らかに重力を無視しているように見える。

 そんな空間の通常の重力下における天井を斬り裂いて入ってきた二人はブロックと違ってしっかりとした重力に従いながらブロック群で構成された足場へと着地する。

 

 いままでの部屋とはまったくもって空気が異なる部屋に、睦月は双大剣を手にする。

 

 

「来るぞ」

 

「はい」

 

 

 そして、それに応えるように足場の奥、途切れ何も無い場所の下から何かが猛烈な勢いで上昇してきて姿を現した。

 それはこの四日間で二、三度は見た騎士甲冑を巨大に、二十メートルほどの巨躯へと変えた様な見た目だが、その武装は大剣や盾ではなくまったくの別物に変わっている。右手は赤熱化しており、左手には太めの鎖が巻きついておりフレイル型のモーニングスターが握られている。そんな巨大な騎士は殺意に濡れた光を兜に宿して─────

 

 

「死になよ、神の奴隷」

 

「人違いだ」

 

 

 容赦も躊躇も無く振るわれたモーニングスターと絶刀が金属音を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────


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