ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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第三十一刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 ギャリィィィインッ!!

 そんな金属音が空間へと響き渡る事で戦闘は幕開けた。

 振るわれるのは絶刀、振るわれるのはモーニングスター。

 ぶつかり合った際に生じた衝撃波が空間を走り、浮かんでいるブロックを幾つも破壊した。

 目の前の巨大騎士より感じられるのは濃密な殺意。出会ったばかりだというのにいったいどうしてこうも殺意を向けられるのか?そんな風に二人と一柱は考え

 

 

 

 

 

 

           ────そんなわけがない。

 

 

 理解出来る。分かっている。知っている。

 目の前の巨大騎士がどうしてこうも濃密な殺意を露わにしているのか、この騎士の中身がいったいなんなのか、全て、全て。分かっているのだ。

 

 

『だからこそ、言わせてもらおうか』

 

 

 瞬間、上空より何かが高速で落下してくる。空気の流れでそれを察知した睦月はその場より跳び退き、空は逆に巨大騎士へと迫る。

 一拍遅れで足場へと着弾するのはおよそ十個のブロック。ただのブロックと思うなかれ、恐らく天井に敷き詰められていたブロックなのだろう。一つ一つが十トンはあるのは間違いない。それがさながら隕石のように降り注ぐ様は明確にお前たちを殺すという意思の表れだ。

 

 

「邪神の眷属と間違われるのは心外だ」

 

 

 隕石をわざわざ自分に降らせるわけは無いだろう。普通に考えれば、という思考のもと空は巨大騎士へと接近しその絶刀を振るう。

 

 

「近づかないでくれるかな」

 

 

 だが、そんな接近を巨大騎士は許可しない。

 瞬間、空へとかかるのは凄まじい程の反発感。巨大騎士を中心として発生した不可視の力は軽々と吹き飛ばす。ただの衝撃波ならば、踏み込み切り開くがしかしまるで落ちていくかのように空は床を踏みしめることなく、降り注ぐ隕石の元へと飛んでいく。

 間違いなくこのまま隕石は空と激突し、すり潰す事になるだろう。

 

 

 

 だが、当たり前のようにブロックは両断される。落下の威力すら斬り殺しながら、空はそれを足場にして改めて巨大騎士を見る。

 しかし巨大騎士は余裕など与えるつもりはないのか、鎖がついたモーニングスターを空めがけて射出する。

 空はそれを迎撃する為に絶刀を構え、振るおうとするが距離が五メートルを切ろうタイミングで空はその場から離脱した。

 その選択は正解であった、と応えるように一拍遅れで足場であったブロックの残骸へとモーニングスターの先端が触れた途端、ブロックの残骸は一瞬で圧縮され先程までのサイズはなんだったのか、という程に小さくなりそのまま砕かれた。

 

 

『……収束?いや、違うな……これは……重力?』

 

「なるほど、つまるところ先程のは重力の方向を変えられた、という事ですか」

 

『だろうな』

 

 

 で、あればどうするか。

 と、呟きながら真正面からではなく横合いから回り込むように走りつつ、後方の睦月を一瞥する。

 後方ではいつの間にかに現れていたのか、何体もの騎士甲冑らが睦月を嬲り殺そうと包囲しながらその大剣と盾を駆使していた。

 

 

「所詮は木偶、そんなもの如きに私が止められると御思いですか?」

 

 

 だが、そんな騎士甲冑らは睦月が振るう双大剣が次々と破壊していく。無論、前回のように破壊された騎士甲冑は段々と修復され元に戻っていく。

 

 

「再生したところで────」

 

 

 破壊。破壊。破壊。破壊していく。

 再生した端から、その鎧を真っ二つに、粉々に、ガラクタ同然にボロボロへと変えていく。

 空と巨大騎士の戦いを邪魔させない、と一人の戦乙女は舞い踊る。

 

 

 

「───一切斬滅」

 

 

 刹那、閃くのは無数の鋼閃。

 鋼の魔力光を纏った絶刀と天羽々斬が繰り出す絶技は重力など知らぬと言わんばかりに巨大騎士へと迫り、そのヒートナックルのように赤熱化している右腕を斬り飛ばして幾多にも刻んでみせた。

 巨大騎士もまさか切り刻まれるとは思っていなかったのか、驚愕で一瞬動きを止める。だが、相手は歴戦の猛者と言うべきか、すぐさま他の騎士甲冑同様切り刻まれた右腕を元に戻そうととし────そんな僅かな隙を天羽々斬が見逃すわけもない。

 一度、斬り飛ばしたのならば、問題ない。

 次に振るわれるのは、万物断ち切る断絶刃。

 

 

「アザンチウムの装甲を……!!────これは」

 

「面白い。これが解放者か」

 

 

 空間魔法を得て、フュンフトとの殺し合いを経て、明確に境界を認識する様になった天羽々斬はもはや、確実に物質と魔力を繋げている境界を斬り裂く業を修得していた。

 切り刻まれたとて、再生する事が出来る装甲。それを繋げ直そうとした瞬間にそれら同士の繋がりが断絶した。もはやそれらを元のように繋げるには改めて魔力の調整が必須であり、時間も必要だ。

 つまるところ、そんな時間など出来るはずがない。

 それを瞬時に理解した巨大騎士はすぐに右腕は使えないとし、手元に戻していたモーニングスターを迫る天羽々斬へと振るいながら、魔法を行使する。

 

 

「“壊劫”、“壊劫”、“壊劫”」

 

 

 絶対零度と言うべき程に冷たい声音が響き、三度頭上より重力塊が天羽々斬めがけて落下していく。その重力塊は一つ一つが到底逃げられない程の規模であり、巨大騎士自身も巻き込まれるような規模だが、傷を修復出来る事や、自身の魔法である以上対処法はあるのだろう。

 一発だけならば、まだ対処法が有るのだろうがしかし、それが三度。使徒の復元による擬似不死があろうともこれでは復元する事すらままならないだろう。

 

 

「なるほど、確かにこれでは死ぬだろう。流石に俺も重力の塊を斬るというのは無理があるな」

 

 

 そう言いながら、天羽々斬はしかし構えを解かない。例え、ここで足掻けず死ぬとしても諦めるわけにはいかないという事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「────だが、所詮は魔法でしかない」

 

 

 重力の塊?

 結局の所、魔法なのだろう?ならば、魔法を構成している核の部分があるのは当然であり、此処に在るのは万物断ち切る天羽々斬である。

 ならば、末路は当然の事だ。

 

 

「ふ、巫山戯るな!!」

 

『分かるとも。魔法だから、という理由で両断するなどイカれている───だが、だからこそ俺の天羽々斬だ』

 

 

 

 『そうあれかし(万物断ち切る天羽々斬)』と叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。

 重力塊如きが断絶刃の前でそのままにいれるわけがなかろうよ。

 もはや、邪魔なものは何処にもない。このまま斬り裂くと言わんばかりに天羽々斬は疾駆し巨大騎士へと迫る。そんな彼へと巨大騎士は近づくなと言わんばかりにモーニングスターを振るう。

 だが、遅い。

 モーニングスターの先端に重力場が発生し、天羽々斬を拳大ほどの肉塊へと変えてやろうと迫るがしかし、その重力場ごと絶刀が振るわれて、モーニングスターが斬り裂かれていく。

 武器を失った巨大騎士が取る手段など、もはや一つしかない。

 

 

「来るな!此処で死ね───神の奴隷!!!」

 

 

 そんな叫びと共に放たれるのは、極光と蒼焔に雷球が一つに圧縮された事で混じりあった三属性の流星群。

 “全天・星落とし”

 三つもの破壊力が高い上級魔法を圧縮して放たれていくそれらは一つ一つが正しく人外を消し飛ばす火力であるがしかし、相手は天羽々斬。

 降り注ぐ流星群を斬り裂いていく。

 その間に、巨大騎士は滑るように後退していきながら、次の手を打つ。

 

 一瞬、睦月と戦っている騎士甲冑の操作を打ち切り、巨大騎士は天井のブロックを操作する。本来ならば、騎士甲冑以外に複数を動かすのは彼女には難しい。

 落とすだけでも数百単位で動かすのはより一層集中力が必要となる。だが、だがしかし、目の前の神の奴隷を打ち倒すのなればそんな事即座にやってやれないわけがない。

 

 

「あああぁぁぁああ!!!」

 

 

 天井のブロックが次々と天羽々斬目掛けて落下していき、同時に自分の前に壁となるように幾つか重ねていく。

 傍から見れば安全圏へ逃げる様なものだが、巨大騎士───ミレディ・ライセンは既に理解している。あの神の奴隷は間違いなく神の使徒以上の存在であり、この壁や自身の魔法や隕石群すら越えてくる、と。だからこそ、彼女は全身全霊をかけて奴を殺さねばならない、と心に誓うのだ。

 

 

「“黒天窮”─────」

 

 

 故に放つのはミレディ・ライセンが有する最強の奥義。

 斬り裂かれた壁の隙間に生じた黒い球体。それは光すら歪ませて何もかもをも呑み込み滅ぼす暗黒天体。

 星のエネルギーに干渉する魔法である重力魔法が今正に真価を発揮した。溢れかえる程の膨大な星のエネルギーが一点へと収束していく。それによって突き抜けたプラスのエネルギーが三次元空間に亀裂を生じさせていく。それによって引き起こるのは事象の反転だ。

 プラスの絶対値がマイナスの絶対値へと反転し、三次元空間に生じてしまった亀裂は虚無へと変わる。先に死んでいった仲間たちとの約束と絆、そして未来への想いと神への憎悪が彼女を覚醒させる事でミレディ・ライセンの本来の“黒天窮”を越えるこの異常現象を魔法として引き起こしてみせた。

 

 それにより起きるのは文字通りの暗黒天体。

 星を呑み込む崩界は間違いなく、神すら殺しうる事象であり─────

 

 

『見えているだろう。お前なら』

 

「────無論」

 

 

 星呑む空間ごと、天羽々斬は両断してみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありえない。

 そんな言葉がいつの間にか、漏れていた。

 それもそうだろう。彼女にとっての奥義とも言える“黒天窮”。本来ならば、外的要因による妨害などでも挟まない限り、彼女自身でも魔力が尽きるまで止められない筈の魔法、それの常軌逸した崩界現象を真っ向から剣で両断する?ありえない。

 いったいどんなトンチキならば、そんな行為を出来るというのか。

 それこそ出来るのは鏖殺の雷霆(ケラウノス)か、神星(カグツチ)救世主(ヘリオス)大神素戔王(ヴェラチュール)竜人(ラグナ)その伴侶(ツクヨミ)ぐらいだろう。

 だが、それはあくまで彼ら側の話。如何に覚醒したところで、ミレディ・ライセンの放ったそれはどこまでいっても魔法現象に過ぎない。ならば、空間魔法を会得し、神代魔法すら認識すれば斬り裂く事が出来るようになっている発動値(ドライブ)の天羽々斬が斬れない道理はない。無論、決して無傷などですむ道理ではないのもまた当然だ。

 現に、両断してみせた天羽々斬は限りなく影響が薄くて済む道筋で駆けたというのに、その全身はおびただしい翡翠と鋼の結晶が乱立している。

 近づいた事でまず、当たり前のように皮膚が持っていかれた。踏み込んだ事で四肢の肉を持っていかれた。両断した際に他にも様々な部位が巻き込まれた。

 この崩界現象両断も全ては完全聖遺物オリハルコンとの融合症例が齎した肉体の復元という擬似的な不死があるが故に成しえた賜物だ。

 

 

「クソ、クソ、クソッ!」

 

 

 復元は着実に行われていく中、ミレディ・ライセンは動けなかった。逃げるにせよ、戦うにせよ、この時が最も大きなチャンスであるが、彼女は限界を越えた無茶をしていた。

 あくまでそれは魂を燃やすといった限界点や無茶ではない為に数日休めば元通りになるがしかし、膨大な魔力を一気に失い、無茶をした反動で彼女は巨大ゴーレムの身体を動かすことが出来なかった。

 ならば、先に動ける様になるのは天羽々斬だ。それが意味する事は神の奴隷による神代魔法獲得であり、誰かが神代魔法を手にする事無く迷宮の崩壊。それだけは認められない、とミレディ・ライセンは魂すら燃やそうとして────

 

 

「…………」

 

 

 腕などが復元を終えた天羽々斬が絶刀を鞘に納めた。抜刀術の構えを取るわけでもなく、戦闘態勢を解いていた。

 その行為に怪訝な視線をミレディ・ライセンは向ける。トドメを刺さないのか?情けでもかけるつもりか、と。だが、それに返ってきたのは淡々とした言葉。

 

 

「トドメの前に、誤解を解いておく必要があると感じた。解放者、俺はエヒトルジュエの信者ではない」

 

「何を言ってるのさ」

 

「事実だ。確かに神を奉じている身ではあるが、それは決して彼の邪神などではない」

 

 

 この期に及んで何を宣うのか。

 そして、何故今このタイミングでそれを言うのか、ミレディ・ライセンには理解が出来なかった。もしかしたら、という可能性が過ぎりはしたがエヒトルジュエの奴隷でなければ、今も尚騎士甲冑と戦っているあの女はなんだというのか。

 ミレディ・ライセンは睦月が神の使徒である、と明確に認識していた。

 そんな彼女の心中を察したのか、空は言葉を続ける。

 

 

「もしも、彼女がエヒトルジュエの人形であると感じているのならば、理解は出来る。確かに彼女はエヒトルジュエの人形として俺と殺し合ったわけだが、既に中身はすげ替えられていて、邪神との繋がりも断たれている。此処にいるのは俺と同じ……異邦の神の使徒だ」

 

「…………つまり、乗っ取ったって事?」

 

「そうなるな。詳しい理論については流石に専門外だが…………元の世界に戻る為の手駒は多い方がいい。それにこの世界の人々を使うのはそれこそ邪神と同じなのでな、俺の主は奴の人形を乗っ取って使っている」

 

 

 本来であれば、あまり話すべきではない仔細を空は口にし、それを止めるべきエンリルは静観している。

 エンリルとて、此処で解放者を滅ぼすのは結果としてエヒトルジュエに利をもたらす事となる為、和解の為に多少の情報は出していくのを許容している。

 空はあまり、こういった言葉を尽くす事は得意ではなくどちらかと言えばエンリルが行うべきなのだろうが此処で出た所で神である以上話が拗れると考えていた。そして、その選択は結果として功を奏することとなった。

 

 

「…………異世界、ね」

 

「ああ。信じられないかもしれないが」

 

「……まあ、あのクソ野郎なら異世界から拉致って自分の為に使うとか平然とするだろうね。それで依代見つけたと思えば、異世界の神が先に唾付けてて、奪う為に送った自分の使徒はそのまま逆に奪われてるとか、ほんとざまぁ。うん、嘘ついてるわけじゃなさそうだし……本当に彼奴の使徒だったらわざわざこんな話もせずにトドメ刺すしね」

 

 

 交渉だの、と余計な事を挟まずに話す空は決して嘘をついているわけではない、とミレディ・ライセンには理解出来た。

 これがエンリルであったなら、間違いなく神であるという偏見が介入し、信じ難くなっただろう。

 ミレディ・ライセンはため息をつき

 

 

「そっか、ミレディさんの勘違いだったか〜。それはなんというかごめぇんね☆」

 

「気にする事はない。元より試練であるならば越える必要があった」

 

「それもそうだよね。で、聴かせて貰うけども───目的は何? 何のために神代魔法を求めるの?」

 

 

 改めて君の想いを聴かせて欲しい。

 異邦の神の使徒だとか、そういうのではなく純然たる君の言葉で、嘘偽りなんて赦さない。

 そう彼女の魂が問いかける。

 元の世界に戻るとかの目的は聴いたけど、君は、君自身はどう考えているのか?そんな問いかけに、空は答えていく。

 

 

「俺は真剣だ。花を育てられるかも分からず、パンを作れるかも分からない……自分が分からなかった時期もあった。だが、俺が。俺が一振りの真剣となろうとしたのは…………親父殿を、妹を護りたかったからだ。護国の真剣、防人、それらの始まりはそもそもそれが始まりだ。この世界にいた所で俺は護れない、だから俺は彼らの元に帰りたい。その為に神代魔法は必要だ」

 

『…………空』

 

「……そっか。それであの野郎はどうするの?多分、君が元の世界に戻ったとしても君の事をこっちに呼び戻すかもしれないよ?」

 

「元より討滅するつもりだ。ナイズ・グリューエン、彼の願いに約束した」

 

 

 淡々としかし、僅かに感情が込められていたその返答にエンリルは目を瞑る。最初から護国の為、防人を目指す人間などいるわけがない。必ずその目標にはきっかけとなるものが存在している。

 風鳴訃堂とて、そもそも護国の防人足らんとし苛烈な男となったのも、先の大戦で日本の野山自然が焼かれた事が下地にある。もう二度と自分が愛する日本の野山自然を穢させるわけにはいかないという愛ゆえに彼はああなった、とエンリルは知っていた。

 そして、空は未来の話を知っているが故に妹を父を護りたいという想いが護国の防人の下地になるのは当然の帰結だろう。

 護国の為、防人として、という風鳴の空や天羽々斬としての言葉ではない空という個人の言葉に満足する様にミレディ・ライセンは頷いた。

 

 

「うん、認めるよ。君を」

 

 

 その言葉を聴いて、空はその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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