ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 ブラックホールは斬るもの。それはそうと、ブラックホール書いてる途中でTwitterでブラックホールの色々が出てやばいなぁと思っていたこの頃。



第三十二刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

「それで、どうやって使徒乗っ取ったの?」

 

「普通に教えると思うか?企業秘密に決まっているだろう」

 

 

 『ライセン大迷宮』最深奥にて乳白色のローブを身に纏う華奢なボディでニコちゃんマークが描かれた仮面をつけている人間大のゴーレムと壁に寄りかかりながら、床に胡座をかいている身体の至る所から結晶を生やした空が話していた。

 仮面な癖にコロコロと表情の変わり、その動作も相まって見るものを煽るようなウザさを感じさせるゴーレムは空の返答に不満であると言うようにその場で寝転がり駄々を捏ね始める。

 無論、そんなものはどうでもいいと呆れたような表情を見せる空。

 

 

「教えて教えて!あのクソ野郎を煽るからァ!」

 

「だから、企業秘密だって言っているだろう」

 

 

 駄々を捏ねるゴーレム、ミレディ・ライセンに空はため息をつき、視線を明後日の方向へ向けるなどその表情は普段の空では決してしないようなもの。よく見れば、その片眼は翡翠に変化していた。

 それらの変化の原因は一つ。

 つい先程のミレディが使った崩界現象を両断した際の肉体の破壊に伴う体内のオリハルコン粒子体の大量喪失により、空の身体は復元はし始めていたものの取り繕っているだけという不安定な状態であった為、和解後に意識を失った。

 流石にミレディも試練を乗り越えた空を放置するつもりはなかったのか、睦月と戦闘していた騎士ゴーレム達を使って、睦月と共に自分の本体がいる迷宮最奥の魔法陣がある部屋へと一旦運び込んだ。その後、空の意識がない以上、ミレディと睦月が相対する他無く、流石に乗っ取り改造されたとはいえ元はエヒトルジュエの使徒を前にミレディが良い顔するか、と言えば否であり───

 

 

「まあ、理論としては空がエヒトルジュエとの接続と、神域より供給される魔力の経路を切断して奴らの大好きな主の愛を失わせて発狂させた所に心臓をぶち抜き乗っ取った、というわけだ」

 

 

 だから、意識が無い空の肉体を無理させないようにエンリルが動かしていた。

 異邦の神。その事実にミレディは警戒していたが、エンリルがどちらかと言えば人間臭い神であり、子どもを見守る親という干渉しすぎないスタンスであった事とエヒトルジュエという比較対象の存在もあり、既にミレディから最低限を除いて警戒が解け、今はこうしてエンリルの持つ異世界の技術などについて聞き出そうとしていた。

 だが、流石にエンリルも自分たちの技術までは話す気はなく、上手くいなしていた。

 

 

「……ふーん、というかアレなにかな〜。あの、魔法斬ったりとかその接続斬るとか何?」

 

「…………あー、それか。うちの空はな、斬る事に特化していてな……元から形を持ってる魔法ならその核を斬るとかが出来てたんだが…………空間魔法を取得した事でな」

 

「普通、空間魔法って、転移魔法とかオーちゃんみたいな異空間と繋げたアーティファクトとかに使うもんじゃないかな〜」

 

「境界に干渉する魔法。空間魔法が空に適合し過ぎたというわけだ。だから、エヒトルジュエの人形との交戦が肉体の調整も相まって天羽々斬は境界を視認し、それに対して干渉できるようになった」

 

 

 そうして話し始めるのは天羽々斬の万物両断の異星法則。

 

 

「完全聖遺物……ああ、まあ、空の持つ技能由来のエネルギーと魔力を織り交ぜることで異星法則を再現した事で斬閃延長して認識している境界を断つというものなんだが…………ああ、あくまで斬閃延長と境界に干渉出来るだけだから、しっかりと斬れるかどうかは本人の技術依存だ」

 

「とりあえず、頭がおかしいって事だけはわかったよ」

 

 

 エンリルの説明にいつもの言動とは関係無しにミレディは空が頭おかしいと断言する。

 斬る事に一辺倒過ぎはしないだろうか。確かに境界に干渉するという空間魔法の本質を理解していてそれを剣技に組み込んでいるというのは分からなくはない。純粋に攻撃性能が上がるからだ。だが、それが魔力付与の斬撃技ではなく、あくまで通常攻撃になるなど、どう考えてもおかしい。

 何よりも斬閃延長?つまり、それはやろうと思えば近づかずに相手の指揮官の首を刎ねる事が出来るというわけであり、同じ遠距離戦でも魔術師相手ならば魔法を放つ前に戦いを終わらせられるという事だ。

 

 

「で、技量とその不死性のゴリ押しで私の“黒天窮”をぶった斬った、と…………やっぱり頭おかしいよね?」

 

「俺に言うな。全て、グリューエン攻略早々に人形送り込んできた邪神が悪い」

 

「手を出したら、開けちゃいけない類の釜を開けたわけだね、ざまぁ」

 

 

 間違いなく悪手だった、とやらかしてしまったエヒトルジュエを嘲笑するミレディ。

 そんな彼女に同意する様にエンリルは苦笑を浮かべ、少しずつ結晶が崩れて復元されていく空の身体を見下ろす。

 どうやら、体内の粒子体の総数が戻ったようだ。

 

 

「さて、そろそろお暇するか」

 

「はいは〜い」

 

 

 エンリルの言葉に手をひらひらとしながら、間延びした声音で答えるミレディ。それを見てエンリルは目を瞑る。

 そして、次の瞬間には目は見開かれた。瞳の色は翡翠から元の色へと戻っており、軽く手を握り直すなどをしている辺り、既に意識は空のモノへと戻っているようだ。

 

 

「───お前は」

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 

 意識を取り戻してみれば目の前にはニコちゃんマークゴーレムがいるなど、流石に衝撃的過ぎるが空は眉一つ動かさない。

 その反応はミレディにとって面白くなかったのか、煽り始める。

 

 

「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

「いや……流石にあの巨体だけではないのは分かっていたが」

 

「えぇ〜、つまんないなぁ〜」

 

 

 そんな風に言いながら、空の前でなんとも言えぬ無駄の無い無駄にキレのある無駄な動きをするミレディ。彼女のその動きを無視しながら、空は視線をこの部屋に巡らせる。

 部屋は全体的に白く、中央の床にはおそらく神代魔法のものだろう魔法陣が刻まれている。それ以外に全くといっていいほどに部屋には何も無い。いや、一部に一つだけ扉のような物が存在しているのは見える。それがミレディの住居スペースへの出入り口になっているのだろう。

 そこまで考えて、空は視線をミレディへと戻す。無視されていたからか、何やら拗ね始めているが空は気にせずその場から立ち上がる。

 完全に復元した事もあり、これといってもはや用はないと離れた所に座っていた睦月へと視線を向ければ、その視線に気づいたのだろう睦月は立ち上がり極力ミレディから距離を取りつつ空の近くへとやってくる。

 

 

「……ミレディ・ライセン。神代魔法は大丈夫だろうか」

 

「うん、大丈夫大丈夫。それじゃ〜魔法陣に乗ってね〜」

 

 

 ミレディに促され、空と睦月は部屋の真ん中、魔法陣の上へと移動する。それを確認して、ミレディは魔法陣を起動させる。今回は、しっかりとミレディ自身が試練をクリアしたと認めている為に走馬灯のように脳裏に攻略の記憶が過ぎるということはなく、空はグリューエンで経験した為に神代魔法の知識等を直接脳に刻み込まれても無反応を通し、初めての睦月は僅かに顔を顰めた。わずか数秒でその処理も終え、この『ライセン大迷宮』の神代魔法を手に入れた。

 

 

「分かってると思うけど、ミレディちゃんの神代魔法は一応重力魔法だよ☆そこの元人形はまあ、当たり前に適性あるのは少し腹立たしいけど、君は使えないというか適性が無いっていうわけじゃなくてなんて言うか、うん」

 

「使えないわけではないのだろう?」

 

「いやまあね?うん、可もなく不可もなく。めちゃくちゃ面白みの欠けらも無いね☆」

 

「それはすまないな」

 

 

 元より空間魔法ほど適性が高いとは思っていない空にとって、ミレディの評価に対してこれといって思う事はなかった。強いて挙げるならば、使えないわけではなく一応使えるというのは空にとって充分だった。

 習熟は必要なのは当たり前だが、戦闘中に重量の減少からの速度上昇や増加からの威力強化に使えるなど、使いようはそれなりにある。

 

 

「ああ、それとはいコレ。攻略の証ね」

 

「ああ、感謝する」

 

 

 ミレディがゴソゴソと懐を探り取り出し手渡した一つの指輪を空は受け取る。

 グリューエンの攻略の証はペンダントであったが、どうやらここライセンの攻略の証は指輪らしい。上下の楕円を一本の杭が貫いているようなデザインのそれを懐へとしまいながら、視線をミレディへと向ける。

 その視線を受けて、ふと何か考え事でもしたのかそういう動作をした後ミレディは質問を投げかけてきた。

 

 

「次は何処に行くとかもう決まってるのかな?」

 

「ひとまずここから樹海側に出てそこからシュネー雪原にあるという迷宮に向かうつもりだ」

 

「?樹海は行かないの?…………ああ、もしかしてまだそこまで攻略してない?」

 

「……いや、樹海は亜人の領域だろう。勝手に入って迷宮を探すのも骨が折れる。だから、後回しにするつもりだったのだが……なにか、条件が必要なのか?」

 

 

 まるで、複数の迷宮を攻略しているのが前提のような言い方に空がそう問いただせば、ミレディは存外素直にその質問へ答えてくれた。

 

 

「うん、四つの攻略の証に再生魔法と……あと、亜人の仲間が必要…………だったはずだよ☆」

 

「……とても、不安ではあるが。なるほど」

 

「風鳴様が攻略した迷宮はこのライセンが二つ目、証も再生魔法もありません」

 

 

 睦月の補足に空は頷きながら、ミレディを見る。その視線には再生魔法が何処にあるのか、という意が込められているのをミレディは察するが

 

 

「ざんね〜ん、ミレディちゃんが教えてあげるのはここまで〜。あとは頑張って探してね!」

 

「…………そうか。分かった、ここまでの情報開示感謝する」

 

「うんうん、このミレディちゃんに存分に感謝しなさい」

 

「ああ」

 

 

 手を広げ尊大な態度でそう語るミレディに空は敬意と感謝をもって返す。流石に素直にそう返ってくるとは思っていなかったのか照れ隠しをする様にミレディはオーバーリアクションをしつつ、次の瞬間には神妙な態度で真剣な声音で話す。

 

 

「……じゃあ、頑張ってね。君たちの目的が叶うことを祈ってるよ。あと、是非ともあのクソ野郎をぶちのめしてね」

 

「了解した。……そうだ、一つ頼みたいことがある。数ヶ月以内に、恐らく俺の同郷がこの迷宮を攻略するかもしれないが出来れば俺の事は黙っていて欲しい」

 

「それぐらいなら、構わないよ。理由は、まあ、聞かないでおいてあげる」

 

 

 そこまで話してミレディはいつの間にかに天井から垂れ下がっていた紐を掴んでそれを引っ張った。

 すると、本当に何度目になるのかも分からないガコンッという音が鳴り響いて、四方の壁より激流が流れ込んできた。

 同時に部屋は魔法陣がある中央を基点に段々とアリジゴクのように床が沈んでいき、部屋を満たしていく激流は中央へと流れていき、そして中央はいつの間にかにぽっかりと穴を開けており、引き攣った表情の睦月と空間魔法を用いて共に服が濡れないようにした空は激流に身を任せその穴へと流れていく。

 正直に言えば、もう少しやりようはあったのではないか、と空は思った。

 

 

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

 

 

 そんなミレディの声が激流の音に紛れて聴こえる中、空たちは激流と共に穴の中へとその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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