ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 誤字脱字報告本当にありがとうございます。
 読み直してるのに分からないのが辛い。

 感想で何度か言われるんですが、ハジメたち魔王夫妻はまだオルクス大迷宮の所にいます。あと数週間で出てきます




第三十三刃

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 ミレディ・ライセンの大迷宮より水に流されるという頭の悪い方法で迷宮の外に出された空たちは地下水脈を流されていき、最終的に樹海と大峡谷の間ぐらいにあるというブルックという街から一日ほどの場所の街道近くの泉へと辿り着いた。

 空間魔法により一定の空気量は確保していた空と睦月は同じく空間魔法により衣服が濡れることはなかった。同時に持ち物も流れに巻き込まれて無くなったという事もなく、そうして近場の街を目指した結果、二人はブルックへと赴く事となった。

 ブルックは周囲を堀と柵で囲まれた小規模な街だ。

 だが、小規模ながらもしっかりと街道に面した門のすぐ傍に小屋、門番の詰所が置かれておりある程度の治安は維持されているのが見て取れる。

 そんな門前で行商などの後ろに並びながら、空は自分の中の重力魔法について思考を巡らしていた。

 

 

「…………やはり、体重の増減程度か?いや、重縛羈束(グレイプニル)程ではないが重力場を作ることも……彼女同様自分自身も捕えられるのは間違いないが」

 

 

 脳裏に過ぎるのは奇跡のようなポンコツ少女にして聖人の系譜である聖騎士の有する能力。

 高重力場展開という正しく重力魔法の使い道として正しい能力であるが、本人は付属性と干渉性の低さ故に自分ごと重力の檻に敵を入れなければならず、遠隔発動も不得手。

 既に道中軽く試した事から空は彼女同様に遠隔発動を行うことは出来ない、と判明していた。試練でミレディが使用していたような重力塊や崩界現象は逆立ちしたところで出来やしない。

 そして、彼女程の高重力場を展開することが出来る訳でもない。出来ても常人が歩くのが困難になる程度であり、エヒトルジュエの使徒相手では大した効果もでやしない。

 

 

「そもそも、風鳴様でしたら、近づかれる前に斬るのでは?」

 

 

 そんな中、隣でそう空という人間を知っていれば誰もが感じるであろう疑問を口にする睦月。

 確かにそうだろう。大抵はその絶刀で容易く斬り捨てるものであるし、エヒトルジュエの使徒が相手であっても出力を上げて首を落とすか、それこそ嘗てフュンフトにしたように接続を断てばいいのだから。

 それを何よりも分かっている睦月の言葉に空は、至極当たり前の言葉を口にする。

 

 

「あればあるほどいい。何度も言っているが、手札というものは多ければ多いほど多くの事柄に対応出来る。なるほど、確かに重力魔法を使うだけならばそれこそお前に任せるのが一番だろう。だが、だからといって俺が何もしないというのはおかしい話だ」

 

「やりすぎにも感じられますが……」

 

 

 そう、空という人間ならばその返答は当然のモノだった。しかし、睦月からすれば少しやりすぎいきすぎのきらいを感じられた為に彼女は苦笑する。

 と、そんな会話をしていれば列が動き、空たちの番となった。

 行商のチェックを終えた兵士よりも冒険者に近い風貌の門番がやってきた。

 

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 

 規定通りいつも通りの質問でどことなくやる気のなさを感じさせるが空と睦月は特段気にせずにステータスプレートを門番へと手渡しながらその質問に答える。

 

 

「食料補給を兼ねての休息だ」

 

「ふーん……冒険者か、白の」

 

 

 手渡されたステータスプレートを確認しながら、そう呟いて門番はプレートを返す。

 本来ならば、二人のステータスは常識外れの数値であり間違いなく騒ぎになることは確定していたが、その可能性を事前に予測していた空の考えもあり、睦月による隠蔽工作が行われ記載されているステータスはおおよそ平均よりもやや上の値となっていた。

 故に特に何の問題もなく、あったとしてもせいぜい門番が睦月に見惚れて少し遅延したぐらいで二人は無事ブルックの街へと入る事が出来た。

 街中はそれなりに活気のあるようで、アンカジや王都といった国の主要都市ではない街の中ではそれなりに賑わっている方ではないだろうか。事実、オルクス近郊にあるホルアドほどではないものの露店もかなり出ており、耳を澄ませなくとも呼び込みの声や白熱した値切り交渉をしている露店の喧騒が聴こえてくる。

 そんな中を空と睦月は歩いていく中、睦月が口を開いた。

 

 

「それで、これからどうするのですか?シュネー雪原への行き方と氷雪洞窟の座標ならば既に私の中にありますが」

 

「先も言った通り、少しだけ休息をとる。ここ数日ひたすら走ってばかりだったからな……それと、私事になるが風呂に入りたい」

 

「…………はい、承知致しました」

 

 

 空の最後の理由に睦月は思わず目を見開き、少し間を空けてから返事をする。それもそうだろう、睦月からすれば空は風呂などのそういった事は最低限で済ませて効率を考えるなどといった、やはり人間性の薄い存在という認識があった。そんな空が風呂に入りたい、と言ったのは予想外であった。

 だから、空の人間性を垣間見て睦月は微笑む。

 その様子に空は気付くことはなく、代わりに周囲の男性がその微笑みを見て思わず見惚れて立ち止まる。中には共に歩いていた女性に腕を抓られる人間もいた。

 

 

「ひとまずはギルドに向かうとしよう。道中の魔石を精算したい」

 

「そうですね。それと、防寒具も買う方がよろしいかと。シュネー雪原は局地的に極寒ですので」

 

「局地的か」

 

「はい、猛吹雪が起きていればそれはもう」

 

 

 あくまで知識でしかありませんが。

 そう付け足す睦月に空は軽く頷いて、二人はメインストリートを歩いていけば一振りの大剣が描かれた看板が視界に入る。冒険者ギルドの看板だ。

 ギルドの規模は比べる相手を間違えているのだろうが、やはりアンカジや王都のそれより何回りも小さい。

 

 

「だからといって、そこまで変わることも無い、か」

 

 

 そう呟いて、空はブルックの冒険者ギルドの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 規模が小さいからといって、中身が劣っているとは決まっていない。

 足を踏み入れたギルドの中はしっかりと掃除がされているらしく、清潔さが感じられる。カウンターは玄関から正面にあり、左手には飲食店がある。アンカジや王都の冒険者ギルドと規模が違えども内装の大まかなモノはどうやら同じらしい。

 入ってきた事で視線が集まっているのを二人は感じた。おそらく見慣れない男女二人組が入ってくればそうなるだろう。

 空に関しては身の丈程の絶刀がその手に握られているのだから、目を惹くのは当たり前───だがそれよりもなお、目を惹くのが睦月だ。

 普通に考えて欲しい、そもそも睦月はエヒトルジュエが創り出した使徒の髪を黒くしたり、少し感情豊かにしただけで基本造形はフュンフトのままである。すなわちその容姿は非常に優れており、女神か何かであろうかと目を惹くのも当然だろう。ましてや、そんな美人が肩を出し、大胆に太腿を露出しているのだ。これで反応しなければそいつは枯れていると思われても仕方がない。

 本人の名誉の為にフォローするが、決して空は枯れているわけではないことを明記しておく。興味が無いだけである。

 さて、そんな睦月に見惚れる者や、感嘆の声を上げる者、露出された肌を見て唾を飲み込む者、恋人に何を見惚れているのか、と横っ腹に一撃を入れられている者など様々な反応を睦月は一切気にとめず、空の後をついていき、カウンターへと向かう。

 カウンターにいるのは恰幅の良いやや歳のいった、俗に言うおばちゃんの受付嬢である。王都の受付嬢は軒並み妙齢の女性であったが、アンカジではそれに紛れて少し歳のある婦人もいた。やはり街が小さければそういうものなのだろう。

 無論、空からすれば受付嬢の年齢や見た目に対して特になにかあるわけでもないのでまったく気にする要素はない。

 

 

「冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご要件は何かしら」

 

「素材の買取を頼みたい。ステータスプレートならここにある」

 

「確かに」

 

 

 そう言って、空のステータスプレートを受け取る。もちろん、先程と同じように隠蔽工作が施されている。

 それに視線を通していくおばちゃんであるがその表情が一瞬顰めたのを空は見逃さなかった。

 

 

「なにか?」

 

「ん、ああ……そうね。ワケありって事だ。本部から噂は聞いてるよ」

 

「…………ああ」

 

 

 周囲の冒険者には聴こえない程度の声音でそう言ったおばちゃんに空は目線を伏せる。

 なるほど確かに王都のギルドも空が王都より消えたという情報を知っているだろう。流石にアンカジへと行ったとは思っていなかったのかアンカジでなにか言われるという事はなかったが、まだ王都に近いこのブルックのギルドには話が行っていたようだ。

 

 

「ふ、まあ、あんたが何か問題とか起こさない限りはあたしもとやかくは言わないよ」

 

「助かる」

 

「さて、確認はしたよ。にしても白かい、見たところ黒でも全然問題ないと思うけどね……ま、そこは信用も絡むからねぇ」

 

 

 そう言ってステータスプレートを空へと戻したおばちゃんは受け取り用の入れ物を空の前へと出す。

 どうやら、査定資格を有しているらしい。

 空は荷物袋より魔石を取り出して入れ物へと入れていき、一部爪などの素材を入れる。

 それを見て、おばちゃんはほぅと感嘆の声を漏らす。

 

 

「これは大峡谷の魔物の素材かい。なかなか、だね。これだけでもあんたの実力が分かるってもんだ」

 

「ああ」

 

 

 流石は経験を積んでいると言うべきか、その貫禄に違わぬベテランぶりを見せながら正確に的確に査定していく。

 大峡谷の魔物の素材というものは確かに珍しいが、かなりの実力者ならばあえて制限を付けての修行として大峡谷に赴き、断崖上へと戻れる階段付近で修練を行う事がある。

 その際に少ないが時折、大峡谷の素材が出回ることがある。だからこそ、おばちゃんは大峡谷の魔物の脅威を分かっているし、それを持ってきた空の実力が少なくとも黒以上であると認識していた。

 

 

「さて、まあこんなもんだろう。本当なら中央の方がもっと高く売れるんだけどね」

 

「いや、仕方ないのは理解している。むしろ、売らせてもらえるだけありがたい」

 

「そうかい、それはよかった」

 

 

 それなりの金銭が入った袋を受け取り、荷物袋へとしまいながら、空はこの街の宿場などについて聞いてみればおばちゃんはカウンター下から地図を取り出し空へと手渡す。

 地図へと視線を走らせれば、中々に精巧でありかつ有用な情報がしっかりと分かりやすく記載されているというどう考えても金が取れるような地図であった。そんな地図が無料というのは、この世界の生活レベルなどを考えれば到底考えられないものだ。

 だが、おばちゃんからすれば落書きみたいなものらしい。そんな返答に空はありがたく地図を受け取り、そのまま冒険者ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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