ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 気がつけば、10万UA達成です。読者の皆様、ありがとうございます。

 さて、前話最後でまだだがあり、その件で感想欄だけでなくモヤモヤする方もいたか、と思います。
 ぽっと出が覚醒するな、と。それに関しては作者もモヤモヤする側ではあると思います。ですが、物語上ではぽっと出ですが、彼らにも人生があり覚醒する理由だってないわけではないのです。
 また、一部には総統閣下や欲望竜と比べられる方もいるかと思います。
 ですが、そもそも彼らは光狂いの中でも特級の存在であり、彼らを定規にして比べるのはまた違うのでは?と私は思っています。少なくとも一般光狂いと特級光狂いは一緒にするべきものではなく、彼には彼の理由があります。
 
 簡潔に言えば、私は決して総統閣下を過小評価しているわけではないです。また、誰々と比べて意思が高いと思えないから覚醒なんて出来ないと大きな定規を持ち出すつもりはありません。

 長くなりましたが、これが私の認識であります。
 あくまで私の考えであるのでこうあるべきと大声を出すわけではありません。少なくともこの作品の作者はこういう認識なのだ、と思っていただければ幸いです。

それでは、本編をどうぞ



第三十六刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 ギャリィィィ!!

 絶刀と短剣がぶつかり合い、激しい金属音を掻き鳴らす。

 最後の帝国兵の頸へと振るわれた斬滅の一撃が短剣で防がれた。その事実に睦月がその場から飛び出し、背後からその大剣を帝国兵へと振るう。だが、それよりも早くに帝国兵はその場から離脱し、大剣を回避する。

 しかし、その回避もすぐさま絶刀が追撃を放つ。

 ならば、と短剣が振るわれ絶刀を弾く。

 

 二度。絶刀を弾いた短剣に空は僅かに目を見開き、その場から跳び退く。

 

 

「───フッ」

 

 

 瞬間、放たれるのは絶技の槍衾。

 逃げる事など許さない。

 

 

「だから、どうした」

 

 

 逃げる?馬鹿を言うなよ。

 駆ける、槍衾の僅かな隙間へと身体をもぐり込ませていくというこちらもまた絶技をもって、槍衾を乗り越え距離を詰めていく。

 多少斬られはしたが、問題無い。身体は繋がっている。動いている。何も何も問題は無いだろう。

 振るわれるのは短剣による細撃の舞踏。距離は長剣の懐、一瞬でその距離を詰めた速度はなるほど目を見張るものがあり、ステータスの差?数十倍の差がある。ある筈なのだ。

 だが、そんな差を感じさせない速度と技量で男は空へと迫る。左手で握る鞘で次々と受け止めていくが、駄目だ。鞘だけでは、細やかな連撃を防ぎきれず少しずつ鎧に傷を刻んでいく。

 

 

「ならば、こうしよう」

 

 

 やはりステータスの差はある。まったくダメージが入らないとはいえども、煩わしいことこの上ない。故に空が選んだのはこの手だ。絶刀を手放し、あえて一歩前へと出るように地面を強く踏み込み地面を破砕しながら、握り込んだ拳を男の胸へと叩き込む。

 短剣の斬撃をその身に受けながら叩き込んだ一撃は、男の身体を吹き飛ばす事はなくそのまま体内で衝撃を残留させ、臓物を掻き混ぜる。

 

 

「ゴフッ───まぁだ、だ!」

 

 

 だが、止まらない。頑丈さを活用して何とか、掻き混ぜられた臓器の位置を戻しながら男は足元の死体から二振りの刀剣を蹴り上げて手にする。

 マインゴーシュ、レイピアと呼ばれる二振りの刀剣を短剣の代わりに手にした男はまるで地を這うかのような姿勢の低さで空へと迫る。

 無論、簡単に詰めさせるわけがなく既に掴み直していた絶刀がその素っ首を斬り飛ばすべく振るわれるが、その時にはもうそこにはいない。

 空間把握により、即座に反応した空は背後へ振り向きながら、絶刀を引き寄せて────再び激しい金属音が響き渡った。

 ガチャガチャと音を立てながら、絶刀と二振りの数打ちの刀剣がせめぎ合う。どう考えても絶刀に容易く斬られるはずの数打ちがせめぎ合えているのはそれを使っている人間の技量故か。

 男と空の視線がかち合い、向き合う。

 

 

「名は────」

 

「────ルクス」

 

 

 短い言葉が交わされ、不意にその場から男、ルクスは姿を消して一瞬空の反応速度を越えた速度で空の背後へと回り込み、いつの間にかに手にしていた短剣を空の頚椎へと叩き込んだ。

 

 

「ルクス・ジ・マーナガルム。見せてくれ、お前こそが俺の求めていた太陽(ヒカリ)なのだ、と」

 

 

 頚椎を破壊された。

 だからどうした、即座に傷口から短剣を押し退けるように結晶が生えだし復元する。その様を見てその場から跳び退いたルクスは腰からもう一振りの短剣を取り出して構える。

 マスクで口許を覆い、深々と被った軍帽に伸びた灰混じりの黒髪。それらがルクスの表情を窺いづらくしているが、空には彼がどんな表情をしているのかを見ずとも理解出来ていた。

 

 

「同類か」

 

 

 刹那、大気を走るのは無数の金属音。

 振るわれる絶刀をルクスはその二振りの短剣で次々と弾いていく。片や聖遺物を完全聖遺物の力で真剣として成立させている絶刀、片やアーティファクトですらない上質なだけの短剣。

 どう考えても打ち合えるわけが無い。

 だが、打ち合えているのはどういう事か、それは純粋にルクスが打ち合う瞬間に短剣を絶刀の刃に当てているのではなく、上手くズラす事で絶刀に斬り裂かれる事を防いでいるのだ。

 当たり前だが、空もそれは理解している。

 そう何度も何度も防がれてはたまったものではない───

 

 

「故に見飽きた」

 

「ッ!?」

 

 

 そうして放たれるのは僅かな遅延と加速を組み込んだ斬撃。ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ重力魔法を剣先に付与したのだ。

 こう来る、はずだった一撃は予測よりも僅かに遅く。

 こちらに来る、はずだった一撃は予測よりも僅かに速く。

 そんな微かな変化にルクスは物の見事に対応して───瞬間、唐突に絶刀の刀身が砕け散り短剣と打ち合わず、その返す刃で再構成されリーチを戻した絶刀が深々とルクスの胴を断ち切った。

 至極、当然の帰結だ。どれだけ反応速度が高かろうともステータスの差を無視して食らいついて来ようとも、小手先の技術を利用して対抗しようとも、一つ強者が手段を切ればこの通りだ。先程の様な寸前での反応、光のような覚醒紛いには驚愕したが、だがしかし。

 この一撃をもって幕は閉じた。

 

 

「……手強い敵でしたね風鳴様」

 

 

 睦月がそう言いながら、空の元へと歩いてくる。既に大剣はその手になく、戦闘で舞い上がった土煙によって汚れた裾を叩く彼女に空は視線を合わせることはなく、崩れ落ちていくルクスを見つめて───

 

 

『来るぞ』

 

 

 エンリルの声が響いた、と同時にグチュリ、と粘着質な肉の音を立たせたと思えば次の瞬間にはソレは動いた。

 発せられるのは殺気。

 空間把握。いや、遅い。

 絶刀を振るうよりも先に右脚が脛下から断ち切られた。だが斬り飛ばされたわけでもないのならば、何も問題なく結晶が繋げ、身体を捻りながら背後からの強襲を迎え撃つ。

 

 

「面白い不条理だ。俺は確かにお前の胴を両断してみせた筈だが」

 

「たかだか、胴を両断されただけだ。繋ぎ直せば問題無いだろう」

 

「なるほど」

 

 

 目を細めながら、空は目の前のルクスを睨みつける。十数合打ち合う過程で目の前の男がどういう存在なのかを理解し、同時に不可解に感じていた。

 光の奴隷?光の亡者?違う。目の前の男は彼らのような意思が定まっていない、迷っている。この男は夜闇をどこにあるかも分からぬ光を求めて駆け抜ける。明らかに光狂いと比べて見ても劣りに劣っている。だというのにいったいこの不条理はなんだというのか。

 だが、劣っているとはいえども、光の類、それこそ光の雛だ。

 本気でぶつかり、全力で力を振るえば、間違いなくそれに応える様に強くなり、そして明確な光を見出してしまえば手が付けられなくなる。亡者の様に己が信ずる光へと暴走列車の様に疾走していくだろう。

 つまり、マトモに相手をしてはいけない手合い─────

 

 

「故に削がせてもらう」

 

 

 狙うのはルクスの脚。瞬間的に空の反応速度を越える相手にとる手段の一つとして当たり前な選択だ。

 まずは機動力を削ぐ。

 空の意思を感じ取った睦月は、その場からすぐさま離脱する。次の瞬間、およそ空の膝から下の高さの空間に駆け抜けるのは幾重もの斬滅の風。

 常人人外問わず、予備動作無しに放たれた一定空間を吹き荒れる斬撃に対応できることはなく、その脚を切り刻まれるのは当然だろう。

 

 

 だがしかし─────

 

 

「だからどうした」

 

 

 ルクスは吹き抜ける寸前に跳び上がり空へと突貫してみせた。空中という踏みしめるものがない空間へと躍り出た彼を狙わない筈もなく、空は絶刀を振るう。

 踏み出してからの逆袈裟。距離を詰めたそれを回避する術もなく容易く脇腹から肩にかけて絶刀が肉と内臓と骨を断ち切る。

 並の回復魔法では治療出来ぬ程の深い傷を負ったルクス。睦月はそれを見て、今度こそ戦いは終わった、と思ったがしかしエンリルがそれを否定する。

 お前はついさっき何を見ていたのか、と。

 

 内臓を斬られた?だからどうした、と振り抜いた後の僅かな硬直を狙い、斬滅の風が吹き抜けた後の地面を着地と同時に踏み抜いて、短剣を空の頸へと叩き込む。

 その間に、切り裂かれたはずの肉と骨と臓器は繋がり治る。

 

 

「馬鹿な……再生魔法?」

 

『違うな、アレは魔法の類ではない。純粋な生命力による自然治癒のそれだ、イカれている。だが、その下地はある筈だ』

 

 

 気合と根性と意思だけで種として覚醒するなど、現実にはそうそうありえるはずがないのだ。無論、一定数そういう例外がいることまではエンリルとて、否定はしない。

 何も持たない人間がいきなり強くなるわけもなく、一つ獲たから強くなったなどというわけもなく。ルクス・ジ・マーナガルムにはそうなる下地が存在しているはずなのだ。ミレディから聞き及んでいた神代魔法を思い浮かべながら、エンリルは思考を回して───

 

 

「シィイアアアアッッ!!」

 

「グッ……!」

 

 

 深々と頸から鎖骨へと、鎧すら断ちながら短剣が振るわれた。同時に結晶が生えだしていき、復元を開始する。

 だが、すぐには終わらせない。と言わんばかりに二振りの短剣が振るわれ、空の身体を切り刻む

 

 

───筈だった。

 

 

 振るわれた短剣が刻んだのは微かに結晶片が舞い散る虚空。

 

 

「なに?」

 

 

 目の前から空の姿が消えたのだ。

 何処へ消えた、と周囲を素早く見回す。見つけた、だが位置がおかしい。

 距離にして八百メートル。荒野の先にて、彼は絶刀を構えていて、鋼の魔力と粒子が吹き荒れる。

 

 

 

 相手は光の雛なれば。わざわざ真正面で戦う理由も無く、既にその絡繰をエンリルが紐解いた。

 殲滅光(ガンマレイ)が迸るわけでもなく、滅亡剣(ダインスレイフ)が顕現するわけでもなく、ましてや極晃星(スフィア)となるわけでもない。

 故にエンリルからのオーダーを受けた天羽々斬は、確実な勝利を取る。

 瞬間的な速さはあちらが上?だからどうした、そんな速さなど関係無く近づくよりも先に切り刻めばいいのだから。

 斬閃延長。たかだか八百メートル如き、何も変わらない。では、死ね。

 

 

 およそ魔法ですら怪しい距離。

 だが、そんな距離を無視して空間を裂きながら天羽々斬の断絶刃が駆け抜けるルクスへと襲いかかる。避けても避けても襲い来る地獄を前にルクスは笑みを浮かべていた。

 

 

「当然の判断だ。お前は無慈悲にも、確実に俺を仕留めようとしている。だからこそ、俺は嬉しい」

 

 

 皮膚が裂ける。

 肉が裂ける。

 骨が断たれる。

 いつも通り、それらはすぐに治癒していく。

 

 

「認めよう。お前こそが俺の求めていた太陽(ヒカリ)

 無慈悲な断絶刃────」

 

 

 マスクを外し口角が吊り上がる。

 その手から短剣がこぼれ落ちる。

 走る走る走る駆ける駆ける駆ける。

 

 小手先の技術では、あちらの実力が高くどうしようもない。

 今の速度(スピード)頑強(タフネス)では辿り着く前に死ぬだろう。

 今の膂力(パワー)では辿り着いたとしても勝つ事は出来ない。多少の傷では間違いなく復元されるから。

 どう足掻いた所で、俺の負け────

 

 

「だとしてもォ!!!」

 

 

 死にたくない(まだだ)死ぬわけにはいかない(まだだ)

 死なない(まだだ)死んでたまるか(まだだ)

 もっと強く、もっと強靭に(強く)、もっと強剛に(強く)───

 我が焦がれる太陽よ、俺は御身に出逢う為に生まれ、死なず、生きてきた。この力を使って誰かを護るにはあまりに俺は無知であり、走り方も戦い方も護り方も分かりやしない。

 所詮奴隷でしかなかった自分が誰かの為に生きたくても出来るのは殺戮だけだ。やり方も分からないのに思うままに誰かの為に駆け抜けたとしても、それしか出来ぬ俺が駆け抜けた後に振り向けばそこにあるのは自らの足跡であり、駆け抜けた轍。轢殺の果てに残った、幾百幾千幾万の屍山血河に他ならない。

 助けようと思っていた誰かの死体ばかりだろうさ。

 

 それでも諦めることは出来なくて、だけど自分では轢殺するしかできなくて、

 

 だから、だから、どうか願いたい。

 俺に道を教えて欲しい。俺が駆け抜けていい道を照らして導いてくれ、我が太陽よ!!

 

 その祈りをもって、ルクス・ジ・マーナガルムは咆哮する。

 真に漸く自分の願いの根底を見出したのだ。

 故に真なる祈りは彼の有する力と結び付く。

 発動するのは()()()()。天羽々斬の様な後天的に得たもの(迷宮攻略の証)ではなく、純粋な先天性。天然ものの神代魔法の担い手はいままで無意識に自分を強固にしてきた、死ねぬ(まだだ)と叫びそれに呼応する様に自身を強くしてきたそれを明確に意識して使用する。

 強く、強靭に、強剛に、と。

 存在するものの情報に干渉する魔法。

 それが齎すのはルクス・ジ・マーナガルムという存在を構成する情報群の最適化。その身体はより強剛に変わり、その速さはより速く、その力はより強靭に。

 

 

 気がつけば、彼は獣のように四肢をもって荒野を駆け始めていた。

 まるでそれこそあるべき形であると、距離を詰めて詰めて詰めて!肉体が軋んでいき、書き変わっていく感覚を感じながら、疾走して

 

 

「『オォォォォンンン!!!』」

 

 

 此処に巨災狼(マーナガルム)が顕現した。

 馬車程はあるだろう体躯に全身を覆う灰黒い獣毛、太陽すら呑み込んでやろうとでも言うように大きく裂けた巨大な顎門、大地を踏み砕きながら疾走する四肢。狼人と人間の間に生まれた迷い子は遂に魔狼へと至った。

 光を求める魔狼は駆ける。

 その変化に睦月もエンリルも目を見張り、天羽々斬は巨災狼(マーナガルム)を言祝いだ。

 

 

「お前は『奴隷』にあらず

 お前は『亡者』にあらず

 お前は『殉教者』にあらず

 来るがいいルクス・ジ・マーナガルム、俺はお前を斬ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────






 ありふれアフターを見ると、これもしかして深淵卿この世界だとナイトメアモードでは??(間違いなく一枚噛んでるであろう、または首を突っ込むだろうパヴァリア光明結社を見ながら)
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