ありふれない防人の剣客旅 作:大和万歳
残念ながら、昨日の投稿は出来ませんでした。
純粋に忙しくて書き終わってなくて、投稿出来なかったです。
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昇華魔法。
存在するものの情報に干渉する魔法。
本来ならばせいぜい自身の能力を引き上げるという事に使われるようなものだが、巨災狼が使用したのは能力を引き上げるなどという単純なモノでは断じてない。
コレは改造だ。
生物へ自身の魔力とその生物の魔力を混ぜ込むことで魔石を創造し、それを起点に肉体を改造する事が出来る変成魔法。熟達すれば魔石が無くとも自分自身の身体を改造、変成する事ができる。そんな同じ神代魔法に対してこの昇華魔法は明らかに常軌を逸していた。
狼人の混血児と言えども、いったいどうすればこんな魔狼に変貌できるというのだろうか。単純に理論的な話をするならば、生物の身体というものはDNAという情報群によって構成されており、その自分自身の設計図に手を加える事で魔狼と化した。
そう、説明できるだろう。
だが、これはあくまでも理論的な話だ。理論があるから出来る、なんて話はいくらなんでも暴論過ぎる。確かに彼はいままで無意識ながらに自分自身の情報に干渉してきた。死ぬわけにはいかない、という意思で身体をより強くしてきた。
だが、それはあくまで解れた部分を修正、より良いモノに書き換えているのにすぎず、今回のコレは完成されていたモノが崩れないように新たなモノを繋げ矛盾しないように調整していく、そんな明らかにいままでとは規模が違いすぎること。
言ってしまえば、裁縫が何となく得意な人間がいきなり一切のミスも許されない難解な手術をやるようなものだ。
無理に決まってる。
───だとしても
「『オォォォォンンン!!!』」
一つ書き換え間違えればただの獣に成り下がりかねないというのに、そもそも書き換えが成功するかも分からないというのに。
それがいったいどうしたというのだ。
結局の所、技術でしかないのだから、死ぬわけにはいかないという意思と気合いとやる気さえあれば、そんなもしもを踏み潰して手術を成功させられる。そしてルクスは導きの太陽に焦がれる
大地を砕きながら疾走し、大きく裂けた巨大な顎門に見える太牙が軋り、見開かれた金瞳が走る先にて絶刀を携えた天羽々斬を睨み付ける。
「────これは、どうか」
故にそれに応えるように、天羽々斬は迫り来る
なるほど、確かに速くなった。強くなった。だが同時に大きくなった。
つまるところ、それは的が大きくなったことに他ならず、その四肢を頭蓋を巨躯を切り刻んで確実に殺す為にその巨躯では決して回避出来ぬ幾重もの斬撃が放たれた。
距離という空間を一切気にすることなく、振るわれる斬撃に対して巨災狼は回避する───という選択肢は選ばない。必要最低限の致命傷を受ける場所をその金瞳と経験と感で判断し、駆け抜ける。
右前脚が肘辺りで切り裂かれ、胴を肩から尾にかけて深々と裂かれた。
「『この程度で───!!』」
斬閃が肉へと食い込み、そのまま裂いていく。だが、裂いた端から筋繊維と骨、血管、細胞、神経が繋ぎ合わされ切り飛ばされる前に治癒していく。
当たり前だが、回復魔法や自動再生の類ではない。純粋にそういう
昇華魔法による改竄をした上で、そこに意思という燃料を叩き込みこんな馬鹿みたいな芸当を見せている。無論、痛覚がないわけではない。当たり前の話だが、身体が自然治癒しているからといって一度切り裂かれたモノを繋げて治すなど痛みがないわけがない。
直接断面に焼鏝を押し付けられるかのような激痛が常に走り続けていて、だからどうした、と巨災狼は疾駆する。
「ああ、なるほど」
そして、天羽々斬は先程切り裂いた際の感触に一筋縄ではいかないな、と呟く。
斬閃が巨災狼の毛皮へと食い込んだ瞬間、僅かに反発するような感覚が天羽々斬の手に伝わっていた。硬く断ち難い毛皮にさて、どうするかと天羽々斬は思考を回して
「では、こう斬るか」
絶刀で斬り難いというのならば、斬り方を変えればいいだけの話。
鋭く疾く強く。
その勢いままに、即自然治癒などしないように斬り飛ばす為に。
「『もっと、もっと、もっと!!俺の太陽!!俺に道を示してくれ!!!』」
「悪いがお前は俺の
絶刀を振るい放つのは斬撃の檻。
先程のような最低限の致命傷で抑えるという手段は容易ではないが、しかし。
この程度、その程度、と加速し強引に突破する道を巨災狼は選んだ。
「『ォォオオオオ!!!』」
身体中の至る部位が斬り刻まれていく。
鮮血が迸り、肉が骨が斬り飛ばされて────いや、まだだ。
瞬間、巨災狼の身体から灰黒色の光が弾けるように溢れ出た。大きく裂けた顎門をより一層開き、口元が引きちぎれ血が吹き出しながらもだからどうした、と咆哮する巨災狼。全身に嵐が如き魔力光の奔流を纏ったその様を天羽々斬は一ヶ月前にも見たことがあった。
「限界突破───いえ、アレは」
『覇潰か』
限界突破。制限時間の間、自らの基本ステータスを三倍にまで高める戦士として最上級の技能、それの上位互換。
基本ステータスの五倍もの力を無理矢理引き出して、巨災狼は天羽々斬の斬閃を抑え込み、押し退ける。その分、斬閃が食い込み鮮血が迸るが何も問題はない。
硬い。余りに硬い。絶刀が強化される前に食いこんだ部分から進まない。素早く絶刀を引き抜くが、既に魔狼は眼前でその顎門を開いていて────
天羽々斬が動くより先にその絶刀ごと右腕を噛みちぎった。
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右腕を噛みちぎられた。
アメノハバキリも一緒に、だ。
この時点で俺は敗北した。俺が剣士である以上、自分の刀剣を奪われるなど、敗北以外のなんだというのだろうか。
もしもここにいるのが、ベルグシュラインであればどうだろうか、または俺が至れていればどうだろうか。きっと相手が光の存在であろうがなかろうが、とっくのとうにカタをつけている事だろう。
武器ごと腕を取られる様な恥は晒さず、ましてやその敗北に心折れることもなかったはずだ。
剣才がベルグシュラインほどなかった、経験が足らなかった、などと理由を挙げたところで、というやつだ。結局の所、俺が駄目だった。それ以外に何か言えるだろうか?
俺の総合力を奴の繰り上がった総合力が上回った。
だが、それでも認めたくないモノはあるだろう?
「否、まだだ。まだ終わらない」
そう咆哮して奮い立たせて、奴の様に終われないと叫べば────なんて、出来るわけが無い。
神は言った、運命が俺の分岐点である、と。
俺は言った、運命を見つけねばならない、と。
本当に?本当に俺に運命があるというのか?
まさかこの
腕をなくしたところで、すぐに復元するだろう。だが、剣士として敗北したという感情が俺に生き恥を晒すな、と叫んでいた。コレは絶対に表に出てこない様な感情、風鳴空らしからぬ俺の色。
どれだけ、誓おうとも変わろうとも転生したとしてもその根底が変わるわけがないのだ。
間違いなく、俺は此処で折れて死ぬだろう。
所詮は刀剣にもなれない紛い物だ。
自分の内側から結晶が生え出てくる感覚がする。止めろ、エンリルには悪いが俺は此処で降りさせてもらう。これ以上俺は恥の上塗りなどしてどうするというのか、これにてお終いだ。
嗚呼、すまない。
「親父殿、俺は
────?今、俺は何を口にした。
今、誰の名を口にした?
「『────
そうだ、お前の名を。
探す必要など無かったのだ。
気づくだけでよかった。風鳴空だけでは辿り着けなかった、青い鳥の居場所を俺は見つけられたのだ。
飛び去る前に、この想いを伝えたい。
前言を撤回しよう。俺は此処で終わることは出来ない。剣士としての恥だと?投げ捨てろよ、そんなモノ。自分を
「ましてや、お前に顔見せ出来ないだろう」
では、ここからだ。
あの日、火山で死に戻った俺は漸く此処で新生したのだ。
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「故に、まだだ。まだ終わらぬ────」
右腕が引きちぎられ、そのまま前脚による一撃が迫る中、風鳴空は笑った。
腕を広げながらその一撃を受け入れるように一切の抵抗を見せず、次の瞬間にはその全身から無数の結晶体が生えだして風鳴空の身体を内側から串刺しにする。
その光景に魔狼は目を見開き、一撃を止めるにもスピードがスピードであり、どうにもならない。
故にそのまま一撃は放たれ、結晶体が突き刺さる。覇潰によるステータス強化により強靭な肉体となれども、自分自身のスピードにより結晶体が毛皮を突き破った。
そして、次の瞬間には結晶体に溜め込まれたエネルギーが臨界点を迎えて風鳴空の肉体ごと広域殲滅の自爆兵器として炸裂した。
「『オォォォォンンン!!??』」
迸る
そして、魔狼はこの程度で倒れるものか、と奮起し咆哮して天を見上げた瞬間、目を見開いた。
天より降り注ぐのは無数の結晶。
ここら一帯を襲う程のおぞましい数の結晶が次々と刀剣へと変貌していき、襲いかかる。
回避?馬鹿を言うな。
ここら一帯の空間全域への
降り注いだ刀剣は魔狼の至る部位に深々と突き刺さり、あらゆる場所から血を噴き出させる。さしもの
────だが、だとしても。
邪魔だ、と言わんばかりに
何故、どうして身体が動かないのか!
深々と幾つもの刀剣が刺さってはいても、地面に縫いとめられているわけでもないのに、刺さっているだけで全身が動かないなどおかしい話だ。
では、何故か。
「乱れ影縫い───五倍?なら、縫い止める量は五倍以上にせねばなるまい」
下から声が響いた。目だけ動かし声の方向を見てみれば、そこには首近くで崩れていく人程はある結晶体。その下から姿を現すのは風鳴空。
だが、その手には絶刀は無い。
故に巨災狼は咆哮し、気合いで身体を動かそうと奮起する。影に突き立てられた十数本の刀剣がギチギチ、と軋む音を立て始め、一本、二本と砕け散る。
このまま解放され、確実に勝利する。
同時に、巨災狼は待っている。期待している。信じている。俺の焦がれる太陽よ、お前ならここからどうするというのか!と。
ならば、応えよう。
「此処で終わりか?違うだろうアメノハバキリ、俺はまだ戦えるぞ」
頑丈であるが故か知らないが、巨災狼の喉に自ら突き刺さる形で待っていた聖遺物は、瞬時に結晶体を分解、再構成して内側から真っ直ぐ片割れ目掛けて絶刀に変わる。
「『─────ッ!』」
内側から肉を毛皮を突き破って刃先を見せる絶刀、それを素早く掴み風鳴空は引き抜く。
刃先から柄へと持ち替えて、寸分違わず頸を断ち切る為に斬り上げる。
「『まだだ!』」
影を縫い止める刀剣が次々と砕け散り、巨災狼は自由となって────
「悪いがまだ動くな」
瞬間、巨災狼に突き刺さっていた刀剣が次々と結晶化していき、肉体に食い込みそのまま地面へと突き刺さり、再び動きを封じていき、
「終われ、
絶刀が振り抜かれた。
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