ありふれない防人の剣客旅   作:大和万歳

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 作者の勤務状況と執筆時間を考えてみたところ、今までの様な毎日投稿がしばらく難しいと判断し、2日に一話更新とさせていただきます。
 無論、しっかりと執筆していく事を考えた結果ですので、出来る日は連日更新を行わせて頂きます


第三十八刃

─────〇─────

 

 

 

 

 

 振り抜かれた絶刀は強化された毛皮やその下の脂肪、筋肉、骨を僅かな抵抗を感じながらも断ち切りながら、進んでいき遂にはその頸を刎ね飛ばした。

 さしもの空も先程まで断ち切るのは難しい程に強靭に強化された巨災狼の頸を断ち切るというのは骨が折れたか、技量だけでなく自身の筋力をフル活用して剣を両手で握りしめ、地面を踏み抜きながら振るった。

 その結果として本当に文字通り腕の骨を折り、復元を開始し、すぐにそれも終わった。

 

 そして、視線を刎ね飛ばされた巨災狼(マーナガルム)の頸へと向ける。有り得ないという表情をしながらもその瞳にはどうしようもなく当然だ、という様な信頼の色が空には見て取れた。

 光というものにはそういうのがいるものなのだ。

 相手に対して当然の様に要求してくる者がいる。

 例えば、審判者(ラダマンテュス)。彼は自分にも出来たのだから、総統閣下なら出来たのだからと、頑張りさえすればできるのを実体験、実例があるから誰しも出来るはずだ、不可能なことなどこの世の何処にもありはしない、と宣うのだ。ちなみに等の実例であり、彼の信奉する英雄は自分には出来ないのならば、他者に助けを求めるのだが。

 

 そんな光らしくお前ならばこれぐらいやってみせると言うような視線に空は眉を顰めて───

 

 

「ッ……!」

 

 

 唐突に動き出した魔狼の脚撃を絶刀で受け止める。

 視線を動かせば、地面に縫い付けていた結晶を砕きながら、頸を喪った筈の魔狼の身体が動いていた。

 脚撃から、そのまま空を押し退けるように、方向が分からぬようによろめきながら十数歩近く歩いた、と思えば身体は崩れ落ちる。

 そんな有り得ない光景に内のエンリルは舌打つ。

 

 

『反射か。頸を刎ねられておきながら反射で動くなんてどんなイカれだ』

 

 

 頭が痛くなる、とでも言うようなエンリルの言葉に空は同調しつつ、ドサリと音を立てて巨災狼の頸が地面に落ちた音を耳にしその方向を見て目を見開いた。

 

 

「『まだ、だ……まだだ……俺はまだ、答えを得ていない。おし、えてくれ、示してくれ……なあ、俺の太陽(ヒカリ)。俺に道を示してくれ────死にきれない』」

 

「……ここまで来れば、悪足掻きと何が違う。いや、もしかすれば邪竜も似たような事をしかねない、か」

 

 

 考えたくない話だが。

 呟きながら、空は絶刀を構え相手を睨めつける。そこにはグジュグジュと音を立てながら自然治癒をして、頸を繋ぎ治している魔狼がいた。

 いったいどういうことか、そんな思考が睦月の胸中を埋め、エンリルを通してそれを空は受け止める。

 空とて精々、意思と気合と根性という光特有のソレで、刎ね飛ばされて頸だけになっても意識を保ち続けて何とか反射で動いた胴体に繋がるように何とか落下して繋げ治した、という事なのだろうという予想しかない。

 実際に蓋を開ければ概ね空の認識が正しい。たかだか頸が飛んだ程度では光は死にはしない。いや、死ぬかもしれないが少なくともここにいる光の狼は立ち止まれない。

 普通なら、刎ねられた頸を繋げたところで治るわけがない。これが腕や脚なら有り得なくない。割られた胴体を繋げ治すのも、まだ現実的だ。では、いったいどういう絡繰なのか。

 もちろん、意思と気合と根性────は、僅かにあれども本質は昇華魔法だ。絶刀が頸へと食い込み断ち切る最中に、まだ道を示されていない、ならばまだ死にきれない、そんな意思の下に発動した昇華魔法で自然治癒の規模を広げたに過ぎない。

 無論、同じ神代魔法である再生魔法と比べればあまりにも非効率的だ。酸素供給の停止など、頸を刎ねられた弊害を考えれば、まだ魔狼となった時のように書き換えを行う方が良いのだろうが……。

 

 

「『まだだ。教えてくれ!俺の太陽、無慈悲の断絶刃!俺に、俺に……!!』」

 

 

 咆哮をあげながら、二度目の疾走を始める巨災狼(マーナガルム)

 それを前にして、空は冷静に構え直し静かに呟いた。

 

 

「俺の知る光とはまた別ベクトルに面倒極まる。その頭蓋を両断した所でどうせ繋がるのだろう?」

 

 

 灰黒い魔力の奔流を纏いながら顎門を開き迫る巨災狼に対して、空はその絶刀を振るう。

 振るわれるのは空間ごと両断する断絶刃。鋼の魔力を纏った絶刀は容易く魔力の奔流の僅かな隙間を狙い振るわれていく。魔力の境界を断ち切る絶刀は当たり前のように、つい少し前までの限界を越える前の巨災狼を斬る様に容易くその毛皮と筋肉と骨を断ち切る。

 だが、しかし

 

 

「『まだだ』」

 

 

 斬った先から繋がり治る。

 硬くなるのではなく繋ぐ速度を早めていく巨災狼。どうか、どうか俺に光の道標を教えてくれ、示してくれ、見せてくれ!と叫ぶ魔狼はやはり先程のように絶刀ごと右腕を引きちぎろうとするが、既にそれは見た。

 空は跳躍し、身体を捻りながら魔狼の閉じる顎門より逃れ、頭上を飛び越えその背中を転がり、いつの間にかに納刀していた絶刀を回転しながら抜刀する。

 

 

「八重樫流抜刀術──水月・漣」

 

 

 本来ならば回転しながらの抜刀術で全方位を切り払う技であるが、それを魔狼の背中で転がるように放てばどうなるか。

 

 

「『───グゥゥ!!』」

 

 

 絶刀が背骨を裂きながら尾の方へと移動していき、おびただしい量の出血で魔狼の灰黒い獣毛がより一層赤く染まっていく。

 着地した空はすぐさま振り返り下段に構える。

 

 

「────悪いが俺はお前ばかり構っているつもりは無い」

 

 

 今度はこちらからだ、と地面を踏み砕きながら空はブレーキをかけて方向転換しようとしている魔狼へと迫っていく。その間に左手に絶刀を持ち替え、右手を突き出す。

 そうして紡ぐのは祝詞。

 

 

「『神命拝領・青生生魂(アポイタカラ)起動───』」

 

 

 瞬間、溢れ出す鋼の魔力と混ざりあった粒子。

 粒子は次々と収束結合していき結晶体を構築していく。空の権限だけでは構築していくところで終わりだが、同時に内のエンリルが高らかと祝詞を紡いでいく。

 

 

『夜久毛多都、伊豆毛夜弊賀岐、都麻碁微爾、

 夜弊賀岐都久流、曾能夜弊賀岐袁』

 

 

 制御は俺に任せろ。と言わんばかりに空の思考を読み取ったエンリルがオリハルコンを操作し制御していくことで結晶体はみるみるうちに巨大化、人間大のソレへと成長していき────

 

 

「卑怯とは言ってくれて構わない」

 

「『馬鹿な……』」

 

 

 そこには空と並走する三体もの結晶人形が真剣(つるぎ)を携えていた。

 ただの人形と思うなかれ、それは風鳴空という刀剣の性能そのものを記録しているオリハルコンが構築した複製品。恐ろしいことに彼らは劣化品(デッドコピー)ではなく、完全な複製体であり彼らをエンリルが制御する。

 ならば、ここにいるのは四振りの天羽々斬。

 

 

「では、存分に味わってくれ」

 

 

 放たれるのは波状攻撃。複製体二体による至近距離での断絶刃による斬撃に加え、本体である空と複製体一体が中距離から至近距離の二体の隙を潰すように絶刀を振るっていく。

 魔狼は斬られた端から自然治癒により繋ぎ治していくが、反撃をしようにも次々とそれを潰されていく。

 段々と確実に追い込まれていく巨災狼。

 

 

「『まだだ!!』」

 

 

 ならばこそ、光の狼は意思力をもって奮起し咆哮を上げて、覚醒し────

 

 

「ああ、お前ならそうすると分かっていた」

 

 

 瞬間、空間が大きく撓み、歪み、渦巻き、蠢き、胎動する。空の魔術師としての技能はそう高いものはではない。だが制御発動を内のエンリルが担当することで空間魔法が目の前の魔狼を捕捉した。

 

 

「教えてくれ、示してくれ、見せてくれ、などと他人に求め過ぎるな。一度足を止めてみろ。本当に求めているものは存外自分の身近にあるものだ」

 

『転移先の座標確認、飛ばすぞ!』

 

「何度も言うが付き合うつもりはこちらには毛頭ない─── “遠隔瞬間移動(アスポート)”」

 

 

 その一言をもって、一切の反応を許さぬ速度で転移魔法が行使された。

 無論、それでもなおと限界を超えて突破しようとして────させると思うか?そんなエンリルか空の言葉が響くように次々と複製体が弾けて無数の結晶体の嵐が覚醒を潰し殺す。

 

 

「『───ああ、なるほど』」

 

 

 結果として転移魔法が起動し、次の瞬間には巨災狼の姿はその場から消え去った。

 その後をしばし立ち止まって見ていた空は納刀し、纏っていた鋼の魔力光と粒子を消して身体がぐらついたか、と思えばそのまま崩れ落ちていく。

 

 

「大丈夫ですか、風鳴様」

 

「ッ、すまない。流石にあの手合いを相手取るのは精神的にも肉体的にも大きな疲労がくる」

 

 

 だが、膝を突く前に睦月が素早く空を支える。そんな彼女に謝罪しつつ、空は肩で息をする。光との戦闘、確実に勝利すべく選んだ完全聖遺物の自己復元以外での使用、空間魔法の魔法としての使い方。

 そのどれもがあまりにも未経験だ。

 それによって生じる精神的、肉体的な疲労がどれほどのものになるのかは語るべくもないだろう。

 故に空の疲労を察した睦月は申し訳なさそうにやや俯きながら謝罪する。

 

 

「申し訳ございません。本来ならば私も戦うべきでしたのに、動けず」

 

「……いや、気にする事はない。あの手合いとの戦いで乱入したところで、という奴だ。恐らくこちらが最初から二対一で相手取ったところでそれをきっかけにして覚醒されるのがオチだ」

 

「はい……」

 

 

 気にするな、と彼女に言いながら空は息を吐きつつ、内のエンリルへと思考を向ければすぐに反応が返ってきた。

 

 

『早々にこの場から離れる事だ。少なくともこんなところであんな戦闘があったのだ。樹海から亜人たちの斥候が観察しに来る可能性が高い』

 

「御意」

 

 

 休むのはいいがここらでは休むな、という言葉に、軽く呼吸を整えてから南へと向けて睦月と共に歩き始める。

 途中、帝国の野営地からある程度の物資を頂戴することは忘れずに、二人はこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、そこは赤銅色一色に染められた世界だった。グリューエン大砂漠のど真ん中、ただ一体放逐された巨災狼はしばし目を見開き、その場に佇んでいたかと思えば次の瞬間にはその姿は魔狼のモノから元の帝国兵のソレへと変わっていた。

 帽子を深々と被り、マスクを引き上げて、暑くなりすぎないように軍服の前を開けてからルクス・ジ・マーナガルムは赤銅色の空を見上げる。

 

 

「足を止めてみろ、か。面白い……他ならぬ俺の太陽、お前がそう示したのだ」

 

 

 軍帽に隠れ気味なその瞳とマスクの下にある口は獰猛な笑みを浮かべる。

 太陽に示された道を歩いてみよう。

 そして、その後にもう一度、もう一度お前に挑んでみるとしよう。

 そう誓いながら、さてどうするかと周囲を見回しながらルクス・ジ・マーナガルムはグリューエン大砂漠を一人歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────〇─────

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