ありふれない防人の剣客旅 作:大和万歳
感想ありがとうございます。
これからも頑張らせていただきます。
また、評価ありがとうございました。
─────〇─────
空たちはメルド団長率いる騎士団員数名と共に『オルクス大迷宮』へ挑戦する冒険者たちの為の宿場町である『ホルアド』へと半日ほどをかけて到着し、王国が新兵訓練の為に利用している王国直営の宿屋へと宿泊する事となった。王都にある部屋とは違い至って普通な部屋での宿泊である。
翌日に『オルクス大迷宮』への挑戦が控える夜、空は宿屋裏にある人気の無いちょっとした庭のような空き地の片隅で一人座禅を組み、目を瞑っていつも通り、自分の血の中に潜んでいるアヌンナキと対峙していた。
『オルクス大迷宮、か。確か七大迷宮と言う奴だったか?』
「はい。全百層からなると」
『ふむ……なるほど、お前はどの程度知識が?』
「少なくとも南雲と同じぐらいには」
そうか。
そう呟きながら、左の視界に広がるエンリルはその指を顎に当てながら思考に耽る。
その様を見ながら、目の前のアヌンナキについてこの二週間接してきて感じたモノを空は纏め始めていた。
フィーネが懸想し恋焦がれるカストディアン。
正確に言えばアヌンナキが一人、エンキがフィーネの恋の対象であるがあながちエンリルが関係ないと言う話でもない。アッカド・シュメール神話を紐解けばあるようにアヌンナキ・エンリルはアヌンナキ・エンキと兄弟の関係にあるようだ。
遥か銀河より飛来した異星の存在たるアヌンナキ、地球において生命の創造や進化の促進を行い、目的に応じて改造を施すなど、生態系の管理者としての役割を担ってきた存在の彼らの中でエンキが保安・防衛の役職に就き、シェム・ハが改造執刀医であったようにエンリルもまたアヌンナキに於いては要職に就いていた。
アヌンナキの中枢、所謂意思決定機関の様なモノの一人であったようだ。そんな彼はシェム・ハ反乱とアヌンナキの地球脱出の際に同じ考えのアヌンナキ三人と共に地球に残り放浪の旅を選んだ。
その果てに東の果てにある島国へと辿り着いたエンリルらはその地にいたルル・アメルたちの神となり、そこで新たな名を得た。
それがエンリルにとっての大和が御名・神素戔嗚尊。
『お前と知識を共有しているとはいえ、ズレがあるのも面倒だ。一度反芻しろ』
「ハッ」
そこまで、頭の中で整理していたところで空は声をかけられて、一度それをやめ言われた通りに改めて空は『オルクス大迷宮』についての情報を反芻していく。
オルクス大迷宮の魔物が外の魔物より強敵である理由、それは魔物を魔物たらしめる核である魔石が、迷宮の魔物のものは良質だからである。
魔石とは魔法陣を作成する際の原料となり、ただ書くのではなく魔石の粉末を利用して魔法陣を作成する方が効果が三倍違うそうだ。
そんな魔石は魔物にとって唯一の魔法媒体となる。魔石が良質なほど魔物は強力な固有魔法を使用する。その際に詠唱も魔法陣も使わないのが魔物が油断ならない理由であるが.......この際、それは横に置いておく。ともかくそんな魔物が階層毎に質が変わる為訓練に用いるには迷宮はちょうどいいというわけだ。
そこまで自分の知る大迷宮についての情報とそれに付属する情報を頭の中で反芻した空にそれを共有したエンリルは満足そうに頷く。
『まあ、俺との誤差はほとんどない、か。うん、良しとしよう』
満足そうな彼を見ながら、空は自身のステータスプレートへと視線を巡らしていく。
==========
風鳴空 17歳 男 レベル:10
天職:防人
筋力:250
体力:200
耐性:190
敏捷:230
魔力:105
魔耐:200
技能:国津遺伝子[+剣質強化]・状態異常耐性・剣術・見切・縮地・先読・気配感知・言語理解
==========
「……さて、このステータスでどこまでいけるか」
『ん?ああ、そうさな。少なくとも油断をするな。慢心するな。侮るな。それさえ出来ていれば問題はあるまい』
「そうなりますか」
『おうとも。それと、わかってると思うが戦いにおいて相手の好きにやらせるな。何事も自分の得意を相手に押し付け続けろ』
真剣な顔でそう語るエンリルに空は深々と頭を下げる事でそれを了承し、心に刻む。
そうして、次に自分の技能を注視した。
『国津遺伝子』正しく字の通り、自身の血筋すなわち風鳴の血に潜む国津神たる神素戔嗚尊の遺伝子。
曰く、自分たちが消えていく可能性から消えた後の大和つまりは日本の未来を憂いた結果、自分の巫女と交じりそして産まれた子供の遺伝子にシェム・ハの断章を押し退けて自分の意識を刻み込みその血筋と共に日本を守護していく。
その思惑で紡がれたのが防人、風鳴一族。
それが技能として現れたのが『国津遺伝子』である。
「叔父のあの異常さの理由が判明して、正直何とも言えないが……」
『いや、何度も言うが本当に弦十郎は間違いなく俺の遺伝子は関係ないからな。常人の中でもそれなりになるだけで、本当にあんな人外めいた膂力とかは持たないからな?ましてや訃堂みたいに百歳越えてなお、あの身体能力なんてありえないからな?』
「………なるほど」
絶対此奴信じてないだろ、とでも言いたげな表情で空をエンリルは見るがすぐにため息をついて、手をヒラヒラと振りながらそのまま目を瞑り始める。
そうして、左の視界が元に戻っていくのを感じて話が終わった。空は瞑っていた目を開いてから座禅を崩して立ち上がり宛てがわれた部屋へと移動していく。
「………未だ、二週間と言えばいいのか。それとももう二週間と言えばいいのか(二週間も妹成分が取れていない。いや、それ以前に、それ以前にだ。出来うる限り早く帰還しなければ……ツヴァイウィングとしての翼の歌が永遠に聴けなくなる………!!!!)」
表情には一切出ないものの内心ではシスコンを拗らせながら、宿屋の廊下を歩いていて、ふと空はその足を止めた。
というのも視界の端に動く影、人影を見つけたからである。
廊下の角辺りで窺うようにその先を見ているようで、その視線を向けている方に一体何があるのか、と思考を回すまでもなくすぐにその辺りが自分───正確に言えばハジメと自分の二人にだが───に宛がわれた部屋であると、理解し同時にその人影がいったい誰なのか理解できた。
檜山大介である。
おおよそ、碌でもないことでも考えているのだろう。殺意すら感じ取れる。
いったい今度は何をやらかすつもりなのか。
結局、医務室で安静にでもしていればいいのにこの遠征に参加したハジメを狙っているであろう檜山にわざと空は足音を立てながら廊下を歩き始めた。
背後からの足音に一瞬ビクッと、肩を跳ねた檜山が振り向けばそこには空の姿が。その腰にはやや長めの剣が下げられており、檜山は昨日の出来事を思い出したか、冷や汗が背中を濡らすのを感じ取り舌打ちしながら視線を空に合わせぬ様にそそくさとその場を去っていく。
その姿を見送る空の視線はやはり厳しいものであったがすぐに視線を檜山の背から外して、部屋へ戻ろうとして────
「いったい、どうしたこんな夜更けに」
「あ、風鳴くん」
角を曲がってすぐにある、廊下の壁際に置かれた飾り棚。先ほどまで角から部屋前を伺っていた檜山から死角となる位置に一人少女が立っていた。
黒髪のナチュラルボブに眼鏡をかけた少女。
彼女の名は中村恵里。空やハジメらと同じクラスメイトの一人であるがしかし、どうしてこんな夜更けにこんなところにいるのか。
彼女の部屋はここではないはずだが、そこまで思考を回していると先に中村がしゃべり始めた。
「いま、部屋に入らない方がいいと思うよ?香織ちゃんがいるから」
「……ああ、なるほど。それでか」
檜山が殺意を漂わせていたのも理解できる。
そう胸中で付け足し、空は壁に寄りかかりながら、その視線を中村へと向ければ中村と視線がかち合い、彼女は微笑む。
「相も変わらず、泥の様だな」
「ひどいなぁ、もう」
その瞳の奥にドロリとしたモノが蠢いているのを見てそう呟く空に対して、中村は先ほどまでの普通の少女然とした様子から一転、言葉の端々からなにか粘性じみた雰囲気を漂わせ始めた。
もしも彼女の友人がこの場にいれば、この雰囲気の変化に驚きを露わにするだろうがそんな変化に空は特段、気にするようでもなくため息をついた。
「別に僕は普通だよ?」
「普通の人間はそんな風な雰囲気は持たないが」
変わらず先ほどの様に微笑むがしかし、先ほどのそれとは違い愛想のよいそれではなく、まるで捕食者のようで足を踏み入れればそのまま足を引いて引きずり込むような泥沼じみたねっとりとした微笑み。
「俺としてはお前が周りに迷惑をかけないのならば、どんなモノを俺に向けていようがとやかくは言わん」
「一応、聞いておくけど周りって、どの辺からどの辺まで?」
「そう聞かれると難しい話だな。今のところだと少なくともこの世界の人間をわざわざ守るつもりはない。俺にとって優先事項は日本への帰還であって、この世界を、日本でもない世界を救うつもりなどない。薄情者と誹られるだろうが……な」
堂々とこの世界などどうでもいいと断言する空に中村は驚くこともなく、まあそうだろうとでも言いたげな表情のまま話の続きを促す。
「つまるところ、お前がこの世界の人間にだけ、迷惑をかけている内であれば多少の苦言は呈すかもしれないが」
「……ほんと、大変な家に生まれたね空くんは」
「父と妹、叔父に恵まれているからな。苦にならんよ」
そう言って、不器用ながら空が微笑むのを見て、中村は先ほどまでの雰囲気を霧散させ普通の少女のようにまた微笑んで、そのままこの場を離れ始めた。
その背に空が言葉を投げかければ、すぐに返事も返ってくる。
「なにか用事があったんじゃないのか?」
「んー。この世界の人たちを守るつもりがないって、ようするに私たちは守るってことでしょ?日本人だから、とかそういう理由でも守ってくれるっていうなら安心かな?」
そう言って部屋へと戻っていく彼女の背を見ながら、合点がいったように空は頷いた。
つまるところ、彼女は不安だったのだ。
王都周辺での魔物との戦闘はまだ安全だったが明日は大迷宮というより危険な場所での戦闘である。もしかしたら、という不安があってそれをどうにかしたくて、空の元へと足を運んだのだろう。
そんな彼女の心情を察した空は再び静かに笑みを浮かべた。
その後、すこし経ってから部屋から出てきた白崎香織に幾つか苦言を呈して、部屋へと入ってハジメに生暖かな視線を向けつつ空は眠りについた。
─────〇─────