無惨様に殺されたくないのでハードモード通り越して鬼モードですが必死に運命を回避します 作:経済人
この館には大きな厨房がある。館の改修で使えるようになってはいたが白亜は料理をしない(できない)為に長らく主不在が続いていた。
それがなんと、今朝久しぶりに火が灯ってた。
厨房に立つのは白亜の趣味で作られた和風メイド服の上に白い割烹着の格好をした砂夜。
彼女は無言のまま、慣れた手つき調理を進めていた。火が掛けられた鍋の蓋の立てる音、砂夜の包丁が食材を刻む音のみが静かに響いていた。
厨房の扉が開いたのはそんな時だった。
「わ~♪いい匂い~♪」
入ってきたのは白亜だった。今起きてきたのか髪が乱れていた。
「あ!白亜様、おはようございます♪」
「おはよう砂夜ちゃん、割烹着似合ってるね~」
「はい!白亜様が昨日作って下さったこれ、とても着心地がいいです!」
「あれ?砂夜ちゃん一人?手伝い用に土傀儡数体用意してたのに‥」
「それならできたご飯を食卓に並べて貰ってますよ。後はこのお味噌汁だけだったので白亜様をお待ちしておりました。」
「ありゃ!待たせちゃった?」
「いえいえ!白亜様が私の割烹着の後にも作業なされたので寝るのは遅くなったのは知っていますので!」
「ううっ‥砂夜ちゃんまじ天使です‥‥」
砂夜に促されて食卓を用意している部屋へと向かう。食事の部屋は厨房の隣の部屋でもよかったけどせっかくなので少し広めの所をチョイスしている。
部屋の前には手伝いをしていた土傀儡達が座して待っていた。
「ここはもういいよ、下がってて。」
「‥‥」
傀儡達は指示を受けるとぞろぞろと移動を始める。命令がないと動かなくなるのが可愛いところでもあるが手間のかかるところだと思う。
人払い(土払い?)を済ませて部屋の戸を開けるとずっと二人を待っていた者がムッとこちらを向く。その顔は砂夜ちゃんと瓜二つで‥‥
「遅いですよ二人とも」
「ごめんなさい、お味噌汁できるのに少しかかっちゃった」
「いいえ、砂夜は悪くないわ。砂夜は出来立てを作る為に待ってたんですもの。悪いのは寝坊した白亜様よ。」
「ちょっと砂生!」
「いや最もだからいいよ。おはよう砂生ちゃん」
「おはようございます白亜様、さあ私の指示で並べた朝食が冷めないうちに」
「作ったのは砂夜ちゃんだよね?」
「失礼ですよ!私も手伝ってますよ!」
「ええ砂生も手伝ってくれてますよ」
「へ、へぇー。じゃあ砂生ちゃんはどれを作ったの?」
「お米を炊きました!あとは火の番も!」
「お、おう‥‥」
ま、まあ。昔のやり方で釜でやるなら大変なんだろうねきっと!
「よくやったね~よしよし」
「どや!」
撫でられてここまでどや顔するとは、しかも砂夜ちゃんの顔でそれをされるとなんか新鮮でいいかも。
「あ、あの!本当に冷めますので早く食べてしまいましょう!」
「本当は自分もナデなれたいんですよあの子。後でやってあげて下さいませ」
「勿論、喜んで」
「も、もう~!」
この砂夜ちゃんと写し鏡みたいな子は砂生ちゃん。簡単に説明すると砂夜ちゃんの血鬼術で生まれた土傀儡です。見た目はまんま砂夜ちゃんですが、髪が材料の土の成分の色が出ていて赤っぽくなっている。
彼女に血鬼術を使ってみせて、人形の物ができたまでは私のモノと同じなんだけど、どうやっても彼女は自分の姿をした傀儡しか産み出すことができませんでした。
そして、この傀儡はなんと自我を持ち、話すことや完全自立行動ができると言うまるで私の血鬼術の上位互換みたいなことになりました。
彼女の血鬼術は自分と同じ姿の傀儡を作ることのみで、私みたいに地形操作や土錬成はできませんでした。しかし、この傀儡は自立思考のみではなく‥
「あっ!このたくあん切っておいてと頼むの忘れてました‥‥ちょっと包丁で切ってきます」
「砂夜、少し待って」
立ち上がろうとした砂夜を制した砂生は手を広げて意識すると、そこから包丁サイズの刃物を生成した。
「はい」
「ありがとう」
砂夜はそれを受け取り布で綺麗に拭くとたくあんを切り始める。
そう、彼女は使えない土錬成を彼女の傀儡が使えるのです。ただし、私みたいな細かいことは出来ず、作れるのは片手サイズのシンプルな形状の物のみです。
ちなみに砂生は砂夜ちゃんが付けた名前で砂から生まれたからだそうです。
「はい白亜様」
砂生ちゃんがご飯をよそいだ茶碗をくれた。
「あっ。ありがとう‥それじゃあ‥‥いただきます!」
「い、いただきます‥」
「私は土だから遠慮するわね。おかわりがあればまかせなさい!」
「うん!それにしても‥‥うん!美味しいです。砂夜ちゃんは料理上手ですね。」
「え?!あ、ありがとうございます!」
「あれ?砂夜、何だか照れてますよ?」
「本当ですね。砂夜ちゃんは照れても可愛い~」
「もう!止めて下さいませ!」
砂夜は更に照れ臭そうに顔を赤める。すると話題を変えたい砂夜はふと思った事を尋ねた。
「しかし白亜様、どうして最初の命令がご飯を作ってだったのですか?昨日の説明だと私達は食事は不要だと‥‥」
「ああ‥‥それはですね‥」
まぁ、一番の理由は志保さんかな?彼女と一緒に生活した1ヶ月のおかげもあってこの世界に転生してからも普通の食生活をしていたわけだしね。なんだか、無いと落ち着かないと言うかね?
それに‥‥
「う~ん、まぁ?いくら鬼になったからと言ってわざわざ怪物らしくする必要もないかな~なんて。たとえ怪物だとしてもわざわざ人間らしさは捨てたくはないからね。」
「えっ‥‥」
私の発言に砂夜は目を丸くしてこちらを見ている。
「あれれ?私、何か変なこと言ったかな?」
「いいえ!とても素晴らしい考えだと思います!ねぇ砂生!」
「元々生物ですらない私にそれを聞くのはどうかしていると思うけど、私もその考えは嫌いではないわ。」
「え~そうかな?二人に言われるとなんか照れる~」
「あっ!白亜様も照れてますね。」
「白亜様もお可愛いですよ?」
「‥‥ごめんなさい、謝るからもう止めて‥」
私は思わず顔を手で覆う。それを見て砂夜は微笑み、砂生は笑い出した。これには私も話題を変えようとつい疑問を口にする。
「本当に砂生ちゃんは傀儡には見えないよね。こうして普通に会話してても違和感ないし」
「ふん!凄いでしょう!」
「私の土傀儡達みんな無機質だからな~。もしかすると砂夜って天才?」
「まぁ、傀儡の私が言うのもなんだけど、一から個性を作るのは神にも等しいわね。もちろん、いくら白亜様から力を貰ったとは言え鬼として半人前の砂夜じゃあ無理だわ。」
「え?でも実際に貴女を作ってみせてるけど?」
「私のは一からと言うよりは彼女の複製よね。ほら、見た目同じでしょ?」
「うん。そうだね。」
「彼女、白亜様みたいに想像力とかないから人形を作る際にイメージできたのが自分だけなのよ。それで、自分をイメージしてやっていたら割と細かく作れて性格とか記憶とかも再現したわけ。」
「ええ?でも性格とかかなり違うけど‥‥?」
「ふふふ♪実はこの子、昔はこんな性格‥」
「うわー!!うわー!!止めて!お願いだから!」
‥‥なるほど。つまり、自我を与えるなら姿を与える際に一緒にやらなければいけないのか。姿を想像して作るのは簡単でも、その中身と言うか見えない部分あたる自我も一緒に考える必要があるから‥‥
となると確かにイメージしないといけない領域が増えるからハードルが高いね。
でも、それを自分自身のイメージとは言え一発でやってのけた彼女はやはり天才なのでは?
「ちなみに彼女は一体作るのに手一杯なので事実私しか作れませんよ」
「うう‥‥ぐうの音も出ない‥‥」
「い~やでも、今の話は参考になったかも。ありがとう。」
「お礼ならこの後砂夜をたっぷりと撫でて返して下さいな」
「ちょっと!またそこに戻るの!?」
「喜んで!」
「白亜様も悪乗りしないで下さい!さあ!まだまだおかわりもありますので召し上がって下さいよ!」
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「はぁ~楽しかったな~」
久しぶりの賑やかな食事だった。志保さんがいた時は二人だけだったからね。もしかすると転生後一番賑やかだったかもね。
食後はもちろん、砂夜ちゃんを撫でて愛でてをしたりと大変楽しめました。
そのあとは、砂夜ちゃんは家事をやるからと気合いを入れてたし、砂生ちゃんは同じ傀儡だからか知らないけど私と同じように他の傀儡達からの情報を受けとることができるみたいだから私の変わりに町にいる傀儡達からの報告を受けとってもらってる。
いちいち傀儡の視界を借りたり、文字だけの思念みたいなの送られるのは中々キツイからね。
「やることないし、今朝教えて貰った事を踏まえて新しい傀儡を作ってみるか‥‥」
とは言えども‥‥今朝の為に新しく土傀儡をたくさん作ったので手頃な土が余ってないかも。
「はぁ‥‥どうしたものか‥‥ん?」
悩みながら書斎に戻ってると書斎の前に待機していた土傀儡が目に入った。よく側にいるあの謎の哀愁が漂う個体です。
「たくさん触った方がより力を発揮しやすい‥‥」
「‥‥」
私はその個体をじーーと見つめた。
「‥‥よし。」
私はその子をガシッと掴むと書斎の中へと連れ込んだ。