聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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異なる文化は刺激を与える。


第十話 異世界転生者と留学者

 翌日の放課後、留学生二人がリクエストした場に連れていくため、シンは待ち合わせ場所で待機をしていたが、冷静になって考えてみると、この依頼を自分が受けるのはおかしいのではと思うようになる。

 

「異世界人によく分からない世界のガイドなんてさせていいのか?」

 

 明らかにミスキャストだろうとシンは思い、留学生達が来たら辞退しようと考えていると、明らかに日本人ではない髪の色の二人の少女がこちらに向かって近づいて来る。

 一人は小柄でまだ幼さが残る銀髪のロングヘアーの少女であり、もう片方は金髪のロングヘアーで高校三年生とは思えないモデル張りのスタイルの良さが目に留まる少女であった。

 二人がシンが座るベンチの前に立つと、各々自己紹介を始める。

 

「お助け部のシン・アスカさんですね? 初めまして私は一年のユーリヤ・ヴャルコワと申します」

「ワタシはクロエ・ルメールで~す」

 

 ユーリヤの方は流暢な日本語を話すのだが、クロエは片言でまるで漫画に出てくるような外国人の喋り方をしており、対照的な二人を見ながらシンは二人に向かって一礼をする。

 そしてこの件は辞退しようと、二人の説得にあたる。

 

「ハイ、二人とも初めまして。シン・アスカです。しかし二人とも日本語が上手だな」

「ありがとうございます。私は一人旅が趣味なので語学はそこで自然と身に付きました。特に日本は今まで旅した国の中でも一番素晴らしい国だって思います」

「ワタシはニッポンのアニメやゲームで言葉を覚えました~。ニッポンのアニメはどれもとて~も面白いデ~ス」

 

 両極端な二人に思わずシンは苦笑いを浮かべてしまう。

 あまりに二人のキャラクターが強すぎるので、本来の目的を忘れそうになってしまうが、ここで流される訳にはいかないと判断したシンは、自分の意を伝えようとする。

 

「それで今回のお助け部の依頼の件なんだが、俺じゃなくて他の誰かにお願いしてもらう訳にはいかないか? 俺だってこの世界はまだまだ知らない事の方が多いんだ。日本の事は日本人に聞くのが一番だ」

「シンさんが異世界人だと言うのは聞いてますけど、シンさんの世界に日本は存在しないんですか?」

「ああ合併吸収されて、日本と言う国で独立はしていない」

「じゃあシンさんは、何人なんですか? ワタシはフランス人、ユーリヤさんはロシア人で~す」

 

 ユーリヤとクロエに聞かれ、シンは自分の出身地を言ようかどうか言い淀んでしまう。

 決していい思い出がないオーブの名前を出したくないと言う想いが強く、シンは可能な限りお茶を濁した回答をする事を選ぶ。

 

「ここにはない南国の国だ。そこの小さな村の出身だよ」

「そうですか。ごめんなさい少し無神経過ぎました……」

 

 シンの事情を知ると、ユーリヤは深々と頭を下げて謝罪をする。

 突然の事にクロエは目を大きく見開いて驚き固まってしまうが、ユーリヤは自分の軽率な発言を反省して言葉にしていく。

 

「もうシンさんには帰る故郷がないのに、私達は好奇心だけで軽はずみな言動をしてしまって本当に申し訳ありませんでした」

「Oh、そうですね……ワタシからもあやまります。ゴメンなさいです」

 

 クロエもユーリヤに続いて頭を下げる。

 二人の真摯な様子を見て、罪悪感を覚えたのか、手を出してシンは二人の謝罪を制した。

 

「構わないよ。それで話を戻すが、やはり俺が日本の案内をするのは間違っていると思うぞ。もっと適任者が他に居ると思うんだがな……」

「Ohそうしたいんですが、乙女さん今日は外せない用事があって、ニッチモサッチもどうにもいかないんデス」

「乙女さんってどちらさんですか?」

「クロエさんが所属している部の部長で、栢嶋乙女さんって言います。日本文化研究会の部長なんですが、今日はどうしても外せない用事があるから、お助け部に依頼を出したんです」

 

 クロエは予定がおじゃんになるのではと思い、あたふたした様子で現状を伝え、ユーリヤが詳しい補足情報を伝える。

 学年で言うならクロエは三年生、ユーリヤは一年生にも関わらず、完全に立場が逆転しているのを見て、シンはこのまま放っておく方が危険だと判断し、頭をかきながらやるだけの事はやってみようと心に決め行動に移す。

 

「分かった。なぁ……一年の君、ユーリヤって呼んでもいいか?」

「ハイ勿論です」

「ありがとう。ヴャルコワってファミリーネームが呼びづらすぎてな。まぁやるだけやってみるけど、あまり期待はしないでくれよ。この世界は半年前に来たばかりだからな」

「なら一緒に探索をしましょう。それが旅の醍醐味です」

「醍醐味なんて随分と難しい日本語を知っているな。エラいなユーリヤは」

 

 素直で幼いユーリヤを見て微笑ましい気持ちになり、率直な感想をシンは述べる。

 褒められた事で照れたのか、ユーリヤは顔を軽く朱に染めて謙遜をしだす。

 

「そ、そんな事ないですよ。シンさんだって凄いですよ、異世界人なのに日本語もお上手だし、その制服だって凄い似合っていますし」

「ありがとうな。でもやっぱり二人の方が凄いよ。俺の世界じゃ公用語は皆英語になっていたからな。少なくともこう言う異国交流と言うのはあまりなかったな」

「それは凄いですね。皆で手を取り合って人類が一つになった世界なんですか?」

 

 無邪気に尋ねるユーリヤに対して、シンの顔色が一瞬暗い物に変わろうとしてしまう。

 自分達の世界も結局はこっちの世界と根本的な事は変わらない。

 人種差別は別の方向で生まれてしまったからだ。だがこれは自分が蒔いた種だと判断し、不機嫌な様子を悟られないよう、シンは平静を装って返す。

 

「かもしれないな。正確にはこれからの話だけどな」

「そうだとしても本当に凄い事ですよ……」

「ヘイ!」

 

 シンにしか分からない皮肉を込めて返すと、突然不機嫌な大声が響き渡る。

 見るとクロエがこちらを不満そうに睨みつけていて、何事かと思い、シンはユーリヤを後ろにやって、彼女の応対にあたる。

 

「どうかしましたかルメール先輩?」

「さっきからユーリヤさんとおしゃべりばかりズルいです! ワタシもクロエと呼び捨てでお願いします!」

「さすがにそう言う訳には……」

「ワタシがいいんですからいいんです! シンさん大人っぽいですし、ワタシの好きなアニメのキャラクターにも似てます!」

 

 そう言って、クロエが取り出したのは一枚のクリアファイル。

 そこに映っていたのはファイナルファンタジー7の人気キャラクター『ザックス・フェア』であり、そんなに似ているのかとシンやユーリヤと議論になってしまうが、彼女は曖昧な返事をする事しか出来なかった。

 一瞬『大人っぽい』と言うワードを聞き、何かの当てつけかとも思ったが、頬を膨らまして怒りを露にするクロエを見て、これ以上の問答は無意味だと判断したシンは、自分の方から折れる事を選んだ。

 

「分かったよ。クロエがそれを望むんなら、それで構わない。それでどこに行けばいいんだ?」

 

 ユーリヤと同じようにフレンドリーに接してくれた事が嬉しく、クロエは先程までの不機嫌な表情が一気に吹き飛んで、パッと花が咲いたような笑みを浮かべると、クリアファイルの中にある資料をシンに見せる。

 それは日本画家の展覧会のチラシであり、二人はそこに強い興味を持ち連れて行ってほしいとねだったのである。

 

(これぐらいならユーリヤがいれば二人でも大丈夫だと思うんだがな……)

 

 これだけ日本語が堪能なら自分の説明がなくても十分に満喫する事は出来るだろう。

 それ以前に日本画家などシンには全く興味のない分野であったのだが、またここでクロエにぐずられても面倒だと判断したシンは、ユーリヤからスマホを借りると、ここまでの行き先を即座に調べ、向かおうとする。

 

「二人とも行くぞ」

「ハイ」

「りょうかいデ~ス」

 

 両極端な二人に振り回されながらも、シンは目的地へと向かう。

 これは仕事なのだからと割り切りながら。

 

 

 ***

 

 

 ユーリヤとクロエは日本文化である日本画に興味津々で食い入るように見ていたが、シンに取っては何がいいのかさっぱり分からず、熱量の違いに困惑するばかりであった。

 話した回数は多くないが、ここはユーリヤに任せておけば大丈夫だろうと思い、シンは少し離れた所から二人の後を見つつ、自分も日本画を見ようとする。

 しかし今の自分に芸術を理解出来る心の余裕など持てない。

 何となくではあるが独特のタッチは見ていて楽しい物があると思っていたが、二人程夢中にはなれない。

 居心地の悪さを感じていたシンだが、一枚の絵を見ると興味を持って、ジッと見つめる。

 それは古来魔除けに使われる幽霊画であり、妙な迫力を持ったその作品にシンは心を惹かれるが、すぐにこの状況がおかしい事に気付く。

 

(俺は死んでこっちの世界に来たからな。そんな人間が幽霊画を見てもな……)

「シンさんもこの絵気に入ったんですか?」

 

 自分の状況を妙だと思っていると、ユーリヤが話しかける。

 クロエの姿が見えないので、彼女がどこに行ったのか尋ねると、もうすぐこの幽霊画の作者である。若き天才画家、喜多川祐介が来ると知って準備があるといい、その場を離れたと言う。

 

「まぁな。芸術って奴は良く分からないが、この絵には引き込まれる魅力ってのを感じた」

「それが芸術って言う物です。どんな物でも、その人の情熱が入り込んだ物と言うのは、自然と作品にも宿る物なんですから」

 

 最もな言い分にシンは「そうだな」と答えると、会場がどよめき、大きな拍手に包まれる。

 特設ステージを見ると、紺色の髪を持った少年、若き天才画家喜多川祐介が会場に上がっていて、今回の幽霊画の制作秘話を語っていく。

 インタビュアーの質問に真摯に答える雄介を見て、真面目な人なのだろうと遠巻きから見ていた二人も感じていて、ここで客席からの質問コーナーに変わると、二人の目は点になって唖然となってしまう。

 

「クロエ――!」

 

 会場には何故か死装束に身を包んだクロエが居て、会場の目を一際引いていた。

 司会者も面白半分で彼女をステージに上げると、クロエはメモ帳を片手に一同が思っていなかった素っ頓狂な質問を行う。

 

「アナタはどうしてユーレイになったのですか?」

「え――……」

 

 そこに居た誰もが思ってもみなかった質問に対して、祐介は何も言う事が出来ずに困惑する事しか出来なかった。

 シンはユーリヤをその場に残すと、慌ててステージへと上がり、クロエの手を取って、その場を後にしようとする。

 

「す、すいませんが、どちら様ですか?」

「保護者だ!」

 

 表現的には間違っていないだろうと思い、シンは司会者の静止を振り切って、その場を後にした。

 まるで嵐のようなクロエに対して、ステージは茫然となっていたが、いつまでもこのままと言う訳にはいかない。

 気を取り直して再び質問コーナーに戻って、会場は元の空気を取り戻していた。

 

 

 ***

 

 

 適当なバックステージに三人は集まると、シンはまずクロエに何故こんな事をしたのか問いただそうとする。

 今回の日本画展の目玉はあの幽霊画であり、いわくつきの幽霊屋敷の幽霊を追い払った事で有名であり、好奇心旺盛なクロエは何故幽霊を撃退するのかを雄介に聞こうとしていた。

 やろうとしている事は間違いではない。しかしやり方が間違っている事を告げると、シンは次に何故死装束を着ているのかを聞く。

 

「郷に入っては郷に従えってことわざがニッポンにはあります。だから幽霊の格好してワタシも聞いてみました~」

「その恰好はどこで手に入れた?」

「乙女さんに用意してもらいました。怒ってますか?」

 

 シンとユーリヤの顔色を見て、クロエは恐る恐る尋ねる。

 彼女の問いに対してシンは呆れながらも返す。

 

「と言うよりは呆れているってのが本音だ。ユーリヤも同じ」

「そうですよ。天真爛漫なのはクロエさんの良い所だと思いますけど、過ぎたるは猶及ばざるが如しです!」

「それはどう言う日本語ですか?」

 

 『天真爛漫』や『過ぎたるは猶及ばざるが如し』と言う難しい日本語の意味をユーリヤから聞こうとする。

 相変わらず好奇心旺盛なクロエだったが、人によってはその態度に怒る人も居るかもしれないが、シンは違っていて、屈んで彼女に視線を合わせると諭すように話す。

 

「本当にクロエは日本が好きなんだな」

「Hi!」

「だからこそ今回みたいな行動は控えるんだ。じゃないとクロエは日本に居る事が出来なくなっちゃうぞ」

「それは困ります!」

 

 すぐに顔色がコロコロ変わるクロエを見て、ユーリヤも怒る事を忘れて、クスクスと笑い出し、シンも同じように穏やかな笑みを浮かべた。

 そしてこれからどうするべきかを三人で話していく。

 

「何でも素直に聞くのはいい事だと思うが、今回みたいなコスプレは控えような。俺もユーリヤも同じように勉強するから、皆で日本を知ろう」

「シンさんの言う通りですよ。私達迷惑な外国人観光客にならないためにも学ばないとです」

「ハイです!」

 

 元気よく答えると、二人はシンと連絡先の交換を求めるが、彼がまだ携帯を持っていない事を告げると、二人は残念そうな顔を浮かべてしまう。

 

「だったらまたお助け部に依頼してもいいですか? 私達の保護者になってくれるって」

 

 少しからかうようにユーリヤは言う。

 反射的に出た言葉をいじられてシンは少しバツが悪そうな顔を浮かべるが、ここは最後にビシッと決めようと返す。

 

「ああ。それが仕事だからな」

「仕事だけデスか?」

 

 クロエは自分を助けてくれたシンが気に入ったらしく、屈んだままジッと上目遣いでシンを見つめる。

 その姿にどこか妹を連想するシンは彼女の頭を優しく撫でると、一言言う。

 

「まぁそれは携帯を持ってからだ」

 

 これから先仕事だけの付き合いにならないかどうかと言う可能性だけを残し、今度こそシンはその場から去っていく。

 自分にはもう怒りしかないと思っていたが、シンは久しぶりに感じる穏やかで優しい感情を心地よいと思っていた。

 螺子川やモノクロームの時も自分の怒りを抑える事は出来なかった。だが今は違う。少しだけ憎悪を忘れる事が出来たから。




と言う訳で今回は人気キャラクターのクロエ・ルメールに出てもらいました。
そしてお遊びとしてペルソナ5の喜多川祐介にも出てもらいました。
私的な見解ですが、やはりシンにはこう言うちょっと足りない娘の方があっていると思います。書いていて楽しかったです。
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