聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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その出会いは必然か運命か。


第十二話 君は花の娘

 日曜日の河川敷。土手でシンは何も言わず横になって足を汲んで一人寝転んでいた。

 本当は先日も悪男狩りに勤しもうとしたのだが、それを止めたのはレイと木乃子。

 レイは回収し忘れた金から最新のゲーム機と適当なパーティー用のソフトを買って、シンに送り、昨日は明け方近くまで、レイと木乃子にゲームに付き合わされる羽目になていた。

 二人が自分を気遣ってくれる事は分かっている。だが、その想いに応えられるだけの度量は自分には持ち合わせてはいない。

 結局自分には暴力に身を委ねるのが一番気持ちいいと判断して、これからのプランを自分なりに考えていく。

 

――まぁ少しすれば落ち着くだろう。姫島や東雲も社会に出れば俺に構う暇もないだろう。

 

 どうせ学生時代の付き合いなんて顔を合わせなくなれば、その時点で途切れるだろと判断し、シンは卒業した後は適当に大学に行って、それ相応のスキルを身に着け、適当に出来る事だけをやって、ひたすら自堕落に過ごし、家族の元へ帰る日を待とうと決めていた。

 社会に出て何も出来ないと言う程無能ではない。それぐらいの自己分析は自分でも出来る。

 自分の中で勝手に結論を出すと、シンは眠気に身を委ね、そのまま夢の世界へと旅立とうとしていた。

 

「やめてくださ~い」

 

 それを遮ったのはのんびりとした間の抜けた声。

 だが声色から助けを求めていると言う事は分かり、何事かと思って体を起こして声の方向を見ると、花柄のワンピースに身を包み、腰まで伸びたふわふわのロングヘアーを靡かせながら、とてとてと出来ないなりに精一杯走る少女が目に留まった。

 走りすぎで深々と被った麦わら帽子が取れそうになっていたが、少女はそんな事構わずに、後ろからわざとスピードを落として追い掛け回す小太りの不良から逃げていく。

 不良は一目のない場所だと判断したのか、ここで本来のスピードに戻して、少女の前に立つと、手に持っていたポテトチップスの袋から、ポテチを取り出しながら食べると、少女に詰め寄る。

 

「なぁいいんじゃんかよ。かわい子ちゃん。俺と楽しく遊ぼう~よ」

「いやです~」

 

 少女は不良の申し出を断っているのだが、不良はそんな事構わずに少女へ詰め寄ると、下卑た笑みを浮かべながら、顔だけ少女の顔に近付け、引き続きちょっかいをかける。

 

「『いやです~』だって、かわいいね~。チューしちゃおうかしら?」

「やめてくださ~い!」

「そこまでだ」

 

 少女と不良の間にシンが割って入る。

 突然の乱入者に不良は露骨に不快そうな顔を浮かべて、シンの肩を突き飛ばすと、どくように警告をする。

 

「男はいらねぇんだよ! 俺は今このかわい子ちゃんと話してんだ。すっこんでろ!」

 

 不良の行動に対して、少女は麦わら帽子を深々と被って完全に怯え切っていた。

 シンは不良の行動を全く意に介さず、冷静にジッとその姿を見て戦力分析を行う。

 

(ただの人間か。悪男だったらよかったのにな)

 

 リーゼントにライダースジャケットにジーンズ。三角のサングラスをかけた時代錯誤な格好をしているが、今シンの眼前に居るのはただの人間。

 そう判断したシンは引き続き何か文句を言っている不良に向かって蹴りを放つ。

 殴られると判断した不良は身を縮こませるが、シンの放った蹴りの行方は彼が持っていたポテチの袋であり、それだけを弾き飛ばすと、シンは空中に飛んだポテチを受け止めて、交渉に入る。

 

「どうする? これ以上は止めておいた方が無難な選択だぜ」

 

 シンの最後通告に不良は冷や汗を垂らす。

 自分とシンの実力差は明白だと判断したのか、不良は聞くにも値しない罵詈雑言を投げ続けながら、その場を後にした。

 手持ち無沙汰になったシンは奪ったポテチを食べ出すが、後ろで呆けている少女に気付くと、彼女にも袋を差し出す。

 

「食べる?」

 

 申し出に対して、少女は首がちぎれるぐらいの勢いで横に振って、拒否の意を示す。

 何にせよ厄介事は片付いた。興が覚めたシンは、適当に散歩でもしようと、少女の方にも目をくれず、一人歩き出す。

 

「ありがとうございます。お兄さん。わたしは……」

「別にいいよ。次からはああ言う輩から逃げる時は大通りに出て、大声で助けを求めるんだな」

 

 自己紹介をしようとする少女を無視して、シンはダラダラと目的のない散歩を行う。

 一人取り残された少女は一瞬呆けはしたのだが、すぐに自分の目的地を思い出すと、そこへと向かっていく。

 

 

 ***

 

 

 人込みが気になって何となくシンが訪れたのは、新規開園の植物園だった。

 オープン記念と言う事でこの日は無料だと言う事を聞くと、やる事もないので、シンはこの日はそこで時間を潰す事を選んで中へと入る。

 中には色とりどりの花が咲いていて、散歩をするには持って来いの空間であり、シンは何度も何度も見て回って、目の保養に勤しむ。

 それは実に穏やかでのんびりとした時間であった。

 軍に居た頃はこんな時間など自分にはなく、例え世界がラクス・クラインの手に落ちたとしても、自分は毎日のように雑務に追われ続けるのだろうと思うと、大きくあくびをして一言心の中で悪態をつく。

 

――ざまぁみやがれ。とことん自分のために生きる。それが幸福ってもんだ。

 

 自分の中の幸福論、それは誰にも気を遣わずに、ひたすら自分のためだけに行動する事。

 それが分かったシンは、前の世界では幸福にはまずなれないだろうと自己分析を行う。

 軍と言う場所はそう言う生き方がまず出来ない物だと言う事は分かっている。

 大人になっていく以上、大なり小なり責任と言う物が発生し、様々な煩わしい物が自分を縛るだろう。

 ならば出来る事は一つだ。可能な限り、責任や義務なんて物を少なくすればいい。

 自分の人生プランが確立したのを見ると、シンはそのまま物思いに更けながら歩く。

 

(何も変わらりゃしないか。この世界にも戦争はあるが、俺じゃどうにも出来ない。好きなだけ憎みあって否定しあってろ。もう俺には何の関係もない話だ。ただ適当に食べて寝るだけだ。責任や義務なんて幸福になる上で邪魔くさいし、煩わしいだけなんだからよ……)

「探したぞ」

 

 聞き覚えのないドスの聞いた低い男の声が背後から突如聞こえる。

 シンが振り返った先に居たのは、趣味の悪い和柄のスカジャンを着た不良であり、その後ろには先程追い払ったリーゼントが居た。

 

「あ、兄貴コイツだよ! やっちゃってくれよ!」

 

 どうやら兄貴分を連れてリベンジマッチに挑もうとしたらしい、シンは周りを見渡すと、まっすぐ兄貴の目を見て交渉を行う。

 

「ここじゃ迷惑がかかる。場所を変えるぞ」

「その前に聞きたい事がある」

「何だ?」

「こいつが言っていた事は本当か?」

 

 不良にしては理知的な話し合いが出来る方だと思い、シンは兄貴の質問に答えていく。

 リーゼントが少女にちょっかいを出して、自分はそれを出来るだけ平和的な方法で追い払っただけだと。

 弟分の言っていた事と合致したのを見ると、兄貴はリーゼントの方を向く。

 

「このバカ!」

 

 兄貴はリーゼントの頭を思い切り拳骨で殴って、辺りに鈍い音を響かせた。

 思ってもみなかった行動にシンは呆けていたが、兄貴は構わずに怯えるリーゼントの胸倉を掴むと、そのまま説教に入る。

 

「何テメェカタギに迷惑かけてんだ? しつこいナンパは御法度だって言ったよな⁉」

「ご、ゴメンよ。兄貴、あんまりかわいかったから、つい……」

「うるせぇ!」

 

 拳を振り上げ、兄貴は制裁の一撃をリーゼントの顔面に叩きこもうとする。

 

「ダメです~!」

 

 その時突然先程聞いた間の抜けた声が、シンの耳に届く。

 声の方向を見ると、先程の麦わら帽子の少女が警備員を連れて、とてとてと一同の元へと向かっていた。

 警備員の姿を見ると、兄貴は掴んでいた手を放し、何故この様な状況になったのかを丁寧に説明する。

 リーゼントの話だけでは何も分からない。その少女か助けた少年からも話を聞かないと、弟分を説教は出来ないから、彼を探していただけだと伝えると、警備員はやろうとしている事に対して、時と場所を選びなさいと説教を行う。

 最もな言い分に対して、兄貴はリーゼントの頭を掴むと、二人並んで頭を下げた。

 一方のシンは未だに辛そうに息を切らしている少女を見て、何でここに居るのかを訪ねた。

 

「わたしもここの植物園に来ようと思ってたんです。そこでお兄さんの姿を見かけて、喧嘩しようとしてたから止めようとしたんです~」

「そうか……それはわざわざ済まなかったな」

「そうだな。お嬢さんにも迷惑をかけた」

 

 説教が終わって解放された兄貴は財布から千円札を一枚取り出すと、少女の手に握らせる。

 少女はお金を返そうとするが、兄貴は手を突き出してそれを制した。

 

「迷惑かけた詫び賃だ。それでそこの兄さんと飯でも食いな」

 

 そう言うと兄貴はリーゼントの首に手を回しながら、その場を後にした。

 警備員はシンにも軽い注意を促して、持ち場へと戻り、残された二人はどうしていいか分からなかったが、シンはすっかり興が覚めたと判断して、帰って寝る事を選び、その場から去ろうとする。

 

「あの……」

「それは君が貰った金だろう。好きに使えばいい」

「まだちゃんとお礼言ってないです。それに自己紹介もしてません~」

「もう会う事もないだろう。達者でな」

 

 偶然の出会いを強引に偶然で終わらせようとする。

 仮にあの少女と何か進展があったとしても、それを実行し続けるだけの甲斐性など自分にはない。

 人との繋がりなど、自分に取ってはマイナスにしか作用しないと判断し、シンは少女からも逃げる事を選んだ。

 それに一番の理由は少女の見た目。

 金色の髪に、人を疑う事を知らない純粋無垢なその姿は、嘗て自分が愛した少女を思い起こさせてしまうからだ。

 

(大した共通点もないのに、少しだけアイツに似てたかもしれないな。あの娘……)

 

 だからこそ関わり合いになりたくないと、シンは逃げた。

 また失うのが怖いからだ。

 

 

 ***

 

 

 翌日も普通に登校したシンは、この日もムスッとした顔で一人歩く。

 

「おいっす。相変わらず暗いなこの陰キャ」

 

 背中を叩かれ、振り返った先には木乃子が居て、これもいつも通りのやり取りなので、シンは小さく「オウ」とだけ返して、二人は並んで教室へと向かう。

 すると自分達の元へ一人の小柄な少女が詰め寄ってくる。

 腰まで伸びた長い黒髪を靡かせ、ボタンの髪飾りが特徴的な日本人形のような少女は、シン達の姿を見ると、一言聞く。

 

「姫島達か。済まないが春湖の姿見なかったか?」

「どうした五十鈴っち? また東雲にちょっかいかけられたのか?」

 

 彼女は2-A所属の不知火五十鈴であり、その小柄な容姿から、彼女はよくレイにからかわれていて、その事に対して烈火の如く怒るのは最早お馴染みの光景になっていた。

 今回もそうだろうと木乃子は思っていたが、五十鈴は首を横に振って否定をする。

 

「そうじゃない。春湖がこっちに向かって走ったんだが、ちょっと見失ってしまってな……」

「春湖って誰の事だ?」

「あ、いました~」

 

 春湖が誰なのかをシンが五十鈴に聞こうとすると、どこかで聞き覚えのある間の抜けた声が響く。

 声の方向を見ると、シンは唖然とした顔を浮かべていて、五十鈴は少女に擦り寄って彼女の無事に安堵の表情を浮かべる。

 

「ダメじゃないか春湖! 勝手に走っちゃ」

「ごめんなさい五十鈴ちゃん。そのお兄さん追いかけたんだけど、途中でちょうちょうさん見かけて、そっち行っちゃった~」

「またかよ⁉」

「そのお説教は後で聞くから。お兄さん改めて自己紹介します~」

 

 五十鈴の説教を適当な所で切り上げると、少女は未だに唖然となっているシンの前に立ち、自己紹介を始める。

 

「わたし、聖櫻学園1-C園芸部所属の夢前春湖って言います~。お兄さんはネクタイの色から先輩さんですよね~? お名前何て言うんですか~?」

 

 あの時だけの付き合いだと思っていた少女がまさか同じ学校に通っていたとは思わず、シンは茫然としながらも自分の名前を告げる。

 この状況を見て木乃子は含み笑いを浮かべながら、心の中で呟く。

 

――ケケケ、またフラグ立ててやんの。




今回は自分的にはクロエと同じぐらい合うのではと思っている夢前春湖を登場させました。
この娘はガールフレンド(仮)の中では一番ステラに近い娘ですからね。
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