聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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例え身勝手な感情でも愛情は愛情。


第十三話 君を求める

 春湖と知り合ってから、シンは一つため息をついて窓の外を見ていた。

 自分から逃げたにもかかわらず追いかけてくる彼女を見て、何かの呪いなのかと思いながらも、これから彼女とどう接しようかを考える。

 春湖はとても優しい娘だ。それは初対面の時からずっと思っていた事。

 だからこそリーゼントを相手に暴力行為に及ばず、なるべく穏便な解決法を選んだのだから。

 そんな娘を相手に何も出来なかった。いや害しか及ばない自分が接そうなどおこがましいもいい所。

 元々コミュ力が高い方ではなかったが、自殺を選んでから、シンのコミュ障はますます悪化していた。

 だがそんな自分を許して受け入れてもらいたいなどとは思わない。

 そんな物は何も出来ない人間の妄言なのだから。一人で生きていく程度のスキルは持ち合わせている。

 しかし脳裏に思い浮かぶのは、ステラとの僅かにあった楽しい記憶の数々。

 春湖は春湖だろうと、何度も自分に言い聞かせても、どうしてもステラの顔が脳裏に思い浮かんでしまう事にシンはいい加減嫌気がさしていた。

 勢いよく自分の脳天に目掛けて拳を振り下ろす。

 しかし痛みはシンに冷静さを与えてはくれない。火に油を注ぐような物。

 ここが誰も居ない放課後の教室で助かった。

 いつも誘ってくる木乃子とレイも、この日はシンの心情を察したのか、何も言わずに帰ってくれた。

 いつまでも過去のトラウマにばかり囚われている自分が嫌になる。

 だがそう言う生き方しか出来ず、それが自分の選んだ生き方なんだろうと、意地だけ張って生きる。

 それがシンの選んだ人生なのだから。これまで捨ててしまえば自分の存在意義はどこにもなくなり、キラ・ヤマトやアスラン・ザラと同じ人形に成り下がってしまう。

 

――もういい。帰って泥のように寝よう……

 

 何もする気が起きず、シンはひたすら惰眠を貪る事を選んで、帰ろうとした時、ふと目に飛び込んだのはジャージ姿で肥料を運ぶ春湖の姿。

 小柄な彼女が5kgの肥料を運ぶのは大変だろうと思い、シンは考えるよりも先に体が動いた。

 必ずしも心と体が合致するとは限らないのだから。

 

 

 ***

 

 

 花壇に肥料を運び終えると、春湖は残りの半分の肥料を抱えて一生懸命に歩を進めていく。

 視界を確保しながら安全に歩を進めていくので、力の強くない春湖に取っては厳しい物ではあるが、それでも一生懸命に運ぼうとしていると、突然肥料が宙を浮き、何事かと思うと、シンが代わりに運んでくれたのが見えた。

 

「これはどこに置けばいいんだ?」

 

 突然の事に春湖は驚きもしたが、すぐに気を取り直して「あっちです」とだけ言って花壇の方向を指さす。

 シンは何も言わずに春湖の歩調に合わせて、肩に肥料を担ぎながら歩くが、あまりに彼女の歩調がゆっくり過ぎるので、手持ち無沙汰になったシンは春湖に話しかける。

 

「台車とかは使わないのか?」

「あるんですけど~。他の部員さん達がもっと大きな花壇の手入れに使っていて、わたしの所にまで回らなかったんです~」

 

 相変わらずの間の抜けたトーンの声に、シンは苦笑いを浮かべてしまう。

 だが決して気分が悪い物ではない。シンはそのまま春湖とコミュニケーションを取ろうと、引き続き話を続けていく。

 

「そう言えばお礼を言うのを忘れてました~。シンさん本当にありがとうございます~」

「どういたしましてだ。春湖はこんな事もやっているのか?」

「ハイ~わたし園芸部ですから~」

「そうか。春湖は偉いな」

「そんな事ないです~。シンさんの方がずっとエライです~。昨日知り合ったばかりのわたしと仲良くしてくれて、今だって手伝ってもらっていますし~」

 

 そうこう話している間に花壇へと到着し、シンは肥料を近くに置くと去ろうとしたが、そこからいなくなる事に居心地の悪さを感じたのか、作業をする春湖の隣にしゃがんでその様子を見る。

 

「少し話してもいいか?」

「大丈夫ですよ~」

 

 突然乱入したシンを春湖は快く受け入れてくれた。

 そんな春湖に感謝しながら、シンは決して人との付き合いが上手そうではない春湖に変わって、話を振ろうとする。

 

「春湖はどんな花が好きなんだ?」

「お花さんなら何でも好きですよ~。お花さんはすごいんです~。真冬の寒い時期でもきれいなお花さんを咲かせるんですから~。わたしはその手伝いを少しでも出来ればってがんばってます~」

「なら将来は樹木医か植物学者だな」

「スゴイです~!」

 

 何気なく発したシンの一言に反応し、春湖はオーバー気味のリアクションを取って、シンを褒め称えた。

 何の事か分からずシンが困惑をしていると、春湖は自分語りを行う。

 

「わたしのお父さん植物学者さんなんです~。シンさんに話してないのによくわかりましたね~。シンさん本当にスゴイです~」

「よせやい。褒められる事なんか何もしてないよ。ただ適当な軽口が当たっただけだ」

「それでもシンさん察しがよくてわたしスゴイって思います~。わたし、そう言うの苦手ですから~」

 

 確かに春湖の喋り方は人によっては苛立ち、彼女自身も相手に合わせるタイプの人間ではない事から、コミュ力が低くなってしまうのは必然だろう。

 だがそんな彼女を良しとして見てくれる人だって居る。

 シンは自分はそんな一人になろうと思い、春湖の作業の手伝いをしながら、一枚の名刺を彼女に手渡す。

 

「お助け部部長シン・アスカ。何ですこれ~?」

「俺が所属している部活さ。活動内容は主に学園の治安維持と、生徒たちの悩み相談から、作業の補助まで俺が出来る範囲なら何でも行う部だ」

「スゴイです~。ボランティアみたいな物ですか~?」

「そう取ってくれて構わない。困った事があったら、いつでもお助け部を頼ってくれ。近々携帯も手に入るからな。緊急の場合はそっちで頼む」

 

 そう言うと適当な頃合いだと判断して、シンは後は春湖に任せて去っていく。

 シンが居なくなるまで春湖は彼の背中に向かって、何度も手を振って見送り続けた。

 そんな春湖の優しさが嬉しいと同時に、シンは強い喪失感を覚えた。

 その優しさを自分は味わい続ける事は出来ない。そこまで強くも優しくも甲斐性もないのだから。

 

 

 ***

 

 

 一度闇に落ちた人間はそこから這い上がるのは難しい。

 今シンはまさにその真っ只中であった。春湖と離れてしまうと、この夜過去のトラウマはいつも以上に酷い物になってしまい、何もかもが腹立たしく、怒りをぶつけるために、この日も悪男を相手にマウントポジションを取り、馬乗りになって何度も何度も拳を叩き込んでいた。

 

「うぜぇ! うぜぇ! 超うぜぇ! 何なんだよアイツ等! 他人なんてどうなろうが俺の知った事か⁉ 俺は俺だ! 型にはめて威張ってんじゃねぇよクズが! 死ね!」

 

 最後に拳を振り下ろすと同時に悪男は消えてなくなった。

 肩で荒い息を繰り返しながら、立ち上がると次の獲物を求めて、シンはフラフラと歩き出す。

 なまじ穏やかな時間を昼間感じたからこそ、それを失った瞬間、更に過去のトラウマは悪化し、嫌な事ばかりを思い出してしまう。

 早くから大人の世界に飛び込んで、まだ未熟な内から責任や義務、役目と言った物を押し付けられたシンは、すっかり大人の世界に絶望してしまい、自分は永遠に大人になどなれないと決めつけてしまっていた。

 そんな自分を正当化するために、シンはブツブツと呟く。

 

「俺は求めすぎたんだよ……俺はこれで幸せだからそれでいいんだよ。好きな事だけやって、面倒な事はやらないで、ギャーギャーうるさい奴はぶん殴ればいい。俺には許してくれる家族なんていないんだからな……」

 

 そう言っている間に、新たな悪男が見つかり、悪男が身構えるよりも先にシンは殴りかかる。

 こうして自分の力を誇示している間だけが、惨めな自分を忘れる事が出来る。

 シンは完全に暴力と言う名の麻薬に染まってしまい、こんな自分の行動を信念とはき違えた依存症と化してしまっていた。

 

 

 ***

 

 

 翌日殴り続けた余韻が抜け切れず、どこかいつもよりも間抜けな顔でシンは歩を進めていた。

 木乃子とレイに申し訳程度の挨拶を校門前で済ませると、シンはフラフラと覚束ない足取りで、靴箱へと向かい上履きに履き替えようとする。

 

(まこと)……」

 

 突然の声にシンが振り向いた先に居たのは、黒髪のロングヘアーの少女であり、顔立ちから理知的な感じを思わせ、しっかりした雰囲気を醸し出していた。

 彼女はシンの姿を見ると鞄を落として驚いていて、何事かと思い、シンは彼女の元へと向かい、鞄を持って突き出す。

 

「落としたぞ」

 

 声をかけても少女は無反応であり呆けたままだった。

 何事かと思いながらもシンは手に鞄を掴ませると、彼女に向かって話しかける。

 

「どうした? 俺の顔に何か付いているか?」

 

 シンに呼びかけられ、少女はハッとした顔を浮かべて、慌てて鞄を掴むと、まっすぐシンを見つめる。

 

「えっと……ゴメンね。真じゃないよね?」

「真? 誰の事を言っている? 俺はシン・アスカだ。まぁ戸籍上は吉田新太って名前になっているがな」

「え⁉」

 

 シンの名前を聞いた途端、少女は愕然とした顔を浮かべて再び固まってしまう。

 何事かと思い、まだ時間もあるだろうと判断したシンは、彼女と話し込もうと決めた。

 

「誰と勘違いしているか知らないが、人違いだぞ」

「分かっているよ……」

「じゃあな」

「待って!」

 

 物分かりがいい方の彼女を見て、早めに事を切り上げようと思ったシンだが、後ろを向いた瞬間大声が響き渡り、何事かと思い振り返ると、彼女は震えながらシンと向き合い続けていた。

 

「私は2-Aの上条るいよ。よければちょっと話をしたいんだけど……」

 

 オドオドとした調子で話していくるいに対し、シンは名刺を手渡す。

 お助け部の存在を知ったるいは、物珍しそうにシンを見つめる。

 

「依頼としてなら受けるよ。お助け部と言うのはそう言う部活だからな」

「分かった! それでいいから……」

「ならアドレスに連絡をくれ。放課後から活動開始だからよろしく」

 

 そう言うとシンは自分の教室へと向かう。

 その背中が見えなくなるまで、ジッとるいは見送っていた。

 失った物を取り戻すかのように。




次回は人気キャラクターの上条るいとの話になります。
彼女は幼馴染キャラですので、私なりに色々設定をいじりました。
それは次回のお楽しみと言う事で。
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