放課後るいに呼び出されたのは、校舎内にある適当なベンチ。
シンが向かうと既にるいは座っており、自然とシンも隣に座る。
「お助け部の依頼で来たぜ。分かっていると思うが、改めて自己紹介させてもらう。お助け部部長のシン・アスカだ」
「うん、ありがとう。私は上条るい、2-Aで弓道部所属よ。朝はゴメンね突然」
そう言ってるいは頭を下げた。
人違いではあるのだが、朝の声のトーンから、真と呼ばれる人物が彼女に取って大切な人物であっただろうと言う事は分かり、デリケートな問題なので、シンは言葉を選んで接っそうとする。
「俺はここに編入してから、結構経つが、その間上条は俺と接さなかったのか? まぁクラスが違うから当然か」
直接真と言う人物を聞こうとはせず、まずこれまで自分との接触がなかったかどうかをシンはるいに聞く。
もっともな疑問に対して、るいは答えを返す。
「私進級してすぐインフルエンザにかかっちゃって。今日初めて学校に来たのよ」
「それでか」
「でもシンの噂は聞いてたよ。モノクロームちゃんに次ぐ異世界転生者だって」
それだったら尚更朝のリアクションはおかしい。シンが感じた率直な感想だ。
ガンダムの世界からやってきた異世界転生者だと言う事を知っているのなら、そっちに興味が行くはず。
しかし、今朝のるいの反応は自分ではなく、別の誰かを見ていたのは明らか。
るいもそう思っているだろうと感じ、シンは引き続き探り探りで少しずつ確信に触れようとする。
「それで実際会った感想は?」
「私達と変わりないんだって思ったかな。ガンダムにはそこまで明るくないけど、何か特殊な能力を持っているって聞いたから」
「ある事にはあるが。この平穏な世界では一切必要のないもんだ。まぁ遺伝子操作を受けて、普通の人間よりはスタートラインが緩く作られているけどな」
『遺伝子操作』と聞いて、るいは困惑した顔を浮かべてしまう。
ここが踏み込む瞬間だと判断したシンは、コーディネーターについての説明に入る。
人為的に進化した人類が現れたからこそ、自分達の世界は戦争が起こったのだと伝えると、るいは複雑そうな顔を浮かべて固まってしまい、そこからシンはフォローに入る。
「上条達は永遠に知らなくていい事だ」
「そうね。ゴメンね。シンに取って踏み入れられたくない領域の話なのに……」
「俺が勝手に話した事だ気にする事はない」
打ち解けようと話をしたのだが、逆に距離を作ってしまった事にシンは頭を抱えてしまう。
二人の間に気まずい空気が流れていると、それを打破したのはるいであった。
「じゃあそろそろ依頼の件話すね。何で私がシンとコンタクトを取りたかったかを」
「悪い……」
女の方から気を使わせてしまった事にシンは激しい罪悪感を覚えて謝罪する。
るいは首を小さく横に振ると、自分の事だからと話を進めていく。
るいがシンに見せたのは自分のスマホであり、そこには幼いるいと穏やかに笑う同い年ぐらいの少年が居た。
目が垂れていて、終始穏やかに笑ってはいるのだが、顔だけを見れば子供の頃のシンに見えなくもない、その姿に彼は誰なのかをシンは尋ねる。
「彼は
『だった』と言う言葉から、もう彼はそこには居ない事を察し、シンはそれ以上聞くのを止める。
しかし、そこまで自分に似ているのかとシンは聞く。
「うん、そっくり。真が大人になったら、シンみたいな感じになると思う」
そう言うとるいはマジマジとシンの顔を見つめる。
一方のシンはスマホを見ながら、そんなに自分にそっくりなのかと疑問に感じていた。
黒い髪と赤い瞳ぐらいしか共通点はないだろうと思っていたが、るいはそんなシンに構わず引き続き話を続けていく。
「初めてシンの姿を見た時、真が生き返ったかと本気で思ったのよ。でも、まさか噂の異世界転生者だったなんて……」
「偶然ってのは怖いもんだな」
「真の事詳しく聞かないの?」
迷惑をかけたと言う自覚があるのか、るいは真の事を尋ねなくていいのかとシンに問う。
彼女のオドオドとした辛そうな顔を見て、シンは何も言わずに自分の意見を語る。
「話したくないならそれでいい」
「ゴメン……」
「俺も似たようなもんさ」
突然の事にハッとした顔を浮かべ、るいはシンの顔を見る。
話を聞く準備が出来たのを見ると、シンは何故自分が軍に所属するようになったのかを話し出す。
戦争でろくに民間人の救出も終わってないまま、急に市街地で戦闘を行い、その戦闘に巻き込まれて、自分以外の家族は皆死んでしまい、復讐と生活のため軍に所属した事を伝えた。
「まぁ死んでしまったけどな」
「ゴメン……シンの辛い過去思い出させちゃって……」
「謝りすぎだよ。俺が勝手に話した事だ」
これ以上話したところで、るいの心の傷を抉るだけと判断したシンは、その場から去ろうとするが、彼女に袖を引かれ、またベンチに座る事になる。
「シンだけ辛い話してもらったのに、私だけって訳にはいかないよ」
「そんな事したって上条が辛いだけだろう。今回の目的は分かった。俺をその幼馴染と勘違いしたんだろう? 分かったから」
「それ認めちゃったら私が凄い嫌な女じゃない!」
ここで初めて強く感情が出たるいを見て、心の傷を語るのは自分のためではない。るい自身の心を保つために必要な事なのだとシンは察する。
ならばと何も言わずにシンは彼女が話すのを待つ。
僅かな沈黙の後、るいはポツポツと飛鳥真の物語を語っていく。
真とるいは家が隣同士の幼馴染。しかし真は幼い頃から病弱であり、薬を服用し続けなければ、まともに呼吸も出来ない難病にかかっていて、幼い頃は万年鼻水を垂らしている子供であった。
「事情を知らない子供達は真をよくからかっていたの。だから私は必然的に真を守る立場になった」
その場合、真はるいに依存してしまうパターンもあるだろう。
だが真は強く優しい子だった。この場合の自分の役目と言うのも理解しており、少しでも早く病気を治して、るいと同じ歩幅で歩く、それを真の目標としていて、るいもそんな彼を献身的に支えた。
「薬の影響でどうしても眠気が酷くてね。毎朝真を起こすのは私の役目になってたの。真の両親は真を治すために、共働きだったから」
「薬ってのは思考を奪うからな」
決して薬にはいい思い出のないシンは流すように言う。
その際シンの脳裏に思い浮かんだのは、救えなかった初恋の女の子だが、今はるいの話を聞く事が最優先事項だと察し、るいの話を待つ。
まだ小学生の周囲はそんな二人をからかい、退屈を凌ぐ材料にしていたが、それにもるいは負けずに抵抗し続け、真の治療の手伝いを少しでも出来ればと支え続けていた。
「真の病気は根本的な治療法がないから、減薬療法で少しずつ体を慣らすしか方法がないの。辛いんだけど、真はいつも支えてくれる私のためって頑張って、少しずつ少しずつ薬を減らしていったの」
だが真は急いで大人になりすぎようとしていた。
その日も普通に下校をして真を見送ると、るいは塾へと通い、家でも勉強をして一日を終え、真は真で減薬を試みて眠りについたのだが、薬を減らす量を間違えてしまった。
鼻水で喉が詰まってしまい、寝ている間に呼吸困難を起こしてしまい、誰にも知られず看取られず、真はあっさりと帰らぬ人となってしまったのだ。
触れられたくないトラウマを語ったのか、るいの体は細かく震えていて、シンは彼女の心が落ち着くまで、その場にとどまる事を選ぶ。
嫌な空気が二人を覆ったが、シンはそれでもその場から逃げるような真似をしなかった。
***
何分かすると、るいも落ち着きを取り戻したのか、シンに力なく微笑む。
決して嫌い合って別れた訳ではない。子供の頃に身近な人間の死を経験した辛さはよく分かる。
るいは自分と同じ傷を持った人間だと分かると、シンは最後に一言言って、その場を去ろうとする。
「また何かあったら。いつでもお助け部を頼ってくれ。話を聞くぐらい何回でもやってやる」
「じゃあ!」
ならばとるいはシンに提案をする。
毎週木曜日は弓道部が休みの日なので、その日は自分に割り当ててほしいと言う懇願だった。
申し出に対して、シンは一言「分かった」とだけ伝えると、最後の確認を取る。
「上条の方で何か都合が悪くなったら、またメールを送ってくれ。近々携帯が手に入ると思うからな」
「分かった。でも最後に一つだけ言わせて」
「何だ?」
「『上条』は止めてよ! るいって呼んで!」
自分の一番大切な人と同じ顔を持ったシンに、他人行儀扱いされるのが嫌でるいは感情を強く出す。
そんな彼女の姿を見て一つの罪悪感がシンを襲うが、ここは彼女に乗ってやろうと一言告げる。
「分かったよるい。だけどなこっちからも言わせてくれ」
「何?」
「少しでも俺に嫌悪感を覚えれば、躊躇する事なく俺との繋がりを切るんだ。俺の中身を知れば知る程、大切な思い出が汚される可能性だってあるんだからな」
話を聞く限り、飛鳥真は自分とは真逆の人物像だ。
強く優しい心を持ち、他人を思いやれる事の出来る理想的な人物と言える。
そんな人間の代わりに自分は相応しくないと思ったシンは、警告のようにるいに告げると、今度こそその場を後にする。
一人取り残されたるいはその悲しそうな背中を見て、こんな事はシンにも真にも失礼だと分かっているが、思わず一言つぶやく。
「真……」
誰かに傷を打ち明けたい。その相手がまさか異世界転生者だとは思わなかった。
シンはああ言ったが、るいは自分のためだけではない。シンのためにも話し合おうと決めていた。
そうしなければ自分が生きていけないから。
幼馴染キャラのるいを絡ませるにはこうするしかないと思い、このような処置を取りました。
いかがでしょうか? 評価、感想お待ちしています。