聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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それは平和を謳歌している人間だから、与えられる物。


第十五話 シン・アスカさん。あなたは人を殺しましたか?

 この日もシンは悪男を相手に無双して、自身の嫌な記憶から逃れようとしていた。

 これからの事を考えると不安でしょうがない。露口を凌ぐ程度の金しか稼げられない自分が不安から逃れるには暴力と言う名の麻薬に縋るしか若いシンには方法がなかった。

 こうしてキレている間だけは何もかも忘れる事が出来る。無双出来ると言うのは前の世界では味わえられなかった感覚のため、頭の中をドーパミンが犇めくのに酔う。

 

――そうだよ。仲良しこよしは俺には似合わない。俺には力があるんだ。もう誰も俺を止める事なんて出来ない……

 

 まだ若いシンに支え合って生きる尊さを分かれと言うのは難しい話。

 軍も本来はそうやって弱い人間同士寄り添って生きる物なのだが、それを伝えてくれる人は軍には居なかった。

 ただ怒られた。怒鳴られた。否定された。殴られた。それだけしかシンの頭の中にはなく、それをガキの一言で片付ける周りもシンに取って敵でしかなかった。

 言われるがまま、言われるだけの行動を取るだけの人形には絶対にならない。

 ならば群衆達のようにひたすら平和を貪り食い、自堕落に生き続けるだけだ。

 頑張っているのは自分だけ、他の連中などただ自堕落に生きているだけのカス。

 辛すぎる現実を受け止められなかったシンは、ひたすら孤独に生きるしか手段がなかったのだ。

 シンが求めている物はどうあっても手に入れられないのだから。

 

 

 ***

 

 

 だが街中で悪男の駆除を行っても、お助け部の仕事がなくならない訳ではない。

 学園内の秩序を保つ事も立派な仕事なので、時折変態みたいに突如現れる悪男を撃退するのはシンの役目。

 今日も体育の時間に乱入してきた悪男に渾身の右ストレートを放って、無に返すと何も言わずにシンは自分の授業へと戻ろうとする。

 

「あ、ありがとう……」

 

 悪男は主に女生徒を相手に猥褻な行為に勤しむので、助けられた女生徒は素直にシンへお礼を言う。

 それに対してシンは軽く会釈をして「いえ」とだけ言って返し、今度こそ自分の授業へと戻っていく。

 その背中が見えなくなるまでジッと目で追いかけていたのは、2-Dの七海四季であり、マンガ研究会に所属する彼女は思わず反射的につぶやく。

 

「カッコいい……」

 

 人見知りが激しく、人付き合いが苦手なので、直接かかわる事は出来ない。

 しかし夢想家の彼女はシンにヒーローを追い求めてしまう。

 何故なら彼は自分にない物を全て持っているからだ。

 

 

 ***

 

 

 昼休みの時間はまだ十分に残っている。だがシンは早々と食事を終えると、見回りと称して学園内を散歩していた。

 今日は珍しく学園内に悪男が現れたので、まだ殴り足りないと感じたのだろう。木乃子とレイには適当な言い訳をして、その場を離れるとまるで獰猛な狼のような目で獲物を求めたが、それらしい存在は見つかりそうにない。

 ため息を一つ吐くと、残りは夜にやればいいと思って、昼寝でもしようとしたのだが、そんな彼の隣を駆け抜ける少女が居た。

 反射的に目で追った少女は、聖櫻学園のマドンナと言われる有名人であり、2-B、新体操部所属の椎名心実であった。木乃子から彼女の話は聞いており、その時の事をシンは思い返す。

 

――彼女は椎名心実だ。まぁあたしとは生きる世界の違う存在だよ。才色兼備の優等生だ。嫉妬から酷い事すんじゃねぇぞ。

 

 木乃子はからかうように言って、シンも同じように軽いトーンで「するかバカ」とだけ言って、この話を終わらせた。

 嫉妬をすると言うよりは興味を持てれない存在と言うのが、心実に関してシンが思った率直な感想。

 その姿はルナマリアを彷彿とさせる物であり、自分が関わった所で得られる物はないと判断したからだ。

 そんな彼女が明らかに慌てた様子で走り去ったのは少し妙に感じたが、すぐ自分には関係ない事と割り切ろうとすると、買ってもらったばかりのスマホをポケットから出すと、シンはそれを弄びながら、近くのベンチへと向かう。

 残りの時間はスマホの操作に慣れようとしたからだ。

 

 

 ***

 

 

 通信手段はガラケーが主流のシンの世界において、スマホの存在は驚く物であった。

 簡単にネットにも繋げられると言うのが画期的であり、シンの世界ではネットを繋ぐのはデスクトップPCが主流となっているので、目から鱗が落ちる。

 この世界は情報システムに特化した形で進化を遂げたのだろうと思い、自分が持っているスマホで何が出来るのかをシンは自分なりに紐解く。

 

「ん?」

 

 その時再び慌てて走る心実の姿が目に飛び込む。

 もう昼休みの残り時間は10分を切っているのに、真面目な彼女にしては似つかわしくない行動を変に思ったのか。その背中に向かって一言呼びかける。

 

「オイ」

 

 無粋な呼びかけにも心実は反応してくれて、彼女は少し困った顔を浮かべながら、シンの応対に当たる。

 

「すみません。アスカさん、今忙しいので手短にお願いしてもらえるとありがたいのですが……」

「何があった? さっきからせせこましく動き回っているが」

 

 シンの疑問に対して、心実は胸ポケットに大事そうにしまった一枚の写真を取り出して見せる。

 それは幼いクロエが家族と一緒に取った写真であり、これをクロエが落としたので彼女を追いかけているのだが、好奇心旺盛なクロエは昼食が終わるや否や、あちこちに飛び回っているので、中々捕まらない事を告げた。

 

「分かった」

 

 真相が分かると、シンはスマホからクロエの番号を呼び出して通話を行う。

 数コールもしない内にクロエとは繋がる。

 

「Ohシンさんどうしましたか?」

「クロエお座り!」

 

 いきなりの大声に反射的に心実も体を強張らせてしまい、クロエは近くにあったベンチに座って、シンの指示を待つ。

 

「お前家族の写真落として、椎名が探そうとしていたぞ」

 

 シンに言われてクロエは財布を取り出して見ると、確かに自分が大切にしている家族の写真がなくなった事に驚愕してしまう。

 すぐにシンは写真を取ってメールを送ると『これで間違いないか?』と簡素なメールを送ると、すぐにクロエは「そうです!」とテンション高い声で返す。

 飛んだり跳ねたりの彼女を一つの場所にとどめておくのは難しいと判断したシンは、今どこに居るのかと聞くと、この近くである事が分かったため「そこでジッとしていろ」と言うと、クロエとの通話を終えて、未だに茫然となっている心実を親指で誘導する。

 

「飯はもう済ませたのか?」

「いえ。ルメールさんを追いかけるのに夢中で」

「なら俺の方からクロエを連れてくるから、椎名はそこで食事を取るんだ。それも立派な仕事だからな」

 

 そう言うとシンは足早にクロエの元へと走り去る。

 まるで嵐のようなシンに茫然となりながらも、心実はこの日遅めの昼食を取る事にした。

 いつも通りの弁当なのだが、この日は妙に美味しく感じられ、残りの休み時間をゆっくり食事にあてようとした思った瞬間、自分の元へやってきたのは、クロエを引き連れて全力疾走をするシンの姿。

 あれから1分も経ってないのに、すぐ戻ってきたシンとそれについてこれるクロエに驚きながらも、シンはクロエと一緒に頭を下げて謝罪の意を示す。

 

「な⁉ いきなり、何ですか⁉」

 

 突然の事に心実は目を白黒とさせて驚くが、シンは真剣な顔を浮かべたまま心実に謝罪をする。

 

「いやクロエの不注意で椎名の休み時間を無駄にさせてしまったからな。クロエはお礼を言いたいらしいから、謝罪は俺の方でするって話だ。クロエも気を付けるらしいから、ここは許してはもらえないだろうか?」

「心実さん。ゴメンなさいです。そしてありがとうございます。この写真ワタシにとって、とても大事な物デス。見つけてくれて本当にメルシーボクーね」

 

 思わず母国の言葉が出るぐらい感謝をしているクロエに対して、椎名は「いえいえ」と謙遜しながら返すが、シンは心配そうにクロエを見ていた。

 

「いいかクロエ、嬉しいからってキスしたらダメだからな。日本人は慎み深い人が多いんだから」

「それシンさんに教えてもらってわかりました。シンさんの世界でもフレンドリーキスはないのですか?」

「ああないな。言わなかったか?」

 

 シンは何気なく言ったのだが、クロエは「聞いてません!」と少し怒った調子で返す。

 そんな彼女を適当に宥めつつ、シンはクロエと並んで去ろうとする。

 

「じゃあ俺はコイツを送り届けないといけないから。椎名はそこでゆっくりしててくれ」

「次の移動教室までワタシ、シンさんとデートですね」

「乗りかかった船だ。まぁ最後まで面倒見てやる」

 

 聞いた事のない日本語を聞きクロエは即座に「それはどう言う意味ですか?」と尋ねる。

 着くまでの間シンは日本語の意味を教えながら歩いていた。

 仲睦まじい二人の様子を見て、心実はクスクスと小さく笑い、色々と悪い噂も出ている彼がちゃんと学園生活を謳歌している事が嬉しく、心が温かになる感覚になった。

 苦労したが、この日の昼休みは楽しい物になった。心実は心からそう思っていた。

 

 

 ***

 

 

 この日新体操部が休みのため、心実は担任の橘の手伝いを好意から行い、彼女が渡す資料を代わりに学園長室へ届ける事にした。

 学園長室の前に立ちノックをしようとしたが、ドアが少し開いている事に気付き、まずは閉めてからノックをしようと部屋の隙間を覗いた瞬間、神妙な面持ちを浮かべた月白と学園長が心実の目に飛び込む。

 

「やはり減らないですね……」

「そんなすぐにカウンセリングの効果は出ないよ。発想を逆転させるんだ月白君、我々にはまだ二年も時間が残っているとな」

 

 相変わらず『たすけてマイヒーロー』の一位を独占しているシンを前に、月白は顔を覆って嘆く。

 そんな彼女を学園長は励ましていたが、心実は激しいショックを受けてその場に立ち尽くしていた。

 

――そんなあの噂本当だったって言うの⁉

 

 心実は学園内に蔓延る悪い噂にいい感情を持っていなかったが、それが事実だと言う事に激しいショックを受けていた。

 その噂はシン・アスカは突如現れたにも関わらず、夜な夜な悪男狩りのボランティアに勤しむスーパーヒーローだと言う事を。

 故にシンを羨望の眼差しで見つめる生徒も少なくないが、心実は全く逆の感情を抱いていた。それが事実ならシンの事が心配で仕方ない。

 この世界に現れて半年も経っていない、何の後ろ盾もないシンが、たすけてマイヒーローの一位をいきなりかっさらうなど、余程の無茶をしなければ出来る訳がない。

 何か悩みでもあるのかと思っていたが、先程クロエの前で優しい顔を浮かべられる彼が強いPTSDを持っているなど、とても信じられない。

 様々な思いが交錯し、思考がまとまらずによろけてしまうと、心実はノックもなしに、学園長室へと入ってしまう。

 

「椎名……」

 

 突然の来訪者に月白は苦い顔を浮かべてしまう。

 あまり聞かれたくない話を一般の生徒に聞かれてしまったからだ。

 まず最初にノックもなしに入った事を心実は素直に詫び、頭を深々と下げる。

 

「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりはなかったのですが」

「やはり聞いてたんだな?」

 

 月白の問いかけに対して、心実は素直に「ごめんなさい」と言って謝る。

 あまり知られたくない情報であったが、おねがいマイヒーローのランキング提示は一般開放されているため、察しの良い人間なら分かるはずだ。突然のニューヒーロー、シン・アスカは選ばれたエースなどではない。どこか壊れた存在だと言う事を。

 心実の不安そうな表情を見れば、それは即座に理解出来る。観念して今進めているカウンセリングの内容を月白は心実に伝える。

 

「私や祐天寺先生もやってはいるんだが、効果は今の所出ていない。だがもう少しだけ時間をくれ。必ず私達がシン君を正しい道に導くから」

「でしたら……」

 

 心実は今日シンと接して、ずっと頭の中にあった案を今こそ実行する時だと思い、自分の案を月白に伝える。

 

「そのカウンセリングの役目、私にもやらせて下さい! 水曜日は新体操部は休みですから、私の方でお助け部の依頼として出しておきますので」

 

 彼女の目は真剣その物であり、安っぽい正義感や役目に浸る優越感だけで発言していない事は分かる。

 故に月白は一方的に否定するのではなく、まず心実の意見を聞こうとする。

 

「アスカさんに会ったのは今日が初めてですけど、彼は決して暴力だけに酔うような人間ではありません。私で何か力になれるならなってあげたいです!」

「言葉で言う程簡単な事ではないぞ」

「覚悟は出来ています!」

 

 心実の態度に飲まれそうになりながらも、気持ちだけで決めるのではなく、まず学園長に指示を求めようとする。

 

「ではこうしよう。椎名君、私の方からお願いしてもらって構わないか?」

「ハイ」

「シン君と友達になってあげてほしい」

 

 学園長が提示した意見は、シンと心実を友達にする事。

 少しずつではあるが、シンにも友達は出来つつある。だがそれでもまだ足りないと判断した学園長は、難しく考えずに新しい価値観に触れてほしいと、心実に頼んだ。

 それならばと月白も納得し、先程までの強張った表情が消え、心実に優しく微笑みかけて頼む。

 

「私からも担任としてお願いするわ。シン君と友達になってあげてちょうだい」

「ハイ! 私シンさんと友達になります!」

 

 難しく考えずにまずは友になる事を選び、心実は資料をデスクの上に置くと、早速携帯を取り出し、お助け部へ依頼を送る。

 本人が拒絶しても、自然と人が集まってくる様子を見て、月白と学園長は向かい合ってこれまでの悲観的な考えを撤廃する。

 

「結構どうにかなるかもしれませんね。シン君には才能があるんですから」

「ああ。どれだけ拒絶しても手を差し伸べてくれる人が近くに現れると言う才能がな」

 

 それは時としてマイナスにもなりえる才能だが、今回は大いに役立ったと思う。

 人によって付けられた傷は、人の手でしか癒せられないのだから。

 

 

 ***

 

 

 シンは心実に呼び出され、近くのベンチに腰かけていた。

 数分もせずに心実はシンの前に現れ、彼女は自然と彼の隣に座る。

 

「まず昼は本当にありがとうございました。シンさん」

「そのお礼を言うためだけにお助け部に依頼を出したのか?」

 

 そんな訳ない事は分かっていたが、シンはあえて探りを入れる。

 当然それだけが目的ではなく、心実は小さく首を横に振って否定の意を示す。

 

「いえ私も何かあなたの力になれればと思い、こうして依頼を出しました」

「何の話だ?」

「シン・アスカさん。私はあなたの事が心配です」

「だから何の話をしている?」

「たすけてマイヒーローで突然一位になったのは異常ですよ」

 

 心実の真剣な顔を見て、シンはバツの悪そうな顔を浮かべてしまう。

 だからこう言う優等生タイプは苦手なのだ。自分には何の関係もないのに個人的な愉悦に浸りたいだけで、正論の暴力をかざすのだから。

 だがもう否定されて怒られてばかりのあの頃ではない。

 ルナマリアに怒られた時は泣き寝入りして、彼女の顔色をうかがうしか生きるすべがなかったが、心実の説教は適当に受け流して、その怒りは悪男にぶつければいい。

 そう思って彼女の説教を受け入れる準備を始めたが、次の瞬間に発した心実の言葉はシンの予想外の物であった。

 

「もっとご自分を大切にして下さい。シンさんは優しい人だってのは、短い時間ですけど知っています。そうじゃなければクロエさんが、あんなに懐く訳ないんですから」

 

 それは否定の言葉でも罵声の言葉でも、暴力による制止でもなかった。

 まるで子供をあやすかのような物言いにシンは一瞬困惑しながらも、彼女はルナマリアとは違うと判断し、次の言葉を待つ。

 

「正直私はガンダムには明るくありません。でも戦争を経験した人間が激しいPTSDを抱えて苦しんでいる。それは理解したいとは思っています」

「必要ない。椎名は俺とは別のクラスだろう。それに俺は人を殺して血に染まっている。そんな人間に安直に力になりたいなんて言うもんじゃない。椎名が傷つくだけだ」

 

 善意から入った結果、壊れて二度と使い物にならなくなってしまう。

 自分がそうだから心実にもこれ以上踏み入ってもらいたくなかった。

 また煩わしい言葉だけが飛び交うだろうとシンは諦めていたが、心実は立ち上がって彼と向き合い真剣な顔で尋ねる。

 

「シン・アスカさん。あなたは人を殺しましたか?」

 

 心実の目には光を失って、恐怖さえ感じられる物だった。

 だがそれはそれだけ真剣な物なのだと言う決意の表れでもある。

 それを察したシンはまっすぐ彼女の目を見つめながら返す。

 

「イエス」

 

 シンは心実の問いに対して短く返す。

 その事自体に関しては何の罪悪感もない。そんなセンチな感情は通り越してしまったのだから。

 しかし次の瞬間、心実は何も言わずに腕を大きく広げて、シンを何も言わずに抱きしめた。

 

「かわいそうな。シンさん……」

 

 女の温かさと柔らかさを感じながらも、シンは困惑する訳でも、さめざめと泣く訳でもなく、逆に泣いてしまった心実の気が済むまで、抱きしめられるしかなかった。

 そして遠い目を浮かべながら、自虐的につぶやく。

 

「悪いな椎名。俺のために泣いてくれても、俺には何も返す事は出来ない。もうその件に付いて泣く事は俺には許されないんだからな」

 

 それが軍人として生きる定めなのだろう。だからこそ安っぽい不殺を語るキラ・ヤマトやアスラン・ザラが許せなかったのだ。

 例え動けなくなったとしても、他の兵士が同じとは限らない。

 エースの自分を落とせば間違いなく勲章が貰えるだろう。つまり、あのままジッとしていても自分は誰かに落とされていた可能性が非常に高い。

 怒りが胸の中からこみ上げてくるのを感じたが、今は泣く心実を受け止めるのが先決だと感じ、シンは何も言わずに胸を貸した。

 

 

 ***

 

 

 ひとしきり泣き終えると、心実も落ち着きを取り戻したが、その瞬間心実の顔は真っ赤に染まってしまい、シンの隣でバツの悪そうな顔を浮かべている。

 自分がシンの力になるはずだったのに、逆にシンに慰められるとは思っていなかったからだ。

 このままでは何のためにシンの時間を割いたのか分からない。

 出来る事を精一杯やろうと、心実はまず初めに携帯を取り出して、彼と友達になる事から始めようとする。

 

「今日クロエさんのやり取りを見て、仲良くなれたらいいなって思いました。ですのでまず番号の交換からいいですか?」

「じゃあ俺の方からも一つ条件を出してもいいか?」

「ハイ何ですか?」

「ユーリヤと友達になってくれないか? あいつは椎名に憧れていたからな。確かお前新体操部だろう?」

 

 ユーリヤについて心実はそこまで明るくなかったが、バレエ部の期待の新人だと言う事は知っている。

 バレエと新体操と言う近しい物があるのを知ると、心実は「喜んで」と返答をするが、念には念を入れて先にユーリヤの方に確認を取ってから、番号の交換を行おうとする。

 

「オウ俺だシン。ユーリヤ、この間椎名とコンタクトを取りたいって言っていただろ。今隣に居るから変わるな」

 

 そう言うとシンはスマホを心実に手渡す。

 心実と話したユーリヤは柄にもなくテンションが上がっていて、憧れの存在と友達になれる事が嬉しく、今度一緒にレッスンを受けてもらえないかと聞き、心実はそれを喜んで承諾し、二人の間で番号とアドレスの交換が行われる。

 今日だけで新しく友達が二人出来た事に心実は喜び、同時にシンの事がまた一つ分かった事が嬉しかった。

 

「やはりシンさんは優しい人です。ユーリヤさんの事を気遣えられる人なんですから」

「あの二人の面倒を見るのはお助け部の仕事だからな」

「それでもここまでは普通はやりませんよ。これからよろしくお願いします。シンさん。水曜日は話をしましょう」

「依頼なら受けるよ」

 

 そう言って強引に話を終わらせると、シンはその場を去っていく。

 久しぶりに女の温かさ、柔らかさを感じたが、それで心変わりをする程、シンの心の傷は浅い物ではなかった。

 

――まぁその内愛想を尽かすだろう。




と言う訳で今回は椎名心実をメインにした話です。
これはアニメ版ガールフレンド(仮)の第一話のリメイクみたいなもんです。
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