この日も一日が終わり、お助け部の仕事がないシンは足早に帰宅していた。
帰った所で何かある訳でもないが、ダラダラとしていた所で何か変化がある訳でもない。
お気に入りの場所である河川敷を歩いていると、一人の女子生徒を相手に集団の女ヤンキー達が取り囲んでいた。
(今時あんな光景あるのか……)
この世界についてまだ日は浅いが、ヤンキー同士のやり取りなど、もう何年も前の事案であると言う事ぐらいは分かる。
物珍しそうに遠目から見ていると、集団を相手にメンチを切っている少女はスカートが長く改造されてはいるが、聖櫻学園の生徒だと言う事が分かり、スカートの色からまだ一年生である事が分かると、シンは土手から降りて仲裁に入る。
「竜ヶ崎……10人も居るのに1人で挑もうとはいい度胸してんな⁉」
「前々からお前らは気に入らなかったんだよ。こいよ、アタシの拳で頭冷やさせてやるからよ! ん⁉」
一触即発になっている間に割って入った存在に、竜ヶ崎と呼ばれた少女は難色を示す。
制服から自分と同じ聖櫻学園なのは分かるが、この場では何の役にも立たないだろうと思い、退却を示すように発言をしていく。
「なぁアンタ、正義感だけでの介入は止めた方がいいぞ。正論だけで物が通じる相手じゃない」
「分かっているよ」
竜ヶ崎の警告を軽く流し、シンは黒の特攻服でまとめたレディースのリーダーと思われる少女を相手にコンタクトを取る。
「何があったか知らないけど、見逃してくれないかな? この娘家の生徒なんだわ」
「関係ねぇだろうがどけ!」
突然の乱入者を総長は快く思っておらず、胸を小突いでシンをどかそうとする。
シンはその腕に自分の腕を絡ませると、総長の次の行動を待つ。
「何の真似だ?」
「俺が気に入らないなら、俺を殴り飛ばして投げ飛ばせばいい。俺の知っている女の人は皆強い人ばかりだからな。俺は何度も殴られ続けたよ」
「上等だオラ!」
挑発するようなシンの物言いに激怒した総長は、そのまま力任せにシンを投げ飛ばそうとするが、その瞬間シンは両膝を曲げて、相手の力を利用すると逆に投げ飛ばす。
だが総長の頭が地面に着地する寸前で、シンは彼女の頭を掴んで優しく地面に寝かせると、手を放す。
この瞬間総長は理解した。彼と自分達の戦力差は火を見るよりも明らかだと言う事を。
「何者だ?」
「聖櫻学園2-Cシン・アスカ」
シンが自己紹介をすると、レディース達は一斉に青ざめてしまう。
彼はここ最近巷を賑わせている突然現れたマイヒーローなのだから。曰く伝説の超ヤンキー祐天寺弥生が唯一認めた舎弟。曰く一晩で悪男達の屍の山を築き上げた悪魔のような男。
都市伝説だとばかり思っていた存在が現実の物だと分かると、レディース達は一斉に土下座をして、シンに許しを請う。
「すいませんでした!」
「いいからもう行け」
相手をするのが面倒なのか追い払う仕草をしながらシンが言うと、レディース達は蜘蛛の子散らすように去っていく。
騒動が収まったのを見ると、自分の巻き込まれ体質にため息をつきながら、シンは帰ろうとする。
「あ、あの!」
呼び止められたのは竜ヶ崎と呼ばれた少女。
少女は先程までと違い尊敬の眼差しでシンを見ていて、シンに向かって頭を勢いよく下げると、自己紹介を始める。
「先輩、聖櫻の二年って言いましたよね?」
「ああ。噂の異世界転生者のシン・アスカだ。戸籍上は吉田新太だがな」
「自分一年の竜ヶ崎珠里椏って言います。先輩の強さに惚れました舎弟にして下さいッス!」
そう言うと珠里椏は深々と頭を下げてシンに懇願をする。
申し出に対してシンは困った顔を浮かべてしまう。
素直で礼儀正しいのは好感が持てるのだが、出来る限り人とは関わり合いになりたくないのが、シンの本音。
だがこんなゴリゴリのヤンキーをこのまま放っておくのも目覚めの悪さをシンは感じ、何か良い方法はないかと思っていると、突如シンの中で名案が思い浮かぶ。
「ならちょっと手伝ってほしい事があるんだがいいか?」
「ハイッス! 何すか⁉」
シンはそう言うと名刺を一枚取り出して、珠里椏に手渡す。
『お助け部』と聞きなれない内容の部活に困惑しながらも、珠里椏は詳細をシンに聞こうとする。
「それは新規に設立された学園の治安維持とボランティアが主な活動の部活だ。だが現在部員は部長の俺一人だ。部員が欲しいと思っていた所だ。頼めるか?」
「モチロンッス! 先輩これからよろしくお願いします!」
こうして一人部員が出来、また一つシンは前進した。
その様子を見つめる一人の女生徒の存在を、シンも珠里椏も気付かなかった。
***
翌日の放課後、シンは早速珠里椏が待つ部室へと向かおうとするが、その際、自分に向けられる殺気に気付き、適当に開けた場所に誘導すると、シンは歩みを止めて呼びかける。
「この辺りでいいだろう。居るのは分かっている出てこい!」
「お見事!」
草むらから出てきたのは首に軍事用ゴーグルを下げ、黒みがかった茶髪をポニーテールでまとめた少女。
少女はシンの姿を見ると勢いよく敬礼をして、シンに敬意を示す。
「自分は2-A、歴史研究会所属の岩本樹と申します。ここ最近ガンダムの世界より転生した異世界転生者のシン・アスカ殿とお見受けする」
「だったらどうしたって言うんだ?」
「まずはその実力確かめさせてもらう!」
そう言うや否や刃の部分がゴムになった摸擬戦用のコンバットナイフを片手に樹は突っ込んでいく。
最初に攻撃する事が明確で、直線的な樹の攻撃はいとも簡単にかわす事が出来、シンは皮一枚でナイフの攻撃をかわすと、手を逆さに取って樹の手からナイフを落として、腕を決めて動きを制する。
「降参なら俺の手を三回叩け!」
嘗て自分がアカデミーで教官にされた事をやり返すと、樹は苦しそうな顔を浮かべながらシンの手を叩いて降参の意を示す。
もう彼女に戦意がないのを見ると、シンは決めていた手を放し、改めて樹と向き合う。
「それで何?」
「まずは先程の無礼お許しください。教官殿」
そう言うと樹はその場で正座をして綺麗な土下座を行う。
何が何だか分からないシンは、強引に樹の土下座を解除させると、彼女と話をしようとする。
「だから何なの?」
「これは自分の気持ちであります。あなたがガンダム世界の住人と言う事は聞いていましたが、自分が近付くべき人物かどうか勝手に自分の中で判断させてもらいました。教官殿、愚かな自分にどうぞ罰を与えてください」
「俺に何で近付いたか話せ。それが罰だ」
樹と自分の間の温度差に困惑し、何故自分にコンタクトを取ろうとしたのかシンは聞こうとする。
元々軍事オタクであった樹は、ガンダム世界から来たシンに興味津々であったが、彼の人となりが気になり、自分が近付くべき人間なのかを判断しようと調査していた。
ここ最近自分なりに調査をした結果、彼は強く優しい心を持った人物だと判断し、樹はシンに近付こうと勝手に決心をしたと全て伝えた。
「お願いします教官殿! 自分はあなたの元で学びたいんです。自分に指導をして下さい!」
そう言って深々と頭を下げる樹に対して、シンは呆れながらもどうするべきか迷ってしまう。
彼女を見ると嘗て戦争を止めるんだと意気揚々と正義に燃えていた自分を思い出してしまうからだ。
だが結果は現実の前に屈服して、やさぐれてグータラな毎日を過ごすばかり。
そんな人間が彼女に何を教えてやれるのだろうと思ったが、すぐに自分に幻滅するだろうと思い、シンは樹に一枚の名刺を手渡す。
「部活の兼業は可能か?」
「話し合いで何とかなる範囲です」
「なら岩本の都合がいい時で構わない。時々お助け部を手伝ってくれ」
「許可してくれるのですね⁉ これからよろしくお願いします! 教官殿!」
喜びを露にして深々と頭を下げる樹を見て、シンは複雑な顔を浮かべてしまう。
彼女に軍人として教えてやれる事など自分には何一つないからだ。
ならばと出来る事は夢を壊さないように幻想を抱かせたままにするしかない。
好意を利用するような行動に罪悪感を感じつつも、樹と並んで珠里椏が待つ部室へと向かおうとした瞬間。樹はシンの背中を守るように立ち、コンバットナイフを構える。
「教官殿敵襲であります!」
「甘い!」
樹は背後から襲ってくると思っていたが、実際の敵は木の上に潜んでおり、模造刀のクナイを片手に緑色の髪をショートヘアでまとめた少女はシンに向かって飛びかかるが、シンは冷静に少女を受け止めると、手首を掴んで締め上げてクナイを落とすと、少女を樹の隣に立たせる。
「気付いていたのですか? 流石は教官殿であります」
「それよりコイツ誰? 知り合い?」
「それについてはそれがしが答えよう」
少女はシンの前で綺麗な正座をすると自己紹介を始める。
「それがしは前田彩賀と申す。そこに居る岩本樹と同じクラス、同じ部活であり、お館様と相応しい人物と見て、それがしもお館様の助力になれればと思い、近付いた所存であります!」
そう言うと樹に引けを取らない、綺麗な土下座を彩賀は行う。
またキャラクターが強い奴に好かれてしまったとシンは呆れながらも、半分予想は出来ていたが、彩賀の目的を聞き出そうとする。
「つまり前田もお助け部に入りたいのか?」
「ハイ! お館様! それがしをお傍に置く事を許して下さい!」
「教官殿。自分からもお願いします! 前田は友達なんです!」
彩賀は再び土下座をして、樹もその場で頭を下げてシンに懇願をする。
こう言う輩は変にこじらせると後々面倒になると判断したシンは、彩賀に立つよう命じると、親指で付いて来るよう命じた。
「二人ともあくまでメインは歴史研究会、お助け部に来るのは手が空いた時だ。それが出来なければ追い出すからな」
「勿論です!」
「ありがとうございます。お館様、この前田彩賀、全力で励ませてもらいます!」
樹はシンの右隣、彩賀はシンの左隣に並んで、三人は並んで歩こうとしたが「横に並ぶのはマナー違反だ」とシンに突っ込まれ、二人は各々シンの後ろに回る。
何もしていないのにドンドン人が集まってしまう。
それは一つの才能なのだが、シンに取っては困惑するばかりの材でしかなかった。
彼は人の温もりなど求めていないのだから。
***
シンを含めて四人の部員が出来、お助け部は正式に部活として認められた。
しかしシンは複雑な気分であった。内二人は兼業であり、どうせすぐに辞めるだろうと思っていたからだ。
まさかこんな事になるなんて思わず、困惑するばかりであったのだが、それでも仕事はしなくては生きていけない。
色々と物思いに更けながら、部室のドアを開くと、見慣れない顔が目に飛び込む。
「わぁ! ゴメンなさい! 部屋が空いていたからお邪魔してました!」
茶髪の外はねなショートヘアーの少女は椅子に座っていて、緊張しているのかシンに座りながら謝罪をする。
礼儀の部分ではなってないのだが、そんな事をどうこう言う程シンはうるさくはない。まずは少女の目的を聞き出そうとする。
「何の用? 入部希望?」
「違います! 珠里椏ちゃんを待っていたんですけど、今日はすれ違いになっちゃったみたいで……」
「竜ヶ崎の友達か? そうかアイツに君みたいな可愛い友達が居るとはな」
自分と同じで学校内で浮いていると思っていた竜ヶ崎が、学校内でちゃんと友達が出来た事が嬉しく、シンは柔らかな笑みを浮かべて喜ぶ。
一方『可愛い』と言われた少女は、照れくさそうに笑って、嬉しそうにしていた。
「そんな事ないですよ~。先輩はお上手ですね~」
「お世辞は苦手な方なんだ。俺は思った事しか口にしないからいつも怒られてばかりだ」
社交辞令をお互いに行うと、シンは少女にコーヒーを出す。
少女は礼儀正しく「ありがとうございます」とお辞儀をすると、一口飲んで心にゆとりを与え、シンもコーヒーを飲むと、少女とコンタクトを取る。
「取り合えず自己紹介をするな。俺はシン・アスカ、ガンダム世界からの異世界転生者だ」
「ハイ、先輩は有名人ですから」
「それはそれは」
「私は1-Aの柊真琴です。これからよろしくお願いしますね。先輩」
元気一杯の真琴はシンに取って好感が持てる人物であった。
珠里椏のような浮いた存在と友達でいてくれるのだから、ちゃんとその人の内面を見て判断してくれるのだろうと思い、珠里椏が来るまでの間、シンと真琴は他愛のない話を続けていた。
シンと話して、彼が思ったよりも普通の人だと感じた真琴は、率直な感想を述べる。
「でもあれですね。先輩はもっと怖い人だと思ったけど、珠里椏ちゃんと一緒で話したら全然普通の人なんですね」
「軍の中では規律を用いるよ。それを一般人にまで向けるのは軍人失格だろう」
「ですよね~。先輩は甘い物とか好きですか~?」
「別に嫌いじゃないよ。甘党って訳じゃないけど、普通に食べるよ」
「そうですか~私はお菓子が大好きでつい食べ過ぎちゃうんですよね~」
真琴は照れ笑いを浮かべながら恥ずかしそうに言う。
デリケートな部分に対してシンは愛想笑いを浮かべるだけで返すと、ドアが開き、金髪の少女が部室に入る。
「先輩遅れてスイマセンッス……真琴?」
「もう! 珠里椏ちゃん。こっち来るなら来るって言ってよ! 今日は芽衣ちゃんと新作クレープ食べる約束でしょ!」
約束をすっぽかそうとする珠里椏に対して、真琴は頬を膨らまして睨み、怒りの感情を露にする。
彼女には真琴とは別に森園芽衣と言う娘とも友達であり、三人は良く一緒に行動を共にしていた。
自分の勘違いから真琴に手間をかけさせた事に、珠里椏は素直に「悪い」とだけ謝罪をするが、今優先すべきはお助け部だと思い、話を進める。
「悪い! 今度埋め合わせはするから、今はお助け部の活動を」
「竜ヶ崎俺からの依頼だ。今日は柊とその友達と一緒にクレープを食べてこい」
「え? それって……」
「お前もお助け部の一員だろう? なら部活動に勤しまないか。終わったら、そのまま直帰していいから。もう一人の娘を待たせるな」
シンの粋な計らいで、珠里椏はその日は解放された。
珠里椏は一言「スンマセン」とだけ言うと、真琴と並んで部室を後にしようとするが、最後に去り際シンは彼女の耳元で軽くささやく。
「いい友達を持ったな」
祝福の言葉に珠里椏の中で暖かな物が広がっていき、静かに「ハイ」とだけ返すと、二人は芽衣が待つ教室へと向かっていた。
その様子を見て暖かな物を感じたのは珠里椏だけではない。
彼の言葉を聞いた真琴も心の中に暖かな物を感じていた。
(優しい先輩……好きかもしれない……)
元々少女漫画のような恋愛に憧れていた真琴は、その相手をシンに求めた。
二人は歩きながらシンに付いて話し合っていて、真琴は珠里椏からシンの詳しい情報を聞こうとした。
自分が恋物語の主人公になるために。
今回のメインとなるヒロインは肉食系後輩の柊真琴ですね。
この娘もシンとは相性が良さそうなので。