聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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皆様お久しぶりです。もう忘れている方がほとんどかもしれまんせが、最終話を投稿します。
最初に言っておきます。私はSEEDFREEDOMに関してはアンチです。ですので受け入れられない方はプラウザバックを推奨します。
ではガールフレンド(仮)の世界に転生したシン・アスカの物語の最終章です。どうぞ。


最終話 君と紡ぐ物語

 ――と言う夢を見ましたとさ。

 

 息を荒げながら、シンは一言自棄気味に呟く。この日も悪男を相手に怒りや憎しみをぶつけたいだけぶつけ、疲れに身を任せて壁に体を預けたが、呼吸が整うと再び怒りがシンの脳内を駆け巡る。そこで再び数々の苦い思い出が蘇る。アカデミーでは常に落ちこぼれとバカにされ続け、特にアグネスと言う女とは反りが合わず、彼女と同僚となった夢、相変わらずルナマリアには怒られてばかり、そして何よりシンが気持ち悪いと思ったのは、自分が世界で一番憎んでいるキラ・ヤマトを崇拝し、忠犬のように彼を慕う自分を見た事だ。

 

「ふざけんじゃねぇぞ……」

 

 怒りに体を震わせていると、再び悪男がシンに襲い掛かる。それよりも早くシンは拳を振り上げ、悪男の顔面に渾身のストレートが放たれ、悪男の体は勢いよく後方に吹き飛ばされる。

 

「テメェ――! ふざけんじゃねぇぞ――!」

 

 この世界に来てからここまで怒ったのは久しぶりかもしれない。だがそれでもシンは自分の怒りを抑える事が出来ず、壁にぶち当たって仰向けにのびた悪男の体に馬乗りになって、何度も何度も拳を顔面に叩き込んで感情のままに何度も何度も殴り続けた。

 

「何が成長だ! 何が大人だ! 要するに都合のいい労働力が欲しいだけじゃねぇか! 腐った大人にいい様に動かされるってのは、あの世界でも変わらないじゃないか! 壊れてる。壊れてると言うが、あの世界の俺の方がずっと壊れてんじゃねぇかよ! 都合の良いように洗脳されなきゃ、俺はそこに居る事さえ許されないって言うのか! だったら死んだ方がマシだ! 俺は勇気をもって自殺したんだろうが! 俺を認めろ! 俺を褒めろ! 俺の全てを肯定しろ!」

 

 あの世界でも相も変わらず自分に幸福な未来はなく、ガキだバカだと批判されてばかり、だから怒り狂うだけを選んだシンは涙を流しながらも、何度も何度も殴り続ける。悪男の体が煙と共に消えてなくなると、シンはようやく落ち着きを取り戻し、大の字になって寝転ぶと、昇りだした朝日を感じながら、荒い呼吸を整える。

 

「帰ろう……」

 

 過度のストレスから重度の不眠症になってるシンは二時間弱しか眠る事が出来ない。だがそれでもシンは僅かばかりの睡眠時間を求めて、ボロアパートへと帰る。どうしようもなくシンは悲しかった。いくら怒りや憎しみをぶつけても、その後に残っているのは虚しさだけ、だがそれでもあの夢の世界の未来だけは受け入れる事は出来なかった。泣きながらシンは一言呟いた。

 

「俺……どうなりたいんだ……」

 

 軍隊のやり方は自分には合わない。シンは歩調を合わせて他人と共闘する事が出来ない。

 聖櫻学園がシンが用意してくれたのは考える時間だ。

 それを用意されて、シンは暴力に溺れる程愚かではなかった。涙を流しながらシンは家へと帰る。学校へと通うために。

 

 

 ***

 

 

 この日は水曜日。いつものように心実は外のベンチにシンと並んで座り、彼のカウンセリングに勤しむ。

 

「なぁ……」

 

 今日は珍しくシンの方から心実に話しかける。いつもは心実の問いかけに対して、シンが返事をするだけだったが、この日初めてシンの方からコンタクトを取った事に心実は驚きながらも、シンの応対にあたる。

 

「ハイ。何ですか?」

「少し長い話になるけどいいか?」

「もちろんです! どうぞ……」

 

 心実の了承が得られたのを聞くと、シンは仮に自分がこの世界に行かず、コズミック・イラの世界に残った場合の世界の話をしだす。『もし』の話を真面目に聞いてくれるとは思わなかったシンだが、心実は真剣にシンの話に耳を傾け、シンの仮の世界での未来を受け止めた。

 

「どう思う?」

「異常ですね……」

「何が?」

「まず……」

 

 全て話を聞き終えると、心実は苦い顔を浮かべながらコズミック・イラの世界の異常さに付いて語り出す。

 

 

・何故アスランはメイリンを選んだはずなのに当たり前のようにカガリと恋仲を続けているのか?

・アコードの戦う理由は自分たちが優れた種だからと言う恐ろしく下らない理由で戦争を起こした事

・何故新型の機体で敗北したにも関わらず、旧型の機体で最新型の機体に勝利する事が出来たのか

 

「まぁざっとこんな所ですかね……」

「俺に付いては何も思わないのか?」

 

 シンは自分が一番気にしている事を心実に問いかける。まるでキラの犬のようになってしまった自分が一番気持ち悪く、その事を聞く。だが心実は静かに首を横に振ると、自分の想いを語り出す。

 

「その時間軸のシンさんは、彼と共に戦う事を選んだんですよね? そう言う未来だってあったって話程度でいいんじゃないでしょうか?」

「気持ち悪いって思わないのか? いい様に利用されて、心底見下すべき犬っころに成り下がってよ……」

 

 その世界での自分が気持ち悪く、自己嫌悪からか汚い言葉で自分をなじるシン。

 そんな彼に対して、心実は小さく首を横に振ると、落ち着かせるようにゆっくりと語り出す。

 

「『バカ』とか『ガキ』とか口が悪すぎますよ。ここは戦場でも軍隊でもないんです。ここは学校なんです。学校は学ぶ場なんですから。シンさん。あなたもまだ学ぶ事が多くありますよ」

「こんな落ちこぼれの俺がか?」

「だからこそですよ。私はあなたの大嫌いな同僚とは違います。シンさんに大人になれなんて言いません。私だってお叱りを受ける事の方が圧倒的に多い子供なんですから。だから……」

 

 一呼吸付いた後心実は精一杯の笑顔を浮かべながらシンに話しかける。

 

「二人で大人になりましょう。私も出来る事なら精一杯協力します。シンさんはとにかく、その世界が異常で、シンさんに取って有益な環境じゃない事はよく分かりました。でも聖櫻学園は分からないですよね?」

 

 そう言って心実はシンの手を取って微笑みかける。彼女の行動に対し、シンは弱弱しく微笑みながら少しだけ心が落ち着くのを感じた。この世界に僅かながらの希望を見出したから。

 

 

 ***

 

 

 別日、夕闇に染まった図書室でシンは一人何も言わずに座っていて、テーブルの上に置かれた小説を眺めていた。

 

「その本気に入らないですか?」

 

 小説は文緒のお勧めであり、何も言わずに小説とにらめっこをしているシンを見て、文緒は心配そうに問いかける。

 彼女の問いかけに対して、シンは何も言わずに首を横に振ると一言呟く。

 

「読む気力が湧かないんですよ……」

「シンさん昔は読書が好きだと聞いたのですけど……」

「そうじゃないんです……」

 

 今まで話してこなかった自らの暗い部分をシンは語り出す。

 特に最近は夢の世界での自分自身を見て、自己嫌悪が強くなってしまい、何もかもが嫌になってしまったのが本音だと語る。

 また愚痴を言ってしまった事にシンは別の自己嫌悪が襲い掛かるが、文緒は少し考えた後にシンの問題点に対して、自らの考えを語り出す。

 

「恐らくあなたは純粋すぎる人なんだと思います。だから一つの事に集中してしまい過ぎるからこそ、そう言う未来もあったって話なんだと思います」

「バカでガキなだけですよ……」

「口が悪すぎますよ。それはシンさんの直さなくちゃいけないところです」

 

 的を得たダメ出しだが、不思議と悪い気はしなかった。

 ここでルナマリアならビンタの一つでも飛んだのだから。何も言わずにシンは文緒の話の続きを聞こうとする。

 

「でもあなたは悩む事を選び、今の選択肢を選んだ。もしシンさん一人で悩んでも答えが出ないって言うなら、私を頼って下さい。私も一緒に考えます。悩むって事は素晴らしい事なんですから」

「そうなんですか? 俺を否定しないんですか? 戦う事から逃げたって?」

「道を選ぶのは本人ですよ。シンさんはシンさんの進みたい道を選べばいいんです。こうして私たちは出会えたんですから。もしシンさん一人で悩んでも分からないなら、私も一緒に考えます」

 

 そう言って優しく微笑む文緒を見て、少しだけ心が楽になったのをシンは感じた。

 この日は帰ろうと思い、小説を借りると、シンは家路へと向かった。

 

 

 ***

 

 

「そんな世界絶対異常だよ!」

 

 木曜日るいとのカウンセリングで、るいに夢の世界での話をすると、悲痛な彼女の怒鳴り声が響く。

 怒りと悲しみから肩で息をしながら、悲痛な表情でシンを見るるい。

 そんな彼女に圧倒されながらも、決して彼女がただ怒っているだけはない事を理解し、シンは彼女の言い分を聞こうとする。

 

「つまりずっと休む間もなく2年以上毎日のように戦争をしていたって言う事だよね⁉」

「それが軍人の仕事だからな」

「喜びも楽しみもなく。何かにつけて戦争ばかり。最後に大規模な戦争が起こった理由が、自分たちはより一層優れた種だから世界を支配する権利があるって言いたいからでしょ? 同じ人間なのにどうしてそこまで傲慢になれるのよ⁉」

 

 るいの言い分があまりにもっともな理由すぎて、シンは何も言い返す事が出来なくなった。

 あの世界での異常さは忠犬のようになった自分が気持ち悪いと言うのが大きかったが、アコードのくだらなすぎるクーデターの理由を突っ込まれると、ただただ同意する事しか出来なかったからだ。

 何も言えなくなったシンを見て、言い過ぎてしまったと反省したのか、るいは何度も深呼吸を繰り返し、自分の心を落ち着かせると、ゆっくり語り出す。

 

「ゴメンねシン。怖かった?」

「いや大丈夫。るいの怒りはもっともだよ」

「その世界で戦い続けるシンを悪くは言わない。それも選択の一つだよ。でも私は今のシンも否定しない。それだって選択の一つだよ。誰だって幸せになる権利がある! そして私はシンに幸せになってもらいたい!」

 

 話していく内に感極まったのか、るいは目に涙を浮かべながらシンをジッと睨む。

 感情的にはなってはいるが、るいは本気でシンを気にかけている。その事がシンには分かっているからこそ、シンもまた彼女の気持ちを受け止めようとする。

 

「一言だけ言わせて。無理してまで大人にならなくてもいいから。シンは急いで大人になりすぎようとしちゃったから失敗しちゃったんだよ。私シンとは真のような悲しいお別れしたくない……」

「大人か……なれるのかな俺に?」

「なれるよ。この間話聞いたけど、シンは落ちこぼれだったんだけど、それでも頑張り続けられた人なんでしょ? 私はあなたの大嫌いなナントカさんって女の人じゃないから。決してシンを甘やかすつもりはないけど、ただ上から目線で語るだけは絶対にしない。それだけは約束するから……」

 

 シンを導くのではなく、シンと共に歩もうとする。同じ視線で向き合ってくれると言う事実が今のシンには嬉しかった。

 少し泣いてしまっている彼女が落ち着くの待ちながら、この日シンはるいと話を続けていた。これからの事を。

 

 

 ***

 

 

 別日、シンは木乃子と一緒にレイのマンションで桃太郎電鉄を楽しんでした。

 戦略性も強く要求されるゲームではあるが、一発逆転の運の要素も強いゲームであり、三人は一進一退の攻防を繰り広げていたが、木乃子が一発逆転のカードを拾って最後を締めると、三人の対決は木乃子の優勝で終わった。

 

「よっしゃ――!」

「もう一回だ!」

 

 勝ち誇る木乃子の態度が気に入らず、レイはリベンジマッチを申し出る。

 この楽し気な雰囲気に水を差すのは悪いと思ったのだが、シンは最近の自分の悩みを二人に語る。

 

「なぁ少しだけいいか?」

 

 神妙な面持ちのシンを見て、二人はまた彼が過去の事で悲しんでいるのではないかと思い、一旦ゲームを止めるとシンと向き合う。

 二人が話を聞く準備が出来たのを見ると、シンは最近の悩みである仮の未来の世界の話をしだす。

 大体の話を聞くと先に口を開いたのは木乃子だった。

 

「それ本当にガンダムの世界の話なのか?」

「何だよそれ……」

「だってよ。要するに『私は優れた人間なんだ! だからお前ら全員私たちの言う事聞け!』そう言う事だろ。アコードが戦争起こした理由って」

 

 かいつまんで、そして極めて分かりやすく、あの世界の戦争を起こした理由を言われ、シンは何も言わずに首を縦に振った。

 木乃子に触発されたのか、レイも呆れた顔を浮かべながら語っていく。

 

「それはガンダムの世界ですらないよ。異常な世界だ」

「ガンダムってのは戦争を題材にしたアニメなんだろう?」

「戦争ってのはお互いがお互いの言い分ってのがあるもんなんだよ! それはただの侵略行為だ!」

 

 ガンダムの世界は悪役サイドにも戦う理由、正義があると言うのが魅力の一つ。だがあの世界でのクーデターの理由はまるで子供の我儘のような物であり、レイは怒りを持って叫ぶ。

 改めてシンの居た世界が異常なんだと知ると、木乃子は自分の想いを語っていく。

 

「結果論ではあるよ。でもシン、お前はこっちの世界に来て大正解だ。お前は絶対ガンダムの主人公にはなれない」

 

 はっきり主人公にはなれないと言われて、シンの顔には暗い色が入ろうとするが、そうなる前に木乃子は極めて明るく語っていく。

 

「でも……いいじゃないかそんな面倒くさいもんならなくて、こうしてあたしとお前は出会えたんだ。お前はガンダムの主人公にはなれない。でももしかしたら日常物の主人公にはなれるかもしれないじゃないか」

「日常物?」

 

 聞きなれない単語にシンは困惑の色を示すが、木乃子はいくつか日常物の漫画をシンに見せる。

 どれも女の子がただ日常を過ごすだけの漫画で、山も谷もない内容であり、シンは困惑をしてしまう。

 

「これ面白いの?」

「ガンダムが好きな奴も居る。こう言うのが好きな奴も居るって事だよ」

「姫島の言う通りだよシン。お前はガンダムの主人公である必要はない!」

 

 ここで今まで黙っていたレイも話に加担する。

 

「ガンダムの世界は常に死と隣り合わせ。平和が訪れるのが珍しい状態だぞ! 戦争で人が成長なんてしてたまるか! ボクはシンがそんな風になるのなんて見たくない!」

「東雲……」

「ボクはお前に居てもらいたい。常にボクのお世話をしてもらいたい。ワガママなのは百も承知だよ。その代わりボクと姫島は常にお前の友達でいる。導くとか、そう言うのは無理だけど、一緒に遊び続ける事ならボク達なら出来る!」

「そう東雲の言う通りだ。コズミック・イラの世界はマジ地獄だ。地獄を天国にするのは他の誰かに任せて、日常物の主人公であるあたし達は徹底して遊ぶぞ! それが今のシンの役目なんだから」

 

 そう言うと二人はシンを挟むように抱きしめた。

 こう言う行為に二人は慣れていないのか、震え続けている二人を見ると、シンは二人を引きはがし、一つ提案をする。

 

「じゃあ……クレープでも食べに行くか?」

「もちろんだ!」

「とことん青春して楽しんでやろうぜ!」

 

 生まれて初めて掛け値なしの友達が出来た。その事実が嬉しく。三人は並んでクレープを食べに出かけた。

 二人の望み通り、とことん青春を楽しもうと思いながら。

 

 

 ***

 

 

 夕焼けが町を覆う中、真衣とシンは並んで帰路へと就いていた。

 この日真衣はあまり体調がよくなく、心配に思ったシンが帰り道を一緒に過ごす事を選んだ。

 

「本当にすみません。いつも心配ばかりかけて……」

「いいんですよ」

 

 完全に委縮してしまっている真衣に対して、シンは大人の対応をする。

 微妙な空気になってしまったのを感じると、前に木乃子とレイと一緒に食べたクレープの屋台が目に入り、シンは屋台を指さすと、真衣を誘おうとする。

 

「奢りますよ。何がいいです?」

「そんな! 悪いですよ! 気を使わないで下さい! 私こんな体だから間食出来ないですし……」

 

 シンの申し出を必死になって断ろうとする真衣だが、シンも一度言っていまったため、引っ込みがつかなくなり、結局一つのクレープを分け合うと言う形で収まる事になり、シンは奢ると言ったのだが、真衣も半分払うと聞かず、二人はベンチに座ってクレープを分け合って食べる事となった。

 小食の真衣はすぐにシンに残りを託し、7割近くをシンが食べる事になってしまい、やはり今からでも半分の代金を支払おうとしたのだが、真衣は絶対にそれを受け取ろうとしなかった。

 逆に真衣に負担をかける事になってしまい、シンは申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「すみません俺が余計な事したばかりに……」

「何を言ってるんですか! 悪いのは私の方です。私こんな体だからシンさんに迷惑ばかりかけてしまって……」

「先輩それは違います」

 

 病弱な真衣は頑丈な体を持つシンに憧れを持っていたが、シンは逆に真衣を尊敬していた。

 そこからシンは自分がコーディネーターになった経緯を語り出す。

 元々シンは病弱でこのままではまともに社会生活を送れるかどうか微妙だと医者から告げられていた。シンの両親は悩んだ結果、シンをコーディネーターにする事を選び、妹のマユも同じ道を選んだ。

 

「結果俺はコーディネーターの中では落ちこぼれの部類ですよ。それに比べれば先輩は凄いですよ。自分の力だけで前に進んでいこうとしているんですから」

「それこそ違います」

 

 真衣は弱弱しく笑いながらシンの手を取って語っていく。

 

「私が元気になったのは全部シンさんのおかげですよ。あなたは太陽のような人です。付き合い方を間違えれば害になる存在かもしれません。でも私に取ってあなたは暖かな気持ちにさせてくれる太陽です。いつも私を気にかけてくれてるからこそ、私もシンさんと一緒に歩んでいきたいって思うようになったんですから」

「先輩……」

 

 真衣の感謝の気持ちが嬉しく、シンは惚けながらも生返事をしてしまう。

 変な空気になってしまったのを感じながらも、気を取り直して二人は微笑みあうと、並んで帰路に就いた。

 並び歩きながら、シンはこれからの事を真衣に語る。

 

「それだったらこれからも俺は先輩を助けますよ。先輩は俺の尊敬する人なんですから」

「それは私もですよシンさん」

 

 二人は互いが互いを思いあいながら歩いていく。

 二人の関係に上も下もなかった。それは共に歩む理想的な姿だった。

 

 

 ***

 

 

 三者面談の日、シンは一人の生徒を待っていた。

 ピンク色の髪の毛を後ろで一つにまとめたおさげの少女。花房優輝はシンの姿を見ると、母親をその場に置いて彼の元へと向かう。

 

「どうだった?」

「ハイ。私ちゃんと言えました。将来はダンスに携わる仕事がしたいって」

 

 引っ込み思案な彼女が勇気を出して、自分の意思を伝える事が出来た。

 優輝の母親も優輝が自分を持って前へ進んでくれる事が嬉しく、穏やかな笑みを浮かべていた。

 そんな二人を見て、シンは親指で優輝を誘導すると、彼女はシンに付いていく。

 

「おばさん。少しだけ娘さんを借ります」

 

 母親から娘を離し、姿が見えなくなって二人きりになると、シンは神妙な面持ちで優輝に話しかける。

 

「まずは俺からも祝福させてくれ。おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 ダンスに関して光る物があった優輝だが、過去に大失敗をした事がトラウマになってしまい、すっかり引っ込み思案な性格になってしまった。

 だがそれでもダンスの夢を諦めきれず、努力を続けていた優輝。関わってしまった事から、シンは彼女の特訓に付き合っていて、努力が一つ花が開いた事に祝福をする。

 しかしシンはそれだけでは終わらなかった。

 

「だが俺から伝えられる事はもう一つある。これはまた挫折する可能性が再び生まれたって事だ」

 

 そう挫折して、この世界に来たシンに取って、優輝が再び挫折するのではと言う危険も考えていた。

 何もかも諦めた自分が彼女に伝えられる事は本当に覚悟が出来ているのかどうかと言う問いかけ。

 その問いかけに対して優輝は発言していく。

 

「子供の頃はアイドルになりたいって思っていました。ダンスで皆を勇気づけられる存在になりたいって」

「うん」

「でも今は違います。やっぱり私はダンスが好きだから、何もアイドルだけがダンスを仕事にするって事じゃない。それは取るに足らない人生かもしれませんけど、学んだ事です。そしてこれからも多く学ぶ事はあります」

 

 そう言うとこれから何をすべきかを優輝は語っていく。

 夢は一つダメになってしまったが、決して腐っていない優輝を見て、シンは少し寂しそうに笑いながら、一言エールを送った。

 

「頑張れよ。花房ならまだやり直せるさ」

「それはシンさんもです」

 

 短く言うと優輝は真剣な顔で語り出す。

 

「私、この優輝って名前嫌いでした。明らかに名前負けしてるって。でも今はこの名前に恥じないように頑張ろうって思ってます」

「いい事じゃないか」

「だからまずは私のダンスでシンさんに元気になってもらいたいって思ってます。まだまだ下手くそですけど、それでも見てもらいたいです」

 

 そう言うと優輝は自分の持ち味であるダンスを渡り廊下で踊り出す。

 シンは何も言わずに彼女の感謝の気持ちを受け止めようとしていた。自分の存在が優輝が前に進むきっかけになれればと思っていたから。

 

 

 ***

 

 

 この日お助け部の仕事を全て終えたシンは報告書を書くために部室へと戻った。

 

「先輩~」

 

 部室のドアを開けたど同時に突如右腕にすり寄る小柄な少女の存在にシンは驚く。

 少女の正体は柊真琴であり、シンを慕い好意を隠す事なくストレートにぶつける少女だった。

 右腕に体を摺り寄せて幸せそうに笑っている真琴を見て、シンは苦い顔を浮かべながら対応をする。

 

「また来たのか柊……」

 

 苗字で読んだ途端、先程まで満面の笑みだった真琴は一気に不機嫌な表情になって詰め寄る。

 

「もう! また柊になってます! 私の事は真琴って呼んでって、いっつも言ってますよね!」

 

 眉を釣り上げて怒る真琴を見て、シンは圧倒されながらも「分かった。分かった」と適当に宥める。

 真琴の気持ちは分かっている。だからこそ、このままではよくないとシンは思っており、話そうかどうか悩んでいた真実を話そうと決め、一旦真琴を話すと、彼女と向き合って話を進める。

 

「よく聞くんだ真琴」

「ハイ」

「俺はな。真琴が思っているような優しくて格好いい先輩じゃないんだよ……」

 

 そう言うとシンはアカデミー時代の苦い思い出を語り出す。自分は落ちこぼれで、ルナマリアとレイの補佐がなければ卒業さえ危うい状態だったと言う事。

 アカデミーでも問題行動ばかり起こし、多くの人間から見下されていた事。

 正直話したくもない過去だったが、真琴のこれからを思ってあえて全てを包み隠さず伝えた。

 

「だから俺に少女漫画の主人公のような素敵な恋愛を求めるのはよせ。真琴が傷つくだけだ……」

「違います!」

 

 真琴のためを思って、シンは彼女が憧れているような人間ではないと言う事を伝えたが、真琴は眉を吊り上げて明らかに怒った状態で否定した。

 

「先輩は落ちこぼれなんかじゃありません! それでも諦めないで最後まで食らいついて、最後まで戦い続けたじゃないですか!」

「戦う……」

「そうですよ! 戦争は誰が悪いなんて言えるもんじゃないじゃないですか! 先輩は先輩の役目を立派に果たしました! 少しぐらい報われてもいいじゃないですか!」

 

 自分の言いたい事を全て伝えると、真琴は真剣な顔でシンと向き合って、自分の気持ちを伝える。

 

「先輩は自分は私が思っているような人じゃないって言いましたけど、それは違います! やっぱり先輩は私に取っての主人公でメインヒーローです。今日はこれで帰りますけど、私先輩の事好きです! 今は無理でも絶対いつかはハッピーになるって頑張りますから」

 

 それだけ言うと真琴は去っていった。まるで嵐のような彼女を前に呆然となっていたシンだが、改めて彼女に対してどう向き合おうかと考えていた。どうすれば彼女を傷つけないで済むかを。

 

 

 ***

 

 

 別日、誰も居ない空き教室で奈央はシンに膝枕をしてもらい、気持ちよさそうに体を震わせながら、彼に甘えていた。

 教室は夕焼けで染まっており、随分と長い時間二人は穏やかな時間を共有しあっていたが、寝息を立てようとしている奈央を見て、シンは彼女の体を軽く揺さぶって起こそうとする。

 

「んの? なに?」

 

 未だに夢と現実の狭間を行き来してい奈央は間抜けな顔を浮かべながらシンに聞く。

 その様子にシンは呆れながらも、時計を指さす。

 

「もう結構な時間だ。帰るぞ」

「おんぶして~」

 

 甘えるように手を差し出す奈央を軽くいなしながらも、シンは彼女の体を起こして立たせる。

 間抜けな顔を浮かべながらボーっとしている奈央を見て、自分のしている事は正しい事なのかと困惑してしまい、思わず口ずさむ。

 

「俺最低な男なのかな?」

「何でそうなるのさ?」

 

 マイナスな発言に奈央は目を覚まし、丹精な顔を不快に歪めながらシンに問う。

 

「いやな。試練を与えられないと人間成長しないからな。甘やかすだけの人間が一番のバカって意見もあるしね」

「試練なんて人それぞれだよ。あ!」

 

 突然大声を上げる奈央に驚きながらも、奈央は突然目に涙を浮かべて涙目になりながらシンに問いかける。

 

「また前の世界での嫌な事思い出しちゃった?」

「いや、その……少し違うんだよ」

 

 奈央に心配をかけさせてしまった事を反省しながらも、シンはここ最近の悩みを語っていく。

 別の世界では自分は相も変わらず戦い続け、そこで一番憎んでいたキラ・ヤマトを忠犬のように慕う自分に自己嫌悪を抱いていた事を話した。

 全て聞き終えると、奈央は一呼吸ついた後、自分の意見を語り出す。

 

「ダーリン。モデルと軍人の共通点って分かる?」

 

 突然の問いかけにシンは困惑をしてしまい考える素振りを見せるが、急に言われてもパッと答えは出てこない。

 煮詰まったシンを見て、奈央は正解を出す。

 

「自分の全てを殺さないといけないって事だよ。常に上からの要求に応え続けないといけない。私それが嫌だからモデル辞めたよ。私ってやっぱり最低な負け犬なのかな? 弱虫なのかな?」

「そんな訳ないだろ!」

 

 奈央の言葉をシンは全力で否定する。突然の大声に奈央はビクリと体を震わせてしまい、その事を反省しながらもシンは自分の想いを語る。

 

「奈央の人生だろ? 道を決めるのは奈央だ! 他の誰でも何でもないよ」

「それはダーリンだって同じだよ。あなたの人生は誰かの物じゃない。あなたは傷つくために、ほっぺた叩かれるために生まれた訳じゃないんだから。役目が欲しいって言うんなら、私のお世話って役目あげるから、私ダーリンが何もしないって言うなら何も出来ないよ」

 

 何とも情けない台詞を堂々と言う奈央にシンは呆れてしまうが、半分泣きながら抱き着いて嗚咽を漏らす奈央を見るとどうでもよくなってしまい、彼女の頭を優しく撫でながら適当に宥める。

 そんな中で一つだけ心に響いた言葉があった。役目を求めると言う言葉が。

 

 

 ***

 

 

 別日、この日シンは文緒の紹介で仲良くなった夏目真尋と一緒に次の小説の構想を練っていた。

 有名人のシンはコンタクトを取りたいと言う女子生徒が多く、小説家を目指す真尋もその一人。

 普通ならば自分の経験を知的好奇心を満たしたいだけの人間にひけらかすつもりはシンにはない。だが真尋の人となりを見て波長が合うと感じたシンは彼女と友人になる事を選んだのだが、一つの疑問がここで浮かぶ。

 

「夏目少しいいか?」

「何?」

 

 思考のループに入っていたのか、真尋は少し鬱陶しそうに素っ気ない返事をする。

 あまり話しかけてはいい雰囲気ではないが、シンは構わずに問いかけをする。

 

「取材対象が本当に俺でいいのか?」

「当たり前でしょ。私はシン君を主人公にした物語を書いてみたいのよ」

 

 『主人公』と言う言葉がシンの中の暗い部分を突く。

 しかしすぐに行動に移すのではなく、決して自分は主人公ではない事をシンは淡々と語る。

 

「じゃあ聞くけど夏目の中で俺はどんな存在なんだ?」

「シン君はどう思っている」

「相手の立場を考えられないバカ、ガキってところか」

「それは本当にシン君の意見?」

 

 真尋の質問に対して、シンは何も言い返す事が出来なくなってしまう。

 コズミック・イラの世界で挨拶代わりのように言われ続けた台詞がすっかりこびりついてしまい、シンはそこから前へ進む事が出来なくなってしまっているのだ。

 完全に押し黙ったシンを見ると、真尋は自分の意見を語っていく。

 

「悪い方にばかり考えすぎだよ。それもシン君の一面かもしれないって話でしょ」

「分かった話を戻す。夏目の中では俺はどう言うキャラクターなんだ?」

 

 シンの問いかけに真尋は少し考えた後に答える。

 

「答えを求めてあがき彷徨っている人ってところかな?」

「答えを求めてる?」

 

 完全に予想外の一言にシンは困惑をしてしまうが、彼が話を聞く準備が出来たのを見ると、真尋は自分の考えを語り出す。

 

「勿論悪男狩りは褒められた事じゃないよ。でもそれはシン君が自分に何が出来るのかって考えての事でしょ。もし私がシン君と同じ立場で同じ力を持っていたら、もっと周りの事なんて考えないで好き勝手に生きるよ」

「俺は落ちこぼれだぞ」

「前に聞いたよ。それはアカデミーの中ではって話でしょ? 大切なのは実戦に出てからだよ」

 

 尤もな意見にシンは何も言わずに真尋の話を聞く事しか出来なかった。

 空気も手伝ってか、シンは最近の悩みを真尋に打ち明ける。

 話を聞くと真尋は少し考えた素振りを見せてから、自分の見解を語っていく。

 

「その時間軸のシン君はそれを真実だと思ったんでしょう? でもこの時間軸のシン君は別の真実を求めて行動してるんだよね?」

「別の真実?」

「うん。よく真実は一つって言うけど、私はそうは思わない。真実ってのはいくつもあって、正解ってのはいくつも存在するって私は思うのよ。だからこそ世の中は面白いって思うのよ」

 

 そう言うと再び真尋は思考のループへと入っていく。

 真実は一つではない。その台詞が妙にシンは響き、シンもまた思考のループへと入った。

 

 

 ***

 

 

 別日、する事もやる事もないシンは同じように暇を持て余している知と一緒に特に何をする訳でもなくボーっとしていた。

 るいからの紹介で知り合った押井知はシンとは波長が合い、友人になったのだが、この日は本当に何もする事がなくお互いに時間を持て余している状態だった。

 

「なぁ……」

 

 シンの問いかけに対して知は気の抜けた返事をする。

 

「な~に~?」

「押井って将来どうなりたい?」

 

 夢を語る事になり、知は困惑しながらも考える素振りを見せる。

 少し考えた後に知はゆっくりと語っていく。

 

「まだ分からないよ。それを探すために取り合えず大学にでも行くかな」

「消去法で行ける場合もあるって話か?」

「そう言う事。14の頃から軍人になるために頑張っているシン君からすれば怒られるかもしれないけど、まだどうなりたいかとか分からないからさ」

「そんな事ねぇよ」

 

 苦笑いを浮かべる知に対して、シンは少しだけ優しい笑みを浮かべながら語る。

 

「軍人は一般人を守るために戦っている存在だ。誰かがやらなきゃいけないって程度の物だよ。どっちが上とか下なんて話をするつもりはないさ」

「何かシン君にそう言ってもらえると凄い嬉しいかも……」

「俺は軍を辞めた人間さ。寧ろ軍人を否定した人間かもしれない。俺に軍人を語る資格はないさ」

 

 自嘲気味に話すシンを見て、知は精一杯の笑みを浮かべて語っていく。

 

「シン君それは違うよ」

「何が?」

「失敗だって立派な経験だよ。私なんて失敗ばかりなんだからさ。軍人がダメだったとしても、今のシン君はもう一回やり直そうと思って、こうして学校へ通ってるんでしょ? 私シン君と出会えてよかったって本当に思ってるよ」

 

 実にまっすぐな好意を向けられ、シンは何も言えなくなってしまう。

 そうして二人の間には再び静寂が包み込んだが、先程までとは違いシンは考えていた。

 これからの事に付いて。

 

 

 ***

 

 

 この日シンはいつもの仕事へと向かっていた。

 それは日本文化研究会でクロエの面倒を見る事。

 すっかりシンを気に入ってしまったクロエは何かと理由を付けて、シンを指名し、彼から日本の事を学ぼうとしていた。

 日本人でもない自分がこの仕事をしていいのかと思っていたが、乙女の負担が減るならとシンはこの日折り紙を持って、彼女に折り紙を教えてあげようとしていた。

 

「よう」

 

 ドアを開けると同時にぶっきらぼうな挨拶をすると、シンは難しい顔を浮かべながら絵本を読むクロエの元へと向かう。

 足音に気付くと、クロエはシンの方を向いて、パッと花が咲いたような笑顔を浮かべると勢いよくシンに抱き着く。

 

「シンさん!」

「ハハハ、いつも言ってるだろう。そう言う事を軽々しくしてはいかんと」

 

 シンは抱き着いたクロエを軽く注意するが、クロエはそんな事構わず何度も頬ずりを繰り返し、喜びを全身で表現していた。

 適当に宥めながらクロエを椅子に座らせると、この日の課題である折り紙をテーブルの上に並べ、シンは折り紙を根絶丁寧にクロエへ教える。

 最初はぎこちない手つきだったが、それでもシンは何度も何度も根気強く教え、出来上がった折り鶴を見て、クロエは目を輝かせて大喜びをした。

 

「Oh! スゴイで~す! シンさん。ワタシできました~!」

 

 折り鶴を持って子供のようにはしゃぐクロエ。

 そんな彼女を見て、シンは優しく穏やかな笑みを浮かべながら呟く。

 

「クロエは本当に凄いな」

「なにがですか?」

 

 何気なく言った軽口のつもりだったが、クロエはしっかりと聞いていた。

 話さなければいけない空気になってしまったのを見て、シンはポツポツの彼女に対しての想いを語る。

 

「いつも俺を嬉しい気持ちにさせてくれるとこさ」

「Oh? ワタシ、シンさん困らせてばかりじゃないですか?」

「その3倍は俺を嬉しい気持ちにさせてくれるよ。本当にクロエは凄いって思うよ。こんな遠い国の言葉を覚えて、一人で頑張ってな」

「それはちがいます」

 

 シンの言葉に対してクロエはビシッと指を突き立てて、決め顔を浮かべながら語る。

 

「ワタシ一人じゃありません。ワタシには聖櫻学園のみなさんがいます。シンさんもいま~す。だからワタシ一人ちがいま~す」

「俺もクロエの大切な友達の一人なのか?」

「モチロンで~す。だからこれからもワタシに色々教えてくださ~い」

 

 そう言うと感極まったのか、クロエはシンの頬に軽くキスをした。

 瞬間部室は大騒ぎになってしまい、部長の乙女が場を鎮めるので精一杯であった。

 また騒動を起こした事をクロエは反省していたが、シンはそれどころではなかった。彼女の気持ちが本当に嬉しかったから。

 

 

 ***

 

 

 この日シンは園芸部の部活動に参加していた。

 毎回ではないが、シンは可能な限り春湖の手伝いをしており、この日の作業は男の力が必要な力仕事だったため、部員から話を聞いて、春湖の担当地区へと向かう。

 

「春湖」

 

 シンの声が聞こえると、春湖はパッと花が咲いたような笑顔を浮かべ、シンの元へと走り、その胸に飛び込んだ。

 

「シンさ~ん」

 

 相も変わらずのんびりとした声が響き、その声がシンに取っては気分が良かった。

 シンは優しく彼女の頭を撫でると、一緒に作業をしていく。

 力仕事を率先してシンが行ったために、予定よりもずっと早く作業は終わり、園芸部の面々は各々談笑を楽しんでおり、シンは汗をタオルで拭って帰ろうとするが、春湖は水筒に入った自作のハーブティーをシンに差し出す。

 

「ありがとう」

 

 ちゃんとお礼を言ってシンは春湖自作のハーブティーを楽しむ。

 飲んで暖かな気持ちになる春湖の人柄が出たハーブティーを楽しみながら、園芸部の作業の成果を見ていく。

 植物の成長は遅く、何度も何度も人の手助けが必要な物。

 長い長い時間が必要な事ではあるが、不思議と嫌な気分ではなかった。

 

「本当に春湖は凄いな」

「なにがですか~?」

「植物の成長を助けるには物凄い根気強い作業が必要だ。それを実行しようとしている事さ。投げ出した俺とは違うよ」

「投げ出す? シンさん何を投げ出したって言うんですか~?」

 

 春湖の問いかけに対して、シンは最近の悩みを語っていく。

 自分は本来の役目を投げ出して軍人として戦う事を拒絶したのは間違いなのではと。

 少しだけ悲しそうな顔を浮かべているシンに対し、春湖は優しく微笑みながら行動に移そうとする。

 

「シンさん少しだけ屈んでもらってもいいですか~?」

 

 突然の申し出に何の事か分からなかったが、シンは言われるがまま屈む。

 頭が自分の目線にあると、春湖はシンの頭を優しく撫でた。

 

「春湖⁉」

「よしよし。シンさんいい子です~」

 

 まるで子供をあやすような形にシンは気恥ずかしさを覚えたが、しばらくは彼女のされるがままになっていた。

 ひとしきり撫で終えると春湖は自分の考えを語り出す。

 

「いつもシンさんにはお世話になってますから。これぐらいしか出来ないですけど~」

「何を言ってるんだよ。俺の方がいつも春湖に癒されてばかりだ」

「わたしだってです~。それでいいんじゃないですか~?」

 

 抽象的すぎる発言にシンの顔色に困惑の色が出るが、春湖は構わずに自分の意見を語る。

 

「皆のため、平和のため、それも大切な事です。でも今シンさんが居なかったら、わたし達少しだけ大変でした~。だからシンさんは今のままでいいんです~。それともシンさんはわたし達と一緒嫌ですか~?」

「そんな訳ないだろ。春湖の事は好きだ。いつも俺を癒してくれるからな」

「わたしの事好きなんですか~? ならわたし達両想いですね~」

 

 二人は穏やかな時間を共有しあいながら微笑みあう。

 認められ自分がそこに居てもいい意味を与えられた。それはシンに取っての幸福であった。

 

 

 ***

 

 

 単身者用の安い木造アパートの一室、そこでシンは静かにベッドで寝息を立てていた。

 外はまだ薄暗く日が昇り出した時間であった。いつもなら悪男狩りを行っていたシンだが、この日は早くに就寝して今も穏やかに眠っている。

 決して過去を乗り越えた訳ではない。だが役目を放棄した訳ではない。

 今の自分には新しい役目があるんだと信じ、目覚ましよりも先に目を覚まし、ベッドから起き上がるとシンは軽く伸びを行う。

 

「さてと……これからどうするかな?」

 

 ただ死ぬのを待つだけだったと思っていたが、この世界でも大切な物は出来たつもりだ。

 これから自分がどうなりたいのかと考えながら、シンはパジャマを脱いで制服に袖を通す。

 大人になるために。

 

 

 ***

 

 

 いつも通りの通学路をシンは一人歩く。

 この世界で作り上げた絆が彼に朝の挨拶を行っていく。

 

「シンさんおはようございます」

 

 COOL 椎名心実

 

「シンさん今日も頑張りましょう」

 

 COOL 村上文緒

 

「おはようシン」

 

 COOL 上条るい

 

「おおオイッス疲れたんだおぶってくれ。オイ冗談だよ。待てよ」

 

 POP 姫島木乃子

 

「ようオッス」

 

 COOL 東雲レイ

 

「おはようございますシンさん。今日は体調大丈夫ですよ」

 

 COOL 正岡真衣

 

「シンさんおはようございます」

 

 POP 花房優輝

 

「ダーリンおはよ~」

 

 COOL 見吉奈央

 

「先輩! おはようございます!」

 

 SWEET 柊真琴

 

「おはよシン君」

 

 COOL 夏目真尋

 

「シン君おっはよ~!」

 

 POP 押井知

 

「シンさん! おはよーございます!」

 

 SWEET クロエ・ルメール

 

「おはよ~ございま~すシンさん~」

 

 SWEET 夢前春湖

 

 各々の朝の挨拶に対して、シンは前よりも少しだけ優しく微笑みかけながら返す。

 

「ああ。おはよう」

 

 その様子を校舎から見る影が二つあった。担任の月白とシンを何かと気に掛ける祐天寺だ。

 多くの友達に囲まれ、幸せそうに穏やかな笑みを浮かべるシンを見て二人は一言呟いた。

 

「シン君どんな未来を選んだとしても、これから先絶対幸せになるわ」

 

 それは希望的観測ではない。確実な未来であった。




と言う訳でどうしてもSEEDFREEDOMでの彼の扱いが耐えられず、この物語を完結させました。前作ではデュランダルにいいように使われていたシンですが、それがキラに変わっただけじゃないかと言うのが私の正直な感想です。

アグネスの存在といい。アカデミー時代を深堀りしたといい。キラ上げはとにかくとして、まだシン下げをやりたいのかと思いましたね。

愚痴っぽくなって申し訳ありません。私はアンチな物ですから。改めて皆様にお伺いしたいです。私がシンに用意出来た物はこれから先の事を考える穏やかな時間と、彼を理解してくれる友達を用意してあげる事が限界でした。これから先シンが大人になれるかどうかってのは全てこれからの彼次第と言う形で納める事が限界でした。

皆様に最後伺いたいです。私はシンを幸せにしてあげる事が出来たのでしょうか?
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