聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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類は友を呼ぶ。


第三話 異世界転生者同士

 着の身着のままでシンは藤堂のマンションに居候する。

 患者衣のままでは何も出来ないと判断し、取り合えず今シンは聖櫻学園の男子用ジャージに身を包んでいて、シンは何も言わずに床に座ってガラスのテーブルの上に置かれた小学一年生が使うような文字を覚えるための本をジッと見つめていた。

 

「取り合えず君は文字を覚える事が最優先事項だ。これから高校生レベルにまで学力を持っていかないいけないからな。死ぬ気で付いてきてほしい。まずはこれで文字を覚える事から始めるんだ」

「ハイ……」

 

 相変わらずの気の抜けた生返事をすると、藤堂はこの日の遅めの夕食を作るためにキッチンへと向かう。

 何も言わずにシンはあいうえおを覚えるための幼児向けの本を手に取って、文字を覚えようとパラパラとめくる。

 

「こんなの見たって……え?」

 

 今から文字から覚えなきゃいけないのかと思っていたシンだが、次の瞬間文字が読める事に驚愕してしまう。

 ここに書いてある平仮名は全て読めると判断すると、シンはもしかしたらと思い次に無造作に置かれている新聞紙を手に取り読もうとする。

 

(どうなってやがる⁉ 国の事情とかはともかくとして、文字や意味は全て分かる……)

 

 異世界の文字が全て理解出来る事にシンは驚く事にも疲れ、新聞を読みむさぼる。

 そこで分かったのはこの時代の日本は戦争とは無縁の国だと言う事ばかり。

 新聞に載っているのは、政治家の賭博、人気タレントの不倫、スポーツ選手の故障、人気の漫画が何故人気なのかと、シンに取ってはどうでもいい内容ばかりだった。

 新聞を元あった場所に戻すと、シンは何かを探すように辺りをキョロキョロと見回す。

 すると目的の物はすぐに見つかった。

 聖櫻学園の教科書を見つけると、近くにあったメモ帳を手に取り、シンは問題を解き出す。

 今の自分の学力がどれ程の物か知りたかったから。

 

 

 ***

 

 

 まずは前菜のマグロのカルパッチョを作り上げると、藤堂は盛り付けも完璧な状態で目に見ても鮮やかな料理を持って、シンが居るリビングへと向かう。

 

「シン君。少し休憩だ、夕食を……」

 

 カルパッチョをテーブルに置くと同時に藤堂の目に留まったのはキチンと積まれたメモ帳の数々だった。

 メモを見ると教科書に書かれていた例文の答えが全て書かれていて、回答が全て正解していた事に藤堂は愕然となり、勉強をしているシンの肩を優しく叩くと、彼の注意を一旦自分に向けさせる。

 

「シン君は文字が読めるのか?」

 

 藤堂の問いかけに対してシンは静かに頷いて返す。

 シンが解いた問題の中には、日本史、現代文も含まれていたので、かなり難しい漢字も普通に使っている事から、現段階でもシンはかなりの高い学力を持っていると判断した。

 となると自分がやる事は一つだと判断し、藤堂は慌てて部屋の奥から大量の参考書を持ってくると、それをシンの前に置く。

 

「私は料理の続きをするから、可能な範囲で構わない。解けるだけ解いてほしい」

 

 言うと同時に参考書と一緒に用意されたノートを手に取って、シンは問題を解き出す。

 どれもアカデミー時代に教わった物ばかりであり、首席こそレイに取られた物の、次席までに上り詰めたシンに取っては簡単な物であり、立て板に水の要領で淡々とノートに正解を書き続けた。

 

 

 ***

 

 

 ノートに記された全問正解の回答に藤堂は愕然とするばかりであった。

 前にミス・モノクロームの面倒を見た事があったが、彼女の場合元がアンドロイドと言う事もあり、初めの内は何も分からない状態であったが、成長スピードが凄まじく、驚異的な速さで学校の勉強を理解出来たのだが、シンの場合は初めからだ。

 ここから現段階でもシンは平凡な大学生レベルの学力は持ち合わせていると判断し、自分は彼をどう導くかを考えていた。

 一方シンはシンで目の前にある料理の数々に驚愕していた。

 テーブルの上に並べられたのは、まるで高級レストランさながらのフレンチ料理のフルコースであり、個人が作った物とはとても思えない内容であり、ナイフとフォークを手に取ってはみたが、食べていいのかどうか困惑するばかりであった。

 シンが茫然としていると、そんな彼に気付いたのか、藤堂は一旦ノートを近くのソファーに置くと、シンと向かい合わせに座って手を合わせて「いただきます」を言う。

 

「済まなかったな。まずは食べてからにしよう」

 

 藤堂に促され、シンも同じように挨拶を済ませると、目の前の料理を食べ出す。

 料理の中には肉も入っていたのだが、シンは難なく食べる事が出来た。

 戦争で両親と妹を亡くしてから、肉の類は食べる事が出来なくなっていたシンなのだが、もう開き直ったのか、目の前にある美味しそうな料理に釣られたのか、藤堂を気遣っての事なのかは分からない。

 だがそう言う感情は抜きにしても、純粋に藤堂の料理は美味しかった。

 だからこそ、シンはここでハッキリさせておかなくてはいけないと思い、藤堂に意見を述べる。

 

「こう言うのはこれっきりで構いません。俺は居候の身の上ですから」

「何の話?」

「こんな豪勢な料理を食べる訳にはいかないんですよ。贅沢は堕落の元になってしまいます」

「その事なら一切気にする必要はないわ。これからも最低限の礼儀を守ってくれさえすれば、食事の提供はしよう」

「何で……」

「料理は私の唯一のストレス解消法だからよ」

 

 それだけ言うと問答を終わらせ、再び藤堂は目の前の料理を黙々と食べ進める。

 藤堂が望んでいる事なら、居候である自分が何も言う権利はないと判断し、同じように黙々とシンも料理を食べ続けた。

 その間は二人とも終始無言であったが、各々思考を激しく巡らせていた。

 これから先どうするべきかを。

 

 

 ***

 

 

 食事を終え、シンがせめてもと食事の後片付けを終えリビングへ戻ると、藤堂はここに座るよう指さす。

 何も言わずにシンはその場に腰を下ろすと、藤堂はこれからの件に付いて語り出す。

 

「さてまずシン君の学力についてだが合格です。君は現段階でも一般的な大学レベルの教養は持ち合わせているわ」

「このまま外に出ても問題は無いと言う事で問題ありませんか?」

 

 シンの問いかけに藤堂は静かに首を縦に振る。

 許しが出た事にシンも安堵の表情を浮かべた。

 これから先缶詰生活が続くのは、シンとしても息苦しいだけだからだ。

 一つ問題が片付くと、藤堂は次の問題を話していく。

 

「この成績なら家には十分編入は可能よ。ただ時期的には当初の予定通り、4月から君は聖櫻学園の二年生として編入してもらうわ」

「何故……」

「ここがシン君に取っては過去の世界でも、ある程度はモラトリアムも必要だからよ。丁度空きがあるから来年の頭からは寮に暮らしてもらう事にするわ」

 

 寮暮らしと聞き、シンの表情に影が落ちる。

 集団生活はトコトン自分には向かないと軍で判断したからだ。

 明らかに浮かない表情になったシンを見て、藤堂も心配になったのか、彼をフォローしようとそれまで何をすべきかを話していく。

 

「そうしょげるな。異世界で一人きりであなたも不安でしょう。戸籍に関してはこっちで何とかするし、入学金や学費も奨学金と言う形で処理しておく。君に今必要なのは愚痴を言い合えるような友達だ」

「友達?」

「そう、明日会わせたい人が居る。今日はもう休みなさい。服は明日こっちで用意しよう」

 

 それだけ言うと藤堂は自室に戻って、翌日分の作業を行う。

 これ以上の問答は無駄だと判断したシンは何も言わずに藤堂に宛がわれた客室へと向かい、用意された布団の上に横になった。

 藤堂は友達を用意してくれると言ったが、シンは完全に光を失った目で一言つぶやく。

 

「そんな物俺には作れない。結局俺は軍でも一人だったからな」

 

 レイやルナマリアにそう言う感情を持った事、無い事は無い。

 だが今のシンにそれを受け入れるだけの包容力はなかった。

 怒りだけがシンにはないのだから。

 

 

 ***

 

 

 翌日藤堂が用意してくれた。黒のジャケットに白のインナー、ジャケットに合わせたチノパンと灰色のランニングシューズに身を包んで、シンはメモを見ながら指定されたマンションの前に立っていた。

 そこの最上階に住む聖櫻学園一年生の『螺子川来夢』が藤堂が会わせたい人物だと言う。

 早速シンはエレベーターを使って指定された階に到着すると、インターフォンを押す。

 

「ハーイ」

 

 リラックスした調子で現れたのはピンク色の髪を上くくりのツインテールでまとめ、同色の大きな眼鏡が特徴的なパステル色の強い服を着た少女であった。

 話から彼女が螺子川来夢だと判断したシンは、淡々と話を進めていく。

 

「君が螺子川さんでいいのか?」

「オウ、私は聖櫻学園一年の螺子川来夢だ。藤堂教頭から話は聞いているよ。モノクロームちゃんも待っているから入ってくれ」

 

 家主に許可を貰うとシンは一礼し、螺子川の後に続く。

 リビングのドアを開けた瞬間、シンは驚愕してしまう。

 そこには大量のコードと難しそうな部品が散乱しており、コードの中央にはまるで人間の少女ような銀色のロングヘアーを下くくりのツインテールでまとめた物が、コードに繋がれた状態で椅子に座っていた。

 何事かと思っていたが、ここでシンは藤堂から与えられた情報を思い出し、それを螺子川にぶつける。

 

「もしかして彼女が『ミス・モノクローム』なのか⁉」

「いかにも。彼女はミス・モノクローム、私の数少ない親友さ。現在はメンテナンス中だがな」

「メンテナンスって……学生がやっていい事なのかよ⁉ パッと見彼女はモビルスーツ以上に精密機械な雰囲気を持っているぞ」

 シンの口から出た言葉に螺子川は目を光らせると、懐に忍ばせていたボイスレコーダーを取り出して、シンからは事情を聴こうとする。

 

「ほうほうモビルスーツと来たか、異世界からの転生者とは聞いたが、シン君はあれなのかな? ガンダムにでも乗っていたのかな?」

「何でそれを⁉」

 

 話しても分からないだろうと思って何も話さなかったシンだが、モビルスーツと言う言葉を聞き、即座にガンダムと言う言葉が出た事にシンは驚愕し、逆に螺子川から問いただそうとする。

 

「どう言う事だ⁉ この世界はコロニーもコーディネーターもナチュラルもないはずだぞ! 何でそれなのにガンダムって単語は分かるんだよ⁉」

「コーディネーター? ナチュラル? OK、お互いに一回落ち着こうか」

 

 今度は逆に螺子川の知らない単語が出てきて、お互いに冷静になろうと螺子川はシンに呼びかける。

 これにはシンも同意し、お互い冷静になって情報交換を行う事で納得をした。

 そしてシンが得た情報は一つ、この世界ではガンダムは人気のロボットアニメシリーズであり、現在でも多くのファンによって支持されていると言う物。

 だが自分が生きているコズミックイラと言う時間軸だけは存在していないと言う事が。

 この事を踏まえた上で、改めて螺子川はシンに対してインタビューを行おうとする。

 

「何にせよ、まさか本物のガンダムのパイロットに会えるなんて、中々出来ない経験だからな。シン君の事激しく興味を持ったよ。詳しくインタビューさせてもらいたいのだが……」

「こっちの方が先だ」

 

 シンは興奮気味で周りが見えなくなっている螺子川を窘めるように、目を閉じて静かに椅子に座るモノクロームを指さす。

 コズミックイラの世界でも、完全に自立可能なアンドロイドなど作られた事がない。

 彼女が自分に取ってどう言う存在になるのか、シンは理解したかった。

 

「藤堂先生から、ミス・モノクロームは必ず俺の理解者になれると聞いたんだが、彼女は一体何者なんだ?」

「それはだな……」

『システムオールグリーン 充電完了しました』

 

 話そうとした瞬間無機質な機械の音声が響き、一斉にコードがモノクロームから落ちていく。

 それと同時に銀のボディープレートに、白と黒のストライプのミニスカートに身を包んだ少女、ミス・モノクロームはまるで寝起きの人間のように、大きく伸びをして大あくびをすると、螺子川と一緒に居る初対面の男性を物珍しそうに見つめる。

 

「どちら様ですか?」

 

 その声は機械らしく無機質な物ではあるが、姿形はどう見ても人間。

 あまりしげしげと眺めるのも失礼だと思ったシンは、モノクロームに自身の事を伝える。

 

「俺は来年の4月から聖櫻学園にお世話になるシン・アスカだ。藤堂教頭から、ここに来るように頼まれたんだが、聞いてないのか?」

 

 シンの問いかけに対して、モノクロームは小さく首を縦に振ると、螺子川の方を向き、ジト目で彼女を睨みつける。

 

「螺子川さん。私管理はあなたに任せるって言いましたよね?」

「いや済まない。ついうっかりな。それよりも本当に凄いんだよ彼は……」

 

 連絡の不備をごまかそうと、螺子川はシンについて語り出す。

 まるで女友達同士のようなやり取りに呆れながらも、シンは落ち着くまで待とうとその場に腰を下ろし、黙って二人のやり取りを見ていた。

 

 

 ***

 

 

 二人のやり取りが落ち着いたのを見ると、シンとモノクロームは異世界から来た者同士で情報交換を行っていた。

 モノクロームは現在アンドロイドアイドルとして活動していて学校へはあまり来れず、元居た世界はかなりカオスな内容の世界だったらしく、説明を受けても正直シンはピンと来ない印象が強かったが、大してモノクロームの方はシンの世界に興味津々。

 

「まさか本当にガンダムの世界の住人に会えるとは思っていませんでした。と言ってもあなたのようなパイロットは私の世界にも、こっちの世界でも見ませんでしたが」

「俺から言わせれば、モノクロームの方が凄いって思うよ……」

 

 シンの目の前に居るモノクロームは腹が減ったのか、単三電池を丸呑みしてエネルギー補給を行っていた。

 他にも人間の食事でもエネルギー補給が可能なモノクロームの方が、シンの理解を遥かに超える存在だったからだ。

 だが驚いてばかりもいられない。シンは何故モノクロームがアイドル活動を始めたのか、その真意を聞き出そうとする。

 

「それで何でアイドルになろうと思ったんだ? モノクロームは俺よりも認知が大変だろう。アンドロイドなんてこの世界ではお前一人じゃないのか?」

「そこは問題ありません。私は商標登録されていますので、戸籍に関しての問題はクリアしています」

「いいのかそれ⁉」

 

 あまりにアバウトすぎるこちらの世界に対応にシンは激しい突っ込みを入れてしまう。

 こちらの事実が衝撃的過ぎたので、本来の目的を忘れそうになってしまうが、シンは慌てて何故モノクロームがアイドルを志したのかを聞こうとする。

 シンの世界ではアイドルはラクス・クライン以外認められておらず、正直な話アイドルに関していい思い出など何一つないのだから。

 

「アイドルに関しては私が前に進むためです。アンドロイドは人の役に立つため生まれてきました。そして私の容姿は男性受けが良いデザインに作られています。ならば私が前を目指すのは必須だと思います」

「そして私はモノクロームちゃんのサポート係だ。彼女は私と友達になってくれたからな」

 

 モノクロームの志その物は立派な物なのかもしれない。

 だが今のシンに彼女を受け入れられる度量はなかった。

 どうあっても自分は何も出来ない。何もやりたくない。全てに絶望したからこそ、シンは半ば自殺と言う形でコズミックイラの世界を後にしたのだから。

 モノクロームを直視する事が出来なくなったシンは何も言わずにその場を後にしようとする。

 

「もういいのですか?」

「ああ大体は分かった。上手く行くといいな、アイドル活動……」

 

 心にもない言葉だけのエールを送ると、その場に居るのが辛いのか。シンはそそくさとその場を後にしようとするが、螺子川がそんな彼を呼び止める。

 

「また君の世界のガンダムの話を聞かせてもらってもいいか?」

 

 目を輝かせながら螺子川は尋ねる。

 メカニックで発明家である螺子川に取って、シンの存在は興味津々であったが、そんな彼女に対しても、シンはつっけんどんな態度しか取れなかった。

 

「螺子川が興味ある話は出来そうにないよ。まぁ聞くのは勝手だけどな」

「じゃあメッセージツールの交換を……」

「携帯持ってない」

 

 それだけ言うと今度こそシンはその場を後にした。

 取り残された二人はその寂しそうな背中を見て、何とも言えない静寂に包まれていたが、モノクロームが一言つぶやく。

 

「何て悲しい目をした人なのでしょう……」

 

 

 ***

 

 

 シンは歩調からも怒りが伝わるかのように、ドシドシと不機嫌なオーラを全開にさせながら歩く。

 頑張っている奴を見ると腹が立つのだろう。もう自分には何も出来ないと判断したのだから。

 

「今だって生かされている状態だ。何の力もない、クソ雑魚の俺にはお似合いのクソ以下の人生だよ」

 

 自虐気味に一言つぶやく。

 完全に目的を見失ったシンはもうこう言う生き方しか出来ないと決めつけていた。

 そうでなければ自分の心を保てられないから。




と言う訳で、生徒としては初めて、螺子川来夢とミス・モノクロームを絡ませました。
ミス・モノクロームを異世界人にしたのは、彼女は他の分野からの参入と言う事なので。
ガールフレンドは結構クロスオーバーが多いので、今後もこう言う対応はしていきたいと思いました。
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