聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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進まないと少しずつでも


第五話 きのこのこ

 生徒手帳に記された名前にシンは違和感を覚えていた。

 元々の名前を名乗れないのは分かっているが、商標登録されて元の名前を名乗る事が出来るモノクロームと比較してしまうと、これから自分は吉田新太と言う名前で生きていかなくては行けないと思い、また一つイライラが募っていく。

 

(まぁまたあれでも殴って憂さ晴らしすればいいか……)

 

 ここは前の世界とは違う。

 完全に闇に落ちたシンは一つ邪悪な笑みを浮かべると、職員室のドアの前をジッと見る。

 待っていたのは自分の担任となる月白陽子を待っているからだ。

 ようやく手続きが終わったのだろう。職員室のドアが開き、緑色の髪を上くくりにまとめ、眼鏡をかけた女性が姿を現す。

 

「待たせたな。行くぞ」

 

 厳格そうな雰囲気を持つ担任、月白陽子に声をかけられると、シンは一礼して彼女の後に続く。

 学園長は学校で学べばいいと言っていたが、シンの胸中は一つしかなかった。

 

(出来る事適当にやるだけだ……)

 

 子供の内から大人と同じように扱われたシンは、すっかり人を見下す悪い癖が付いてしまっていた。

 戦争を経験したシンからすれば、この国は箱庭のような物。

 この世界にも戦争は存在し、今でも人々は戦争に苦しんでいる。

 だがそんな物は今のシンには何の関心もない事実。今のシンの胸中を占めているのは一つだけなのだから。

 どれだけストレスなく、穏やかに面白おかしく生きていけれるかだ。

 

 

 ***

 

 

 2-Cの新しい仲間に皆興味津々であり、ワイルド系の美形のシンを見て、クラスメイトはザワザワと騒いでいた。

 月白は何も言わずに黒板にこの世界のシンの名前である『吉田新太』の名前を書くと、クラスメイト達に告げる。

 

「形式上こう言う名前になっているが、彼の本名はシン・アスカと言う。故に私もそのように呼ぶ事にするので、皆も気を付けてくれ」

 

 あまりに柔軟すぎる対応に、シンは唖然となってしまう。

 こんな事でいいのかと抗議の声を上げようとしたが、周りから一斉に送られる拍手の数々に、言うタイミングを完全に逃してしまい、シンはクラスメイトから質問攻めにあってしまう。

 

「ガンダムの世界から来たって本当?」

「やっぱりガンダムに乗っていたの?」

「今現在彼女は居る?」

 

 シンは自分が異世界転生者である事は一部の人間にしか話してないはずなのに、何故自分がコズミックイラの世界から転生している事を皆が知っているのか唖然となり、視線だけ月白の方に向け、詳細を聞こうとする。

 

「スマン。どこで仕入れたかは分からないが、口コミでいつの間にか広がってしまった」

 

 申し訳なさそうに言う月白を見て、これ以上の問答は無意味だと判断し、出来れば触れられたくない過去の苦い思い出に対し、シンは生返事を適当に行う事しか出来ず、月白に促されて自分の席に座る。

 その後は月白のサポートもあり、何とか平穏な時間を取り戻したが、シンはここで友達を作ろうと言う気もなければ、もう一度青春を取り戻そうと言う気もなかった。

 

(もう俺は普通に生きるなんて出来ないよ……俺が求めているのは今でも亡くした家族だ)

 

 前を向いて歩くなど出来ない。平穏無事に生きるなど出来ない。

 暴力の麻薬を知ってしまったシンは、自己分析と言うのも3ヶ月の間で出来るようになった。

 激情家の自分が誰かと共に歩く事など出来ない。考えてみればつくづく軍人には向かない性格だと理解するだけではなく、集団生活も全く行う事が出来ないだろう。

 そんな自分が幸福に生きていける訳がない。なまじ出来る人間だからあれこれと押し付けられ、煩わしいだけの責任なんて物を押し付けられてしまったのだから。

 そんなシンの話しかけるなオーラがヒシヒシとクラスメイトにも伝わったのだろう。

 その後は悪い意味での静寂が2-Cを包んでいた。

 

 

 ***

 

 

 2-Cに転入して1週間の時が流れた。

 この日も全ての授業が終わり下校のチャイム音が鳴り響く。

 だがシンは誰も居なくなった教室で相変わらずの不機嫌そうな顔を浮かべ、一人腕を組んで座るだけだった。

 こんな態度を取っているにも関わらず、学力も体力も一番である事から、シンは完全に孤立してしまっていた。

 話しかけづらいと言うのが一番の理由なのだろう。シン自身が積極的にならない限り、この状況は何も変わらない。

 シンに変わるつもりはないが、現状をよく思わない生徒が二人程、彼を遠目から見ていた。

 

「やっぱりこの状況よくないって思うよ。つぐみちゃん」

「そうだよね……」

 

 同じ2-Cのクラスメイトである櫻井明音と春宮つぐみは、いつまでたっても一人ぼっちのシンを心配し、自分達が彼に話しかける事でこの状況を打破しようとしていた。

 元々社交的な二人はクラスの中でも比較的中心人物的な存在であり、決してクラスの空気を良くしている訳ではないシンを何とかしようとしていた。

 二人ともガンダムの事は知っていたが、興味本位だけでシンに近づこうと言う訳ではない。

 あまりの物珍しさからクラスメイトの質問攻めがわずわらしいと思って、こんな状況になってしまったのかもしれない。

 しかし過ちは正す事が出来る。まずはちゃんと謝って、その上でキチンとシンを一人の人間として向き合って話し合おうと決め、明音とつぐみは彼の元へと向かおうとする。

 

「ちょーい!」

 

 その時突然、明るい声が響き渡り、頭を軽くはたかれたシンは後ろを振り向く。

 そこに居たのは薄紫色の腰まで伸びたロングヘアーを二つくくりのツインテールでまとめ、目付きの悪い小柄な少女が居た。

 少女はシンと視線が向き合うと、ニタニタと下卑た笑みを浮かべながら話し出す。

 

「やっとこっち向いたな。この陰キャめ。ハロー、シンさん。ご機嫌いかが~ ハッピー、うれぴー、よろぴくねー!」

「お前何?」

 

 ハイテンションな少女をシンは一喝し、行動を制する。

 ノリの悪いシンに対して、少女は大袈裟にずっこけながら、ジト目でシンを睨んで自分の事を話していく。

 

「んだよノリ悪いな。そんなんじゃ陰キャ認定されちまうぞ。これからの時代はコミュ力だろうがよ」

「だからお前何?」

「何? 編入して一週間も経っているのに、あたしみたいなキャラ強いの覚えてない訳? しゃーねーな。改めて自己紹介してやるよ。あたしゃ聖櫻学園2-C所属の姫島木乃子だよ。あんか文句あっか?」

 

 マシンガンのように一方的に話し続ける木乃子に圧倒されながらも、シンの調子は変わらない。相変わらずの不機嫌そうな表情を崩さないまま、木乃子の対応に当たる。

 

「で、お前俺に何の用だ?」

「そう言うつっけんどんな態度を格好いいと思っているなら、今の内に捨てておけ、シン評判悪いぞ。いっつもブスっとした顔を浮かべててよ。クラスで完全にぼっちになっているのに気付かないか?」

 

 木乃子は完全に孤立してしまっているシンを気遣って話しかけてくれたのだろう。

 だがそんな優しさに応えられる度量も余裕もシンにはなかった。

 そして自分が最も疑問に感じた事を一言告げる。

 

「まず日本語をちゃんと喋れ。お前が言っている事何一つ分からねぇよ」

「お前はやめろよ。ゲームしめじと呼んでくれ」

「それで満足なのか?」

 

 名前だけでかなり特徴的なのに、更に要求するあだ名が突飛すぎる事から、反射的にシンは突っ込む。

 ようやく会話のキャッチボールが出来る状態になったのを見ると、木乃子は自分の想いを語っていく。

 

「ネットスラングが多いのはヲタの宿命だ諦めろ。だからと言って脛蹴りの突っ込みはNGだぞ。暴力ヒロインは女だけの特権と言いたいが、あたしゃ嫌いだから安心してくれ」

「論点完全にずれているぞ。姫島は俺をどうしたいんだ?」

「おっと失敬。話を戻すぜ。いつまでぼっちを気取って悦に浸るのは止めろと言っているんだ。そろそろ、よーこちゃんに目付けられるぞ。本当よーこちゃんの説教は長いからな」

 

 木乃子と話したのは数分にも満たないが、シンは彼女の本質を理解してしまう。

 彼女はかなりの問題児だと言う事を。

 だが決してそれだけではないと理解すると、シンは体勢を変える事なく木乃子と向き合って話を進めていく。

 

「ようするに友達を作れって事か?」

「そう言う事だ。シンはコミュ障か何か?」

「まずコミュ障って何?」

 

 一方的に否定するのではなく、ちゃんと相手の話を理解する事から対話は始まる。

 木乃子はスマホでコミュ障の意味を教えると、シンは自分にも当てはまる部分があると納得し、冷たく振り払う。

 

「余計なお世話だ」

「余計なお世話でもしないとシンみたいのは、いつまで経ってもそのままだろうがよ。形だけでもいいからやっておけって、あたしがまずシンの友達になってやるからよ」

 

 思ってもみなかった言葉にシンは少しだけ木乃子に興味を持つようになる。

 ただ一方的に上から目線で説教をして否定するだけなら、これまで関わってきた連中と何も変わらないので、一蹴しようと思っていたのだが、木乃子は違うと判断して彼女の話をもう少しだけ聞こうとする。

 

「クラスの皆だって悪気があった訳じゃないんだ。ただモノクロームちゃんと同じで異世界転生者が物珍しすぎて、ついバカになっただけなんだからさ。皆根はいい子ばかりなんだ。クラスの中心人物になれとまでは言わないが、まずはあたしぐらいで手を打っておけって」

「分かったよ」

 

 会話に疲れたのか、木乃子の真意を理解したのかは分からないが、シンは頃合いだろうと判断して、席を立って鞄を持ってその場を後にしようとする。

 まだ明確な答えを聞いてない木乃子は彼の後を追おうとするが、シンは最後に一言言ってそれを制した。

 

「ただしそっちから俺に話しかけてくれ。俺の方からは何もしないよ。嫌になったら適当に手を引けばいい。まぁ……こんな俺に話しかけてくれたんだ。悪人じゃないって事ぐらいは分かるよ」

 

 それだけ言うと今度こそシンは帰路に就く。

 一人取り残された木乃子は舌打ちを一つして、最後に捨て台詞を吐いた。

 

「嫌な感じだね」

 

 だが決して悪意だけではないと言う事は口調の明るさから分かる。

 その様子を遠巻きに見ていた明音とつぐみは二人で顔を見合わせて、これからのシンの処遇を決めた。

 

「しばらくはキノコちゃんに任せてみようか」

「そうだね」

 

 最悪の場合は自分達が動けばいいと判断して、明音とつぐみは各々部活へと向かった。

 少しずつでもシンはこの世界に馴染んでいると信じて。




と言う訳で今回初めて生徒を本格的にシンと絡ませました。
まずは姫島木之子からです。意外とシンと相性はいいと思ったので。
螺子川、モノクロームはスポットキャラですので、ここから本格的にガールと絡ませたいと思っています。
感想、評価お待ちしています。
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