聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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いつだってタイミングが都合よく合うとは限らない。すれ違うのだって人生だ。


第七話 SEEDの力に目覚めた時

 結局話し合いの結果、悪男の駆除自体は悪い物ではないが、夜間の外出は決して褒められた物ではない。

 だからやるならバレないようにやってくれと言う暗黙の了解で話はまとまる。

 この日も軍の警備に比べればザルな寮の警備を掻い潜り、シンは夜の街へと繰り出す。

 少し前ならば殴る事に何の躊躇もなく、力任せに暴力の悦楽に溺れていただろう。

 だが自分を心配してくれる月白や木乃子の顔が頭を過ると、このままで本当にいいのかと自問自答を繰り返すようになってしまう。

 しかしそんなシンの心境とは裏腹に、この日も悪男達は一斉にシンへと襲い掛かる。

 自分に悪意ある暴力が向けられると、シンの表情は一変し、一気に邪悪に顔を歪ませ、拳を振り上げる。

 

――そうだよ。俺はこれでいいんだ! 俺には力があるんだ。俺は強いんだ!

 

 我儘を貫く事は強さ。

 木乃子がそんな事を言っていたのを頭の片隅に置きながら、シンは考える事を放棄し、暴力の悦楽に溺れる。

 殴り、蹴り飛ばし、目を貫き、肘鉄、膝、噛みつき、引っかき、踏み付け、壁に叩き付ける。

 思い付く限りの暴力を放つ悦楽にシンは溺れ、コズミックイラの世界では体感出来なかった誰にも縛られずに無双する感覚に酔っていた。

 どうせ自分に待っているのは悲劇的な結末しかない。

 戸籍も借り物、何の後ろ盾もない、そんな自分に何が出来ると言うのか。数々の苦い思い出の中で、元々ネガティブで人付き合いが苦手だったシンの思考は更に悪化してしまい、元の世界で否定され続けた怒りを悪男達にぶつけ続ける。

 

「ふざけんじゃねぇぞ!」

 

 この日は特に苛立っていたのか、その怒りは声となって出ていて、もう既に蹲って戦意を亡くしている悪男を立て続けに蹴り飛ばした。

 

「何なんだよあの女⁉ 口開けばガミガミ否定して、殴り飛ばしやがってよ! テメェなんか人の目気にして、上に媚びへつらうしか取り柄がねぇだけのクソ女じゃねぇか!」

 

 その怒りを向けたのは嘗ての同胞ルナマリアだった。

 勿論全てが全て嫌な思い出しかない訳じゃない。だが今のシンにそれを思い出せる余裕はなく、時と場合において暴力に走ってしまった事を理解するだけの度量は無かった。

 ただ否定された。ただ殴られただけしか、シンの中にはなく。ルナマリアへの怒りは増長の一途を辿るばかりであった。

 

「クソ妹が生きてたってだけで、ケロっと立ち直りやがってよ! 俺がいなけりゃ生きていけないって言ったのはどこのどいつだ⁉ やっぱりあの時殺しておけばよかったんだよ!」

 

 悪男が居なくなってもシンの怒りは収まらない。

 自分でもこんな事を言うのは間違っていると言う理性的な自分が居ない訳ではない。

 だが、そんな自分は怒り狂う自分にかき消され、シンは怒りの赴くままに悪男を殴ろうとするが、既にこの日の悪男は全て撃退していて、辺りは静寂が包むばかりであった。

 しかしそれで冷静さを取り戻せる程、シンは大人ではなかった。

 

――許せねぇ……絶対に許せねぇ……

 

 月白や木乃子の気遣いが嬉しくない訳ではない。

 だがその程度の気遣いは一時的に忘れる程度の蟷螂の斧でしかない。

 それぐらいシンのトラウマは強烈な物であり、自分に優しくしてくれなかった世界の怒りをぶつける場だけが、今のシンに必要な物であった。

 まだ悪男は居ないかと目を凝らしていると、黒髪を下くくりのツインテールでまとめた女性が、静々と歩いているのが目に留まる。

 

――殺してやる……

 

 何故かは分からないが、シンにはその女性がルナマリアとダブったらしく、彼女に気付かれないように後を追う。

 軍では尾行のスキルも、スニーキングミッションも担当した事がある。

 一般人一人の後を追う程度、シンには難なく出来る事。

 その際もシンの中に現れるのはルナマリアとの苦い思い出だった。

 彼女に怒られてしょげていると、笑って「もう怒ってないから」と言って黙らせようとする。

 そんな態度が今となっては、腹立たしいだけであり、歩調から怒りが漏れていく。

 

――俺の母親でもねぇくせによ……何が叱ってくれる人のありがたみだ……家族でもねぇくせによ!

 

 最早怒り狂う事だけがシンが唯一心を保てられる方法なのだろう。

 本当は何を求めているのかは分かる。だがそれは絶対に手に入らない物だ。

 自分を無条件で受け入れてくれる優しさ。それを持っているのは家族だけだ。

 だがもう家族は居ない。あるのはこの体一つ。

 二言目には『成長』と言う言葉を使うルナマリア、それはシンに期待しているからこその言葉だったのだろうが、シンはそう捉える事は出来なかった。

 見下されていると踏んだのだろう。シンの言う自分らしく生きると言う事は、自分のままで生きていける。何の悩みもない薔薇色の人生を送る事。

 それが今のシンの望みでしかない。だがその望みは永遠に叶う事はない。

 どうあっても自分がそれを手に入れる事は不可能だと分かっているのだから。

 ならばやりたい事だけをやって生きていけばいい、二年間我慢すればあの学園長からも解放されるのだから。

 

(人生なんてそんなもんだ。とことん自分のためだけに生きていける奴が一番幸せなんだよ……)

 

 政策が気に入らないと言う理由で、せっかく終わった戦争を再び起こし、テロリストの前に屈服したシンが心を保つため選んだ選択肢は、ひたすら自堕落に生きる事。

 プランは決まっている。適当に出来る事をやって、食べて寝るだけだと。

 この平和な世界ならそれが許される。使命も役目も責任も、今のシンに取っては幸福になるのに邪魔くさく、煩わしいだけだった。

 そうこうしている内に、ターゲットとなっている彼女の歩が止まる。

 少し離れた所から彼女を見ていると、そこはシャッターでしまった雑居ビルの前であり、3回ノックをした後、彼女は一言言う。

 

「大月は元気か?……シャトーブリアン、ブルーレアで」

 

 謎の言葉を発すると同時に、シャッターが開かれ、彼女はその中に入っていく。

 しばらくその様子を見ていると、彼女が中に入ると同時にすぐシャッターは閉まる。

 シンは確信した。これは裏世界への入り口なのだと。

 

「上等だ……」

 

 ただ一夜の退屈が紛れれば、それで構わない。

 シンは完全に自暴自棄になっていて、彼女の真似をしてシャッターを3回叩くと、すぐ門番らしき人物から質問が来る。

 

「ご用件は?」

 

 無機質な声から相当やりなれているのだろうとシンは感じた。

 改めて裏世界へ入り込むのだと、僅かながらの緊張と期待を胸にシンは先程聞いた言葉を繰り返す。

 

「大月は元気か?」

「ステーキを食べたいそうです」

「シャトーブリアン、ブルーレアで」

 

 合言葉を言うと僅かな沈黙の後、シャッターが開かれ、全身を黒のスーツでまとめた黒服がシンを招き入れる。

 

「ご注文を承りました。どうぞ召し上がれ」

 

 何も言わずにシンは招かれるがまま、その中へと入っていく。

 だがその際シンは気付いてしまった。黒服が自分に対して訝しげな顔を浮かべた事を。

 その理由は分かる。どうせ自分が子供だからなのだろう。

 どこへ行ってもガキ扱いされ、否定される事はシンに取っては日常茶飯事。

 それに慣れる事など決してなく、その怒りはこの先で待っている何かでぶつけようとシンは決めていた。

 快楽だけが自分に優しい。もうその道を止める事は出来なかった。

 

 

 ***

 

 

 雑居ビルの一室にあったのは非合法のカジノであった。

 日本ではまだ禁止されているカジノが堂々と遊べる事にシンは驚愕していたが、手持ちとなる金が僅かしかない事に気付く。

 残り4日分の昼食代1000円しか手元になく、このカジノの相場がいくらぐらいなのか気になって、黒板を見てみると、チップ一枚最低でも1000円からと言うルールが記されていた。

 それが分かるとシンは何も言わずに受付で1000円札を渡し、チップの引換を要求する。

 

「一枚頼む」

 

 シンの申し出に受付は一瞬困惑したが、要求通りチップを一枚手渡す。

 渡されたチップをコイン遊びで弄びながら、シンは何で遊ぼうかと考えていると、目に飛び込んできたのはルーレット。

 僅かな手持ちで一気に増やすにはこれしかないと判断したシンは客の一人になって、次に何が来るかを考える。

 制限時間がせまるたびに心臓が早鐘のように鳴るのが分かる。

 アドレナリンが体中を駆け巡り、今までにないぐらいの高揚感をシンは覚えていた。

 制限時間が残り10秒を切った時、未だに決められないシンだったが、何かが弾ける感覚を覚えた。

 

――え?

 

 ディーラーの手の動きが物凄いゆっくりに見えて、どこに落とそうとしているのか大体理解が出来た。

 これまでの傾向から、恐らくこの数字に落とすだろうと判断したシンは、一つの数字に自分の全財産をベットする。

 そして受付は終了して、ディーラーがボールを投げ入れると、全員が固唾を飲んで見守る中、数秒の時間は永遠に感じられ、そして決着はあっさりと付いた。

 そこはシンが狙った場所であり、一目賭けのシンは36倍となって、一気に3万5000円の儲けを得られて、会場は軽くどよめく。

 だがシンは光を失った目をしながら、手の震えが止まらないでいた。

 

「何だよこれ……」

 

 それはキラ・ヤマトやアスラン・ザラが持ち合わせていた特別な才能。

 この力を目当てにレイもシンに寄り添った。

 だがコズミックイラの世界でこの力は開花しなかった。あれ程までに欲していた力なのに、今となってはただただ空しいだけであり、シンはSEEDの力を発動させながら、悔しさに任せて叫ぶ。

 

「今更こんな力に目覚めて何になるって言うんだよ⁉」

 

 平和な世界においてSEEDの力など何の役にも立たない。

 本来は生命の危機に陥らなければ発動しないそれが何故発動したのかは分からない。

 だが仮説なら立てられる。心臓が早鐘のようになる事から、心臓が爆発するような感覚が原因で発動したのかもしれない。

 目には涙が浮かぶが、すぐに拭き取ると、シンはルーレットを後にした。

 もう自分には進む事しか出来ないのだから。それが間違った道だとしても。

 

 

 ***

 

 

 翌日急遽シンに呼ばれ、学園長は学園長室でパイプを楽しんでいた。

 この日の全てのカリキュラムが終わり、すぐシンは学園長室に現れると、一礼をした後、学生鞄から100万円でまとめられた札束を3つ机の前に置く。

 突然現れた高額な金を前にして、一瞬学園長は眉を顰めるが、すぐ冷静になって問いただそうとする。

 

「何だねこれは?」

「この学校に入るための、入学金及び二年間の学費です。お納め下さい」

 

 何も言わずに学園長は一枚一枚札束を数えていく。

 確かにシンが言うように、入学金及び二年間の学費がそこには用意されていた。

 シンのような子供が何故この様な大金を手に入れる事が出来たのかを、普通なら問い詰める所なのだが、学園長は即座に昨日まで無一文に近いシンがこれだけの金を手に入れた原因を理解する。

 

「賭博に手を染めたね……」

「分かりますか?」

「私を誰だと思っている」

「そんな汚い金は受け取れられないとでも言うんですか?」

 

 すぐに自分がこれだけの金を手に入れた原因を理解した学園長に驚きながらも、シンはふてぶてしい態度を崩さずに接する。

 安っぽい正義感はシンの神経を逆なでさせるだけであり、怒りを増長するためのエネルギーでしかない。

 その事を理由にまた暴れればいいとシンは思っていたが、学園長の反応は意外な物だった。

 

「いやどんな形であれ、金は金だ。君が家に居たいと言う現れなのだろう? 受け取ろう」

「随分と柔軟な発想なんですね」

「物の受け取り方次第だ。確かに賭博に手を染めた事は褒められるべき事ではない。しかし、それは君が生きる事に意義や目的を求めての事なのだろう? だから悪男狩りだけに準じていた。本当に力を誇示する事だけが目的なら、もっと手に負えない状況になっているさ。シンぐらいの年齢ならばな」

 

 子供を諭すように冷静に意見を淡々と述べる学園長を見て、シンは困った顔を浮かべてしまう。

 自分が正しいと思った行動を今まで褒めてもらった事が一度もシンはないからだ。

 今回もどうせそんなもんだろうと半ば諦めていたが、予想外の態度にシンは何も言えずになってしまうが、ここで黙っていたら負けだと判断して必死に言い返そうとする。

 

「意義や目的ですか? 気持ちは分からない事もないですけど、俺に取ってそれは幸福になるのに邪魔なだけの存在ですよ」

「やってみて叩き潰されたからか?」

 

 学園長の芯を食った質問に、シンの顔色に動揺の色が出る。

 だがそれを悟られたら終わりだと判断したシンは自棄気味に返す。

 

「そうです……俺には何も出来ないし、誰かの労働力扱いされるなんて真っ平御免だ……」

「ならば正式に応酬を出そう。大人同士のやり取りとはそう言う物だ。しかし応酬を出す以上、結果は出してもらうぞ。ビジネスとはそう言う物だ」

 

 それだけ言うと学園長は自分の財布から3万円を取り出すと、それをシンの前に置く。

 今のシンに取ってはカジノの儲けは全て学園長に手渡し、残りは財布の中にある2万円のみであり、十分な応酬だった。

 学園長が何を命じるかと待っていると、彼は一枚の写真をシンに手渡す。

 そこに映っていたのは紫色でボサボサなロングヘアーを靡かせ、手には相当使いこまれたノートPCを持った少女が居て、所々にパンクファッション風のアクセサリーを身に着け、問題児っぽい雰囲気を感じさせていた。

 

「彼女は東雲レイ君。君と同じで聖櫻学園2-C所属だが、引きこもり気味でな。必要最小限にしか出席せず、留年ギリギリにしか出ないんだ」

「引きこもりを引き出すってのが俺の任務ですか?」

「そう言う事だ。やり方は君に任せる。引き受けてくれるか?」

「いいんですか? そんな事に安直に言って? よくテレビとかであるでしょう。引きこもり相手の引き出し屋は、罵詈雑言を投げかけ、ひたすら殴り飛ばして体力面の強化と言う名のイジメに酔っているって。俺はそう言う行為で彼女を引きずり出すかもしれませんよ?」

 

 挑発するような物言いではあったが、同時に学園長は一つ感じていた。

 歪んだ形でも少しずつでもシンはこの世界に馴染もうとしている。

 歓喜の感情を殺し、一つパイプを楽しむと学園長は一言告げる。

 

「君を信じている」

「やるだけやってみます」

 

 それだけ言うとシンはレイの写真を取って、その場を後にする。

 シンが居なくなると学園長は再びパイプを楽しむのだが、その肘掛椅子の裏に盗聴器が仕掛けられている事を何人の人間が知っているだろう。

 

 

 ***

 

 

 まだ午後3時だと言うのに、締め切った薄暗い部屋で東雲レイは好物のペパロニピザを頬張りながら、盗聴器から聞こえてくる言葉に耳を傾ける。

 

『やるだけやってみます』

 

 シンの言葉を聞くと、ゴミだらけの部屋に空になったピザの箱を投げ飛ばし、新たなゴミを増やすと、レイは愛用のノートパソコンをいじり、一人ハッキング活動に勤しんでいた。

 町中の監視カメラからシンが悪男を相手に無双する姿をカメラ越しに見ていたレイは、シンが来ると分かると口元を邪悪に歪ませる。

 

「何か面白そうな事になってきたじゃん……」

 

 自分は今のライフスタイルを変えるつもりは全くない。

 だが度を越した退屈からの解放にはなるだろうと思い、何も言わずにレイは昼寝を楽しんだ。

 これから起こる事を期待しながら。




一話でも言いましたが、シンルナ派の人は本当に申し訳ありません。
シンはどうしても激情家でバカな子なので、自分の都合のいいようにしか考えられないから、リアルな話こうなるだろうと思ってしまいまして。

そして今回彼が付け狙った娘ですが、ルナマリアと中の人が同じと言う理由で、ニューダンガンロンパV3より、春川魔姫にゲスト出演してもらいました。

ひだまりスケッチ、ごちうさ、超電磁砲、まどマギとガールフレンドには結構クロスオーバーが多いので、こう言うのはこれからもちょこちょこ小ネタ程度にやっていこうと思います。

因みに裏カジノの設定および合言葉は、PS4用ゲーム、ジャッジアイズ死神の遺言より引用させてもらいました。

次回は東雲レイの話になります。次もよろしくお願いします。
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