聖櫻学園運命記   作:文鳥丸

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物語の主人公は必然的にトラブルに巻き込まれてしまう。


第八話 誕生! 聖櫻学園お助け部

 早速その足でシンが向かったのは東雲レイの名義で所有しているマンション。

 高校生が自分の名義でマンションを持っているとは、余程の大金持ちなのか、それとも余程甘やかされて育てられたのだろうと思いながら、シンはエレベーターに乗って、レイの居る部屋の階層へと向かう。

 部屋の前に到着するとインターホンを鳴らし、彼女が居るかどうか確認をする。

 しかし応答はない。だがこんな物は想定内だ。

 数回ノックをした後、シンはドア越しにレイへと呼びかける。

 

「東雲レイだろう? 何で俺が来たか分かるな?」

 

 それは実にシンプルな呼びかけであった。

 駆け引きと言うのが全く出来ないシンは真っ向勝負しか出来ない。

 故に今回も自分のスタイルを曲げずに勝負をしようとすると、ドアが少しだけ開き中に居たのは、灰色のスウェットの上下でまとめた少女だった。

 

「何?」

「聖櫻学園からお呼びがかかったシン・アスカだ。引きこもりの東雲に学校へ来いと任務を受けて来た」

「引きこもりじゃないよ。ちゃんと学費はボクが稼いだお金で納めている。言うならばボクはお客さんだ。いつ行こうがボクの勝手だろう?」

 

 屁理屈で応戦しようとするレイを前に、シンは一つ「ふむ」と納得したような声を上げる。

 問答はこれで終わりなのかとレイは呆気なさも感じていたが、シンは扉の奥から放たれる異臭を前に顔を反射的に顰める。

 

「ああ匂いが気になるんだね。すぐ閉めるから気にしないで……」

「話は後だ! まずは片付けから入る!」

 

 あまりの臭さに我慢出来なくなったのか、シンはレイに構わず体ごと捻じ込んで部屋に入ると、そのままドカドカと上がっていく。

 一瞬呆気に取られたレイだが、ただで部屋が片付くならと思い、シンが部屋に上がる事を許した。

 どうせすぐに根を上げるだろうと思っていたから。

 

 

 ***

 

 

 女子高生の部屋とは思えない汚部屋を前に、シンは完全に絶句していた。

 そのほとんどはカップ麺やピザの空き容器であり、もう二年近く一回も掃除などしてないだろうと判断し、シンは首だけレイの方を向くと、家主の注意事項を聞こうとする。

 

「捨てられて困る物とかはあるか?」

「無いね。仕事道具は全部ボクのスペースにまとめている」

 

 そう言ってレイが指さしたのは、敷布団のと毛布の周りに置かれた数台のノートPCの数々。

 使い込まれたそれを見て、かなり手練れのプログラマーだと判断したシンは、レイがただの引きこもりではないと判断し、これからの行動を彼女に告げる。

 

「東雲は何もしなくていいから。掃除だけさせてくれ。それにこんな日の明るい内から雨戸を閉め切るもんじゃない。雨戸だけ開けてくれれば、後は皆俺がやるからな」

「それは勝手だけど、家には掃除器具なんて一つもないよ」

「心配するな。必要経費として後で学園長に要求するさ」

 

 そう言うとシンは残りの金を確かめて、近くのホームセンターへと急ぐ。

 一人残されたレイは面倒くさそうに頭と腹をボリボリとかきながら、閉めっぱなしにしていた雨戸を大きく開く。

 久しぶりに感じる太陽の感触に目を顰めながらも、改めて見て部屋の酷い惨状を前に何とも言えない気持ちになるが、そんな感情はすぐに吹き飛び、敷布団の前に寝転がるとハッキング作業に勤しむ。

 この日の退屈を忘れるために。

 

 

 ***

 

 

 後方では何やらシンがあくせくと掃除を行っているようだが、レイは大型のヘッドホンを装着し、どこ吹く風でポテチを食べながらネットサーフィンを楽しんでいた。

 あんな混沌とした世界をどう浄化すると言うんだ。ならば諦めて開き直って生きるのが一番だとレイは判断したからだ。

 どれぐらいの時間が経ったのだろう。人気実況者の2時間半のゲーム配信を全て見終え、レイが感謝のコメントを撃つと同時に一息つこうと起き上がると、そこには別世界が広がっていた。

 

「部屋が片付いている……」

 

 ゴミまみれで足の踏み場もなかった部屋がクローゼットの床が見えるまでに片付いている事にレイは言葉を失う。

 それだけではない。部屋にしみ込んだゴミの匂いをかき消すように、アロマキャンドルや消臭剤も焚かれていて、辺りは花の爽やかな香りで包まれていた。

 掃除の主であるシンは掃除道具を一か所にまとめようとしていたが、レイに気付くとまとめた掃除道具を指さす。

 

「これらは新しく買った物だが、どこか置く場所はあるか?」

 

 そこにはモップにバケツ、タオルで作った雑巾、箒にちり取りと言った、今までのレイの家には無縁の代物ばかりであった。

 掃除をするためだけに自腹を切ってここまでやってくれたのかと、レイは内心で申し訳ない気持ちになったが、ここで折れては自分のライフスタイルの崩壊に繋がってしまう。

 なのであえてつっけんどんな態度で返す。

 

「適当にしまうから、そのまま置いてくれていいよ。次からはルンバでも買うからさ」

「それとこれはお前の仕事だ」

 

 そう言うと大量に袋にまとめられたゴミの数々をシンは指さす。

 あまりの量にレイも思わず吹き出してしまい、せっかくここまでお膳立てをしてもらったんだ。ここで変わらなきゃダメになってしまうと判断し、レイは首を静かに縦に振った。

 

「分かった。ここまで多いとゴミの日にも捨てられないから業者に頼むよ」

「そうか。その手があったか、なら今すぐ頼もう」

 

 残金を確認するとシンはレイに向かって手を差し出し、携帯を貸してくれと無言の合図を送る。

 

「スマホ持ってないの?」

 

 レイの問いかけに対してシンは何も言わずに首を縦に振る。

 彼の事情を知ると、レイは自分のスマホを投げて渡し、シンはネットで業者に連絡をすると、まだギリギリ間に合ったのか、今から来ると約束を取り付けた。

 二人が時計を見ると午後6時を回ろうとしていて、時間の感覚が滅茶苦茶になっているレイはあれからそれしか経ってないのかと驚き、シンに詳細を聞こうとする。

 

「たったの3時間であの惨状をこれだけに戻したって言うのかよ⁉」

「軍ではスピードが命だからな。俺はしょっちゅう罰当番として清掃作業はやらされていたよ」

「やっぱりシンはガンダム世界の住人なんだよな?」

 

 異世界転生者がまた一人現れた事は聞いている。

 だからこそレイは盗聴器を学園長室に付けて、彼の事を知ろうとしていた。

 レイの問いかけに対して、シンは首を小さく縦に振って返す。

 真実をこの目で実際に確かめると、レイの顔色は明るくなり、詳しい事を聞こうとする。

 

「じゃ、じゃあ色々聞いていいか? 何から……」

 

 すっかり興奮しているレイをシンは手を突き出して止めると、いい加減腹の虫が鳴っている事に気付き、後の事は業者に任せて外へ食べに行こうと提案を出す。

 シンの提案にレイも同意して、着替えようとリビングからプライベートルームへと飛び込む。

 その間シンは何も言わずに物珍しそうに、床に放り出されたままのスマホを手に取って見る。

 

「現代の携帯ってのは随分進化した物だな……」

 

 シンに取って携帯電話とは妹のマユが大事にしていたピンク色のガラケー。

 それは今ではすっかり時代遅れの代物だと分かると、この世界はロボット工学や遺伝子工学の代わりに、情報システムが発達したのだと理解した。

 だとすると単純に自分たちの過去の世界と決めつけるのは早いと判断し、この世界でどう生きていこうかと考えもしたのだが、それは怒り、憎しみ、そして悪男の存在で消えてなくなっていた。

 

「お待たせ」

 

 物思いに更けている間にレイの着替えは終わっていた。

 パンクファッションに身を包んだレイの姿を見て、着こなしている感は強く伝わってきて、シンは率直な感想を述べる。

 

「似合っているな。そう言う服は着こなすのが難しいんだが東雲には合っているよ」

「勝手に誉め言葉だと受け取っておくよ。ペパロニピザの美味い店知ってんだ。行くぞ」

 

 機嫌よさげに意気揚々と歩いていくレイの後にシンは続く。

 これから質問攻めに合うのだろうと思い、シンは予想を立ててどう返すかを考えていた。

 

 

 ***

 

 

 表通りから少し離れたイタリアンレストランの自慢のペパロニピザをたらふく食べると、レイは満足げに一息つく。

 シンも同じ物を食べてコーラをジョッキで飲むと、これからどうするかを話し合おうとしていた。

 話せる範囲の事は全て話したが、コズミックイラの世界はレイ達の知らないガンダムの世界であり、今一つピンと来ない様子であり、思っていた程の盛り上がりはなかった。

 ここまで行くとレイ達の世界のガンダムはどんな物かと言うのが気になり、シンはレイに尋ねる。

 

「で、そっちの世界のガンダムってのはどんなもんなんだ?」

「その辺りは姫島の方が詳しいから、そっちに聞いてくれ」

 

 説明が出来ない訳ではないが、面倒なのでシンは木乃子に丸投げする事を選んだ。

 腹が膨れて頭が思うように回らないレイは、何も言わずにボーっとしていたのだが、その様子を見てシンはこれからの事を語っていく。

 

「東雲」

「ん?」

「今は楽しいか?」

「さぁね。でも辛くはないってのは事実だね」

「つまり楽しいかは分からない。だが楽ではあるって事か?」

 

 どこか禅問答のようなやり取りをレイは適当に受け流して、シンの問いかけに対して首を縦に振る。

 その姿を見て、ある意味ではシンの理想の姿だと彼は勝手に判断し、これから何をすべきかを話し出す。

 

「それでこれからなんだが……」

「説教なら無駄だぞ。ボクはハッカー業でお金なら稼いでいる。留年しない程度には出席するから帰れ」

「そうじゃない。種銭は持っているか?」

 

 突然の申し出にレイは目を大きく見開いてシンを見つめる。

 金を持っていて、まだ若いレイに取って、詐欺会社に取っては格好のカモであり、甘い話を持ち込もうとしていた。

 だがそんな物は驚異的な頭脳を持ったレイに取って無駄な物であり、そう言う連中は立て続けに警察へと引き払っていた。

 一瞬今回もそう言う類なのかと思っていたが、シンの邪悪な笑みを見て、それとは違うと直感的に判断したレイは詳細を聞こうとする。

 

「ボクに何をさせたい?」

「そうじゃない。東雲の生き方は俺の理想だ。だから俺もお前と同じように生きる」

「姫島もそう言ってボクに擦り寄るよ。だがボクに扶養家族を養おうなんて考えはない。諦めるんだな」

「俺は俺でやっていくさ。金を稼ぐあてならある」

 

 シンは自信を持って答える。

 その姿を見て、彼はただ縋って甘えようと言う訳ではないと言う事が分かり、レイは詳しい事を聞こうとする。

 

「何をしようってんだ? 犯罪行為への加担はゴメンだぞ。ボクが言うのもおかしな話だけどな」

「グレーゾーンギリギリでやっているんだろ? まぁ俺もそんな所だ。だが金がなければ何も始まらない」

 

 最もな正論を前にレイは本格的に彼の話に乗ろうかと考える。

 レイとて彼の行動を完璧に把握している訳ではない。

 監視カメラで把握出来る程度にしか分からないのだから、自分の知らない新しい世界を見せてくれるのかと思い、レイは財布の中の金を確かめる。

 

「取り合えず3万円だな」

「十分だ。行くぞ」

 

 そう言うと今度はシンの方から先に店を出て、レイは支払いを終えて後に続く。

 普通ならばろくでもない行動と一蹴して逃げ出すのだが、レイはこれからシンと共にする行動を楽しみにしていた。

 退屈を凌げる新しい刺激を与えてくれるのかもしれないのだから。

 

 

 ***

 

 

 雑居ビルの一室のシャッター前で合言葉を言うと、シンとレイは中に通される。

 途中で制服はまずいと判断したシンは、リサイクルショップで安物のジャージを購入すると、制服をコインロッカーに預け、ここまで来た。

 中に広がる非合法のカジノを見て、レイは圧倒されてしまい、物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回す。

 

「凄い……龍が如くみたいな世界だ……」

「キョロキョロするな。みっともない」

 

 二回目ではあるが既に手慣れた調子で、シンは自分の分とレイの分を合わせた種銭5万円全てをチップに変えて、ルーレットへと向かう。

 了承はしたのだが、最後にレイは念を押す。

 

「分かっていると思うが、失敗した場合必ず返してもらうからな!」

「分かった。分かった」

 

 血走った目で何度も念を押すレイを適当に受け流すと、シンはSEEDの力を発動させて、反射神経を鋭敏な物に変える。

 そしてディーラーの手元をよく見て、次に落ちるであろうポッドの位置を見極めると、5万円分のチップを全額ベットする。

 

「オイ!」

 

 シンが選んだのは番号の一点張り。当たれば36倍と大きく。金額に換算すれば、一気に5万円が180万円になる大博打である。

 既にベットは閉め切られていて、レイが何か激しく文句を言っているようだが、シンの耳には届いてなかった。

 結果が決まるまでの間ずっとレイは騒ぎ続けていたが、ボールがポッドに落ちると声を失う。

 

「当たってる……」

 

 こんな危険すぎる大博打に成功した事にレイは真っ白に燃え尽きる感覚に包まれる。

 もう立っている事も出来ず、その場でへたり込んでしまうが、シンは慣れた調子でディーラーからチップを貰うと、色を付けてレイの分の取り分を手渡す。

 

「色を付けておいた。これで東雲も楽しめられるだろう」

「30万はあるじゃないか⁉ 与え過ぎだ! お金をこんな使い方しちゃダメだ!」

 

 自分が与えた分は3万円にも関わらず、その10倍は手渡された事にレイは怒る。

 しかしシンは意に介さず、次もルーレットで一発当ててやろうと、SEEDの力を発動させたまま、全額ベットを試みようとする。

 

「オイ聞いてんのか⁉ 火遊びにしたって度が過ぎるぞ!」

「火遊び? 違うな。俺のこれは生業だ」

「何でそんなに生き急ぐんだよ⁉ ある程度なら保護されるだろうが!」

 

 まるで命の綱渡りのようなシンの行動に、この日初めてレイは怒りの感情をシンにぶつける。

 危機意識の足りないレイに対して、シンは自分が置かれた状況を改めて話し出す。

 戸籍も吉田新太と言う借り物、両親も居ない、後ろ盾もない、そんな状況で普通に生きていける程の人当たりの良さもスキルもない。ならばとシンは自分が出来る事をやるだけだと今に至った事を話す。

 

「その『出来る事』ってのが、死んだ目を浮かべてギャンブルに狂う事だって言うのかよ⁉」

「ギャンブルとは少し違うな。俺のは確実に当たる課金だ」

「何でそこまで……」

「命のやり取りを常に行っていた戦争に比べれば、この程度の修羅場なんて事はない……」

 

 吐き捨てるように言うシンを見て、レイは怒りを通り越して恐怖さえ感じていた。

 確かにシンは何かしらの特異な力を持っているのかもしれない。

 だがそれでもシンは壊れていて、誰かの支えが必要なのだと思い、再び150万円のチップを一点賭けしようとする彼の腕に力任せにしがみつく。

 

「ダメ……それがシンの全財産なんだろ? ボクの分のお金なら27万円返すから帰ろう……」

「この程度じゃ一年も生きられないよ。安定した人生を送るためには先立つ物がないとな」

「それはまた次の機会に考えよう」

「あいにくと俺は泣きつくから、行動に移すなんて甘っちょろい考えはないぜ。俺の知っている女の人ってのは皆強い人ばかりだからな。自分がやりたい事は全て自分の力だけで叶えた。人に頼ったりなんてしてない。子供に構っている暇なんてねぇんだよ」

 

 たまたま受付が閉め切ったので、シンは吐き捨てるようにレイへ告げる。

 シンはうんざりしていた。ただ求めるばかりの群衆に応えるだけの毎日に。

 それで自分へのフェードバックなど何もないのだからと、シンは完全に闇へと落ちてしまっていた。

 自分が言った事をそっくりそのまま言い返された事に、レイは俯きながらも一大決心をして、シンに想いを告げる。

 

「分かっている。だから代償は支払うよ」

「どんな代償支払ってくれるって言うんだ?」

「ここで止めてくれたら、ボク明日からちゃんと毎日学校に出るよ。それで少しでもシンの負担が減るなら頑張る」

 

 目を合わせるのが怖く、俯きながらもレイは一大決心をシンに告げた。

 引きこもりの彼女が外の世界へと飛び出す事がどれだけの勇気が必要かは分からない。

 だが一つ問題が解決したのを見ると、シンは軽く一息ついて、チップを持ってその場を後にする。

 

「取り合えず寮を出る程度の金は用意出来た。後はまた考えるよ」

 

 シンが分かってくれた事に対し、レイは暗い表情が一変し、パッと花が咲いたような笑みを浮かべる。

 換金を終えるとシンの後に続いてレイはカジノを出た。

 ここに来るのはもう最初で最後になるだろうと心に決めて。

 

 

 ***

 

 

 カジノから出てシンとレイは近くにあるジャズバーでノンアルコールカクテルを楽しんでいた。

 自分の奢りだからと言うシンだったが、レイは時計を頻りに気にして早く帰って明日の準備をしなくてはいけないと、シンに抗議をする。

 

「そう焦るなって。嫌になったら、またバックれればいいんだ」

「それはダメだよ! そんな事したらシンまたボクの所に来るんだろ⁉」

「それが仕事だからな。そうしないと生きていけれない」

 

 現実に体一つで異世界から来た人間なのだから、危ない話を渡らなければ仕方ないのは多少は理解出来ない事はない。

 だがそれでも今のシンはまるでロシアンルーレットを楽しむ狂人のように見えてしまい、レイはそれが不安で不安でしょうがなかった。

 だからこそ彼女にしては珍しく感情だけで接そうとする。

 

「きっと何か方法があるよ。だからそんなに自棄にならないで!」

「何かってのは? 悪いけどもう誰かに縛られて自由を奪われるのはゴメンだ。俺は俺で自堕落に面白おかしく生きていければ、それだけで満足だからな」

「少なくとも今回みたいな真似しなくては済む! 今日盗聴したんだけど学園長は何かしらの対策をしてくれると聞いたから……」

 

 言ってからレイは自分の失言にハッとした顔を浮かべてしまう。

 盗聴まで行っていた事がバレてしまい、レイは顔中に嫌な脂汗を浮かべながら、シンと目を合わせられなかったが、彼女が一生懸命な事だけは伝わり、この一件に関してはレイを信じると言う形で幕を閉じようと思い、勘定を済ませて出ていこうとする。

 

「盗聴器は俺の方で何とかする。だから東雲は学校にだけくればいい」

「うん」

「俺も同じ2-Cだからな。何かあったらまた俺を頼ればいい。今日一日接したが、今まであったタイプじゃないからな。意外と嫌いじゃないよ東雲みたいな奴」

 

 好意を持っていると遠回しに言われ、思わずレイの頬には朱の色が滲み出る。

 この想いに自分も応えなくてはいけない。そう思うとレイは自分に出来る事を精一杯伝えようとする。

 

「な……なぁ、ボクとシンはクラスメイトなんだ。それに姫島とも仲がいいんだろう?」

「まぁこんな俺に話しかけてくれるんだ。悪人じゃないって事ぐらいは分かるよ」

「ボクも姫島とは友達なんだ。だから何かあったらボク達に相談してほしい。解決出来るかどうかは別にしてな」

「悪いけど説教はゴメンだ。俺の周りに居る女性は強くて怖い人ばかりだったからな。ガキの俺にはプラスになる存在じゃないよ」

 

 それだけ言うとシンはその場から去ろうとする。しかし、ここで見送ったら、もうシンとの関係はそれまでになってしまうと判断したレイは思い付く限りの言葉を発する。

 

「ちゃんと部屋綺麗なままにしておくから! 姫島と一緒にゲームでもしよう!」

 

 レイの申し出に対して、シンは静かに「オウ」とだけ返すと、今度こそ夜の闇に消えた。

 後になって気付いた事だが、お金を返しそびれるのを忘れてしまい、レイの財布には30万円の大金が入っていた。

 

「これで何かシンのために出来るはずだ……」

 

 ただ返すだけでは生活費に消えるのがオチだと判断してレイは考えた。

 どうすればシンの心を闇から救えるかを。

 

 

 ***

 

 

 翌日2-Cの教室に登校したレイを見て、一部の生徒はざわついていたが、レイはそんな物どこ吹く風でノートPCをいじって、自分の世界に没頭していたが、背中に軽い衝撃が走ると、鬱陶しそうに振り返る。

 

「久しぶりだな。引きこもり!」

「姫島か……」

 

 ゲーム機を通じて木乃子と交流はあったレイだが、面と向かって顔を合わせるのは久しぶり。

 直に接するのはまた違うと判断して、無視しようかと思ったが、一つ気になった事があり、キーボードを叩く手を止め、そのまま木乃子と向き合う。

 

「なぁ何でお前シンに近付こうと思った?」

 

 真剣な顔で聞くレイに対して、これまでのおちゃらけた気分が一気に吹き飛ぶ木乃子。

 初めは単なる好奇心からだったが、今はそれだけじゃないと分かり、木乃子は自分の胸の内を整理して語り出す。

 

「まぁその……何となく一人ぼっちで寂しそうだったからってのが一番の理由かな」

「寂しいかどうかは別にして、シンは壊れているってボクは感じたよ。実際に体一つで異世界転生して全てが全て上手く行く訳ないってのは分かるだろう?」

「そんなの分かってるよ。スーパーウルトラ級のチート能力もないのに、どうしろって言うんだ? ハーレム組んでウハウハとはならないだろう」

「だからボク達で何とかするんだよ。それが関わった者の責任って奴だ」

 

 シンを放っておけないと言う想いから、どうすればいいかと木乃子とレイは話し合う。

 二人とも気付かなかったが、二人の中でシンは大切な友達になっていた。

 それがシンの本当の能力なのかもしれない。

 

 

 ***

 

 

 学園長室にやってきたシンはレイが設置した盗聴器を取ると、学園長に一つ頭を下げ、レイの代わりに詫びを入れた。

 

「本人はこれ一つだと言っていたので信じてあげてください」

「気付いていたよ。この程度の悪戯を許容出来ない程、私は大人げなくない」

 

 知っていた上であえて受け流していた事が分かると、シンは何も言わずに盗聴器を力任せに握り潰して燃えないゴミに捨てる。

 そして約束通りレイをちゃんと学校に連れてきた応酬として3万円を受け取るが、それだけでシンはそこから出ようとはしなかった。

 

「何だね?」

「盗聴器の事を知っているなら、分かっているでしょう。学園長は俺に何をさせようって言うんですか?」

 

 それなら話は早いと学園長は一枚の書類をシンに手渡す。

 それは新しい部活の申請書であり、聞きなれない名の部活名にシンは困惑をしてしまう。

 

「聖櫻学園お助け部? 何ですこれ?」

「君のために私が用意した部活だ。君が第一号の部員であり、部長だ」

「部活なんてやる暇俺には……」

「学生だから建前上この様にしただけだ。実際は君には学園内にしょっちゅう現れる悪男狩り、及び学園内での様々なトラブルの解決に周って欲しい。それによく見たまえ」

 

 学園長が指さした先を見ると、給与待遇の事が書いてあった。

 週休二日制に加え、祝日は休み、給料は基本給が12万円出る事が記されていた。

 学生なのに給料が貰える事にシンは異議を唱える。

 

「いいんですか? 学生の身分で給料なんてもらって」

「悪男狩りは本来は業者に頼む物なのだが、それをこの値段で抑えられるんだ。これは必要経費と言う奴だよ」

「つまりストレス解消の場、及び生活の保護はしてやるから、街中での乱闘は止めろと言う事ですか?」

「ハッキリ言えばそうだ。これは君は学徒であると同時に一人の戦士だ。戦う場をなくした戦士はただ朽ち果てるだけなどと言う物語は私は求めていないからな」

 

 言いように利用されていると取れない事はない。

 だが断る理由も特にないので、シンは了承のサインを書くと、部室である社会科準備室へと向かおうとする。

 

「顧問は祐天寺先生ですよね? 話はそこで付けますので」

 

 シンがお助け部に乗ってくれた事に一つ問題がクリアしたと、学園長はパイプに火を点け楽しむ。

 白煙を吹き出しながら、学園長は一人物思いに更けていた。

 これは単にシンの抑制のためではない。シンを成長させる糧になると信じていたから。




と言う訳で原作とは違う形でお助け部が誕生しました。
次回から本格的にシンとガール達の交流が多々出ると思います。
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