五機の戦闘機は三機の逃げる獲物を追って分厚い雲の中へと突入する。HUDにはターゲットコンテナが映されているものの、ミサイルの射程圏外にあるためロックオンができない。
『随分速いな。どうする、ヴィルコラク1』
「シュトリゴン1、超電磁砲の残弾は?」
『ラスト二発だな』
「奴らに向けて一発ぶちかませ」
『……。へえ、考えたなヴィルコラク1。AML、スラッシュ』
CFA-44の上部ウェポンベイから極超音速の弾丸が撃ちだされる。衝撃で雲がかき消され、スレイマニたちにも絶大な衝撃が伝わる。
『やったか!?』
『そう早まんなよ、ファリド。奴ら、ピンピンしてやがる。どうやってか知らねえが、あれを避けたみてえだな』
オルマのHUDには通常なら消し飛んでいるはずの三機をしっかりと映し出していた。
『隊長、見えるか?』
「ああ。行くぞ」
『『『『了解!』』』』
初めて声が聞こえてきた。どうやら国際緊急周波数で話しかけてきているようだ。
『超電磁砲くらいで』
『私たちを撃墜できるとでも思ったのかしら?』
『なめるなよ、ヒヨッ子ども』
三人分の言葉が聞こえたと同時にサイドワインダーの弾頭が標的の熱を見失った。自分の呼吸音に重なって聞こえていた受感トーンが急に聞こえなくなった。確かにレーダーでは三機を捉えているが、弾頭に備え付けられた赤外線シーカーが標的を見失った。このままではミサイルも信管は作動しないし、標的を追尾することもないただの高速で飛ぶ鉄の棒だ。
「ほう。なかなかやるな」
スレイマニはディスプレイを操作し、兵装を機関砲に切り替える。機体を前方を悠々と飛んでいるF-22に合わせる。だが、その瞬間に三機は今度は本当に姿を消した。
『どこへ消えた?』
「ちっ」
『下だ!』
いち早く気付いたキリアコフが機首を下に向け、急降下をおこなった瞬間、オルマはこれが罠だと気付いた。
『! 待て、トーリャ!』
『!? ぐあああっ!』
『おいっ、キリアコフ!』
『トーリャ!』
あわてて背面になり確認すれば、キリアコフの機体が火の玉となって海へと落ちていく。パラシュートは確認できない。
『敵さんもなかなかやるじゃねえか』
『ヴィルコラク3、後ろだ!』
『うおお!』
ガビリアが迫ってくるT-50を回避するために左へバレルロールする。そこにいるのは同じく急接近してきたF-22を回避したばかりのオルマ。
『『なっ!? うああああっ!!』』
空中衝突を起こした二機は、そのままもつれ合うように破片をまき散らしながら海へと落下していく。
『こっちは終わったわよ』
『敵機二機撃墜! やったよ!』
『2、3ご苦労。2は逃げた機体を追え。3はカノープスの警護だ』
『『了解!』』
『凄腕とうわさには聞いていたが、ヴィルコラク遊撃隊ってのはこんなものか。期待外れだな』
冷徹な声が響く。
「なめるなよ……」
『口だけは達者だな。俺を振り切ってから言ってみろ』
相手のベルクートは後ろにぴたりとくっついて離れない。しかもほぼ一定距離をキープしながら食いついてくるのだ。
『クク---。さあ、どうする?』
「くそっ」
コブラで空中衝突ギリギリを狙って起死回生を狙う。がなり立て続けていたロックオン警報がふっと消えた。黒い前翼機の大きな、しかし無防備な背中がHUDに現れた。
「捉えた……!」
『ほお? 少しは骨のあるやつみたいだな。俺を楽しませて見せろ』
今度はこちらが食らいつく番だ。相手はこんな時なのに愉快そうにクツクツと笑っている。正直不気味だ。だが、自分も笑っていることに今更気がついた。サンフランシスコでアンタレスと交戦した時のような昂揚感。中身こそ違う違うが、機体は同じ。それがスレイマニを何としても勝たねばならないという思いが湧く。前回だって負けたわけじゃない。だが、アクティブ防御機能を破壊され、限界ギリギリまで追い込まれていた。だからこそ絶対に負けたくはないのだ。目の前の男の飛び方はアンタレスを想像させる。機体が同じというだけでなく、飛び方がとても似ているのだ。
「今回こそは俺の勝ちだ、アンタレス!!」
『悪いが、俺はアンタレスじゃない。マーティネズ・セキュリティー社M42飛行中隊のアルタイル1だ』
自分たちの他にもM42中隊所属の飛行隊があったということか。そしてこの男の声は聞き覚えがある。少し日本人独特の発音だが、流暢な英語を話すこの男。今は違うが当時は柔らかい口調とは裏腹に自衛隊特有の教科書通りのきれいな機動ではなく、基本をすっ飛ばした無茶苦茶な機動をする戦闘機乗り。
ここまできてようやく思い出した。この男は伊豆半島沖で出会った航空自衛隊中部方面航空隊の築城三等空佐だ。
「お前、JASDFのクローバー1か!」
『クク。さあて、どうだろうな。だが、空戦中に考え事とはずいぶん余裕なんだ、なっ!』
ぐわっ、と黒い背中が立ち上がり、消えた。クルビット。一瞬ではあるが真上に男の顔を捉える。バイザー越しからもわかるほどの強い眼光だ。
「くっ」
『やはり期待したほどでもなかったな。及第点以下だ』
ぴたりとジェット気流の影響がないギリギリのラインにつかれる。この距離からミサイルを撃たれてはアクティブ防御も意味がない。
「ク、ハハ、撃てよ!」
『…………ふん、つまらん奴だ。もう少しあがいてほしかったんだがな。FOXス―――』
『避けろヴィルコラク1!』『1、避けてっ!』
「『くっ!』」
ベルクートから弾丸が飛び出し、左エンジンに向けて吸い込まれる直前。どおぉぉん!! という轟音が頭上を通り過ぎ、機体がビリビリと震える。パステルナークの超電磁砲だ。
『生きてるか?』
「ああ。だが、エンジンがやられたらしい。片肺のみで動くのがやっとだ」
『そうか。こっちも手ひどくやられちまった。こいつがこんなにやられるなんてな。俺は無傷だが、コイツはオーバーホールすることになっちまいそうだ』
左エンジンをやられ、煙を吹きながらふらふらと飛ぶスレイマニの隣にパステルナークのCFA-44が現れる。彼女の機体も右主翼と右尾翼に穴が開き、キャノピーにもひびが入って入って満身創痍だ。
『今回は俺たちの完敗だ。多分奴らはエイセスなんかよりも強いぞ。つぎがどうなるか、だな』
「ああ」
二人は雲の中に紛れて航行してるアイガイオンを見つけて着艦体勢に入った。
『今更なんだが、俺たちシールドとやらを使えるんだからそれ使えば被害は少なかったんじゃないか?』
「......使えるかどうかはともかく、試してみればよかったかもしれないな」
『あーあ、やっちまったぜ』
ロマーニャ公国、とある基地
「まさか左主翼翼端を吹っ飛ばされるだけで済むとはな」
「いや、電子系統もやられた。しばらく修理に時間を費やすことになりそうだ」
タラップをかける前にコックピットからひらりと飛び降りた男は青っぽい迷彩服の壮年の男に話しかけられた。男たちの上司であるフレドリック・バーフォードだ。
「どうだった? 奴らと戦った感想は」
「期待してたより弱い」
「さすがはアンタレスの元上司だ。寄り道はこのくらいにしておいてくれよ?」
「ああ、わかっている。ブリタニアに行くんだろう?」
話によればそこにアンタレスはいたようだ。アンタレスの消息を求めるバーフォードと、自分たちを撃墜できる強者を求めているアルタイル隊。彼らは扶桑皇国からの紹介で各国のエース達が揃う501JFWの下へと向かう。
ストパンとエスコンの二次創作の話のはずなのに、なんかストパンが関係がなくなってきちゃってるな……。気を付けないと。エスコンに呑み込まれてしまう……