赤蠍と人狼と空飛ぶ少女   作:雪見雪乃

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星空の中の戦い

バルト海

 

アンタレスたちの乗る空母オリョールはブリタニアを一周しながら飛来するネウロイを撃破しつつバルト海へと入った。アンタレスの世界では日本海海戦で日本海軍の戦艦三笠率いる連合艦隊と交戦し、敗北したロシアのバルチック艦隊の本拠地だ。

 

「んー、やっぱ星が綺麗だよなあ」

「アンタレスさんもそう思いますか?」

「ああ、こうして見てると本当に過去の世界に来たんだなあって感じるぜ。東京は星なんてほとんど見えなかったからなあ」

「へえ、そうなんですね。私の故郷でもあまり見えなかったです。ここに比べたら、ですけどね」

「ノースポイントだっけか?」

 

凪いだ水面にポツンと浮かんでいる空母オリョールの飛行甲板のへりに腰掛けてのんびりと座っているアンタレスの横に立っているのはメビウスだ。二人は夜間のスクランブル待機中だった。満天の星空と満月が二人とカタパルトに乗せられた二人のストライカーを照らしている。

 

「ええ。要塞イントレランスをご存知ですか?」

「イントレ......なに?」

 

よくわからないアンタレスにメビウスは教え子に優しく教える教師のような口ぶりで説明する。

 

「イントレランス。私の故郷にあった要塞なんです。元々はノースポイントの仮想敵国であった対ユークトバニアへの抑止力としてに設置されていたものなんですが、ユージア同盟軍という反乱軍によって奪取され、その強大な力が本当に使われようとしたんです」

「へえ、それで?」

「もちろんその最悪の結末は阻止することができました。阻止してくれたのはスカーフェイス1、フェニックスさんなんですよ」

「要塞を破壊したってことか? そんなことができるのはあんたくらいだとおもってたぜ」

 

アンタレスもメビウスがエルジアの要塞、メガリスを破壊し、ISAF(アンタレスたちの世界のアフガニスタンで治安維持活動を展開している国際治安支援部隊ではなく、メビウスたちのいた世界の独立国家連合軍のこと)に勝利をもたらしたことは聞いていた。だが、メビウスはその話が嫌いなようだ。見るからにむすっとしていた。

 

「あれは、私だけじゃないんです。レイピア、ブロンコ、オメガ......そしてスカイアイと海兵隊や他の陸海空軍の部隊の力添えがあってこそできたことなんです。私は《たった一人で戦争を終わらせた『女』》なんかじゃありません!」

 

たった一人で戦争を終わらせた男というあだ名が嫌なのか、女という部分を強く強調して彼女は呟いた。そして恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

「お、おお。悪かった、変なこと聞いちまったな」

「い、いえ。申し訳ありません。つい......。あっ、そうそう、星の話でしたね。さっき話したイントレランスですが、あの周辺は元々荒野ということもあって星の明かりを隠すような光源がなにもないからか本当に星が綺麗なんですよ。アンタレスさんたちにも是非来て欲しいです」

「へぇー。楽しそうだな。俺はあいにく星はそこまでわからないんだ。俺の先輩なら星座が大好きだったからわかったかもしれないんだがなあ」

「先輩? ミロシュ・スレイマニのことですか?」

「いや、俺が空賊と呼ばれる前の話。俺は日本の空軍、いや、厳密に言うと違うんだけどそこにいたんだ」

「Japanese Air Self Defense Force。ニホン国防空軍でしたっけ?」

「うーん、まぁ正解っちゃあ正解なんだけど違うな。自衛隊っていう集団的自衛権も交戦権もない平和憲法に縛られてる特殊な国家公務員の集団にいたのさ。で、俺がそこの教導隊にいた頃の先輩だったのが、この前出てきた黄色い帯をつけたベルクートの男」

「!」

「まぁ、辞める前にあの人は死んじまったと思ってたんだ。演習中にミサイルが誤射されて日本海の何処かに消えちまったんだからな。高度1万5000フィートで急に反応が消失したから死んだとしか考えなかった。それがいつの間にやら俺の後輩だぜ? 笑っちまうよなあ」

「目標にしてた人が自分の下につくとは、なかなか皮肉ですね」

「それな! 星が大好きだし星になれて万々歳なんじゃねーのかと思ってたら流れ星みたいに落っこちてくるなんてなー」

 

そう言うアンタレスの顔には嬉しさと恐怖がないまぜになったような複雑な表情が浮かんでいた。

 

「そうだ。彼の名前はなんと言うんですか?」

「あの人の? 名前はーーー」

 

ビーッビーッビーッ! とスクランブル発令のサイレンが鳴った。二人は会話していたことも忘れてストライカーに向けて走り抜け、飛び乗る。拘束が解かれ、メビウスが滑走、カタパルトに乗ると同時にバリアーが展開。エンジンを出力全開でかけて飛び上がる。元々ファントムに乗って空母から離着艦を繰り返していた彼女には慣れたものだ。続いてアンタレスも不慣れではあるが問題なく空に飛び上がった。

 

スカイアイから通達。

 

『こちらスカイアイ。メビウス、アンタレス。聞こえるか?』

「聞こえてます」

「感度良好。バッチリだぜ」

『よし、敵は1機の高速大型ネウロイだ。スオムス方面からこの空母に向けて高度4000フィートから飛んできている。会敵まで15分だろう。現在ラーズグリーズとウォードックがアラート待機に着いた』

「「了解」」

 

メビウスが無線封鎖を開始すると言い出した。低空飛行で相手の後ろから現れるつもりなのか。バンクを振って薄青のラプターが海面すれすれまで降下する。続いてアンタレスもダイブ。メビウスから放出されるジェット後流が海面を叩き、アンタレスを濡らした。ストライカーになったベルクートが海水に濡れてしまった。こうなったらできる限り戦闘を早く終わらせなければならない。

 

「うげっ、低すぎた。しょっぺー。そう怒んなって、姫。帰ったらちゃんと掃除するから」

 

どうせ潮が付着しているから洗い流すのだが、アンタレスは愛機のことはできる限り自分で見たかった。それに動翼に潮が付着していたら早く錆びる元になってしまう。それだけは回避したかった。

 

そうこうしているうちにHUDに反応。スカイアイの言う通り敵は1機だけのようだ。IFFに反応なし。unknownと表示されている。機体はF-14のようだ。ということは。

 

ビイイイイイイイッとコックピットががなり立てた。ロックオンされた! F-14は長距離空対空ミサイルAIM-54フェニックスをつんでいるのだ。

 

「敵に気づかれてるぞ!」

「そのようですね、ブレイク!」

 

散開してアンタレスは左にバレルロール。メビウスも右へバレルロールを切ってミサイルを回避。マッハ5で飛んでくる長距離ミサイルは二人のエンジンの熱源を追ってまだ追跡してくる。メビウスがギリギリまで引きつけてチャフを展開。かわすことに成功した。アンタレスはコブラ機動でミサイルを回避。

 

「無線封鎖も超低空からの接近も気づかれたということは相手は相当な手練ですね」

「ああ、どうやらそうらしいぜ。厄介なこった。しかも学習してるのかついにミサイルまで装備してやがる」

 

そう。今までの超高速大型ネウロイたちはミサイルなんて装備せず、レーザーだけだったが。今ではミサイル型の小型ネウロイを装備しているのだ。勝手に爆発したところを見る限りコアが信管になっているのかもしれない。よくわからないが。

 

鏃のような形をしたネウロイがビームを撃ち出す。アンタレスがシールドを張り、メビウスが回避する。

 

「この機動、ネウロイじゃないとできない機動ですね......。しかし、やけに単調な気がします」

「まるで無人機みたいだな。よくできたドローンを相手にしてる気分だ。気持ち悪りぃ」

「無人機......」

「メビウス?」

「まさか!」

「おい、メビウス。どうしたんだよ」

「アンタレスさん、あのネウロイをしばらく相手していてもらえますか?」

「いいけどだからどういうことだよ!」

「私は少しスカイアイとフェニックスさんに連絡を取ります。もしかしたら、相手はただのネウロイじゃありません」

 

メビウスは先程アンタレスに話したイントレランスの話を思い出していた。要塞イントレランスをフェニックス率いるスカーフェイス隊が攻撃した時、彼らは1機の無人戦闘機と交戦していた。その前にも何度か交戦していた機体全体を赤く染めた無人戦闘機、Z.O.E。その最初期がF-14で、今アンタレスが交戦しているネウロイの動きととても似ていたのだ。

 

「こちらメビウス。スカイアイ、フェニックスさん、聞こえますか?」

『こち、ーーーイアイ。現在ジャミーーー撃を受けーーる。本ーは交ーーだ。どーーた?』

「そんな......!」

 

「このっ、チョコマカチョコマカ動きやがって!」

 

アンタレスも苦戦していた。レーダーでは相手を捉えているし視界でも相手をロックできている。なのに攻撃ができない。ネウロイ独特の殺気がないのだ。ということはいつ攻撃が来るのか全くわからない。やりにくいことこの上ない。フェニックスは何度もこの相手と交戦したようだがよくできるものだ。もちろんアンタレスだってドローンや無人機を相手にしたことはある。しかし今回はそんなやわなものではないのだ。

 

「まだかよメビウス!」

「空母にジャミング攻撃がかけられていて通信できませんでした。このネウロイはそれを狙ってやってきたのかもしれません」

「おいおいまじかよ、冗談キツイぜ。じゃあこいつはなかなかの知能犯ってわけだ」

「しかし現にこのネウロイは私たちの攻撃を避けながら空母に向かってますよ?」

 

メビウスが魔力を使ってミサイルをリロード。XASM(炸裂弾頭ミサイル)だ。これなら避けても攻撃が当たるはず。普段ならこんな相手すぐに撃墜している。しかし今回は手間取ってしまう。それがメビウスたちを苛立たせていた。

 

「メビウス、FOX2!」

「アンタレス、FOX3!」

 

メビウスの放ったXASMがコブラもどきの機動で回避されると同時に弾頭が炸裂。右主翼が半分ほどもげた。ついに損傷を与えることに成功する。そこに追い打ちをかけるようにアンタレスが機銃攻撃を行う。F-14は回復中だがバレルロールで回避。しかしアンタレスは高い機動性を生かしてなおも食らいつく。F-14は主翼を展開してスピードブレーキを開き急減速。そのままストールに陥ったのを利用して高度を下げ、再び加速する。

 

「低高度機動戦で俺と姫に勝てると思うなよ!」

 

アンタレスが雄叫びと共に逆落としでF-14に迫る。背後についた。レーダーロック。 照準がぴったり重なった。

 

「アンタレス1、FOX2!」

 

その瞬間F-14は 回避機動を取るために左へバレルロール。だが、アンタレスからミサイルは飛ばない。

 

「バーカ、こんな近距離でミサイルなんて撃つかよ。フェイクに引っかかりやがって。本命はあっちだ、それまで俺に蜂の巣にされな!」

 

低空で進入してきたメビウスがF-14の真ん前にミサイルを放った。それまでの足止めに真横から機関砲を連射、そのまま真横から飛び込んでアフターバーナーで海面方向に押しやる。そしてそのままアンタレスは垂直上昇。その直後。ミサイルはF-14に着弾し、爆発した。

 

「「敵機撃墜!」」

「ふぅ、急いで帰投しましょう」

「了解」

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