なくなったものと手に入れたものと新たな発見
「よし、今日の訓練はここまでだ! 宮藤、リーネ。戻ろう」
「はい!」
基地近くの夕焼けの海辺を坂本と宮藤、リーネは連れ立って歩く。
「ん? あれは、人か?」
少し遠くに二つの人影が見えた。漂流してきたのだろうか。
「あれはウィッチか! 宮藤、リーネ! 救助だ!」
「「はい!」」
「ミーナ、聞こえるか?」
『どうしたの?』
「ウィッチを二人救助した。所属不明だ。大事には至らないと思うが救護班を頼む」
『了解。すぐに向かわせるわ』
その間に二人は倒れている二人を持ち上げようとするが、重くて持ち上がらない。せめて銃だけでもと思ったが、こちらも重くて無理。
「さ、坂本さぁん。重くて持ち上げることができません」
「修行が足らんぞお前たち。............、むう、確かに無理だ。............ミーナか? すまんが人員は多めに頼む。二人の装備が重すぎるんだ」
『手の空いてる子たちも行かせるわ。そこで待ってて』
救護班と手の空いている少女たちが気を失っている二人を何人かづつで救護室へ運び込んだ。
「顔は扶桑人とオラーシャ人のようだけど、見たことがないなあ」
「一体どこから来たのかしら」
「こんな銃も初めてみました」
「ストライカーもだね。たぶんジェットストライカーだよ」
「アレはまだカールスラントで開発中だ」
どれもこれも初めて見る装備に、初めて見るエンブレム。全てが見たことのないものなので、皆気になるのだ。だが、当の二人が目覚めないので、聞くこともできない。
「さ、こんなところにずっといても彼女たちが目を覚ますわけではないわ。ひとまず戻りましょう」
ミーナの指示でぞろぞろと出て行くウィッチたち。見送ってからミーナも電気を消してドアを閉める。そして呟いた。
「まさか、ね......」
次の日
目を覚ましたばかりのアンタレスは思い切り頬をつねってみたが痛いのでこれは現実であると考えた。そしてスレイマニが落ち着いているので自分も落ち着こうと思ったが、無理だった。
同じく目を覚ましたばかりのスレイマニも割と動揺していた。だが、完全に動揺しきっているアンタレスのように見られてはかなわないとひたすら落ち着いているふりをしていた。
なにせベッドの周りを上は軍服、下はパンツのみの少女たちが取り囲んでいるのだ。男として気にならない訳が無い。
「えっと、ここは天国ですか?」
「ハッハッハッハ。なかなか面白いことを言うなあ。だが私たちの頭の上に天使の輪はないだろう? 背中にも羽根はないぞ」
「え、あ、ああ。ほんとだ。やっぱり現実なんだ」
「ここは医務室だ。お前たちは浜辺で倒れていたんだ」
「それで救助してくれたのか。感謝する」
スレイマニが頭を下げた。
「俺はヴィルコラク隊のスレイマニ。こっちがアンタレス隊のアンタレスだ」
「アンタレスです。よろしく」
「私は501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズのミーナ中佐です」
「「統合戦闘航空団?」」
「知らないのですか?」
聞いたこともなかった。だが、501と番号がつけられているということはおそらくどこかの国に属していて、同じようなのが幾つかあるということだろう。
「............ここはアメリカか?」
「アメリカ? ここはブリタニアです」
「「ブリタニア?」」
「そこの眼帯の人と犬っぽい女の子の出身は?」
「私は坂本美緒。この子は宮藤芳佳。扶桑人だ」
「日本じゃないのか」
「日本?」
何やら根本的に色々ちがうようだ。
「世界地図を頼む。どうやらここは俺たちのいた場所じゃないらしいな」
持ってきてもらった世界地図をみると、世界自体は同じだが、国名がどこも違うことに気がついた。日本もアメリカもロシアもイギリスもドイツもフランスもない。扶桑、リベリオン、オラーシャ、ブリタニア、カールスラントと表記されていた。
「これは......」
「うーん、俺たちはどうやら異世界ってとこにいるっぽいぞ、スレイマニ。ははっ、何このファンタジー」
ふざけている場合かとスレイマニは突っ込もうとしたが、その時異変に気付いた。
「アンタレス、お前は男だよな?」
「おいおい、何言ってんだよスレイマニ。男に決まってるじゃないか」
「............なら自分の胸を触ってみろ」
「? なん..................、や、柔らかい!?」
待て待て待てっ、とアンタレスは首を振る。そしてもう一度触ってみる。したを見れば筋肉で覆われた分厚い胸板ではなく、大きすぎず小さすぎずの程よい大きさの双丘がくっついていた。筋肉とは違う。幸福な柔らかい感触が両手に伝わってくる。股間を触ってみると生まれてからこの方約三十年間くっついていた自慢の主砲がない。つるっとしている。声も高くなっていて、背も低くなっている。スレイマニも同じだった。
「な、ななな、な、なんじゃこりゃあ。って、スレイマニ!」
「? ......! お前、 なにを! ひゃあんっ」
スレイマニからやたら可愛い声が漏れた。顔を赤らめて身をよじるスレイマニ。元はおっさんだったはずだ。だが今はモデル顔負けの十八歳くらいのサラッとした手触りのよさそうな長い金髪がよく似合う巨乳美女だ。アンタレスの好みのどストライク。
「離せ! アンタレス!」
「す、スレイマニ」
「いいから離せっ!」
「俺と結婚してくれっ!!」
「断る」
「げふうっ」
抱きつこうとしたら顔面を思い切り蹴り飛ばされた。
「スレイマニ! お前、女の顔面蹴り飛ばすってのはどういうことだ! この可愛い顔に傷が付いたらどうする!」
「黙れ文学少女。見た目と中身にギャップがありすぎだ」
スレイマニから見た今のアンタレスは黙っていれば日本のハイスクールにいそうな十六歳くらいの純文学少女に見える。黒縁眼鏡と黒っぽいセーラー服と文庫本がよくに会いそうな少女だ。元は三十路寸前のおっさんに近い男だったはずだが......。残念なのは元々の性格のせいで見た目と行動、言動があっていないことだ。もう少しヤマトナデシコのように楚々としていると良いのだが......。
「って、ふざけている場合じゃないぞスレイマニ。俺たちは今、異世界にいるんだ!」
「お前が原因で脱線したんだぞ。少し黙っていろ」
「しゅーん」
本気で沈んでいるアンタレスは放っておき、スレイマニは確認する。
「見苦しいところを見せて申し訳ない。それで、幾つか確認させてもらうがここはイギリス、じゃなくてブリタニアであんたたちはそのネウロイとやらと戦っている。そのネウロイというのはなんなんだ?」
「ええ。その通りです。ネウロイとは有史以来人類の敵である謎の存在です。今もその存在はよくわかっていません」
「次の質問だ。あんたたちは何故第二次大戦時の軍服を着ている? 今は20XX年だろう」
「20XX年? 今は1944年です」
「1944!? 1944年って言ったらまだ零戦が飛んでたじだいじゃねえか!」
「黙れアンタレス。もう一つ。ストライクウィッチーズとはなんだ? 魔女か?」
「しょぼーん。酷いよスレイマニ」
「その通りです。魔女の戦闘部隊の一つだと思ってください」
ミーナ中佐という赤髪のドイツ人ではなく、カールスラント人はスレイマニの質問にひとつひとつ丁寧に答える。それでわかったのは、今自分たちがいるのは異世界にあるブリタニアという国のウィッチーズ基地。ウィッチというのは女性だけがなることができ、ストライカーというものを履いてネウロイという謎の存在と戦っていること。二十歳になると自然にストライカーを動かすことなどに使う魔法力というものがが失われてしまうこと。ヨーロッパの大半がネウロイに占領されていること。ズボンという概念がなく、パンツがズボンと呼ばれていること(どうやら半ズボンはあるが、長ズボンはないらしく、スカートはベルトであるらしい)。ジェット戦闘機はカールスラントで開発中であるMe-262だけであるらしいこと。自分たちが次元を超えたうえにタイムスリップして来た存在、異邦人(エグザイル)であること。倒れていた自分たちを見つけた時、戦闘機はなく、ストライカーを履いていたこと。自分たちもウィッチの一人であること。そのくらいだろう。
「理解できましたか?」
「............。ちょっと、頭を冷やしたい。知恵熱が出そうだ」
「スレイマニに代わって一つ質問。俺たちがウィッチと言うんなら、多分俺たちの機体はストライカーってのになってるんだろうな。で、それを今俺たちは履いてないってことはどこかにあるんだろ? どこにあるんだ?」
それは二人にとってとても重要なことだった。スレイマニは混乱していたのか、今気づいたとでも言うような様子だが、アンタレスはずっと気になっていた。
「今は格納庫に置いてあります。見に行きますか?」
「「ああ」」