黒海
黒海上空を飛んでいたアイガイオンは大陸からのネウロイの攻撃にさらされていた。
「なぜ気がつかなかった!」
「超低空から侵入してきたようだ。奴らにもそのくらいの知能があるってことみたいだな!」
「キュゲス被害甚大!クソ!」
近接防空機のキュゲスの被害が大きくなる。電子支援機のコットスから敵の情報が送られてきた。そのネウロイの姿は、F-4EファントムⅡ。8機編隊で彼らを襲ってきたのだ。
「全機緊急出撃せよ! ただのファントムだと思うな! 相手は超一流だぞ!」
「まるでISAFのメビウス中隊じゃないか。面白い。やってやる!シュトリゴン、発艦! 」
「ゴルト、発艦する」
「アレクト、発艦」
「ヴィルコラク、発艦」
「アクーラ、発艦する」
アイガイオンを守るエース達が元々警戒に当たり、たった2機で奮戦していたZ.O.Eとディジョンの支援に当たる。ディジョンのXFA-36とZ.O.EのADFX-02は損傷は軽微だ。
「2機とも大丈夫か?」
「問題ない」
〔No ploblem〕
Z.O.Eは人間でもウィッチでもないため、パステルナークの交信に対して彼らのHUDに言葉を送る。
〔救援感謝する〕
「なーに、気にするな。無事だったらそれでいいのさ」
戦闘機の機動を封じる身体が無いため、2機は戦闘機やウィッチの機動を超えた超機動を可能にしているが、それでもここまで損傷を負うというのがスレイマニには驚きだった。そして、自分を楽しませてくれる獲物だと確信した。
「奴らは各個バラバラに戦うのか?」
「いや、バラバラに戦っているように見えるが1機が攻撃している時は残りの7機がその機体を守っている。その繰り返しだ。連携が良く取れている。強敵だぞ」
「ただのファントム8機編隊というわけではないということか」
「まるでラプター8機を相手にしてる気分だぜまったく。これがISAFの最終兵器か」
誰かのこの言葉はまさしくその通りだった。もうロートルであるF-4が8機、通常なら余裕で仕留めている。だが、まだ1機も撃墜できていないのだ。確かにドッグファイトは一概に機体の性能のみで決まるわけではない。相手パイロットとの我慢比べなのだ。やり方によってはF-4どころかF-86のような化石戦闘機でもF-22を落としたりできるだろう。機体の性能なんて実はオマケに近い。もちろんパイロットの技量が同じレベルなら機体の性能が加味されるが実際はその程度なのだ。だが今回は違う。1機を攻撃しようとすれば他の7機が攻撃してくる。チームワークが良すぎるのだ。同時多発的に襲っても相手はネウロイであることを利用してレーザーを様々な角度から当ててくる。厄介なことこの上ないのだ。
「動きは単調だが周りが面倒だな......」
「Z.O.E.とディジョンがここまで追い詰められるわけだ」
スレイマニとアレクト1が苦言を漏らすと珍しくこの好戦的な集団にしては珍しく弱気な雰囲気が漂った。
「どうすれば......」
その時。
「こちらアクーラ。敵機撃墜」
アクーラの撃墜報告が上がった。ヘッドオンですれ違う直前にミサイルを発射し、他のネウロイが妨害するのを利用してレーザーとその妨害によって爆発したミサイルの破片がすれ違ったネウロイに直撃したのだ。
「こちらゴルト1。Z.O.E.、TLSはまだ使えるか?」
〔残数:10秒照射で5回可能〕
「ふむ、ではその場で旋回を開始せよ。合図と同時にTLSを5秒間照射。可能か?」
〔可能と判断。オーダー受諾。合図まで旋回を開始する〕
ゴルト1の指示でZ.O.E.がその場で旋回を開始した。
「各機に次ぐ。ネウロイを1機づつZ.O.E.に向けて引きつけよ。チャンスは一回だけだ。ミスしたら次はないと思え。タイミングを合わせるのだ。可能なら個人で撃墜するのも良いが無茶はするな」
『了解』
「1機がネウロイを引きつけている間他の機は囮機を援護せよ」
最初にネウロイを捕らえたのはスレイマニだった。一機のネウロイの前に立ちはだかると煽るように至近距離から得意の無茶苦茶な機動でレーザーを回避。
「遅いな。これならアンタレスの方が強い」
スレイマニの煽りに呼応するようにネウロイはレーザーを放つ。
「甘い。これで俺に勝てると思うな」
急旋回でスレイマニはネウロイの背後に回り、そのまま下へ潜り込む。コバンザメのようにくっつきながらネウロイの飛ぶ方向を調整。そのままZ.O.E.に向けて無理矢理変針させ、そのまま投げ飛ばす。
「今だ」
〔了解〕
Z.O.E.のキツツキのクチバシのような機首が少しだけ開いた。中から覗いているのはTLS。鮮やかな青色の光が質量をもってネウロイに襲いかかる。ネウロイもレーザーを打ち出し、赤と青の光線がすれ違う。Z.O.E.はとっさに左へバレルロールを切って回避。推力偏向ノズルを使って少しだけ右に機首を向けて今度は直撃させる。残り6機。
「しっかし、ネウロイの黒い装甲ってのは夜じゃ見にくいもんだぜ。目視で捉えにくいったらありゃしない」
「赤い点があるところがネウロイさ。わかりやすいだろ? それに、目視できないのはウチの十八番だ」
パステルナークの発言に応えたアレクト1の姿がフッと消えた。オーレリアとレサスの最終決戦でグリフィス隊を苦しめた光学迷彩。アレクト1のストライカーであるXFA-37フェンリアが持つ最大の特徴だ。アレクト隊はこれをアーケロン要塞の電源から利用していたが、今回はウィッチとしての魔力を使って透明になることができる。あの時のような不完全なモノではない、完璧なモノだ。
「わざわざZ.O.E.の力を借りなくても撃墜できることを証明してやる」
言うが早いかレーダーからもアレクト1の反応が消えてしまう。そして後方でネウロイが爆散。
「ほお、やればできるではないか。だそうだ、Z.O.E。機体を修復しに戻れ。ディジョン、君もだ。そのコンディションでは本領を発揮できまい」
〔了解。RTB〕
「......了解した」
ゴルト1の指示で損傷を受けているZ.O.Eとディジョンが翼を振ってアイガイオンへと戻る。その際に1機彼らが共同で撃墜したので残りは3機。直後にパステルナークが放ったレールガンで1機がさらに弾け飛ぶ(同時に被害を受けていたキュゲスの近くにいたネウロイをねらったので巻き添えを食らってキュゲスの被害がさらに拡大した)。残り2機。
「いい感じに強そうな雰囲気醸し出してるのが残ったな」
「有名なメビウス1とオメガ11か?」
「相手はたった2機だ。だが気を抜くな。あの円卓の鬼神と同等の実力を持っていてもおかしくはない」
円卓の鬼神と呼ばれたガルム隊の実力はとても有名だ。鎖から解き放たれた獰猛な猟犬のように相手に噛み付く。あの2機のネウロイからは彼らと同じだ。カプチェンコはそんな雰囲気を感じた。たかだかF-4。しかし油断はできない。
「編隊を組め。ファングだ」
カプチェンコはアイガイオンのメンバーが基本的に集団戦を得意としていることを踏まえ、全員の編隊攻撃をまとめ、さらにここにはいない者たちの編隊機動までできるようにしていた。今回はヴィルコラク遊撃隊のファング。狼が牙で獲物にかぶりつく時のように上下に半分ずつ分散し、挟み撃ちにする戦法だ。
「ブレイク」
カプチェンコとスレイマニは上に。パステルナーク、ハミルトン、マルコフは下へブレイクし、1機を捉える。アレクト1が透明化でもう一機の妨害を封じ込めている間に、一瞬で攻撃し、すれ違う。ミサイルを撃ち出すと同時に機関砲で攻撃。合計6発のミサイルと機関砲1連射分の鋼鉄の雨が上下からネウロイに襲いかかる。通常ミサイルに紛れて特殊ミサイルが弾着。コア部分に大穴を開ける。そこへ弾丸が一発。撃墜。残り1機。
「鳥籠だ」
ゴルト隊とスカーフェイス隊が交戦したビースト隊が得意にしていた相手を取り囲んでの乱戦。編隊長の指示が勝負を決めるリスキーな戦法だ。
「アレクト1、1.5秒後に左へブレイク」
「アイアイサー」
「ヴィルコラク1は直進」
「......」
カリッというマイクのクリック音が聞こえた。了解ということか。
「ハミルトン、私についてこい。アクーラはヴィルコラク1の援護につけ」
「「了解」」
「シュトリゴン1、逃げ場をなくせ。後ろを塞ぐんだ」
「ウィルコ」
ほぼ全ての方向からミサイルと弾丸が雨のように飛ぶ。しかしネウロイはその隙間を縫うようにして綺麗に全て回避。鳥籠から難なく逃げ果せてしまった。
「チャージ」
デルタ編隊を組み直線的に突っ込む。そして散開。弾けるようにバラバラになった編隊はさらに。
「クロウ」
無茶苦茶な機動戦で相手を追い詰める。僅かではあるが相手の逃げ場を一つだけ見せつける。引っかかったようにそちらに飛ぶネウロイが向かったのはアイガイオンの前方。そこにはまだ着艦したばかりのZ.O.Eがいた。
「今だ、TLS起動。全照射だ」
〔了解。TLS起動〕
機首から覗いた投射装置から青い光線が伸びる。だがネウロイは回避。
〔失敗を確認〕
「ディジョン、FOX2!」
ミサイルがネウロイの真正面に飛ぶ。回避したばかりのネウロイはこれは回避できなかった。機首部分に大穴が開く。そこへ時間差でもう一発が命中。白い輝きがあたりを満たした。
「撃墜」
「全機よくやった。これより帰投する」