赤蠍と人狼と空飛ぶ少女   作:雪見雪乃

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謎の夢と世界の違いと二人の思惑

部屋をあたえられた。宮藤の部屋の隣にアンタレス、その隣にスレイマニだ。内装は机とベッドくらいしかないシンプルなものだ。

 

「あれ? 俺たち着替えってどうするんだろ。スレイマニ、お前着替え持って、ねえよな」

「当たり前だ。ヴィルコラクがああなった以上、着の身着のままだ」

 

二人の持っているものは、フライトジャケットと耐Gスーツ、二十二口径の拳銃と予備弾倉、コンバットナイフが一つづつあるだけ。

 

「「............どうしようか」」

 

この世界の事をまともに知らない二人が頭をつきあってうんうん唸っても何も出ないのは当たり前。

 

「ここはイギリス、じゃねえや。ブリタニアだろ? ってことは、あの三つ編みの巨乳ちゃんに聞いてみようぜ」

「............リネット軍曹か」

「そうそう。リーネちゃん。悪くないと思うんだけどどうよ?」

「よし、聞いてこい」

「俺が!?」

「上官命令だ。中尉」

「うええー......。んな理不尽な。わかった、聞いてくるから殺気を出さないでくれ。マジ怖い」

 

 

リーネは宮藤と食堂で料理を作っていた。いい匂いだ。

 

「あ、アンタレスさん。夕ご飯もう少しでできますから」

「いや、飯のことで来たわけじゃないんだ。俺たちは着替えとかどうすればいいのかなって思ってさ」

「しばらくは出られませんし、よかったら私たちのものを貸しましょうか? アンタレスさんなら私かエイラさんくらいの服でも大丈夫でしょうし、スレイマニさんはシャーリーさんの服を貸してもらうのはどうでしょう」

 

現在のアンタレスは身長が160cmほどしかなく、リーネやエイラくらいの身長なのだ。スレイマニはもう少し高く、シャーリーほどある。スリーサイズも似たようなものなのでちょうどいいかもしれない。

 

「............多分君とは胸のサイズ的に無理があるかな。屈辱を覚えそうだ。てことで、そのエイラさんとシャーリーさんはどこに?」

「多分エイラさんはサーニャちゃんと夜間哨戒の準備をしてると思います。シャーリーさんは格納庫かな?」

「そうか。ありがとう。それで、宮藤軍曹、胸から手を離してくれないかな? ちょっと我慢するのが............っ」

 

 

なんとか解放してもらえたので改めて二人を探す。シャーリーはすぐに見つかった。

 

「お? アンタレスじゃん。どうしたんだ?」

「別にこれと言ったことでもないんだけどさ、何してるんだ?」

「改造さ。私は音速の壁を越えたいんだ」

「へえー。面白いじゃん。レシプロじゃあ越えれないはずなんだけど、俺はそういうの好きだな」

「無理かな?」

「さーな。俺のいたところじゃ普通レシプロはある一定の速度を超えると空中分解を起こすらしいが、ストライカーはどうなんだろう。エンジンは後ろにあるし、もしかしたらいけるんじゃないか?」

「なんで無理なんだ?」

「んー、レシプロ機が飛ぶ時、一番空気抵抗を受けるのはエンジン部なんだ。プロペラが邪魔だから」

 

偶然あった本の中に零戦の写真をみせる。

 

「俺やスレイマニのはジェットなんだ。エンジンが後ろにあるし、空気抵抗のことも考えられてるし、エンジン出力がハンパないってのもあるから音速で飛べるけど、レシプロ機は空気抵抗を極力減らしたこの零戦ですら600km/h越えれない」

「けど、発動機が後ろにあるストライカーなら、空気抵抗も少ないし、いけるんじゃないか?」

「多分」

 

あ、とスレイマニの命令を思い出した。ちゃんとやらなきゃ殺される!

 

「どうしたんだ? 顔が青いぞ?」

「いや、えっと、何でもない。その、服を貸してくれないか?」

「は?」

「いやさ、俺たちは着の身着のままでここに流れ着いたから服がないんだ。それで、スレイマニの身長と体型は君にそっくりだから、外出できる時まで貸してくれないかなーって思ったんだ」

「あー、まあ、いいぞ? スレイマニに渡しとけばいいんだろ?」

「いいのか?」

「いいぞ。代わりに条件がある」

「?」

「私をそのストライカーに乗せてくれ!」

「いや、無理。だって単座戦闘機だし」

「じゃ、じゃあ、お前がストライカーに乗って私を背負えば......」

「いや、無理無理。だって、音速で飛ぶって事はそれ相応の衝撃がかかるんだ。多分それで俺の首に手を回せば多分俺の首が折れる。スレイマニも無理だぞ」

「どうしようもないのか!?」

「ま、まあ、考えとくよ。どうにかできたらいいけど。そうだ、エイラちゃんってどこにいるかな」

「んー? 今から夜間哨戒に出るぞ。今を逃せば朝になるな」

「そっか。ありがとう」

 

 

 

「借りれたか?」

「後で持ってくるってさ。あのさ、スレイマニ」

「?」

「無理なんだけどどうしても音速を越えたい場合ってどうする?」

「金を積んで複座戦闘機に乗せてもらう。無理なら諦める。結局は全て金なんだよ」

「しかないよなあ。実はさ、服を貸す代わりに音速を越えたいって言われたんだ。どうすればいい?」

「知るか。無理なもんは無理だ。今ここに超音速複座戦闘機があるか?」

「ないけどさ。できそうならどうにかしてやりたいじゃん?」

「じゃあ諦めるんだな。俺はもう寝る」

「飯は?」

「いい」

 

 

スレイマニは夢を見た。やけにはっきりした夢だ。なのにおぼろげな感じがする。隣にはアンタレスがいるが、なぜいるのかがわからない。二人で目の前の黒い服を着た人っぽいものと向き合っていた。

 

「人っぽいものとは失礼な」

「「誰?」」

「お前たちをこの世界へ引き込んだ張本人だ」

「おい! 俺は飯を食う寸前だったんだぞ! これ以上楽しみを阻害されてたまるか!」

「では、手短かに話してやろう。いずれお前たちはもう一つの世界から来たエースたちと出会うことになる。彼奴らと、この世界のエースたちと共に、この世界に急に起きた異変を救ってほしい。詫びとして、お前たちの使っていた戦闘機ともう一つ、お前たちの望むものを代わりに与えよう」

「............じゃあ、ヴィルコラクと金だ。強い奴と戦えるのならそれだけでいい」

「よかろう。赤蠍、お前の望むものはなんだ」

「俺は、ベルクートと一緒にF-15S/MTD、かな」

「よかろう。明日、送っておこう」

 

ここで夢は途切れた。

 

「しまった、生活必需品頼むの忘れた!」

 

ガタッと椅子を弾き飛ばして立ち上がるが、すでに現実に引き戻されていて、周りにいつの間にか来ていた少女たちがポカンとしていた。

 

「あ、いや、その、気のせい気のせい! 忘れてくれ」

「夢でもみていたのか? アンタレス」

「あ、ああ。ちょっとな」

「冷めてしまう前に食べておけ。宮藤の作った料理は美味いぞ」

「本当だ! エンタープライズで食った最後の飯より美味い!」

「エンタープライズって、アンタレスはリベリオン人なのか? 扶桑人にしか見えないけど、扶桑系のリベリオン人なのか?」

「いや、根っからの扶桑人、強いて言うなら日本人だ。ただ俺は傭兵でね、今から八十年近く後のリベリオン海軍の空母に乗ってたんだ」

「未来にもネウロイはいるのか?」

「俺たちがいた世界にはネウロイなんて存在しない。あるのは人と人の戦争だ。この世界だとネウロイから祖国を守るために戦闘機やそのストライカーを始めとした武器や兵器は作られたのかもしれない。けど、そんな人類共通の敵なんて存在しない俺たちの世界には何千、何万年と昔から人と人の戦いの為に、自国の利益のために兵器を開発したんだ」

「じゃあ、アンタレスさんも人をたくさん殺したんですか?」

「ああ」

 

宮藤に続いて バルクホルンが尋ねた。

 

「敢えて聞くが、撃墜数は?」

「対空目標が百三十三、対地・対艦目標は二百四十二、地上戦闘でも数え切れない」

「なんとも、思わなかったのか?」

「?」

「人を殺して、なんとも思わなかったのか、と聞いているんだ!」

「ああ、ならお前はネウロイを撃破してどう思った? それと同じ感覚だ。敵だから撃破する。敵だから殺す。それだけだ」

「............そうか」

 

バルクホルンは何か苦いものを噛みしめるような顔をする。この世界の軍人は人を殺す事なんてそうそうないのかもしれない。だけど、もしネウロイがいなくなれば? 絶対に人間同士の戦争が始まる。ここにいる少女たちも戦争に駆り出されるだろう。自分の乗る戦闘機が超がつく程のオーバーテクノロジーである以上、この世界で撃墜される訳にはいかないし、他のグループに渡す訳にもいかない。もし、彼女らが自分たちをどこかへ引き渡そうというのなら、彼女ら全員を敵に回せる覚悟を決める必要がある。

 

アンタレスはそう考えた。そして、スレイマニも同じことを寝ながら考えていた。問題は、もし、彼女らの元を離れるならば、いつにするかだ。スレイマニがマーティネズ・セキュリティー社にいた頃、東京をテロ組織ヴァラヒアの超兵器オルゴイが襲撃していた時に、首領、ニコラエ・ドゥミトレスクからの通信で、スレイマニはバーフォードや、アンタレス1から指示されたアンタレス3・4の制止と追撃を振り切って、ライジェル隊を率いてマーティネズ・セキュリティー社を離脱。ヴァラヒアへ、そしてゴールデン・アクス計画軍に入った。今回はアンタレスも一緒に501統合戦闘航空団を離脱することになるかもしれない。そのきっかけが、いつ来るかが問題だった。

 

「分岐点をどこに設定するか。それが重要だな......」

 

スレイマニは上に伸ばした手を見つめながら一人呟き、もう一度布団を被った。

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