九重との朝の日課を終え、学校へと向かった三人。登校したばかりの一年E組の教室は、雑然とした雰囲気に包まれていた。
とりあえず親しく挨拶する相手も居ないことだし、まずは自分の端末を探そう。そう思った達也は──
「いや、居るでしょ。入学初日から仲良くなった二人がさ」
「オハヨ〜」
「おはようございます」
自分の思考にツッコまれ、思いがけず顔を上げた達也。それを見て呆れる彩羽。そんな二人に声をかけたのは、相変わらず陽気な活力に満ちたエリカと、その隣で控えめながらも手を振る美月だった。
「おはよう。エリカ、美月」
「おはよう。二人とも、仲良くなるの早いね……」
「まあね。彩羽くんも顔はいいんだし、女の子とナカヨクしてるんじゃないの?」
「生憎だが、彩羽は女子が苦手でな。深雪以外の異性と話しているところを見たことがない」
「兄さん、それ言う必要あった?ねえ、それ言う必要あったかな?」
「ははは……」
エリカに弄られている彩羽を横目に、達也は端末にIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。キーボードオンリーの操作で受講登録を一気に打ち込んで、一息入れる為に顔を上げると、前の席から目を丸くして手元を覗き込んでいる男子生徒と視線があった。
「……別に見られても困りはしないが」
「あっ?ああ、すまん。珍しいもんで、つい見入っちまった」
「珍しいか?慣れればこっちの方が速いんだがな。視線ポインタも脳波アシストも、いまいち正確性に欠ける」
「ちょっと!無視してないで助けてよ!……兄さん、友達?」
「ん?お前の友達か?」
エリカから逃げて来た彩羽を見た男子生徒の反応を見て、とことん自分たち兄弟は似ていないんだなと、達也は実感した。
「俺の弟だ」
「弟!?……って、俺の自己紹介がまだだったな。西城レオンハルトだ。親父がハーフ、お袋がクォーターな所為で、外見は純日本人風だが名前は洋風、得意な術式は収束系の硬化魔法だ。志望コースは体を動かす系、警察の機動隊とか山岳警備隊とかだな。レオでいいぜ。」
現代の若者感覚からすれば、高校入学時点で既に進路希望を決めているのは珍しいと言えるが、魔法科高校の場合は別だ。だからレオが自己紹介の中に自分の希望進路を入れていても、達也はそれを意外には思わなかった。達也は。
「はえ〜。レオはよく考えてるんだな…… 僕は司波彩羽。そこにいる司波達也の弟で、得意な術式は振動減速系の冷却魔法かな。彩羽でいいよ!」
「さっき彩羽も言っていたが、司波達也だ。俺のことも達也でいい」
「OK、達也と彩羽だな。それで、彩羽のは分かったが、達也の得意魔法は何よ?」
「実技は苦手でな。魔工技師を目指している」
「なーる……頭良さそうだもんな、お前」
「(実技は苦手でな。とか本気で言ってるのかな、この兄は)」
魔工技師、あるいは魔工師は、魔法工学技師の略称で、魔法を補助・増幅・強化する機器を製造・開発・調整する技術者を指す。社会的な評価は魔法師より一段落ちるが、業界内では並みの魔法師より需要が高い。収入も、同じ一流なら魔工技師の方が高いほどだ。
そういう訳だから、実技が苦手な魔法科生が魔工師を目指すのは珍しいことでは無いのだが……
「え、なになに?司波くん、魔工師志望なの?」
「達也、コイツ、誰?」
「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し?失礼なヤツ!モテない男はこれだから」
「なっ?失礼なのはテメーだろうがよ!少しくらいツラが良いからって、調子こいてんじゃねえーぞ!」
「ルックスは大事なのよ?だらしなさとワイルドを取り違えているむさ男には分からないかも知れないけど?」
「なっ、なっ、なっ……」
とりすました嘲笑を浮かべて斜に見下ろすエリカと、絶句が今にも唸り声に移行しそうなレオ。
「まぁまぁ。二人とも、そこら辺にして…… レオ、こういう時の女の子には勝てないよ」
「……エリカちゃんも、もうやめて。少し言い過ぎよ」
一触即発の雰囲気に、彩羽と美月が制裁に入る。
「……美月がそう言うなら」
「……分かったぜ」
お互い、顔は背けながら目は逸らさない。
同じような気の強さ、似たような負けず嫌いに、実はこの二人、気が合うのかもしれんな、と達也は思った。
◇◇◇
「お兄様……」
「謝っちゃダメだよ、姉さん」
「ああ、そうだな。これは一厘一毛たりとも深雪の所為じゃない」
「はい、しかし……止めますか?」
困惑と不安が入り交じった眼差しで、兄の顔を見上げる深雪。そんな深雪を力づける為、あえて強い語調で返事を返すシスコン二人。
「逆効果だろうね……」
「……同感だ」
「……そうですね。それにしても、エリカはともかく、美月があんな性格とは……予想外でした」
「性格が第一印象と違うってのは良くあるよ、特に僕の姉とか」
「彩羽……?」
「黙ります」
「お前、弱すぎるだろ」
そんなコントを繰り広げている三兄妹の視線の先には、二手に分かれて一触即発の雰囲気で睨み合う新入生の一団がいた。その片方は深雪のクラスメイト、もう一方の構成メンバーは、言うまでもなく、美月、エリカ、レオだった。
第一幕は、昼食時の食堂。達也と一緒にご飯を食べたい深雪と、深雪とお近づきになりたい一科生(※特に男子生徒)の間で揉めた。エリカとレオが爆発しかけていたが、その時は達也が席を離れ、一緒に食べる理由が無くなった深雪が折れる形で、何とか事なきを得た。
第二幕は、午後の専門課程見学中の出来事だった。生徒会長、七草真由美の実技を一目見ようと大勢の新入生(※特に男子生徒)が射撃場に詰め掛けた。だが、見学できる人数は限られている。一科生に遠慮してしまう二科生が多い中で、達也たちは堂々と最前列に陣取った。
当然のように、悪目立ちした。
そして第三幕は、今まさに進行中、美月が啖呵を切っている最中だった。
「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう」
「(うっわ正論パンチ。まあ、ああなった高校生が正論で引き下がるとも思わないけど)」
相手は一年A組の生徒。昼休みに食堂で見た面子だ。
「別に深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって、二人の仲を引き裂こうとするんですか!」
「み、美月は何を勘違いしているのでしょうね?」
「深雪……何故お前が焦る?」
「勘違いしてるのは姉さんだけどね」
「べっ、別に勘違いなどしていませんし、焦ってなどもおりませんよ?」
「そして何故に疑問形?」
「(はぁ〜〜〜、甘ったる……)」
渦中の兄妹もいい塩梅で混乱し始めているのを横目に、思いやりにあふれた(?)友人たちはますますヒートアップしていた。
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
深雪のクラスメイト、男子生徒その一。
「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
深雪のクラスメイト、女子生徒その一。
「ちくわ大明神」
深雪の家族、弟その一。
彼らの勝手な言い分を、レオとエリカは笑い飛ばす。
「ハン!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」
「相談だったら予め本人の同意を取ってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんな事も知らないの?」
「誰だ今の」
「お前……いい加減怒るぞ?」
「ごめんって兄さん、だからその拳をしまってよ。ホントごめんだから」
相手を怒らせる目的のエリカとレオのセリフに、注文通り、男子生徒その一がキレた。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点で、一体どれだけ優れていると言うんですか!」
「……おっと」
「あらら」
まずいことになった、という思考が、達也と彩羽の口から短い呟きとなって漏れた。
彼らの呟きは、一科生の押し殺した声に掻き消されて、隣にいた深雪にしか聞こえなかった。
「……どれだけ優れているか、知りたいのなら教えてやる」
「ハッ!おもしれぇ!是非とも教えて貰おうじゃねぇか!」
「(売り言葉に買い言葉……男の子だもんな、向こうもレオも。そりゃこうなるか)」
学校内でCADの携行が認められている生徒は生徒会の役員と一部の委員のみ。学外における魔法の使用は、法令で細かく規制されている。
だが、CADの所持が校外で制限されている訳ではない。意味が無いからだ。
故に、下校中の生徒がCADを持っているのは、別におかしなことでは無い。
「だったら教えてやる!」
「特化型!?」
だが、それが同じ生徒に向けられるとなれば、異常な事態、いや、非常事態だ。向けられたCADが、攻撃力重視の特化型ならば尚のこと。
さらに、その生徒は口先だけでは無かった。CADを抜く手際、照準を定めるスピード、どちらも明らかに魔法師同士の戦闘に慣れている者の動き。
「お兄様──」
深雪の言葉が終わらぬ内に、状況は動いた。
「なっ!」
「えっ?」
「あっ、やべ」
驚きの声を上げたのは、銃口を突きつけていた男子生徒と、その男子生徒の持つCADを弾き飛ばそうとしていたエリカ。
間抜けな声で何やら焦っているのが彩羽。
「……今、こいつの起動式を吹き飛ばしたの、もしかして彩羽くん?」
「いやたまたまじゃ無いっすかね、森崎家の人間に二科生の僕が速度で勝てるわけないじゃないですか。ハハハ……」
「なんで敬語?」
「(あのバカ……)」
目の前の「敵」をそっちのけで話しているエリカと彩羽に、達也と深雪も、誰もが呆気に取られていたが、いち早く我を取り戻したのは彼らと向かい合っていた深雪のクラスメイトの方だった。
魔法を発動できなかった男子生徒では無い。その背後で、女子生徒が腕輪状の汎用型CADに指を走らせた。
だが──
「キャッ!」
「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
女子生徒の展開中だった起動式が、サイオンの弾丸によって撃ち抜かれた。声の主を認めて、エリカたちを攻撃しようとしていた女子生徒は、魔法によるもの以外の衝撃によって蒼白になった。
警告を発し、サイオン弾で魔法の発動を阻止したのは、生徒会長・七草真由美だった。
「あなたたち、1-Aと1-Eの生徒ね。事情を聞きます、ついてきなさい」
硬質な声でこう命じたのは、真由美の隣に立った女子生徒。入学式の生徒会紹介によれば、彼女は風紀委員長、渡辺摩利という名の三年生だ。
「(既に起動式も展開してある……あーやだやだ。皆、揃いも揃って実戦慣れし過ぎじゃ無い?)」
彩羽がこれで丸く収まるかと思っていると、達也が深雪を引き連れて、突然前へと歩み出た。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
「悪ふざけ?」
「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので、思わず手が出てしまいました」
「……なるほど。ではその後に、1-Aの女子が攻撃性の魔法を発動しようとしていたのは何故だ?」
「驚いたんでしょう。条件反射で起動プロセスを実行できるとは、流石と言うべきですね。それに攻撃と言っても、彼女が発動しようとしていたのは目くらまし、単なる閃光魔法です。失明や視力障害の起こすほどのレベルでもありませんでしたし」
摩利の視線が、冷たいものから、驚きと感心が入り交じったものに変わる。
「ほう……どうやら君は、展開された起動式を読み取ることが出来るらしいな」
「(この人、勘が鋭いな)」
周りの生徒たちが息を飲む。それほどまでに、起動式を意識して理解する事と言うのは、人間離れした技なのだ。
「実技は苦手ですが、分析は得意です」
「……誤魔化すのも得意なようだ」
「(ホントにそう思う)」
ただ一人、矢面に立っている兄を庇うように、深雪が進みでる。
「兄の申した通り、本当に、ちょっとした行き違いだったんです。先輩方のお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
「う、うむ」
「(あ、この人多分凄い良い人だ)」
達也とは違い、こちらは微塵の小細工もない。真正面から深々と頭を下げられて、毒気を抜かれた摩利は目を逸らした。
「摩利、もういいじゃない。達也くん、彩羽くん、本当にただの見学だったのよね?」
「そうですよ。ね、兄さん」
今までどおり、真面目くさった表情で達也が頷くと、真由美は何となく、得意げに見える──まるで「貸し一つ」とでも言いたげな──笑みを浮かべた。
「(あ、これやられたかも)」
「生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは、一学期の内に授業で教わる内容です。魔法の発動を伴う自習活動は、それまで控えた方が良いでしょうね」
真面目な表情に戻って訓示を垂れる真由美の後を受けて、摩利もまた、形式を意識した言葉遣いで審判を下した。
「……会長がこう仰られていることですし、今回は不問にします。以後、このような事がないように」
「はい」
「はーい」
慌てて姿勢を正し、呉越同舟ながら一斉に頭を下げる一同に見向きもせず、摩利は踵を返した。だが、一歩踏み出したところで足を止め、背中を向けたまま問いかけを発した。首だけで振り向いたその目には、達也と彩羽を映している。
「君たちの名前は?」
「一年E組、司波達也です」
「同じく一年E組、司波彩羽です」
「覚えておこう」
達也は、反射的に「結構です」と答えそうになった口を噤んで──
「結構です!あ……」
「あら」
「ほう?」
「……はぁ」
ため息を吐いた。
リハビリしなきゃ。ここが読みにくいとかあったら、アイディアと一緒に感想ください。
どっち見たい?
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両片思い&細かいエピソード全部やれ
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両片思い&重要なとこ以外は匙加減で飛ばせ
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片思い&細かい
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片思い&重要なとこ以下略