墓地
ミッドチルダ近郊 共同墓所。
その一角にある墓碑を
「クライド、久しぶりだな。ぼくだよ。ルオだよ」
ルーフェン訛りのあるミッド語だった。
墓碑にはクライド・ハラオウンと刻まれている。
かつて彼の同期の管理局員だった。
二十一年前の方の闇の書事件で彼は命を落としてしまった。
闇の書事件はそれから十一年後に解決した。
雨は羅輯の体も、墓碑も、全ての存在に、平等に降り注いでいた。
「・・・ペテンのルオか」
彼はびくっとして、後ろを向いた。
そこには八年前に死んだはずのゼスト・グランガイツが立っていた。
「おや、化けて出ましたか。ゼスト殿」
羅輯はいつものように相手を小馬鹿にしたような表情をする。
「ふん、貴様は変わらんな。その吐き気を催すような表情・・・」
「幽霊になってまで、ぼくを罵倒しに来たんですか?」
「そんな時間があったら、貴様を殺している。今日は別の用事があってな」
彼はそのままどこかに行ってしまった。
「・・・幽霊が墓参りとはね。ふっ、ひどい冗談だな」
羅輯はつい吹き出してしまった。
羅輯もその場から離れる。そして、墓地をぶらついた。
知っている名前を探すためだ。
管理局員の死はありふれているので、知っている名前をみつけることは容易い。
誰かの墓を見つけたら、そいつにルーフェンの良酒を供える。
それが羅輯の最近の暇つぶしだった。
さっきクライドの墓に立ち寄ったのもそのためだった。
ティーダ・ランスター
「そういや、お前も死んだんだったな」
かつて羅輯は目の前で眠っている青年の教官だった。
結局、六年前のある事件で彼は死んだ。
その際、彼の心無い上司は彼を無能だと罵倒したらしい。
しかも、その葬儀に羅輯が参加していたことが、その場の空気をさらに悪化させた。
「ああ、あのペテン師が教官だったのか・・・」
「ふん、あいつも終わりだな」
「これで少しは懲りるだろ」
羅輯という人間には味方も多いが、敵もさらに多かった。
「ペテンのルオ、来やがったか」
ティーダの上司は矛先を羅輯に変えた。
上司は次々と羅輯に罵倒を浴びせる。
「お前が教官の務めを果たしていれば、こんなことにはならなかった」
「教え子に手を出すような教官だからな、そりゃこんな無能が輩出されるわけだ」
「聞いてんのか?詐欺教官」
「所詮、お前も無能なんだよ」
そんな彼に、羅輯は笑みを返して、こういった。
「彼がどんなに無能だったとしても、それをうまく使えなかったあなたも無能ですね?」
その言葉で、上司は現在の人類が理解できないような叫びをあげて気絶した。
「おいおい、ルオのペテン・スマイルが炸裂したぞ」
群衆の一人がそう言った。
それと同時に、また一人、また一人と帰っていった。
誰もペテン師と一緒にいたくはないからだ。
その場に残されたのは、ティーダの妹と、羅輯だけだった。
羅輯と彼女が口を交わすことは無かった。
彼女の目はこう言っていた。
「兄が死んだのは貴方の所為ではないが、それでもあなたを許せない」
そして、羅輯はその場から去っていた。
そして、今、羅輯は再びティーダの墓の前に立っているのだ。
「久しぶりだな。・・・ぼくは今も教官を続けてる。戦技教導官はクビになったけどな!」
数年前に、羅輯はルーフェン地上本部の一教官に格下げとなった。
彼の教育方針が現状の方針に反していたからだ。
魔力なしの局員でも質量兵器無しで魔導士を倒せるように、というのがコンセプトだった。
しかし、今のミッドは魔力至上主義的な価値感が跋扈している。
むしろ、今の地上本部のトップがあれなのが信じられないくらいだ。
「まあ、今の給料でも食っていけるから大丈夫だな!ほら、酒は置いといてやるよ!」
しばらくして、ミッドで大事件があったが、羅輯は気にしなかった。
いや、気にする余裕がなかったといったほうがいいかもしれない。
何故なら、彼は一地方世界の教官という役割すら失ったからだ。