-Crisis Era 1-
人類全体が三体危機を知るのはもう一年先であった。
さて、演壇の上にいるのは謎の生物だった。白くて、猫なのか犬なのか不明瞭な生き物であった。
「地球文明の代表の皆さん、こんにちは!ボクはキュゥべえ!」
この第一声で、会議場にいる政治家の全員が不信感をあらわにする。
彼らは海千山千の政治家だ。だからこそ、目の前の生物が悪魔に等しい存在だと感じ取った。
演壇にはもう一人いた。"アジアの淑女"と呼ばれるセイ国連事務総長だ。
「彼の文明は三体危機に立ち向かう地球文明との同盟を表明しました」
彼女の発言が会議場にざわめきをもたらす。
彼の文明?地球と三体以外にも文明があるのか?確かに不思議ではない。四光年先に確かに文明はあるのだから。
しかし、目の前の生物は明らかに嫌な予感がする。何か裏があるのではないのか?
「・・・見返りはなんだ?」
PDC議長であるガラーニンが問いかける。
「それほどのものじゃないよ!とりあえず、君たちの第二次成長期の少女たちを魔法少女にする権利を認めてくれればいい」
会議場の誰もがキュゥべえを睨んだ。明らかに嫌な予感しかしない。
「言っとくけど、君たちが断れるとはボクには思えないよ」
彼がそう言うと、突然、演壇に十代前半の武装した少女たちが現れる。
彼女たちの一人が天井に向かって、銃からレーザーを放つ。
その時、銃口からは魔法陣が展開された。天井は焼き焦げた。
おそらく、彼女たちがキュゥべえの言う魔法少女であろう。
「同盟を結んで、一緒に三体文明を倒そうよ!」
キュゥべえがそう言ったあと、セイは少し間を置いて言った。
「彼の文明との同盟に賛成の国は挙手してください」
手を上げないものはいなかった。
「全会一致によって、国連の名のもとに、魔法文明との同盟を締結します」
セイはそう言って、ため息をついた。
この場にいる政治家、いや人類自体に選択肢など存在しなかった。
三体危機に対して、地球文明はどんな手段を使ってでも、それに対処しなければならなかった。
少女たちを得体の知れない文明に生贄として捧げてでも、三体危機に立ち向かわなくてはならないのだ。
事実、魔法文明の力は強大だ。それはこの場にいる全員が目の当たりにした。
魔法、なんというおとぎ話だろうか!そんなものにすがらなくてはいけないとは!だが、科学は封じ込められた。
地球は魔法だけで三体文明に対抗しなくてはならなかった。
・・・後に、地球側も面壁者という対抗手段を手に入れるが、それはまた別の話だ。