そもそも、その事件自体は羅輯が被害者だった。
彼は突然、数人の女性に取り囲まれて、めった刺しになったのだ。
巡回中の局員がいなかったら、彼は死んでいたに違いない。
幸い、ルーフェンであれば羅輯は人望のある人物だった。
もちろん敵は多いが。そして、敵はその事件を利用した。
なにしろ、女性たちは全員、羅輯から教導を受けていた局員だったのだ。
さすがに、今回ばかりは誰も羅輯を擁護しなかった。
ついに、彼は教官を免職となった。
ただし、局員としてはまだ職がある。それさえも奇跡と言えた。
羅輯の給料はさらに減った。
「くそっ、ぼくが何をしたってんだ!」
羅輯の学問は荒まなかった。生活が荒んだ。
部屋は瞬く間に麻薬常用者の地下室に様変わりした。
床のいたるところに酒瓶と煙草の吸殻が散らかるようになった。
「何してんだ?バカなのか、アホなのか?」
そこに手を差し伸べたのがケンキチ・アイザワだった。
彼は部屋に入るなり、羅輯を罵倒した。
アイザワは本局職員であり、今では数少なくなった羅輯の同期だ。
「まったく、ミッドが大変だっていうのに・・・」
「ミッド?ミッドで何かあったていうんですか?」
「まったく、そういやお前はそういうやつだったな」
アイザワはミッドであったことを話した。
スカリエッティとかいう犯罪者が管理局転覆を目論んだこと。
レジアスおよび最高評議会議員の死亡。
機動六課という組織が事件を解決したこと・・・。
「そりゃ大事件だな。ぼくの事件なんか足元に及ばないね」
「地上本部に来ないか?お前に仕事を宛がってやることはできる」
「いいのかい?ぼくみたいなのが?」
「もちろん、今の状態だったらだめに決まってんだろ?」
彼はそう吐き捨てた。
「だったら、帰れよ」
「おっと、あくまで『今の』状態だ。今のお前を紹介したら、俺まで損するからな」
彼は一枚の紹介状を羅輯に渡した。
「ザンクト・ヒルデ魔法学院の教員になれ。信用を得るんだ」
「へえ、またぼくに教官をやれってか?」
「今のミッドチルダは厳戒態勢だが、お前の教導を受けた奴は実にいい働きをしてる。ヒルデの連中もそこに注目している。もちろん・・・」
「教え子には手を出すなってか?もちろんさ」
羅輯は笑みで返す。
「すまん、やっぱ信用ならん」
「まあ、そう言わずに。ぼくを助けてくれよ」
そして、数週間後に羅輯はアイザワと一緒に出発した。
ちなみに、女性たちは羅輯の政敵たちによって最初は無罪放免だったが、アイザワの努力によって精神病院に入れられてしまった。
この恩人は彼女たちを精神的に殺してしまったのだ。
「お前のような良き友人は二人と得難いけど、それでも憎いなあ」
(・・・やっぱ見捨てるべきだったな)
アイザワは後悔したが、手遅れだった。
ともかく、羅輯はヒルデで社会科と魔法を担当することとなった。
「よし、今日は炎魔法の練習だ!魔力の多い子は戦略をちゃんと練ること!魔力の少ない子は魔力を多い子を倒すための練習にとりかかろう!」
彼の取った手法はヒルデでは画期的なものだった。
彼は魔力の多い生徒とそうでない生徒に分け、お互いが切磋琢磨するようにした。
これは、彼が戦技教導官時代から取っている手法だった。
この方法をとることで、魔力の多い局員は魔力頼りではない洗練された戦術を学び、逆に魔力が少なかったり無かったりするような局員はSランクの魔導士でさえも倒せるようになったという実績もあった。
そして、もちろんこの方法はヒルデでも効果的だった。
「そういうわけで、犯罪をなくすには、刑罰を用意するよりも、皆がちゃんとした生活を送れるようにしたほうが・・・」
社会科はむしろ社会学だった。しかし、彼のわかりやすい講義は生徒に好評だった。
教導官時代も同じような授業をしたのだが、それは軍事力強化を掲げる地上本部と対立した。
しかし、それは昔の話だ。レジアスは死んだのだ。
「実際、軍事力強化の道に行くと、皆飢え死にすることになります。まあ、それはさておき次の話題に・・・」
ある日の授業で、彼は突然、そんなことを言った。
「先生、それはいったいどういうことですか?」
女生徒のアインハルト・ストラトスは手を上げていった。
彼女は四年生にしては、かなり大人びた少女だった。
「おっと、やっぱり食らいつく子がいましたか。それでは説明しましょう」
そこから、彼は無理な軍事力強化によって引き起こされる最悪の状況を説明した。
まず経済の急激な変化による生活レベルの低下。
それと同時期に漂う戦時的なムード。
軍需産業を発達させるための重工業化と、それに伴う環境汚染。
戦時的雰囲気による、環境保護団体などの弾圧。
娯楽規制による人間性の抑圧。
それらの総合によって、食料生産量が激減すること・・・。
「そういうわけで、軍事力強化というのは大変危険な方法です」
そこから、羅輯は福祉政策の重要さを訴えた。
教導官時代も同じような授業をしたが、結局、クビになった。
こうして、半年が過ぎて、ある日のことだった。
「・・・羅輯三等空尉、なんでここにいるんですか?」
高町なのは一等空尉、管理局のエースオブエースだ。
「おや、なのは君。久しぶりだね。見ての通り、今はヒルデの教員をやっている」
「・・・スキャンダルばっかり起こすからですよ」
「今は起こしてないよ」
「・・・ヴィヴィオには手を出さないでくださいね」
その時、「なのはママー!」という声が聞こえた。
声のした方向を見ると、金髪の、オッドアイの少女がこちらに駆け寄っている。
高町ヴィヴィオだ。
「そういえば、君の娘だったね。悪くはない。いや、むしろ・・・」
「スターライトブレイカー」
この一件、さすがに羅輯は何もしてなかったので、なのはが壊れた壁を賠償することになった。
「よっしゃ、ぼくの勝ちだ」
「自重しろ」
羅輯はあとでアイザワに怒られた。
「ママ!先生にあんなことしちゃダメでしょ!」
「ふええ・・・(ちくしょう!あのクズいつか『規制済み』してやるの!)」
なのははこっそり激怒した。必ずあの邪知暴虐な元教導官を除かねばと。
そして、ヒルデ学院の教員になってから、一年が経過した。
「・・・羅輯、何も言わずにこれにサインしろ」
「うん?わかった」
あまりにも自然に渡されたので、羅輯も自然にサインしてしまった。
次の日の朝の番組に、こんな速報テロップが流れた。
羅輯中将が地上本部総司令に就任
その時に口に含んでいたコーヒーは全て無駄になってしまった。