「アイザワ、いくらなんでも無理な話だ」
ゲンヤ・ナカジマはアイザワの申し出を断った。
「ゲンヤ部隊長、お願いします。アイツにチャンスを・・・」
アイザワは何度も頭を下げる。
「確かに、あいつは優秀だよ。だが、俺には二人の娘がいるんだ!」
「お孫さんの顔が見れますよ!だから、だから・・・!」
「もう少しマシな売り文句を考えろ!ルーフェンの件は知ってるからな!」
こうして、アイザワはまた羅輯の押し売りに失敗した。
あの寛容な108部隊にも断られてしまった。
どれもこれも、羅輯の今までのスキャンダルと悪評のせいだった。
確かに彼は優秀な人材だ。しかし、その実績さえもスキャンダルになりかねない。
例えば、教導官時代にフッケバイン一家を全滅させた。しかし、その方法は酷いものだった。
講和を持ち掛け、彼らが一斉に集った場所に次元の裂け目を発生させたのだ。
これで彼らはほとんど全滅してしまった。今では残党が細々と生きているだけだ。
「ああ、これはひどい。あまりにもひどいね」
彼は作戦が成功した時、笑いながらこう言ったのだ。
これで彼はますます「ペテンのルオ」としての悪名を得ることになった。
管理局もフッケバインが壊滅したという報道はしたが、どう壊滅したかは報道しなかった。
この一件で、彼は本局に敵を大量生産してしまった。
「あいつを俺の艦隊に・・・。すまん、想像したくもない」
クロノは口を手で覆いながら言った。アイザワが去った時、背後から嘔吐する音が聞こえた。
「確かに彼は優秀よ。あの人も天才だって褒めてたわ。でも・・・」
リンディは悲しそうに俯いた。
「うちの娘を汚そうとした奴を?帰ってもらおう」
グレアムに関しては、取りつく島もなかった。
アイザワは絶望した。
「ああ、もうだめだ。あんな奴雇ってくれる場所なんて・・・」
その時、ふと一枚の貼り紙が目に入った。
地上本部総司令官求む!
今なら自動で中将になれるぞ!
誰でもいいから地上本部を導いてくれ!
地上本部広報
JS事件以降、地上本部総司令官はどんどん交代していった。
それほど過酷な仕事なのだ。誰もが改めてレジアスの偉大さを思い知った。
しかし、これはアイザワと羅輯に残された最後の道だった。
アイザワは貼り紙の下にある申し込み用紙を全部取っていった。
これで、羅輯が管理局に復帰できる可能性が芽生えた。
申込用紙を全部取ったのは、羅輯のライバルを増やさないためだった。
しかし、実はアイザワ以外に申し込み用紙を取っていったものは誰もいなかった。
「それで、ぼくは今この席に座っているのか」
羅輯の顔はアイザワからは見えなかった。机の上に書類の山があるからだ。
レジアスの後任者たちは全員、この書類の前に果てた。
「そして、ぼくの初仕事はこの書類を終わらせることか」
「そういうことだ。羅輯中将」
羅輯はしばし考えて、こういった。
「丸一日あれば大丈夫だ」
アイザワは思った。こいつの良いところはこの優秀さだ。
そして、一日後。羅輯の上半身は見えていたが、それでも机の表面が見えなかった。
だが、それだけでも羅輯の優秀さが窺える。
「むう、もう少しシステムを改善した方がいいんじゃないかな?」
彼は書類仕事をいったん中止する。
「アイザワ、そもそも再開発地区問題はミッド政府の仕事じゃないか」
「まあ、確かにな。時空管理局の仕事はあくまで治安維持だ」
「でも、逆に考えてみろ。どうして管理局は民生に関わってはいけないんだ?」
彼は「ペテン・スマイル」を浮かべる。こういう時はろくなことにならない。
「それは・・・そういやそうだな。だが政府がなんというか。それに・・・」
「戦力強化なんてクソくらえだ。ぼくの方針を忘れたのかい?」
「ああ、そうだったな。じゃあ、どうするんだ?」
数日後、ミッド政府の重鎮たちにある手紙が送られた。
ミッド政府の皆様。いかがお過ごしでしょうか。
私は最近、地上本部総司令官の位に就いた羅輯という者です。
三日後、私の就任パーティを行いたいと思います。
場所は・・・
重鎮たちのうちで、羅輯のことを知っていた者は招待状を破り捨てた。
さらにその中でも賢明なものはベルカ自治区や別の次元世界に逃亡した。
だが、それ以外は喜んで参加することにした。
「おや、今回の奴はパーティを行うくらいの余裕はあるらしい!ぜひ、その顔を見てみたい」
その判断が命取りだったとしかいうほかない。
翌日、そのパーティ会場がテロ組織によって爆破されたというニュースが報道された。
それと同時に、招待状を破り捨てた者たちは身に覚えのない収賄疑惑で逮捕された。
さらにベルカ自治区に亡命した者たちは次々と不審死を遂げた。
別の次元世界に亡命した者たちは、ミッドに帰れないことを嘆いた。
だが、本局は何も気にしなかった。
ミッドでテロが起こるのは日常で、むしろうるさい連中がいなくなって喜んだくらいだ。
これは怠慢という他なかった。しかし、もっと怠慢と言うべきことがあった。
羅輯が地上本部総司令になっているということに気づいている者は少なかったのだ
レジアスが死んでから、地上本部総司令はどんどん変わっていった。
それ故に、本局はもう興味すら失っていたのだ。
「どうせ今度の奴もすぐにやめるだろう」
さて、トップを失ったミッド政府は羅輯の管轄下に置かれるようになった。
なにしろ、議会を地上本部局員が包囲しているので、言うことを聞くしかなかったのだ。
それでもなお、本局は海の治安維持にのみ集中していた。
「ほれ、民生やれよ。ぼくの言うこと聞けよ」
こうして、羅輯の提案した(強制した)改革が実施されることになる。
これによって、再開発地区の面積はどんどん減少していった。
景気もいくらか上昇した。
そうして、治安も良くなっていった。
人はこれを軍事政権という。
「そうだ。ぼくの家が欲しいな」
アイザワは後悔した。やっぱり、私欲を満たそうとしているのだ。
「そうだなあ、美しい場所が良いな。雪山があって、その下の土地は亜熱帯気候で、湖は深い群青色で・・・」
アイザワはミッド中を駆けずり回って、ようやくベルカ自治区にそんな土地を発見することに成功した。
「よし、いいね。仕事が捗りそうだ。ここでぼくは総司令官として余生を過ごすことにするよ」
「もう俺は何も言わん」
アイザワは何もかも諦めた。羅輯はもともとそういう者だったのだ。
「・・・羅輯先生、どうしたんだろうね?」
コロナは溜息をつきながら言った。
「羅輯先生は色々なことがあって先生をやめることになりました」
数か月前、そう言った担任の先生の顔は暗かった。この世の終わりを迎えたような顔だった。
噂によると、局員時代に彼は羅輯からの教導を受けていたらしい。
「ほんと、今どこにいるんだろうね?」
リオも溜息をついた。羅輯の目つきは怪しかったが、それでも授業は面白かったのだ。
「ほんとだよ・・・なぜかママは喜んでるし」
ヴィヴィオもまた溜息をついた。ちなみに、高町なのはは羅輯が地上本部総司令官の座に就いているということなど夢にも思っていない。
まさか羅輯がベルカ自治区で安穏とした総司令官生活を送っているだろうとは、彼女たちは知らなかった。