あれから三日。羅輯はアインハルトに襲われたことなどすっかり忘れていた。
今日も今日とて、仕事を終わらせた羅輯は書斎で読書に耽っていた。
三十五年もののコニャックを飲みながら。
羅輯はページをめくる。
「アンチ・ヘイトを付け忘れるなんて、ryanziってほんとバカ」
さやかはチック症特有の痙攣をしながら絶望した。
まどかはそんなさやかをもう見ていられなかった。
「さやか・・・チック症」
杏子は後悔した。もっとさやかを気にかけるべきだったと。
その時、一発の銃弾が彼女の胸を貫いた。
そして、ほむらは拘束魔法で身動きが取れなくなった。
「
杏子を銃殺したのも、ほむらを拘束したのも、マミだった。
こうしている間にも智子は彼女たちの周りを飛び交っている。
人類は永遠に智子の軛に苦しむことになったのだ。
三体艦隊は450年後に太陽系に辿り着く。
「それはそうと、彼氏欲しくないか?」
「うん!もう未婚なんて言わせない!」
彼女は喜びのあまり、注意力を欠いた。
それが彼女が未婚のままで死んだ原因となってしまった。
史強は封筒で、拳銃を握っていた手を隠していたからだ。
何はともあれ、アンチ・ヘイトのタグをつけときました。
羅輯は本を閉じた。
この本はかなり前衛的で、どこから読んでも内容が理解できないことで有名だった。
その時、部屋に使用人のケントが入ってくる。
「羅輯司令官に会いたいという方が玄関のほうに」
「うん?わかった。すぐに行くよ」
玄関のほうに向かいながら羅輯は考えた。
アイザワだったら、事前に連絡をしてくるはずだ。
トヨタロウも同じだ。では、誰が来訪してきたのだろう。
その答えは玄関に着いて明らかになった。
「・・・久しぶりです。羅輯司令官」
ティアナ・ランスター。
かつて羅輯の教え子だったティーダ・ランスターの妹だ。
葬儀以来、十年ぶりだろうか。
「久しぶりだね、ティアナ・ランスター執務官」
気まずい空気が流れる。それを見ているトヨタロウは冷や汗を流している。
「ここまで遠かったから疲れたんじゃないか?ラウンジのほうに案内するよ」
ティアナは羅輯の申し出をきっぱりと断った。
「いえ、大丈夫です。すぐに済むので。・・・アインハルト・ストラトスをご存知ですよね?」
羅輯は思い出したくもない事を思い出してしまった。
「・・・言っとくが、ぼくは気にしてないからな。あの年齢だったらよくあることだ」
羅輯は溜息をつきながら言った。
「いえ、本題はそこじゃないんです。あなたが地上本部総司令官なのか確認しに来ただけです」
「ぼくが地上本部総司令官なのか確認しに来たって?」
羅輯は素っ頓狂な声で言った。
彼女はわざわざ確認しなくてもいいようなことを確認しに来たのだ。
「やっぱり、ぼくが地上本部総司令官っていうのをみんなは知らないのかい?」
「ええ、私も最初に聞いたときは驚きました」
羅輯はとても腹が立った。
やっぱり、本局の人間は地上なんぞに興味がないのだ!
ふん、それなら都合がいい!もっと私欲を満たしてやる!
「アインハルトから聞きました。彼女もあなたの教え子だったんですよね」
「ああ。まあ、私から教えれるようなことはなかったね」
「・・・そうですか」
「言っとくが、ティーダはもっとすごかったぞ。ぼくの方が逆に教えられたくらいだ」
羅輯は大げさな手ぶりで話した。
「今思い出してもイライラするよ。あのクソッたれの上司は。誰が無能だ!お前の方が無能だってんだよ!」
羅輯ははっとする。なんという醜態だろうか?
彼は顔を赤らめた。
「すまない。ぼくとしたことが怒りに囚われて」
それを見て、ティアはふっと微笑んだ。
「相変わらずですね、羅輯司令官は」
もともと、ティーダが戦死する前から、羅輯とティアナは面識があった。
会うたびに、ティーダは嬉しくなさそうだったが。
「ところで、ゆっくりしていかなくていいのかい?」
「ええ、確認はしたので。・・・本当に先日のことは気にしてないのですか?」
「ああ、気にしてないね。ぼくがどれくらい管理局に勤めてると思う?」
羅輯は普通に笑った。
「ふふっ、それもそうですね」
そして、彼女は去り際にこう言った。
「・・・兄はあのお酒が大好きでした。本当にありがとうございます」
彼女は誰が兄の墓にあの酒を供えたのか知っていたのだ。
そして、彼女が訪問したことで、本局に激震が走ることを羅輯は知らなかった。