羅輯は、あの前衛極まりない本を読んでいた。
仕事の後に読むのが習慣になってしまった。
まだ途中だというのに、もうクライマックスだった。
しかし、この本はどのページもクライマックスなのだ。
地平線の向こう、オールトの雲の彼方。
「いいのか杏子?もう地球には帰れないぞ?」
「何回目だよ、ベイおっさん。もう未練なんてないさ」
杏子はそう言って章北海を抱きしめる。
彼らの足は透き通っていた。
スターチャイルドとなった彼らに実体は不要だった。
「あっ!ほら見ろよ!あれ
杏子は窓の向こうで飛んでいる丁儀を指差す。
彼はいざというときのために球電爆弾を体に埋め込んでいた。
それによって、彼はマクロ原子に分解され、幽体となったのだ。
「それだけじゃない、杏子。あれを見ろ」
章北海は
自然選択と違い、船ごと幼年期の終わりを迎えたのだ。
彼らだけではない。地球もまた三体星系に向かっていた。
一万基のロケットエンジンにより、地球は光速に達していた。
相変わらず前衛的な小説だった。
つい数ページ前ではリック・デッカードと時女一族の決戦が展開されていた。
しかし、数ページ後にはこれだ。
「さて、次のページはどうなるかな・・・」
こうして羅輯が読書に耽っている頃、本局には激震が走っていた。
「あ、あ、あ・・・ちょっと、トイレに行ってくる」
そう言ったクロノはトイレに駆け込んだ。嘔吐音が交響曲を奏でる。
「・・・それ本当なんやな?」
「うん、ティアナが報告してくれたの」
高町なのはが告げたのは驚愕の真実だった。
本来、こういったことは書類を見れば羅輯が司令官だとわかるはずだった。
しかし、本局の人間は地上本部と関わることをあまり好まなかった。
これはJS事件の影響もあった。
「・・・(やっべ、大変なことになっちまった)」
アイザワはなんとか平静を保とうとした。しかし、狸の前には無意味だ。
「アイザワ准将、知っとったんやな?」
「さ、さあ・・・何のことやら、俺にはさっぱりだ」
もはや意味のない行動だった。
「アイザワ准将。アンタはそういえば羅輯中将と同期やったなあ」
「・・・仮にそうだとして、それがなんだ?」
アイザワはついに決断した。開き直ろうと。
「俺を含めたアンタらはずっと地上のことを放置していた!」
アイザワの叫びが会議室に響く。
「でも、今はどうだ?奴はやり遂げた!レジアス以上の偉業を!どうだ?アンタらは文句を言えるのか?やつは実績を上げた!レジアスもかつての最高評議会も、奴の前では無能だったんだ!」
彼の言っていることはもっともだった。羅輯のおかげで、今のミッドチルダがある。
彼の発言に、誰もが沈黙するしかないと思われた。
だが、八神はやては違った。彼女はきっぱりと言った。
「アイザワ准将、アンタはあのペテン師に人々の命を預けたんか?」
「ああ、何が悪い!」
「羅輯は控えめに言っても、社会をゴミ捨て場だと見なしているゴミみたいな人間や」
八神はやては羅輯と会ったことがないので、これは彼女の偏見である。
しかし、ある意味では的を得ているともいえた。
「はやてちゃん言い過ぎだよ・・・」
なのはは羅輯と同僚であったこともあり、まだ羅輯のことをよく知っていた。
彼女でさえも、一度は彼に体を許してしまいそうになったくらいだ。
「なのはの言う通りだよ!ゴミに失礼だよ!」
まあ、フェイト・T・ハラオウンの妨害でうやむやになったが。
「そうだぞはやて。ゴミに謝らないと」
ヴィータもまた妨害に加わった一人だった。
「・・・」
シグナムは何も言わなかった。だからと言って、特に思わないところがないというわけでもない。
とにかく、この一件で本局は極秘裏にある暦を制定した。
危機紀元
羅輯危機に直面した本局。
ある職員はこう言った。
「なにが起きるしろ、それは少なくともそれはもうはじまってしまった」