壱章 朧夜
今、私は驚愕していた。こんなことは有り得ない、いえ、有り得てはならないことなのです。だって、だって目の前に死んだはずの父が何事もなかったかのように平然と佇んでいるのです。私はあまりに突然の出来事が起こった、この現状について頭がついていかなくなった。
幾ら理由を考えてみても、思考を重ねても思い当たる節が何処にも見当たらないのです。しかし、父は正確には''行方不明''になっているだけであって、死亡と断定されている証拠は何もない。けれども、行方を眩ましてからはもう七年以上経過しています。警察の方々も生存している見込みは薄いと言っていたのに。それともあれは嘘だったのでしょうか?
いえ、そんなことは決してないはずです。父は家族思いの人だった。心優しい人です。そんな人が家族の事情をほったらかして、何も言わずに去るなんて断じて有り得ません。何かしら事情があった。私は目の前の父がそう言ってくれることをただただ信じるしかなかった。しかし、現実は非情だった。目の前の父と思わしき男は、そっぽを向きながら、こう答えた。
「突然、親父が出てきてビビったか?だろうな。ハッハッハッハッ!………………だが奴は死んだ。無様に泣き叫んでやがったな。「俺の命はやるから、家族だけは助けてくれ」だってさ。あれは滑稽だったぜ。いかにも人間らしく卑しい言葉を吐いてやがったな。」
ふざけた声の高さで軽々しく真実をソイツは打ち明けた。あっさりと希望を打ち砕かれてしまった。心の奥でガラスが砕け散ったような感触がする。父は何のために、死んだのでしょうか。果たしてそこに意味があったのでしょうか。そして、目の前にいるこの父の姿をしたこの者の正体は一体………?
「じゃ、じゃあ貴方は一体誰なんですか………?何者なんですか!!?それに父は、父はどんな最後だったのですか!!?」
私の声は若干震え声になっていた。ですが、悲しみと怒りの感情に身を任せ、私は尋ねた。真実が知りたかった。そうでなければ、母は何のために身を投げ打ってまで父を迎えに向かったのか。もし、母が向かっている間に父は既に死んでいたなら母の思いが無駄になる。そう思うと許せなかった。
すると、ソイツは少し困ったような表情をとったが再び不気味な笑いを見せ、口元を私の耳元まで近付け、小さな声で囁き始めた。
「お前の父さんはな……………………
私が殺した。腹わたをぶち抜いてな。
答えはそれだけで十分だった。コイツが何者かなんてもうどうでも良くなった。殺してやる。憎しみの感情が身体から込み上げてくる。許せなかった。父もそうだが、一番母が不備です。報われない。腕が動けば、今すぐにでも殺してくれるのに。私は動けないことに腹が立ちながら、歯ぎしりをし、怒りの目線でソイツを睨めつけた。
しかし、ソイツは一方引いたが、怖がる様子を見せる処か楽しんでいるような表情をとった。
「おお、怖い怖い。良くないぞ、そんな顔を女性がしちゃ。折角の美人が台無しになっちまう。」
「クッ………!」
「……んあぁ、まぁいい。処でこの身体だったか?何で持ってるのかって?貰ったのさ、お前の父さんにな。皮を食ってその姿を真似たのさ。旨かったぞぉ、やっぱり人間の味は絶品!後は、酒でもありゃ最高なんだがな。そう巧いことはない。」
「…………!?」
「更にムカついたって顔してんな。良いぞ、好きなだけ憎め。どうせお前ごときの脅しじゃ何も感じないし、お前では私は殺せない。これでも私はあの百足や人間組体操で出来た神と同じなのさ。人間風情のお前には何も出来るわけないだろ。」
そう忠告を受けたが私は我慢の限界を迎え、一か八かそいつに一矢報いようと飛び掛かろうとした。しかし、その捨て身の行動も水の泡となった。
飛び掛かろうとした直後に、血のように真っ赤に染まった糸のような粘着物が腕や脚に絡み付き、身体がピクリとも動かなくなったのです。
「なっ………!?これは………!?」
私は慌ててその糸を身体からほどこうと試みましたが、糸はほどこうとすればするほど、更に絡み付いていき、ついには身体が全く動かなくなるほど絡み付いてしまった。
すると、近くの茂みからあの時に見た蜘蛛なのかアメンボなのかよく分からない得体のしれない生物が出現した。よく見ると糸はソイツの口元から射出されている。
そこまでして、私や父を狙った理由が知りたい、知りたくてたまらない。どうして…………?気づいたときには、私は大声で尋ねていた。そうでなければ、気持ちを押さえられなかった。胸が張り裂けそうになります。
「ずっと、ずっと見張っていたということですか!?何故ですか!?何の為に?」
すると、ソイツは険しい表情へと変わり、周りの蜘蛛(?)達も威嚇する体制へと移行する。
何か気にさわること言っていないのに。私はただ知りたいだけなのに。
そして、ヤツの姿が変わっていく。手足は恐竜のような腕へ、皮膚はゴツゴツとした黒焦げの岩のような形へ、更に巨大化し遂に正体が分かった。
しかし、遅すぎた上に勝てる見込みが0に等しかった。何故ならば、ソイツがあの時に出会った燃える怪物の正体だったから。
「………口答えをするな。この出来損ないの種族め。お前はただ、私に、従えばいい。」
身体が動かない。全身を縛られているからでも、腕を怪我しているからでもない。それは恐怖によるものだった。圧倒的な存在を前して、本能で感じた恐怖。全身から冷や汗が溢れだし、瞳から涙まで出てきそうになります。嗚咽までも漏れそうになる。それぐらいヤツに移る【真っ赤な瞳】が恐ろしかった。まるで命そのものを焼き付くしてしまいそうなくらいその瞳が。
ソイツは私を脅した後、元の人間の姿に戻り、蜘蛛の怪物を引き下げる。私に絡み付いた糸は全て剥がれ落ち、自由の身となりました。
しかし、やはり身体が動かない。ヤツも憎いことにそれを知っていて、わざと解放したのでしょう。私が逃げることも出来ないと知っていて。
彼は面倒そうに手を腰に置きながら、耳を書き始めました。そして、私にとって第2の悲劇の事情を喋り始めたのです。
「あぁ、そうだ。道端でちっちゃい小娘に出会ったんだ。女を必死そうに担いだ娘がな。工場でお前を探すように頼んだんだが、怯えて逃げだしちまったんだ。まぁ、無理もないが………愚かにも私の前から逃げ出しもんでな。少々、お仕置きをしてやったんだ。」
「えっ…………それってまさか…………。」
「名前は………確か…………あぁ、そうだ。【ことも】だったっけな。目玉を一個潰してやった。水風船を針で割るように一発で。ヒヒ。」
そんな…………。あの子は今まで怖い思いを散々味わってきて、もう2度と体験したくないはずなのに、それなのに…………。なんてことを…………。
私は全身の力がスルッと抜けていく感触がした。唯一、希望であったこともさんにも危害を加えられてしまった。もう彼女はここには戻ってきてくれはしないでしょう。
あぁ……………。折角、清々しい気持ちで逝けると思ったのに……………。ついに我慢していた涙腺も崩壊し、静かに涙が頬を蔦る。
「さて、邪魔者も消えたんだ。今夜から寝かせねぇぞ、ウフフ。折角だから、景気よく挨拶でも言っとくか。すぅーーーーーーッ
僕の名前は【ルーシー】ッ!!よろしくッ!!」
大声で気前のいい自己紹介をした後、ヤツは満足そうにウヒャヒャと笑い転げている。寝ていた鴉がそこ笑い声に驚いて、森の中から辺り一面に飛び立つ。今まで、綺麗な音色を奏でていた夜虫も沈黙しています。
私は怪物に取り付かれたみたいです。とことんついてないですね……………。ろくなことが起こった試しがない。私は不安でたまらなかった。
私にとっての本当の「
今回、出てきた蜘蛛のようなナニカは【ブラッドストーカー】です。分からない人はインターネットで調べてから見返すと面白さが倍増するかもしれません。
後、もの凄く今さら感があるのですが、投稿主は文章力が皆無です。もし、誤字脱字等発見したら、これまで通り是非訂正をお願い致します。