学校のほうでテスト期間に突入してしまったり、旅行の準備やゲームやらなんやらやっていたら、いつの間にかこんなに時間が経ってしまいました。
お詫びにもなりませんが、少し長めに話を書きました。
どうぞ、再び夜の世界へ
火事場の馬鹿力とはこの事を言うのでしょうか。今、私は腕を折られて激痛が走っているはずなのに、逃げるのに必死で痛みが全く感じられない。
いえ、正確には痛みはあるけれど、気にしている余裕がないだけなのか。
なんにしろ、今私はかなり絶望的な状況下に置かれています。
というのも、背後から無数の影が私を殺そうと躍起になって追いかけてきているのですよ。
それも、五、六体なんて生やさしいものじゃない。数えてみても、軽く見積もって二十体近くの怨霊がいる。
今まで、影達には幾度となく追いかけられた経験はありますが、こんな大群が一度に追いかけてくるなんて一度もありませんでした。
何かが違う。これまでと異なる点といえば、隣に気に触るほど腹が立つこの男がいることぐらいでしょうか。
今も私は足がもげそうになるくらい全力で走っているというのに、この男は空中をスイスイと漂って後をついてくる。
非常に腹立たしい気持ちになりますが、今はこいつよりも後ろを追いかけてくる影達をなんとかしなければ。
対策法を考えるために走りながらではあるが、周辺を見回し、状況確認を行う。
しかし、何処を見渡してもそこにはあるのは、家や小さな塀のみ。使えそうな小道具も、やり過ごすための隠れ場すらない。
これは困りましたね……。
そう思った直後、前方に見覚えのある「物体」が見えた。無数の触手に能面のようにツルツルとした頭部に加え、触手が持っている大きな袋。
そう、また私は【よまわりさん】に出くわしたのです。
「はッ………………!?」
あまりに突然のことで思わず、困惑の一声が漏れる。何故、ヤツがこんなところにいるのか私には分からない。
しかし、後ろから追いかけてきている影の大群よりも不味い者と出会してしまった。幸い、彼は気付いていない様子なので、抜き足差し脚でその場を切り抜けようと試みる。
よまわりさんの目の前で、幻覚なのを良いことにルーシーが小馬鹿にしたような態度をとっている。下唇を引っ張って変顔をしたり、変な踊りを踊っていたり。
どうでもいいので無視しましたが、もし見えているのだとしたら、刺激してしまわないかと少し心配でもあります。
しかし、その予感は的中してしまい、よまわりさんの視線が此方へと向けられる。
私は背筋に冷や汗が蔦るのを感じました。この後、彼は私に何をしてくるのか予測できるから。
「……………クッ。」
半分諦め気味な声を漏らしましたが、予想は当たっていた。私は一瞬のうちに視界が遮られ、辺りの風景が真っ暗に思えました。
そして、数十秒も満たないうちに意識を失ってしまいました。
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目を覚ますと、私は見知らぬ地へと放り出されていました。錆くさい鉄の臭い、茶色に染まった金属製の壁にあちこちに響き渡る作業場のような機械音。
私は取り敢えず体を起こして立ち上がり、辺りの様子を伺う。
私はここに見覚えがありました。瞬時に分かった。
そう、ここはかつて友を助けにきた時に訪れた工場。よまわりさんは私の友を浚い、ここまで誘拐してきたのです。そして、今度は私の番。
あの時、遭遇した瞬間に察しましたが、案の定ここに再度来てしまうとは……………。
分かってはいた。分かってはいましたが、いざまたここに来てしまうとなると非常に悩ましい。何せこの工場の中は迷路のように入り組んでいると聞きました。
脱出を図るのは困難を極めるでしょう。更には、とても鬱陶しい男までしっかりとついてきている。
「おいおい、何やってんだ?あの紳士(笑)に誘拐されるほどお前は間抜けだったのか?全く、これだから人間っていうのは鈍足で困る。拍子抜けも良いとこだ。」
と私に対して彼は煽ることを止めない。ドンドン私の冷静さを奪っていくほど余裕綽々な様子に腹が立つ。
頼みますから、一人でここから出る方法考える時間を下さい!………………と叶うはずもない願いを願ってみましたが、無駄な抵抗ですね。それに、彼に屈すれば心に漬け込まれ、利用されてしまう。
それだけはなんとか避けねばなりません。
でないと殺された父に顔向けができないから。
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あれから数十分ほどさ迷いましたが、一向に出口が見つかる気配がありません。それどころか、工場の影達の数がドンドン増えていき、攻撃的になっているのです。
ですが、原因は察しています。おそらく隣にいるルーシーが元凶であるのでしょう。
彼は自分のことを「神に近い存在」と言っていた。そして、あの残虐性のある性格。彼に殺された人は無数にいるはずです。
影達はそんな彼に強い憎悪を抱いている。しかし彼は今、幻覚で私の頭に住み着いています。
気配は感じられるものの、姿が目視できない。それで、ルーシーを宿しているこの私を殺そうと躍起になっているのでしょう。
しかし、迷惑な話です。気配がするからという単純で根拠もない理由で、襲い掛かるとは…………。
そんなに、怒りをぶつけたいならば、直接会ってぶつけてほしいものですよ。
まぁ、それが出来ないほど彼が強力な力を放っていて、近寄りたくもない気持ちも理解できますが。
思考に耽っていながら、探索をしていると棄てられて錆びまみれになっている廃車の影から光がチラチラと見えているのが見えました。
今度は、何ですか……………!?影達の一種ならばまだしも、よまわりさんだとするともう逃げ場はありません。後ろは瓦礫の山で塞がっていた引き返すことは不可能。来ることはできても登れることができない。
と、兎に角隠れる場所はないでしょうか………!?
私は瞬時に辺りを見渡し、手頃な大きさの隠れ場を探す。しかし、どこを探しても見つかる気配がありません。それどころか謎の光は此方へと向かってきている。今度こそ、終わりかもしれない。けれど、それではあの男に復讐することすらままならない。どんなにあの男に弄ばれようと構わない。生きて、両親の無念を晴らすのです。
一か八か、私は光の方向へと飛び出し、猛スピードですれ違うようにこの場を切り抜けようと考えました。脳の中に居座っているルーシーはその考えを瞬時に読み取り、私に皮肉を浴びせてきました。
「おい、お前正気か?そんな突破方じゃ一発でおしまいだ。何故そんな簡単なことすら分からない?これだから人間っていうのは困る。潔く私を受け入れて「助けてくれぇ」って頼めやいいものを。それしか、今のお前には道がないんだぞぉ?」
再び煽ってくるルーシーを無視し、私はこの場を切り抜けることに神経を集中させる。貴方に屈してはそれこそ、私の敗けだ。敗者だ。臆病者と罵られ、殺される。
私は歯を食い縛った後、光が横を向いた隙に、反応できない速度で駆け抜けようと試みました。しかし、私は余りにも踏ん張りをつけすぎてしまったのか、足を踏み外し、盛大に転んでしまった。
(しまッ………………!?)
「キャッ!?」
気づいたときには、時既に遅しだった。倒れた拍子に折れている左腕から倒れ込んでしまい、凄まじい激痛が全身を襲う。
しかし、今はそう言っていられる状況でもなく、私は右手を使って即座に立ち上がり、全速力で走りはじめる。
「待って!」
その場から立ち去ろうとしたその時、背後から聞き覚えのある声で呼び掛けられた。
私は足を動かすのを止め、声を冷静に分析しました。
まだ、何日も経っていないはずなのにとても懐かしく聞こえる少女の声。
まさかと思い、後ろを振り返る。
そこには「友」がいた。いや、正確に言えばその友本人ではない。その姉です。「友」と似た顔つきで、綺麗な茶髪。間違いない、彼女の姉です。あの時、初めて出会ったときのまま。
どうして、このようなところにいるのでしょう。
彼女は今頃、病院に搬送され、入院しているはずなのに。
それほど深い外傷や具合が悪かったところがなかったと思うべきなのでしょうか。
何せよ、この場をまずは離れて安全な場所に避難せねば、ろくに話もできません。私は彼女の腕を折れていない右手で掴み、近くにあった人二人分入れそうな大きさのコンテナの方へ駆け出した。無言でいきなり掴まれた彼女の顔は困惑していて、混乱しているようでしたが、今の私には気にしている余裕はありませんでした。
コンテナの中へ彼女を連れ込み、一呼吸置きました。退屈そうに、ルーシーがフワフワと漂っているが、私は無視を続ける。
彼女には聞きたいことが沢山あった。あれから、助けられた貴女はどうなったのか、こともさんは安否はどうなったのか、無事でいるのか、心配でたまらなかった。
物凄く質問をしたい衝動に刈られたが、気持ちを押さえ彼女に話しかける。
「あ、あの……………すみません、焦っていたものですから、無理矢理引っ張ってきてしまって。お怪我とかはないでしょうか?」
「あ、い、いえ!こちらこそごめんなさい!貴女と正面から話すとどうしても緊張してしまって…。ほ、ほら、妹の件でお世話になりましたし………それに貴方って大人っぽくて魅力的っていうか…………」
「…………え?」
最後のほうの言葉が小声になっており、僅かに聞き取れず、私はもう一度彼女に聞き返す。彼女は少し頬を赤らめて慌てた様子で、こちらに返事を返してきました。
「い、いえ!なんでもありません!そ、それよりどうしてこんなところにいるんですか?病院に入院していると聞きましたが…………。」
「…………それは此方の台詞ですよ、貴方こそてっきりあの時以来、まだ病院にて治療を受けていると考えていたのですが…………。」
「…………実は、私より妹のこともの方が重症なのです。私のために目に傷を負ってしまったみたいなのです。眼球が完全に潰されているらしく、回復は望めないって…………。」
今の一言で全身に電撃でも走ったかのような衝動にかられた。それと同時に強い罪悪感にも襲われた。何故ならば、原因は既に分かっているから。それは今、現在隣に居座っているルーシーという男によるものだからだ。
史実、彼は自ら「彼女の眼球を水風船を針で割るのように潰してやった」と言っています。
しかしそれは、実質私を庇った上でやってくれた事だと思っている。それがなければ、今頃私はこの男に最も酷い目に合わされていたことは火を見るより明らか。
そうですか………私はこともさんに2度も救われたのですか……………。どうしようもないほど悲しい感情が込み上げてきて、無力さが身体を痛感する。会わせる顔がない。胸がズキズキと痛みだし、右手で押さえ、顔を俯かせる。
しかし、その様子を察したのか彼女、こともさんの姉は私の右手を取り、こう語りかけてくれました。
「…………私達姉妹に手を貸してくれた貴方には、大変なご恩があります。もし、今何かに苦しんでいるならば私達に手助けさせてくれないでしょうか?」
それは私にとってとても頼りになる言葉でした。人から受け取る優しさがこんなにも暖かいものか知るよしもなかった。 私は人を受け入れることをいつしか忘れていたらしい。
自分でも実感が湧かないほど、私は苦しみの渦に巻き込まれていたようで、彼女の手を強く握り締め返した。
しかし、それも束の間。 現実は私を受け入れることを許してはくれなかった。
あの男がいる限り、逃げる術はない。
すると、彼女の顔が徐々に震え始めた。初めは痙攣か何かかと思いましたが、予想は外れた。
震え始めたかと思いきや、今度は今まで私を握り締めていた優しい手の肉が泥々に溶け始めたのです。
次第に溶化していく彼女の身体の所々からは蛆が這い出してきており、より化け物に近い体つきになっていた。目玉、耳、鼻、口、爪の間、あらゆる箇所から湧き出していて、ホラー映画にでも出てきそうな姿へと変貌した。
私は彼女の変わり果てたその姿に恐怖を覚え、思わず握り締めていた彼女の手を手放してしまった。
「ひ、ひッ………………。」
声が恐怖で震えていた。私は思った以上に怯えていた。ゾンビのように爛れた彼女はまだ、私の手を握り締めてこようとしてくる。そして、歯が抜け、ボロボロに歪んだその口をゆっくりと開き、こう言った。
「オ、オマエノセイデ……………。」
「オマエノセイデイモウトノメガツブサレタンダ……………。」
「…………ッ!?」
改めて事実を突き付けられた私は、心の奥に穴が空きそうな感覚に陥りました。ルーシーが言ったことは嘘じゃなかった。何処か私は、彼が言ったことは私を陥れるための嘘だと、信じたかった。希望を抱いていた。
でも、違った。
私の、私のせいだ。
私があの時、一緒に送ってあげていたら…………少なくとも目が潰されていたのは、私だったかもしれないのに。
彼女、こともさんの姉は限界まで溶けきっていて、もう元の原形を留めてはいなかった。おぞましい肉と血の海が目の前まで広がっていく。
吐き気が込み上げてきて、つい手を口に当ててしまった。さっきまでいたはずのお姉さんがどうして……………。どうして……………?
私は恐怖と罪悪感に耐えることができずに、後退りを始めた。そして
「う、あぁぁぁッ………………!」
言葉にならない悲鳴を上げ、私はコンテナから飛び出して逃げ出した。もう訳が分からない。
何故、何故こんなことに……………!?
宛もなく私は、ひたすら工場の中を走り続ける。ただ、ひたすらに走り続ける。
段々、視界も歪んできました。 まるでトリックルームにでもいる気分です。辺りの風景がぐちゃぐちゃに掻き回されて、断層みたいに歪みきっており、自分が何処を走っているかすら定かではない。
そのどろどろに溶けてゆく彼女の姿がショックだったというより、寧ろ言われた内容のことが頭から離れなかったのです。
お前のせいで妹の目が潰された
あの一言が頭から離れない。あんなに優しく接してくれたのに、突然こんなことを言われるなど思ってもみなかった。想像もしていなかった。
それとも、彼女はわざと私に優しく接し、最初から心を折るつもりだったのでしょうか…………?
考えても分からない。理由が理解できないのです。裏切られたようにしか思えて仕方がなかった。
そんなことを思考しているうちに、私は工場の入り口の前で佇んでいた。
ここまで来た経緯はほぼ記憶にない。気が付いたときにはここまで来ていたのです。今ならば、この工場を出る絶好のチャンス。この巨大な門を力一杯押すことが出来れば、この不気味な工場から脱出は目前だろう。
しかし、私にはそれが出来なかった。
罪の意識が脱出を望む私の心の邪魔をする。何度、門を開けようと触れるも自然と力が入らない。
ここに閉じ込められているこの状況こそが、私にとっての罰なのではないか。それが呪いなのか運命なのかは定かではない。それを知るのはまさに神と名乗るこの男のみこそ。
「それみたことか。やっぱりお前らは、私の助けを借りないとこの先、生きていくことすらできないんだよ。あの美喜子とかいう女もそうだったな。自分一人でも生きていけるなんて抜かしてた癖に、今はどうだ?勝手に落石に巻き込まれてあの有り様。無様にも程があるぜ。その証拠にほら、今の自分の姿を見てみろ。あの女と何が違う?」
そう言われた瞬間、辺りの風景が一気に暗黒に包まれたように思えました。確かにその通りかもしれない。
彼の言うとおり、私は病弱で貧相。さらには、性格も歪みきっていて、一時期自殺も考えたほど。一人でなんて生きていける自信と力なんて微塵もありません。両親の恨みを晴らすなどと甘い理想を抱いていたのがそもそも間違いだった。両親も無しで生きていくなど、端から無理な話だったのです。
もう、生きるのに、疲れた。
休みたい。
何か、何かすがるものが欲しい。
臆病者と罵られても、負け犬だと馬鹿にするのも構わない。
ただ、疲れた。耐えられない。
私は死人のようにゆっくりとルーシーと名乗る男の前まで歩き、ひざまずいた。そして、こうお願いした。
「助けて下さい……………お願い…………します…………… 。」
そう彼に悲願すると彼は待っていたかのように、目を赤く発光させ、不気味なまでに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
告知ですが、後2~3話ほど作成した後に一旦この物語は終了して新しい物語というより続編のようなものを書こうと思っています。
気になった方は投稿の際にお知らせいたしますので、楽しみにお待ち下さい。