【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α   作:兼六園

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後日談 前

「──よし、傷は塞がったわね」

「あれからたったの2日で完治って……マジの野性動物みたいだなこいつ」

 

 生徒会室のパイプ椅子に座り、若狭悠里に露出した右足を見せていた古木紫陽花は、そんなツッコミを恵飛須沢くるみに入れられていた。

 

「獣の面を着けていた小娘を野性動物と揶揄するとは、いとをかし」

「くるみっ、失礼でしょ」

「いや、すまんすまん」

「気にしておらんよ、悠里殿」

 

 マチェットを受け止めた足の裏の傷も塞がり、念のためにと包帯が巻き直された足を下ろして来客用のスリッパを履く紫陽花にそう言われ、納得のいかない顔で悠里が返す。

 

「もう、気軽に『お姉ちゃん』で良いのよ?」

「断る……」

「なんで? 頼っても良いのよお姉ちゃんを」

「断る……」

 

 ──ふふ、うふふふふ。と妖しく笑いながら光の灯っていない瞳を向けられる紫陽花が、するりと逃げて対面に座るくるみの後ろに隠れた。

 

「やーい嫌われてやんの」

「……むむむ」

「儂は他人にベタベタされるのは好かん」

 

 頬を膨らませてふてくされる悠里を前に、紫陽花に盾にされながらシャベルを磨くくるみは不敵な笑みを浮かべる。それから生徒会室と廊下を隔てる扉が開かれ、その奥から佐倉慈を筆頭にゆきと美紀、圭が入ってきた。

 

「む……佐倉女史」

「お母さんじゃん」

「──くるみさん!」

「……?」

 

 新しく得たからかう用のネタでさっそくと弄るくるみに慈は声を荒げる。原因であるが意識が朦朧としている時に発した言葉を覚えていない紫陽花は、疑問符を浮かべつつ首を傾げていた。

 

「……ごほん。それはそれとして、紫陽花さん。セーラー服が乾きましたよ」

「そうか、かたじけない」

 

 畳まれた黒い衣服──数日前に着ていたセーラー服を手渡され、()()()の紫陽花はそれを広げて感触を確かめる。

 愛着があるのだろう目尻の緩んだ紫陽花を見ながら、反して洗濯に四苦八苦していた美紀たちは疲れたようにため息をつく。

 

「いやあ、大変でしたね。あの制服と紫陽花ちゃん、返り血を浴びすぎたのか洗っても洗っても汚れが落ちないんですから」

「シャワールームの床一面が真っ赤に染まったときは本気でビビったもんな」

「そうであったか」

 

 気絶している内に洗ってしまおうと親切心を向けたが最後、数時間に及ぶ洗濯大会が開催された事を思い出して、その場の紫陽花を除いた参加者全員が渋い顔をする。

 

 ──そして、おもむろに自身の体操服を掴んで脱ぎ捨てようとする紫陽花をくるみが見た。

 

「では早速」

「──ってあーあーあー! 馬鹿野郎こんなとこで服脱ぐなって!」

「む、む」

「女同士でも恥じらいをだな……」

「なんじゃ……別に減るものは無いぞ。ああ、中指が欠けて体重が少し減ったがの」

「弄りづらいジョークはやめろぉ!!」

 

 

 

 

 

「──ふ、腹筋で負けた……」

「くるみ殿もいい線を行っておるぞ」

 

 着替え終えた紫陽花は、打ちひしがれるくるみを横目に体操着を畳んで長机に置いた。

 見慣れた黒いセーラー服姿の紫陽花が椅子に座り直し、それなら左手をぐっと握り込む。

 その手には包帯が巻かれ、中指があるべき部分がポッカリと空いている。

 

「……まだ握れるかの。ところで儂の刀はどこにある? それとお面を返してほしい」

「あー、えー、その……」

 

 口ごもる慈を見やる紫陽花は、代わりに口を開いた美紀に目線を向ける。

 

「あの刀は隠してあります。助けてくれたことには本当に感謝をしているけど、それでも警戒をしておくに越したことはないので」

「──妥当じゃな、理解はしておる。ならばお面だけでよい。二度は言わんぞ、返せ」

「……アレ、割れたの知ってます?」

「顔面に銃弾を叩き込まれたのだから割れるに決まっておるじゃろ」

 

 くぁ……と小さくあくびを漏らしながらも言い切った紫陽花に、今度は向かいに座っていたゆきが声を出した。その手に握られていたのは、割れた狐のお面の右半分。

 

「じゃん!」

「……紐?」

「そう、また頭に結べるように千切れた紐を接着剤でくっつけたの!」

「……どれ、貸してみろ」

 

 受け取ったそれの断面はヤスリ掛けされたのか滑らかになっており、眼帯のように斜めに接着された紐が伸びていた。

 右側頭部に被せたそれを隣で復活したくるみに押さえてもらいながら、後ろ手に紐を結ぶ。落ちないように固く縛った紐から手を離し、落ちないことを確認して紫陽花は辺りを見渡す。

 

「──でん」

「なんの効果音だよ」

「……ふむ、ううむ……」

「あん? どした」

「──いや、なんでもない」

 

 ──あの獣じみた力をいまいち感じない、と内心で独りごつ。感覚で言えばおおよそ五割。文字通り半分といった所だろうか。

 とは言え、もう必要は無いのだろうかと、燃え尽きた殺意と自殺願望を燻らせながら思う。

 

「……紫陽花さん」

「なんじゃ」

「そろそろ、話してくれませんか」

「何を──と、とぼける必要は無いかの。あまり気分の良い話では無いぞ。代わりに、そちらも隠していることを話せ」

 

 こくりと頷いた慈を見て、それから紫陽花は全てを話した。祖母との不和から一度ここに来たことがあることや、この町の事件に巻き込まれて感染した母親を殺したことまで、その全てを。

 

 そして紫陽花もまた、この一連の事件には原因があることと、その一件に巡ヶ丘の高校が関わっていることを知る。緊急避難マニュアルを読み終わった紫陽花は、目頭を揉みながら呟いた。

 

「──からくり屋敷か何かか」

「言いたいことはわかる」

「発電機に浄水装置……以前ここに見学に来たときから違和感があったが……なるほど確かに、避難所にするには頑丈な出来ではある」

 

 呆れた声色でそう言い、信用に値するとして返された刀の鞘を指でコツコツと小突く。ああそうだ──と呟いて、ふと慈に顔を向ける。

 

「佐倉女史」

「その呼び方は呼び方で、なんだか違和感がありますね……」

「…………ああ、ああ。そうか」

「──紫陽花さん?」

 

 紫陽花が慈の顔をじっと見てから、合点が行ったようにしみじみと息を吐いた。

 

「佐倉女史は、母上に面影が似ておる」

「────え゛」

「……それでな。佐倉女史、儂は行きたいところがある。車を出してほしい」

「えっ、どこに行きたいのですか?」

 

 疑問符を浮かべて首をかしげる慈に、紫陽花は一拍間を置いてから声を出す。

 

「親戚の家じゃ」

 

 

 

 

 

 ──薄暗くなってきた夕焼けを背後に、『大上』という表札が飾られた武家屋敷を前にして、車から降りた慈は紫陽花の後ろ姿を追いかけて門をくぐり敷地の中に入った。

 

「大上……って、確か紫陽花さんの家と関わりのある……紫陽花さんの叔父さんが居る家、だったと記憶しているのですが」

「厳密には叔父ではないし儂も姪ではないが、まあそんな所じゃ。靴は脱がんでいい」

 

 緊急時だからと土足で上がった二人は、不思議なことに荒らされていない部屋を見渡す。

 そして、部屋の隅に置かれた仏壇に向き合い、線香を上げて手を合わせる。

 

「叔父さんの両親は若くに亡くなっておる。じっちゃも……そうか、亡くなっておったか」

「紫陽花さん……」

 

 ──生きていればのう、と呟く紫陽花の背中に哀愁が漂う。そっと背中を撫でると、静かに鼻を啜る音が居間に染み渡っていた。

 

 ──次いで、不意にその肩を跳ねさせて玄関の方へと振り返る。紫陽花は、傍らに置いていた刀を掴んで敵意を露にしていた。

 

「紫陽花さん?」

「誰かが来た。不意を打つからそこに()れ」

 

 言い方は酷いものだが、紫陽花には野生の勘じみた感性がある。

 ()()が"死"を訴えかけてくることは初めてであり、故にこそ、素早く天井の隅に跳躍して張り付くと器用に腰から鞘を抜いて構えた。

 

「あ、あの……!」

「気配は一つじゃ。やつらの生き残りなら即座に首を撥ねる。だからこちらを見るな」

「そんなこと言われても──!!」

 

 ガタ、という音が玄関から聞こえる。閉じた扉をスライドさせる音がして、慈の体が緊張で強張り、どうしてこんな目に……という真っ当な疑問が脳裏を掠めていった。

 

「──おい」

「ひっ」

「こんなところに盗みに来ても、金目のものは無いぞ────」

「────ッ!!」

 

 緊張、敵意、恐怖。

 そんな感情がない交ぜになり、びくりと体を硬直させる慈に男が声を発しながら近付き、半ば反射的に紫陽花はほんの数日前に行ったような人を殺める動きを、()()()()()()これ以上無いほどに滑らかに行う。()()()()()()()

 

 ぐっと足の裏に力を入れ、居間の柱が軋ませた音を聞いたその僅かな時間で紫陽花の存在に気付いた男が、腰に挿していた刀を抜き、紫陽花の体を刀ごとちゃぶ台の奥へと弾き飛ばす。

 

 着地して再度飛び掛かるように斬りかかる紫陽花の刀を弾きながら、男は片手で顔面を掴んで畳に後頭部から叩きつけた。

 

「がっ──」

「物騒な……誰だ、お前たちは」

「っ、ま、待って! ……くだ、さい」

「──貴女は」

 

 男は薄暗い部屋の中で目を凝らして慈を見ると、それから慌てて畳に押さえつけた紫陽花の顔を確認する。そして、小さくため息をついた。

 

「……紫陽花」

「…………おじさん」

 

 

 ──大上 古木あらため、大上 御形。彼は帰宅して早々に、面倒事の気配を察した。




大学編は元気があったら来年書きます。多分きっと恐らくメイビー。
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