【完結】がっこうぐらし!RTA/卒業生チャート+α   作:兼六園

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※小説パートのみ


三時限目 昼

「──外の世界に、行こう!」

 

 穏健派リーダー・桐子は、ランニングから戻ってきた古木たちを一部屋に集めてそう言った。息も絶え絶えのくるみやスミコ、慈たちに飲み物を渡す晶と比嘉子を尻目に、古木は言葉を返す。

 

「今までは外に行かなかったのか」

「だいたい学内で賄えたからねぇ」

 

 紙コップに飲み物を注ぐ晶が横合いから答え、続けて桐子が口を開く。

 

「ぶっちゃけ怖かったからね。ほら、大学に居る間は『もしかしたら救助が来るかも』って思えたし、外に出ても誰も居なかったら……って考えちゃうとさ」

 

「そんな時に、俺たちが来た……と」

 

「そっ。救助隊は来なかったけど、狼たちは生きていた。きっと他にも生存者は居るよ」

 

 にっ、と笑い、桐子はホワイトボードに向き直ると絵を描き始める。

 古木の隣でタバコを奪われていた椎子は、小声で「どうだか」と呟いていた。

 

 椎子の言葉に苦笑で口角を歪める古木は、桐子の描いた絵を見て眉をひそめる。

 

「ほいっ」

「『サークル合宿計画』……まあ、子供に合わせるならその表現になるか」

 

 ホワイトボードには、大学とビル、その間を移動する車の絵が描かれ、その上には『悪そうな男』をイメージした顔があった。

 

「まずはランダルの本社を目指す。そのために準備をして……あとはランダルについての情報も集めないとね。なにか質問はあるかな?」

 

 その問いに、いまだに額に汗を滲ませているくるみが挙手をしてから答える。

 

「はい」

「はいくるみ君」

「遠征には何人で行くんだ? 全員となると車2台とも使うことになるけど」

 

「いやあ全員はまずいっしょ」

「……ここの維持も必要」

「んじゃ二手に分かれるか」

 

 当然の疑問に、飲み物を配っていた晶と比嘉子が返す。尤もな意見に言葉を漏らす桐子だが、なら、とおもむろに古木が繋げた。

 

「──本社には最低でも俺と椎子が行くことになるが、悠里は残れ」

「えっ……」

「当たり前だろう、妹を置いてまでお前がやらないといけないことではない」

「────」

 

 つい、と古木が指を向けた先に居る、悠里の膝の上に座る瑠璃(いもうと)

 

「安心しろ、番犬に太郎丸を置いていくし──ゆきと圭、慈さんにも残ってもらう」

「えーっ!」

「めぐねえはともかく私も!?」

(めぐねえ)はともかく……!?」

「非常に残念だが、今回はご縁がなかったと言うことで納得してくれ」

「就職じゃないんですよ」

 

 美紀の指摘(ツッコミ)を耳にしつつ、古木はそれぞれ違う意味でショックを受けている圭と慈に目を向けて更に続ける。

 

「今朝の走り込みで確かめましたが、やはり体力の問題です。高校や大学(ここ)のような場所なら足の遅い者を守りながらでも戦えるとしても、外で同じ事をやるのは難しい」

 

「……まあ、古木くん程の実力者がそう言うなら……仕方ないですよね」

 

 しゅんとする慈に、申し訳なさげにしながらも、古木は手短に纏めるべく言った。

 

「俺と椎子、あとはくるみと……美紀とスミコ。少数精鋭で手早くやろう」

「──このスミコを戦力に加えるとは……中々どうして、わかっているじゃないか」

「頼りにしている」

「……! ふ、ふ。わかっているとも。このスミコ、十二分に成果を挙げてみせよう」

 

「犬みてぇだな……」

 

 ゴスロリ服を揺らして胸を張るスミコと、傍目から端的にスミコの様相を例えるくるみ。

 古木は彼女に淡々と告げてから視線を前に戻し、桐子と顔を見合わせた。

 

「それじゃあボクも行くよ。一応は発案者だし、運転係が居れば少しは楽でしょ?」

「ああ。六人だけなら、車も1台だけで済む。みんなも、それでいいか」

 

 最後の確認で周囲を見回す古木。そんななか、どこか不安そうな表情をしている美紀を視界の端に納めて、彼は小さく吐息を漏らした。

 

 

 

 

 

 ──ぜえはあと息を荒らげながらグラウンドを走り込んでいる悠里と圭、慈を見下ろしながら、美紀は屋上でくるみと会話を交わしていた。

 

「ははぁ、要するに、美紀は『なんとなく不安』ってことなんだろ?」

「……そう、ですね。ここに来て、高校では一緒だった皆と違う道を歩くことを、自覚させられたと言いますか……」

「──まっ、そーゆーもんだろ」

「何がですか」

 

 くるみはポンと美紀の肩を叩きながら、からからと笑って空を見上げて言う。

 

「出会いがあれば別れもあるってこった」

「別れ、ですか」

「今すぐってわけじゃねえけどさ、例えばほら、世界が平和になったら……あたしらはいずれ、嫌でも違う道を歩くことになるだろ?」

 

 そういうもんだよ、と、くるみはどこか──悟ったような顔で呟く。それからふと、背後の屋上と室内を繋ぐ扉が開かれて、外へと誰かが出てくる気配を感じ取る。

 

 振り返った二人は、取られていたタバコを片手に、既に一本を咥えていた椎子と──小袖に袴、上に羽織を着た和装の古木を視認した。

 

「……???」

「くるみ先輩、しっかり」

「──先客が居たのね」

「二人とも……どうかしたのか?」

「同じセリフを返していいですか」

 

 先程までの不安はどこへやら。古木の和装のインパクトに悩みを持っていかれた美紀は、服に指を差して、隣の椎子がああと声を出す。

 

「こいつの私服は和装なのよ。むしろスーツの方が違和感あったくらい」

「はぁ……」

「端から見たら単なるコスプレみたいなものだけど、この格好の方が御形は動けるわ」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。正直なところ、今までの格好はかなり動きづらかった」

 

 ぐるんと肩を回し、腰に吊るした刀の柄に手のひらを置く古木。へぇ~~~と半ば思考を停止させた返しをする美紀と正気に戻ったくるみは、少しして離れた位置でタバコに火を点けて煙をくゆらせる椎子に不意打ちのように言われる。

 

「あの眼鏡は生存者は居る──なんて希望的観測を口にしていたけれど、はっきり言ってその可能性は限りなく低いのよ」

「……っ、そりゃまた、どうして?」

 

 くるみは反射的に反論しようとして、しかして椎子の濁りながらも理知的な瞳を見て堪える。なるべく冷静な声色で問うと、タバコの先端の火に息を送る椎子が、煙を吐きながら呟いた。

 

「ふぅ──っ。……国が残っていれば、救助が遅れても放送くらいはやるはず。

 だけど、ラジオから衛星携帯まで試したけど大規模な放送はどもこやっていなかった。とどのつまり、日本全土と周辺国……世界の全域で、国家に準ずる組織は消滅したと考えた方がいい」

 

「椎子、全て試したのか?」

 

「ええ。思い付く限りの通信手段は全て。……ああ、流石に、屋上に大きく『SOS』を書くとかは試したことはないわね」

 

 椎子は言わずとも、やってみる? という視線を古木に向ける。まさかと呟くと、古木は難しい顔をしている美紀とくるみの頭にぽんと手のひらを置いて優しい声色で二人に伝えた。

 

「そう悲観するな。そこのお姉さんは、ただ憎まれ役を買って出ているだけだ」

「あ、そうなのか?」

「誰が憎まれ役よ。……何が起きて、何が出来て、何をやるべきかを考えるためには、『現状を嘆く』という方法は無駄じゃないのよ」

 

 短くなったタバコを携帯灰皿に捨てると、椎子は二本目を取り出して手早く点ける。

 

「……ランダル本社に行くことと、このパンデミックの原因を突き止めることは無駄ではない。もし生き残りが居るなら、本社に向かうことでコンタクトを取れる可能性もあるでしょう?」

 

「──あー、つまり…………必要以上の期待をするな、と言いたいんですか?」

 

「そう聞こえるなら、そうなんでしょう」

 

「ふ、素直じゃない奴だ」

 

 くつくつと喉を鳴らすように笑う古木に、椎子が手元のタバコをピンと弾いて飛ばす。

 簡単にそれをキャッチした古木は、壁に擦り付けて火を消すと、椎子に近づき灰皿にそれを入れて踵を返しながら口を開いた。

 

「そろそろ戻ろう。悠里たちにも、更衣室で汗を流すように言わないといけない」

「そうですね」

「なあ古木さん、めぐねえたちに青襲さんと一緒に寝ること伝えなくていいのか?」

「──? ……私と御形が一緒に寝て何か問題でもあるのかしら」

「つ、強ぇ……!」

 

 なにと戦ってるんですか……と美紀に呆れられながら、古木を先頭にくるみは階段を降りる。殿の椎子が扉を閉めると──不意に、首の辺りに手のひらを添えて彼女は呟いた。

 

「……嫌な予感がする」

 

 

 

 ──椎子はその直感が正しかったと理解する事件がこれから起きることを、まだ知らない。




次→1月20日00時00分(予定)
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